第3話・怒涛のように押し寄せる ~その子の為した現状は~
第1章 移り変わるは季節か人か
第3話・怒涛のように押し寄せる ~その子の為した現状は~
インスの意識が戻らないまま五日が経過していた。
皇宮側からも神殿側からも、更には皇城側からさえも問い合わせが連日届いて、皇宮医務殿の長官である医呪神官のウスニー=メンテは頭を抱える。
そんなことを言われても、起きるまで寝かせておく以外のことができない。
何しろ、物理的な怪我があるわけでもなく、病にかかっている訳でもなし。
ただただ精神的なダメージで寝ているだけ。
分かりやすく言うのなら疲労で寝込んでいる状態。
ただ、疲労で寝ている状態との違いは、眠ったままであるということ。
魔力切れで昏倒した呪師が、魔力が回復するまでの間、眠り続けて目を覚まさないのに似ているが、魔力切れではない。
よって、いつ目を覚ますのか全く読めないのが現状。
「……いつ頃起きるかって聞かれてもなぁ……」
この五日の間に身体的な異常は治まり、今は静かに眠っているだけなので、おそらく、きっと、多分……近いうちには起きるだろう。
(……起きてくれ。頼むから!!)
という本音を押し隠して溜め息。
「……絶っ対、泣かす……」
思わずぼそりと漏らしてしまう程度にはウスニーも限界。
精神的な圧迫感がとんでもないことになっていた。
正直、皇城からの問い合わせが一番心臓に悪い。
皇宮は当然。何しろインスは皇宮勤めの皇宮呪師。
本来の所属先から、その安否確認が来るのは当たり前で、更に皇宮呪師学校の校長であるディオネラ=アムスが同席していたため、何が起きたのかもわかっているのでそれほど追及が厳しいといったこともない。
神殿側からの問い合わせも、まだわかる。
何しろ、インスが今眠り続けている原因というかきっかけは、才能の塊である幼い呪師見習い・アインの授業にあるから。
その授業の結果を見て教育方針を再調整することになっているため、インスが起きないと話が進まない。
けれど皇城側……すなわち、この国の最高権力者たちからの問い合わせは、それと関係あるのかないのか分からない、複数のルートから届けられているせいで訳が分からない状態。
一体、誰が、何を知りたくて、インスの状況を聞いているのか判然としない。
一応は寝ている旨を返しはしたのだが、起きるのはいつだ? 起きたらすぐに知らせろ。起きたか? と毎日催促されていた。
「……勘弁してくれ……」
頭禿げそう……
本当に、皇城側からの問い合わせは誰なんだか……
唸るウスニーの様子を秘書官が表情を変えずに、けれども心配そうに見守っていた。
さて、アインの教育方針に関しての話し合いが一向に進まないまま数日が経過しているのは先にも述べた通り。
では実際のところ話し合いができていれば既にスケジュールの再調整が行われていたかと言えばそんなこともない。
アインの方も、授業後風邪をひいて三日間高熱が続き、その後も二日ほどは療養に充てられていた。
何しろ、まだ精々五歳ほどと思われているアインは、二か月ほど前の事件で負った怪我が治らないまま。
最悪、怪我の影響もあって免疫力が下がっている現状では風邪をこじらせて重症化することも懸念されていた。
幸い三日で熱は下がり、さらに二日間の療養で体調は回復していたが、それでなくても小柄な体格のアインは、更にほっそりと……いや。はっきり言って痩せすぎになりかかっている。
きちんと食事は提供されているし、本人も頑張って食べてはいるのだが、色々と……本当に色々と重なりすぎている。
教育方針自体の話し合いは別として、そのスケジュールの調整は早々に決定され、これまでの連日早朝から深夜までと言うハードすぎるものから、授業自体も一日おき。さらに同じ日に複数の授業を入れない方向で調整が進められていた。
そんなアインはと言えば、スケジュールの変更を伝えられた途端に青ざめて震えだし、パチリと一瞬、火花が散るような気配がその身を包んだ。
「……一日おき……ですか……?」
神官呪師学校の校長室に、同室の兄弟子であるペルフィーと共に呼び出され、説明を受けたアインが、震える声で確認する。
ほんの一瞬、魔力が暴発する気配がして身構えた神官呪師学校の校長であるヴィロバ=エルマーニと、同席していたペルフィー=プリメーシャスが顔を強張らせてアインを見つめた。
ヴィロバは六十代に差し掛かった程度の外見をした男性の神官呪師。
白いものが混じり始めた黄褐色の髪は丁寧に撫でつけられ、知性の輝きが宿る淡い緑色の瞳の右側には片眼鏡。
神官呪師の育成を行っている呪師学校で長年校長を務めてきた彼は、アインの神官呪師としての座学基礎を担当する教官でもあった。
「……そうです。これまで、アイン。君の教育は詰め込みで行われてきました。理由は覚えていますか?」
暴走の気配は一瞬。けれど、それを完璧に押さえ込んだアインを見つめ、満足そうに頷いたヴィロバの問いかけに、アインも静かに頷く。
「はい。僕が、魔力を魔力のまま使ってしまえる、見者だからです……感情のままに、周囲を壊して、誰かを傷つけてしまうことがないように、力の使い方を、きちんと勉強しなければいけないからだと、教えて頂きました」
どう考えてもそれだけが理由ではないだろうと思いながらも、発言を許可されていないペルフィーは黙ってやり取りを見守る。
だって、力の使い方の制御を学ばせるだけなら、神官呪師としての修行か、皇宮呪師としての修行か、そのどちらかだけで良かったし、制御法を学ばせるのと魔法の使い方を学ばせるのは全く違う話だ。
「そうは言っても、君の才能はあまりにも特殊でした。だから制御の方法だけではなく、使い方も併せて指導を受けてもらっていました」
そんな、ペルフィーの内心の疑問に答えるように説明するヴィロバに、アインは黙って頷き、ペルフィーはなるほどと少しだけ納得する。
「ここに来てスケジュールを緩和することが決まったのは、君がまだ幼いことが一つ。もう一つは既にあらかた学習を終えていて、ここから先は専門的な、より深い領域まで学んでいくことになるからです」
「……は……?」
続けられた説明に、ペルフィーの口から意図せず声が漏れた。
第1章第3話をお読みいただきありがとうございます。
なかなか目を覚まさないインスの裏側で、各方面からのしつこい……ゲフンゲフン、熱心な問い合わせ対応に追われ、頭を抱えるウスニーのお話でした。
本当に、彼の胃痛と苦労には同情を禁じ得ませんね……(笑)。
そして後半では、神官呪師学校のヴィロバ校長からアインへ、今後の学習スケジュールに関する説明がありました。
これまで早朝から深夜までという過酷な日々を送っていたアインですが、この「スケジュールの緩和」によって彼の今後の生活リズムがどうなっていくのかも、気になるところですね。
何より、インスが目を覚ますのはいつになるのか?
ぜひともウスニーの頭髪が無事なうちに目覚めてくれることを祈りましょう(笑)
次回もお楽しみに!
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ノリト&ミコト




