第2話・口に出せない気持ちを飲み込み ~ひたすら祈る、その理由~
第2章 薄日に眠る祈りの先に
第2話・口に出せない気持ちを飲み込み ~ひたすら祈る、その理由~
本当は……
普段、呪師寮で生活している時に色々と気を使ってくれている同室の兄弟子であるペルフィーから、どこかに寄ってから部屋に戻るかと聞かれた時、真っ先に思い浮かんだのは別の場所だった。
けれど、そこに行きたいといっても、困らせるだけで、ペルフィーではどうすることもできないと分かっているから。
アインが実際に口にした行先の希望は呪師寮に併設されている小礼拝堂だった。
だって、本来、神官呪師は神殿に所属し、その活動範囲はほぼ神殿内。
時に魔物の討伐や、戦役……長い聖皇国の歴史の中では戦争ももちろん起きている……あるいは、災害などの援助として派遣されることがなければ、神殿の敷地から出ることなく生涯を終える。
もちろん、所属することになる神殿が、生まれ育った町にあるものとは限らないから、その場合は修業を行った神殿から所属することになる神殿まで旅をすることにはなるけれど、それでも移動や出向も少ない。
だから、現在所属している神殿から出て、別の場所に行きたいと思ってもそう簡単には出られない。
アインが特殊なだけで、ペルフィーも生家から学生呪師寮に入って以降、ほとんど学校敷地内とされた範囲から出たことはなかった。
東側の壁に設えられた複十字に向かい合って、静かに床に膝を着き、胸の前で十字を切る。
大きく一回。それから、希うように、上に小さく、もう一度。
唇から、囁くように祈りの言葉を紡いで、ただひたすらに問う。
(……神さま……。僕は、なにものですか……?)
答えは返ってこないけれど、それでもずっと、ずうっと、問い続けてきた。
神官呪師の中には、神に伺いを立てる魔法を使える者がいる。
神託。と言うほど確かなものではないけれど、占いと言われるほどに半端なものでもない、様々な世の流れや悩み事、迷いごと、あるいは、正誤・真偽を判ずる魔法。
アインが、記憶もなく、名前も覚えていないことから、身元を知る手がかりを得るために行われたその魔法で、出た結果は『居ない者』。
どこにも情報がない。この世界に居ない者。
あるいは『在りえざる者』。
アインは神にまで、居場所がない者だと断じられた。
それを、知った瞬間に悟ったのだ。
きっと自分は、どこにも居てはいけないのだと。
けれど、神殿の人たちはアインを放り出したりはしなくて、それまで同様……否。それまで以上に優しくて……だから、頑張った。
居てもいいよ。と言ってもらうために。
ここに居て良いと。許して貰えるように。
なのに……
(……僕は、どこになら、居てもいいんですか……?)
これまで通り。
二か月ほど前に、大きな怪我をして、医務殿に入院していたアインが、退院する少し前に、医務殿の総括である医呪神官長から言われた言葉。
罪を犯して、罰されるべきである自分に、偉い人たちが望んでいるのは『これまで通り』に学習し、国に貢献することだと言われたのに……
(……これまで通りに、勉強することも、ダメだって言われたら……)
もう、どうしていいかわからない。
誰かに、どうすればいいのか聞きたいけれど……
誰に聞けばいいのかも分からなくて……
(……あいたい……)
心が望むそのヒトと、もう、会えないような気がして、知らずに涙がこぼれる。
神さま。どうか。お願いです……
もう一度、あのヒトに会わせて下さい……
ダメならどうか、せめて……
今、どうしているのかだけでも、知りたい……
自分のために、その心を削って、導いてくれた、あのヒトが、ちゃんと無事でいるのか……
どうして、あの時……
(……眠って、しまったんだろう……!)
泣いて、泣いて、泣き疲れて、眠ってさえしまわなければ。
今、どうしているのか。その手がかりくらいは知れたかもしれないのに!
(……僕、自分の……ことしか……)
見えていなかった。
あんなに、傷ついて、ボロボロになっていると、知っていたはずなのに……
だから、なのだろうか?
誰も、何も、教えてくれなくて、次にいつ、会えるのか、会えないのかも……教えて貰えないのは……
(……僕が……)
居てはいけない者だから、すべてがこの手からすり抜けていくようで……
何も、掴んではいけないと、求めてはいけないと、そう、突き付けられているようで……
(………………)
唇が、微かに紡いだ、息さえ潜めたその言葉を……
「……………」
祈りを捧げるアインを見守るペルフィーだけが見ていた。
第2章第2話をお読みいただきありがとうございます。
小礼拝堂で一人祈りを捧げるアインの胸の内とそれをそっと見守るペルフィー。
突きつけられた現実に涙し、大切な人の無事を切実に願うアインの孤独感や、後悔に苛まれながらも、どうしていいか分からずに祈る姿が切ないです。
幼い彼が背負うものの重さと、ただ祈ることしかできない無力感。
そして、声には出さないアインの痛みを、陰からそっと受け止めるように見守るペルフィーの優しさ……。
今後、アインの純粋な願いはどう形になっていくのか?
次回もお楽しみに!
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【第5弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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ノリト&ミコト




