課長の邂逅 2
課長のヲタク度は、振りきれております。
こちらのメイド喫茶はフィクションです。
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
扉を開けて、一声。
夢にまで見たコールに、体が震える。
これがメイド喫茶と言うものか!どこを見てもふわふわなメイド服の女性がいる。席に座っている客は、思ったより普通だ。確かに、ラブもえ服だと目立っていただろう。
奥にあるステージでは、何か盛り上がりを見せていた。
「にゃんにゃんにゃんけん、にゃんけんグー!」
ポニーテールに猫耳カチューシャのメイド服な女性が、肉球のついた手袋をはめている。
「イベント始まってるみたいですね。 じゃんけんに勝ち残れば、写真を撮ってくれるそうですよ」
席に座り、上着を脱ぎながら麻生くんが説明してくれる。
メイドさんと写真!?
憧れシチュエーションに、俺の心は高まった。
「もちろん、メニューにある写真つきランチプレートやドリンクを頼めばツーショットで撮ってもらえますが」
麻生くんが、メニューの一部を指差す。確かに割高だが書いてあった。
それにしても、ドリンク名がどれも心に響いて全注文したくなる。
「いかがなさいますか?」
「俺は写真つき日替わりランチプレート、指定は…お姉さんがいいな」
にっこりと笑って麻生くんがメイドさんに告げると、メイドさんは顔を真っ赤にさせた。やはり将来が恐ろしい大学生だ。
「俺も写真つきランチプレートで、指定は……」
注文を取りに来てくれているメイドさんもいいが、他に誰かいないか見渡す。
「今日、『なっちゃん』って子は来てます?」
麻生くんが、スマホを片手にメイドさんへ話しかける。するとメイドさんは、今日は調理担当だと答えた。
「彼には『なっちゃん』指名でお願いします」
「え!?」
「かしこまりました」
麻生くんが指名するくらいだから、多分メイドさんらしいメイドさんなのかもしれない。
俺の視線を察したのか、麻生くんが意味深に笑って見せた。
ステージでは、二人の男性客が写真撮影権を勝ち得たらしく、負けた客からの生暖かいやっかみが飛んでいる。どの客も楽しそうだ。
「お待たせ致しました、ランチプレートです」
ふんわりといい臭いのするランチプレートには、オムライスにエビフライ、サラダにスープがついている。
しかし、用意されたのは1人分。先程のメイドさんだから麻生くんの分だろう。
「文字にご希望はございますか?」
「今の気分でお任せしていいかな?」
麻生くんが言うと、メイドさんはハートマークに弓矢を書いた。
なんて面白い。
俺のも来たら言ってみよう。
「ランチプレートお待たせしましたー!」
明るい声が後ろで聞こえる。やっときた!と見上げた俺は、固まった。
両耳の横で揺れるツインテール、くりくりした大きい瞳、愛嬌のある表情。ハッ、と我に帰り、俺は麻生くんを見る。
「どうです?」
リアル樹里たん最高です!
俺は、何度も頷く。麻生くんの将来(以下略)。
「ご指名有難うございます。 メイドの『ナツ』です。 なっちゃんって呼んでくださいね!」
「あ、ああ……」
声も可愛い。もちろん不快な思いをさせたら犯罪者だから、外面は頑張って平常心を貫く。
「何かご希望の言葉はありますか?」
ケチャップを持ったナツちゃんが俺を見つめている。
「えっと……い、今の気分で!」
絞り出すように告げると、ナツちゃんは嬉々として何かを書く。
「ん?」
「イケメン万歳、です!」
ウン、ソウダネー。
でも、麻生くんの事じゃなく俺の事を書いて欲しかった。
「お二人とも、イケメンですもの!」
「こら、なっちゃん!……もう、困った子なんだから。 はい、先に撮ってくれる?」
メイドさんが、ナツちゃんにポラロイドカメラを手渡す。ナツちゃんが声をかけると、二人は横に顔を近づけた。
えっ、近い!近いから!
出来上がったものを見ると、なんとも絵になる二人だ。
「はい、次撮りますよー」
じわじわ浮き上がる写真に見いっていたら、メイドさんがポラロイドカメラを手にしてこちらを見ている。
気がつけば、ナツちゃんがすぐそばにいた。調理担当だっただけあって、ふわりと甘い匂いがした。
撮られた時、どんな表情をしていたか分からない。
「さすが営業さん。 いい笑顔です」
ピラ、と麻生くんが写真を見せる。職業病なのか、内心動揺していても、俺は笑顔だった。
それから、1日どうしたか記憶にない。
●
それからというもの、メイド喫茶には通っていない。接客もよく、ワクワクさせられる空間ではあった。
だが、彼は学生とバイトだし、俺は仕事だしで忙しく、それに通いつめて現実と2次元が混合するのが怖かったのだ。
「先輩、確認お願いします」
そう言って書類を渡してきたのは、部下の川崎朱美だ。従妹の親友で、同じ本屋の常連客だ。
時々、麻生くんとレジで会話しているのを見掛ける。いつもは真面目で堅い川崎が、麻生くんの前ではにこやかに笑っている。もしかしてそっちが素かもしれない。
対する麻生くんもどこか違って見えた。普段は大人びた青年だが、趣味の会う友達と会話するような、年相応の青年のようだ。
「うん、それで頼む」
書類を確認して川崎に手渡す。すると、何かが落ちたのか川崎がしゃがんだ。
「か、可愛い……」
可愛い?
そう呟かれ、俺はハッとする。そう言えばあの写真をこっそり出しっぱなしにしていたような。
メイドとツーショット。ドン引き確定と思いきや、川崎はプルプル震えながら、顔を歪めて写真を俺に返した。
「そ、それ、どこに行けば……っ!」
まさかの食い付き!!
「××駅にあるんだが…後でメールし……いや、一緒に行くか?」
そう言って、もしかしてセクハラになるのかと焦る。
だが、川崎は目をキラキラさせていた。
「ぜ、是非!!」
誰から見ても有頂天で川崎は席に戻る。そして、いつもの3倍は早く作業をしていた。
心のうちで、赤い〇星と呼ぶことにしよう。
1が短かったので、後の文章も2つに分けました。
明日3として投稿します。




