第5話・神秘の瞳に映るもの ~見たいものと見たくないもの~
第2章 薄日に眠る祈りの先に
第5話・神秘の瞳に映るもの ~見たいものと見たくないもの~
アインが何をしているのか、しようとしているのか。
ウスニーはその名を呼んで説明を求める。
アインは、まだ見習いだ。
自分の勝手な判断で、指導役も監督役もいないところや、その指示がない時に、魔法を使うことは禁止されている。
確かに、アインは魔法は使っていない。
けれど、間違いなく魔力は動いた。動かしていた。
「……『見た』だけです……それ以上のことなんて、できないから……」
泣きそうな顔でインスを見つめたまま、答えるアインの声が揺れる。
「……視た……?」
「……精神体の状態を……」
「……は……?」
訝し気に眉を顰めたウスニーは、その答えに目を見開いて絶句した。
「僕は、色々なものが、見え過ぎてしまうから、すぐに頭が痛くなって、気持ちが悪くなってしまって……だから、もう見たくないって思ったら、見えなくなりました……」
インスを見つめたままで話すアインは、ウスニーが愕然とした表情で自分を見ていることに気づかない。
そのまま、何も言われないから、説明を続ける。
「……でも、怖い人たちに、痛いことや、嫌なことをたくさんされて、すごく怖くなって……嫌だ、怖いって思ったら、目の前が一瞬、真っ白になって……そうしたら、壊れて、逃げ出せたから、一生懸命走って、逃げて……でもすぐに見つかって、つかまりそうになって……」
ちょっと待て。と言いたいのにウスニーの口からは言葉が出ない。
アインは今、何を話している?
「……クロードが、助けてくれたことも、その時は全然分からなくて……保護して貰えたのに、お部屋を壊してしまって……なのに、痛いことも、嫌なことも、されないから……怖い人たちとは、違うのかなって、思えたら……少しずつ、何を言われているのかも、わかってきました……」
神殿護衛官であり、皇孫皇女ジャンヌの専属護衛騎士団の幹部でもあるクロード=トレーニアは、強面で背も高く、体格も良いため初対面では怖がられることが多い。
そんなクロードが、皇城から脱走して、皇都を散策するジャンヌを探していた時に保護したのがアイン。
怪我をして、衰弱していたアインをクロードは神殿孤児院に連れて行ったのだが、怖がったアインは魔力を暴発させて孤児院の医務室を破壊してしまった。
それでなくても怪我をして、衰弱している中で魔力を使いすぎたアインはぐったりとして動けなくなり……神殿内の別の場所で手当てを受けて、落ち着きを取り戻すころには少しずつ、会話が成立するようになった。
と言ったことを、ウスニーも知っていた。
「僕が、色々と見え過ぎていた理由とかも、教えて頂けたから……それからは、普段は見ないようにして……あ、でも、お姫さまはまぶしすぎて嫌でも見えました……あと、魔族のひとも……暗すぎて、怖かったです……」
色々なものが、重なり合って見え過ぎる。
だからそのまま見ているとすぐに体調が悪くなってしまうから、見たくないと願って、見えなくなったけれど、感情一つで色々なものを壊してしまうのが怖くて……
見ないようにしたり、見えるようにしたりと言ったことが、意識してできるようになったのは、深夜に皇城から抜け出したジャンヌを探すようにと言われて、皇都に連れ出された時。
最初は、あのまぶしすぎる魔力を見るのは怖いから嫌だと思ったけれど、でも、見つけないと怒られるのが分かっていたから……
怒られるだけでは、済まないかもしれないと、怖くなったから……必死に感覚を研ぎ澄ませて、魔力を探して、感じ取った。
そうしたら、何となくわかったから、そちらに向かって貰って……見えたけど、何かがおかしくて……よく見ようとしたら、結界があるのが分かった。
それからだ。見ようと意識した時だけは、見たいものが見えるようになったのは。
だから……
「……意識して、見たいものを見る時だけ、きちんと見えます……」
見えざるもの。
魔力であったり、精神であったり。
物質の属性を持たない、形なきもの、姿なきもの。
それらを、意図的に見分けることができるのだと、アインは説明する。
ちょっと待て! と、ウスニーは心の中で絶叫した。
ソレを、他の者は知っているのか? と。
第2章第5話をお読みいただきありがとうございます。
今回は、アインがウスニーの問いかけに対し、自身の「目」の能力について説明しました。
魔力や精神といった、本来人には視認できない「形なきもの」を意図的に見分けることができる神秘の瞳。
その能力のあまりの特異性に、説明を聞いたウスニーが戦慄する姿には、アインという存在が抱える「異質さ」と「危うさ」が表れています。
この規格外の能力を持つアインが、インスの状態をどう視たのか?
次回もお楽しみに!
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ノリト&ミコト




