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大きな子供

作者: 木介
掲載日:2026/04/30

これは俺、勝平陽(かつひらよう)が大学二年生の時の話だ。


ある日の夕方に仲の良い友達三人とファミレスへ行き、学校にいる時と同じノリでふざけ合う、他人にぶつかってもお構いなしで周りの視線等見えていない。


「えーーっと、魔王ハデスさま~」


店員が言った。


「魔王ハデスさまいらっしゃいませんか~」


「あっ、俺でーーす」


順番待ちの紙にふざけた名前を書き、友人と面白がる、その様子を動画で撮りSNSにあげて大勢の友達にも共有し楽しんでいた。

たくさんのいいねをもらい、俺は世界の中心にいた。

この時の俺に怖いもの等無く、他人の事を考えなどしなかった。


【自分が面白いものが面白い】


そんな浅はかな気持ちで自らの承認欲求を満たす行いをする。

この日行ったのは【激辛チャレンジ】

テレビを真似てファミレスで頼んだ商品にタバスコや七味を大量にかけて食べる。

その様子を友人に撮ってもらい大袈裟なリアクションをして馬鹿笑いしている様子をSNS にあげる。俺達にとって楽しい時間を過ごしたのだ。


次の日、この動画は炎上した。


「食べ物を粗末にするな」


このコメントで俺のSNSは埋め尽くされていた、すぐに動画を削除して火消しに努めたが、既に色々な切り抜きで拡散され収まる気配がなかった。


この一件の後、先生から呼び出しを受け、友人達も俺から距離をおくようになり、住所や氏名も特定されて引っ越す事になった。


最初の頃は反発していた「何故悪いんだ」と。


「自分でお金を払った料理に無料の調味料をかけてるだけ」

「他にも大量に調味料をかけている人を見かけるが全員悪いのか?」


こんな事を言っていると大人達は言う。

「なんで、そんなに馬鹿なんだ」


この頃の俺はまだ自分のやった過ちが今後の人生にどのような影響をもたらすのか、その重要性に気が付いていなかったのだ。


あれから二年、俺の周りに友人はおらず孤独な日々を過ごしていた。

皮肉な事に友人がいなくなった俺は勉強に打ち込むことができ、成績は学校でも上位となった。


だがこんな努力も虚しく過去が俺の未来を阻む。


「君、過去に何であんな動画を出したの?」


就活生になった俺はどの企業へ行ってもこの質問がくる。

友達もいない俺は話す事すら大変でトラウマに近いこの質問に対して毎度上手く応える事が出来ない。


「昔は悪い事の判断が出来ていなかった」

「友達にそそのかされてやってしまった」

「面白いと思っていた」


等の返答を準備していても視線を反らし、小さな声で「すみません」と言う事しか出来ないのだ。


家に帰り母が面接の結果を聞いてくるが俺は「ふつう」と当たり障りのない応えを返す。

母は「必ず理解してくれる人もいるから」と励ましてくれる。


父は俺に何も聞かない。

「自分の事だから自分でどうにかしなさい」

あの事件の際、父に言われた言葉だ。

その時は冷たく感じたが、それ以降父は俺に言葉をかけなかった。

事の大きさを把握して一番辛いのは俺であることを理解していたからだと今は思う。


世間からバッシングを受けて、家を引っ越す事になっても父も母も文句を言わず俺を見捨てなかった。


そんな両親の期待に応えたいが過去の恐怖が俺を支配し、あの話題になると言葉が出ない。

もう何社受けたか分からないが、両親の為にも諦める訳にはいかない、その決意を胸に明日の面接に備えて眠った。


ーーー


「次の方どうぞ」


呼ばれて扉を三回ノックする。

挨拶、席を促されてから着席、何度もやってきた一連の動作は寸分の狂いなく実行出来る。


この中小企業の情報は頭に入れてきている。

今回面接をしてくれるのはこの会社の社長。

どんな仕事をしているのか?

どんな人材を求めているか?

数々の面接をしてきて何を質問されるのか事前の準備も出来ていたのだが、いつもの質問がくる。


「昔、SNSに上げた動画が問題になってるよね、今はその事についてどう思ってるの?」


この質問で固まってしまう。

相手の視線が怖い。

何か言わなきゃ。

………。

……。

…。


俺は視線を反らしてうつむき「悪い事をしたと思ってます」と小さな声で応えた。


また不採用だ。

そんな考えが頭をよぎる。


「君の成績は優秀だよね」

「この過去の問題から逃げないで退学せず頑張れた理由は何かな?」


そんな言葉をかけてくれた人は初めてで、俺は頭を上げて社長の目を見た。

社長は過去の俺では無く、今の俺を見てくれている。

この人に俺の話をしたい、そう思い俺は事前の準備などお構いなしに話を始めた。

久しぶりに自分の言葉で話をした為、しどろもどろで上手く言葉に出来ない部分もあったが、初めて面接で楽しい時間を過ごす事が出来た気がする。


あの時の出来事をこの会社で定年を迎えた私は懐かしく思うのだった。


(了)

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