おにーちゃんの過去
「俺はさ、学校に行けてないんだよ。前におばあちゃんと俺が話してるの立ち聞きして他の知ってるんだぞ……。小っちゃいころに逃げ出して、やっとここにたどり着いた時にはもう学校なんて手続きすらさせてもらえない、つーかここの住人としても扱ってもらえてないんじゃないかな、そんな境遇でさ。はっきり言って今でも後悔してるんだ。まぁ、言ってもわからないかもしれないけど。海羽はさ、まだ間に合うんだよ。それでも行きたくなかったら行かなくてもいいけど、行ったほうがいいと思ってるんだ。火事……はまぁ、怖いと思うけど、頑張ってほしいんだよ。そうはいってもわかんないかもしれないけど。俺の人生で嫌だったことベスト3言ってあげようか? まずはベスト3。俺がまだ小っちゃかったころのことだ。父さんと母さんにさ、捨てられたんだよね。研究材料としてそこそこ有名な大学にね。まぁ、そこで英才教育だか何だかしらないけどわけのわからない国の言葉聞かされて、食事すら毎日決まったメニューなの、笑えるよね。でさ、さっきの話の続きになるけど、逃げたんだ。そこから。そんときに春崎先生も手伝ってくれたんだ。え? 本当だよ。あの時の先生は若かったなー。そうそう、それでやっとここに着くんだ。じゃあ、ベスト2。これは海羽が火事にあったとき。あのときは俺すっごく焦ったんだよね。病院で春崎先生がすっげえ深刻な顔してて……すっげえ不安でさ。海羽に何があったんだろうってもう不安で不安で仕方なかった。だから一晩ずっと部屋の前でうろうろしてたんだよ。知ってた? 知らないか、寝てたもんな。あの後海羽から火傷の跡見せてもらった時はすっげえ嫌な気分だった。で、ベスト1だけど、これは……今かな。海羽が昔の友達に泣かされてんだもん。見てらんねえよ、もう。だからこうしていま、海羽を抱きしめて話してんだ……。まぁ、俺も逃げてるだけなんだけどさ」
おにーちゃんはここまで話すとそっと目を閉じて私の目尻にキスを落とした。
それは泣きはらした私の目には優しくでもちょっぴりしみる消毒液になった。