実弾訓練
不束者ですがよろしくお願いします
ピピピピピピ...いつも通りのアラームで今日も目が覚めた。だが、まだ眠い。アラームを止め、目を閉じたまま流れに身を任せ二度寝を敢行しようとしたとき、それを遮るような絶妙なタイミングで話しかけられた。
"1168回目のおはようです。優珂。"
"…おはようございます。伊田木先生"
どうやら二度寝はさせてくれないらしい。
名残惜しくもほのかに暖かい布団から身を出し、睡魔を振りほどくようにカーテンを勢いよく開け、伸びをする。差し込んでくる光と空、そして海の青さが眩しく、彼は少し目を細めた。窓から入ってくる風は朝の冷たさの中に少し潮の香りがした。
そんな美しい景色の反対に映るのはごく小さな一室だった。ベッドとそばに置いてある机と椅子、それだけでほかに物が置けないほど小さな一室だった。しかし、窓の外は広く、械域の外れに位置するこの地区は海を広く望むことのできる好立地な部屋である。
「こんないい部屋をとれたことを感謝しなくちゃね」
少し大きめに作られた寝巻は風が通っていくようで気持ちがスカッとする。
朝の気持ちの良い空気に身を包みながら押入れを開くと、そこには一着のスーツが入っていた。それは黒色を基調としたぴったりとしたものだ。特徴といえば、手のひらに金属の部品がついているぐらいだろう。
そのスーツを身に着けると体に吸い付くような感覚があったかと思うと、重たかった体が軽くなったように感じた。毎日つけているが、この体に吸着した時の守られているような感覚は不思議だ。その感覚を少し気にしながら昨日の点検を行う。
"先生、状態確認をお願いします"
"状態は全て問題ありません。筋圧および電磁気力レール接続部品問題なし。掌型投影ディスプレイ起動成功"
それを聞き、満足そうにうなずいた。
"ありがと、先生"
そう、これはただのスーツではなく、ARモビリティスーツというこの都市での移動手段が利用できる身体強化スーツだ。これは人工的な筋線維を外付けすることで、基礎的な身体能力を向上させることができる代物である。それに加えて、電磁気力レールに接続し、都市内をとんでもない速度で移動することができる革命的なものなのだ。
部屋を出て、おもむろに手を出す。すると手のひらから光が出たかと思うと、それはディスプレイの形をとった。"優珂,06:00起床"と入力するといつも通りシステムメッセージが送られてきた。
優珂は一通りルーティーンを終わらせたことに満足しながら身支度をするために洗面所へと向かった。すこしひんやりとする朝の廊下を通って洗面所に顔を出すと、部屋の近い早起きが数人支度をしていた。起床時間は5:30~7:00。ギリギリに起きるやつが多いこの頃は、6:00起きのメンツはいつもと変わらず、少し眠そうな目をしながらどうでもいい話をぽつぽつとしていた。その中では比較的目が覚めてそうな二人に声をかける。
「おはよう、レオン,カリム」
話しかけると呼ばれた二人、レオン・マイヤーとカリム・ハッタドはこっちを振り向き、「おはよう、優珂」とそれぞれ声をかえしてきた。
「相変わらずもうスーツをばっちりと着込んでいるようで」
カリムはARモビリティスーツを着てきているレオンと優珂に向けて言ってきた。
レオンが反論する。
「着てきていないお前が少数派だろ」
「いやはや、皆さん相変わらず真面目な軍人なことで。おれはそんな真面目に生きてはいられないねー」
「はぁ、お前はいつもそうだが…」
もはや慣れすぎて名物となっている二人の口論を聞き流しながら、小脇にかかえていたポーチから歯ブラシを取り出し、冷たい水に浸す。そして上に少し青みがかっている歯磨き粉を上に丁寧に乗せる。水滴が光っている歯ブラシを口の中へと入れる。口の中が泡立って爽やかな香りで満たされた。
どうやら隣では歯を磨いている間に一通り決着がついたらしく、にこにこした顔のカリムと少し不機嫌そうなレオンが印象的だった。
カリムはヘーゼル色の目を向けながら聞いてきた。
「そういえば今日の訓練内容ってなんだっけ?」
聞かれた優珂は確認する。
"伊田木先生、今日の予定は?"
"本日予定されているのは、物質銃撃訓練、および特殊モビリティスーツ、そして基礎体力訓練の3つです"
優珂は露骨にいやそうな顔をした。基礎体力訓練、通称基礎体は途轍もなくきついのである。そしてその顔を見て薄々察した二人に無情に告げる。
「今日は、物質銃撃と特モビ、あと基礎体あるって」
「はぁー...今日の訓練終わってる」
「特モビの後基礎体とか殺す気しかないよね」
洗面所の灯りは明日の筋肉痛が確定している僕らをあざ笑うかのようにかすかに明滅していた。
"伊田木先生、洗面所の灯り交換を申請しておいてもらえますか?"
"承知しました"
光を反射し、チカチカと光る鏡を鬱陶しく見ながら、櫛を入れ、顔を洗う。冷たい水は心まで洗われるほどすっきりとした気持ちを呼び起こしてくれた。
男の中では長めな髪を整えていくと黒色の美しいつやが見えてくる。
相変わらずかわいいしかっこいいと伊田木はひっそりと思うのであった。
「そういえば最近、最前線がきな臭くなってるって噂があるけどまじなのかな?」
「そうだね、最近ここに来る上官の数も増えている気がするし、そろそろ出撃というのもあながち間違いではなさそうだね」
肩をすくめて優珂が言った。
「大きな声では言えないが勘弁したいものだな」
三人とも少し沈黙する。戦うために生まれてきたとはいえ、怖いものは怖い。ただ、自分たちの存在意義はそこにしかなく、矛盾した考えに少し辟易とした。
「まあ、大丈夫でしょ!」
突然後ろから声をかけられて三人とも跳ね上がった。
「ペトロフ伍長、後ろから話しかけるときは驚かさないでくださいよ」
気楽に話しているのは一応上官であるイリヤ・ペトロフ伍長だ。この人は軍事エクステント38、つまり自分たちの3世代前の生まれである。
エクステントとは、人が生まれるときの300人の単位である。クローン技術が発展した現在、優秀な遺伝子の確保を行った。そして、木と呼ばれる装置の中で成長する。木に一度に入るのは300人だ。これをまとめてエクステントと呼んでいる。この仕組みにはもう一つ特徴があり、一つのエクステントには基本的に同じ職業に優秀な遺伝子を入れている。そのため、一つのエクステントを一個大隊として運用しているのだ。
基本的に同じエクステントで生まれたものは一生を同じ仲間、大隊として過ごすことになる。しかし、特別な事情があったり、人数が減ったりしたときは大隊が解体され、残りが吸収されて混ざる事はある。そんな一例がペトロフ伍長だ。
ペトロフ伍長はとても気さくな人だ。ただ、訓練の時は一番の鬼教官と筋金入りの人だった。なぜなら彼は前線で地獄のような任務をこなし、部隊のほとんどが命を落とした。そして生き残ったのは16人程度。そのうちの教育に適しているとされた何人かがここ、教育サイト06で働いている。
「でも実際前線はどうなっているのですか?」
心配性のレオンは聞く。
「さあ?僕ももう前線を離れているし、詳しいことはしらないな。ま、今の状況は知っていても君たちに話すわけにはいかないけどね」
「それじゃあ昔の、伍長のいたころはどうだったんですか?」
「僕のいたころ?そうだなあ、あの頃は思い出したくもないよ」
そういう割には鼻歌を歌うような気軽さで話し出した。
「僕がいたのは前線のセリオンラインだったんだ。そこは常に電波妨害や砲弾、レールガンが飛び交う危険地帯さ。そこでは基本的に襲撃か砲弾が目覚まし代わりで一瞬でも気を抜くと上半身がなくなる状況だったね」
そういうと真剣に聞いている全員の顔を見まわしてから言葉をつづけた。
「でも、僕たちは多大な犠牲を出しながらポイントδを確保することができた。そうすると川を挟むことになる。と、どうなるでしょう?レオンくん?」
というと手のひらからホログラムが出てきた。それはかなりの長さの川と塹壕を映し出した。
レオンは少しだけ考えた。
「膠着状態が生まれるのでは?」
「正解。いくら電磁浮遊機があるとはいえ、セリオン川ほどの大河だと上を飛んだだけで格好の的だからね。これはあくまで予想だけど戦闘は少し前の世代と比べると大分落ち着いていると思うよ」
少し暗くなった空気を払うように先生は手を一回大きくはたいた。
「これで回答になったかな?さて、この話は終わり。まったく、こんなの洗面所でする話じゃないよね」
あとでー、と言い残しペトロフ伍長は洗面所を後にした。
「相変わらず伍長はつかめない人だよね」
思わずぼやくと二人も「わかる」「だよな」と共感した。
「ま、考えてもしゃーねーだろ。とりあえず飯だ、飯」
「そうしようか。僕もついていくけどレオンはどうする?」
「俺はもう少しすることがあるから先に行っていろ」
「りょーかーい」
カリムが軽く返事をした。
洗面所の自動ドアを出て、食堂へと歩き出した。カリムとどうでもいい話をしながらいくつかの階段、いくつかの廊下を通り抜ける。もちろん道すがらすれ違う上官に敬礼をしながら。自分たちはまだ訓練中の一番下っ端である。なので会う人は同期以外すべて上官であるため非常にわかりやすい。ただ、何度も立ち止まって敬礼するため食堂に到達するのが倍近く遅くなるのがネックだ。そのなかでも長い黒髪という珍しい髪をした上官もいて驚いた。
食堂に入ると、伍長との長話でいつもより遅い時間になったからか、比較的混んでいる気がした。そんなことを考えるのと同時にふわっとした香りが二人を包んだ
何人か並んでいる後ろにトレーと食器を持って並ぶ。すぐに列はすすみ、自分たちの番になった。
「おはようカリム、優珂。今日は何にする?」
カウンターの向こうから軍事補助エクステントの一人が話しかけてきた
「エラ、おはよう!いつもとおなじので」
「おはようございます、僕は日替わり定食でお願いします」
「はーい、わかったよ。大盛にはしないでいい?」
優珂の目を見て聞いてきた。
「はい、普通盛でお願いします」
「おっけー、いつも通り席で待っててねー」
というとARスーツで注文を厨房に伝えていた。
それを見ながら先へ進む。右手にあるカウンターの向こうにはARモビリティスーツを着て働いている人が見える。その人たちは同じスーツを着ていたが、胸に所属を示す黄色のバッジがついているのが特徴だった。
レオンはいつも後から来るから、4人席を確保し向かい合って座り、明日ある通信のテストについて話していた。すると後ろから声がかかった。
「おっはよー君たち珍しく遅いね、席開いてる?」
答える前に横にすっと座ってきたのは青い瞳をした褐色の筋肉質な美女である。
「おはようルチア。君は毎回遅刻寸前なくせに珍しく早いじゃん」
「カリム~そんなこと言うなんて...まさかあの堅物に影響されちゃった?」
いたずらっぽく聞くとカリムは露骨にいやそうな顔をした。
「まっさかぁそんなわけないじゃん、あんな面白くない馬鹿まじめな優等生と僕を比べないでよ。あんなの...」
カリムは目の前の二人がくすくす笑っていだしたのを不審がった。
「二人ともなんで急に笑い出…」
「誰が、面白くない、馬鹿まじめ優等生だって?」
後ろから会話を盗み聞きしていたレオンがカリムの頭をがっしりとつかんだ。
「い、いやーこれはその、言葉の綾ってやつであって...」
「あんなの…なんだ、言ってみろ」
鬼の形相でにらむレオンに対してタジタジのカリム。その様相がおかしくて思いっきり笑ってしまう。
「仲がいいんだか悪いんだか、ああおなか痛い」
ひとしきり笑って落ち着いたルチアは返した。
「喧嘩するほど仲がいいってやつじゃない?」
すると脳内にエラから連絡が来た。『日替わり定食できたよー』
「できたらしいから取りに行ってくる」
優珂が言うとカリムがのっかってきた。
「ぼくもできたからいってくるー」
というと素早くレオンの手の下から脱出した。どうやら早朝とは違い口論はレオンの圧勝となったようだ。
カリムと一緒に受け取り口に取りに行く。また人が少し増えた食堂はかなり賑やかになってきた。深緑色の械軍のバッチを付けた人だけでなく、青の技術職の人や白色の医療班もいる。普段は早めに来て食事を済ませてしまう事が多いから少し新鮮に感じた。
受け取り口につくと日替わり定食が置かれていた。厳密な栄養管理がなされた料理はどれもおいしいが、今日は自分の好きなガパオライスだった。少し頬がほころぶ。
「いっつもカリムはそればっかりだよね、飽きないの?」
チキンカレーご飯大盛を持っているカリムに聞く。
「なんかわかんないけど飽きないんだよねー。むしろこれがないと朝が始まんないかんじ?」
そんな話をしながら席に戻る。あれだけ頭をぐりぐりしたからかレオンは満足そうな表情で留飲を下げていた。
そんな様子を見ながら先に飯に手を付ける。
脳内で時間を確認する。7:10...微妙な時間だ。
"先生、ジェットバスって開いてる?"
"ジェットバスはかなり埋まっていますが7:25から開いています"
"予約お願いします!"
"承知しました"
「ごちそうさまでした」
食べきったお盆を下げるとみんなに一声かけてから食堂の外に出る。遅れるなよー、とカリムに言われた気がするが俺の心配より自分の心配をするべきだろう。
食堂は出入りしやすいようにするために一階に設置されている。玄関から外に出ると様々な軍用車両が並んでいるのが見える。だが、用があるのはそちらではなく右側にある小屋である。その中には4本の電磁気力レールがあった。レールの脇にある棚からヘルメットを装着する。そしてレールの一本に近づくと両足を縦に並べて前傾姿勢をとった。するとレールの上で強力な磁場が働き始めた。モビリティスーツが反応し、前に進みだす。みるみるうちに加速していく。ヘルメットには時速70キロと表示された。その高速移動こそがモビリティスーツの真骨頂である。この械域最大の都市、核域に張り巡らされた電磁気力レールは械軍の人はスーツ用レーンで、それ以外の人は専用の乗り物で移動できる高速の移動手段だ。これによりかなり広い都市内を端から端まで瞬時に移動できるのだ。
後ろを確認しながら、姿勢を変えブレーキをかける。僅か5分でついたのはジェットバス施設である。
7:20分少し早いが悪くない時間だ。建物の中に入ると小さな部屋がいくつも並んでいた。
"先生、予約したの何号室?"
"311号室です"
三階へ上がり少し時間を潰してから7:30きっかりに311号室へと入る。中には服を入れるかごと、人ひとりがちょうど立って入るぐらいのカプセルがあった。
モビリティスーツを脱いでかごに入れると一糸まとわずカプセルに入り、中にあるマスク鼻と口を覆うようにぴったりとつける。するとそれを確認して機械が動き始めた。目を閉じると上から水が勢いよく噴き出してきた。息苦しさはない。ただ、マスクへと来る空気は少し花の香りがした。薬用の水で洗われるのは全く風情はないが、すっきりとはする。目を閉じて息を整えながら体の稜線に沿って水が落ちていく感覚を感じ取っていた。
だんだんと水の勢いが弱くなってきた。10分が経ったのだろう。体が暖かくなっているのを感じながらモビリティスーツを着なおす。年中適温に保たれた室内はではスーツが冷たくなることはなく、暖かかった。
来た道を戻り外へ出ると温まった体には少しだけひんやりとする春の日だった。レールに乗り最初の訓練場所である物質銃撃訓練場へと向かった。安全を考えて町の外れにある訓練場へはレールを使っても10分かかる。建物をできるだけ密集させることで防衛をしやすくしているここ、機域ではレールは建物の間を縫うように設置されている。そのため狭い空間が多い。それを通り抜けるのはとても気を使った。しかし少し長いトンネルをくぐると一気に視界が開けた。遠くのほうに大きな建物が一つ見える。そこが今回の目的地だ。建物の中まで直接レールが走っているためそのまま建物まで入る。
そして到着した物質銃撃訓練場は見るからに頑丈な建物だった。もうすぐ集合時間だから多くの人がレールから建物に入っていく。レールから降りてすぐの部屋は百人単位で入れる大きい部屋だ。そこには箱型に整列している同期の軍事エクステントの人たちがいた。その中の一つ、一番左端にある第1中隊の中に入っていった。
「やっほーさっきぶりー」
一大隊は300人。それが全部で10個に分けられて一つ30人の中隊、さらに分け、一つ10人の最小単位、小隊となる。一緒に食事をとった、レオン・マイヤー,カリム・ハッタド,関木 優珂,ルチア・フェレイラ,この4人は同じ第一中隊、第一小隊 ネーム 喧噪,の一員である。そして、成績に応じて中隊は分けられるため、4人とも普段はふざけていても、ひとたびスイッチを入れれば、とても優秀な軍人へと変貌するのである。
時間は7:55分。瞬間、広間は急速に、先ほどまでのうるささが嘘のような静寂が広がった。
息苦しい緊張感が高まっていく。毎日のことではあるが、この時間、この緊張感になれることはないのだろうとひしひしと思う。
「敬礼!」
声が聞こえた瞬間に衣擦れの音と、かかとの音が広間を埋め尽くした。前に立つのは自分たちの教官である、ディエゴ・アルバラード大隊長だ。
「休め!」
再び広間を一瞬の音が埋める。
「諸君、おはよう。今日もまた、よい朝を迎えられたことを嬉しく思う。諸官よ、よく学び、よく鍛え、良き精神を身に着けることを私は強く願う。」
「敬礼!」
「休め!」
「それでは本日の訓練に入る。各々、始め!」
その大隊長補佐の号令が聞こえたとたん各隊は担当教官のもとへと集まった。私たちの担当はもちろんイリヤ・ペトロフ伍長だ。
「本日の訓練は物質銃撃訓練場、特殊モビリティスーツ、そして基礎体力訓練だ。本日もよろしく頼む」
そう厳粛に言ったかと思うと、急に声のトーンが変わった。
「じゃ、移動しよっか」
そう、この小隊が喧噪小隊と呼ばれる所以は簡単だ。とてもうるさいのだ。教官が本来はたしなめたり、叱責したりすることが多いのだが、イリヤ伍長は小隊員とのコミュニケーションにとても重きを置いている人だ。そのため、自分の監督下の時は、自由な発言を許可しているのだった。ほかの教官も口出ししたいところはあるのだろうが、圧倒的な実力を誇る第一小隊、そしてセリオン前線の生き残りであるイリヤ伍長には苦言が呈しづらいのだろう。そして、おそらくもう一つ理由がある。それが.....
「じゃあ、物質銃撃訓練スタート!防御できなきゃ腕が吹っ飛ぶかもしれないから気を付けてねー!」
廃墟を模した建物の中の空間での戦闘。こちらの勝利条件はひとりも脱落者を出さず、一定時間内に、2か所ある通信施設を模した場所のどちらかを爆破し、退避することだ。
「相変わらず容赦ないぞ!気を抜くな!」
廃墟の中を各々、イリヤ伍長の弾幕から射線を切るように走りながらのレオンの怒号が飛ぶ。するといつの間に高所にのぼり全体の情報をとっていたカリムから連絡が入った。
『イリヤ伍長が使っている武器は旧式のミニガン、装弾数300発のやばいやつ。まじで腕どころか頭も吹っ飛ぶよ。あとホルスターに拳銃が二本。警戒して』
「それ聞きたくなかったな!」
『レオンはポイントαに移動、優珂は第二通信施設よりのポイントαに移動、頭吹っ飛ばされないように頑張ってね』
高所にはカリムのほかにもう一人いた。リラ・アサド、第一小隊の指揮を執る戦術の天才だ。
背後から連射される弾を躱しながら指示通りに誘導していく。建物を窓から窓へと抜け、いくつか椅子を投げけて時間を稼ぐ。
『優珂、ポイントα到着、対象到着まで3,2,1』
『レオン、起爆!』
次の瞬間伍長の移動していた当たりが爆発した。粉塵が舞い視界が完全にふさがる。普通の人ならと動けなくなっていてもおかしくない攻撃だが、この人に対しては効果がないと思ったほうがいい。
『リラ、次は?』
『優珂は靄をめくらましに退避、ルチア、バックアップして』
少し無線に集中した一瞬、靄の中から銃弾が飛び出してきた。どうやら見えないのをいいことに乱射しているらしい。しかし、少し経ったところで急に弾がやんだ。リロードの途中かと思って警戒した。しかし、あまりにも何も起こらない。不審に思い警戒しながら情報をとる。すると、そこにあったのは一丁の電磁浮遊機能により浮かされ、引き金を引きっぱなしのミニガンだけだった。
「やられた!」
『リラ、本隊がばれてる!プランの変更を要請!』
おとりだった優珂はリラへと連絡を入れるが、帰ってくるのはノイズだけ。
「ジャミングまで使うのか!あのあほ教官」
驚きあきれた考えを一瞬したが、まだ終わっていない。気を取り直し、ルチアとの合流地点へと向かいながら次の動きを考える。
「優珂、伍長は?」
ルチアと合流できたことに少しホッとしつつ現状を伝える。
「こっちがおとりなのがばれた。どうやらジャミングもされていてリラとも連絡が取れない」
「まずったね、とりあえずリラと連絡を取らなくちゃいけない」
「じゃあ、作戦を変更しよう。途中でレオンを回収してリラに伝えて。本隊へは僕が言う。本隊を第二通信施設に移動させて、一人を第一施設に潜伏させ、破壊させよう。合図は花火で」
「了解」
その答えを受けた瞬間から違う方向へと走り出した。敵通信施設付近に到着すると、もう伍長によって被害が出ているという最悪のケースを想像したが、本隊は中へと突入せず少し離れた場所で潜伏していた。
「やはりジャミングされているな?優珂」
「ええ、間違いないです。リラにも知らせているのでプランを変えます。一人と爆薬を残して、他をもう一回おとりにします。全速力でポイント2に向かいましょう」
「了解、俺が残ろう。合図は?」
「花火で」
「4人はついてきてください。行きますよ」
そういうと優珂は思いっきりスピードを上げて走り出した。すると右手から伍長が出てきて追ってきた。一瞬驚いた表情をした気がするが、そんなの忘れるほどの正確な弾が飛んできた。
「散開!」
5人は弾に当たらないようにばらばらに、しかし同じ方向に走り抜けていった。
しばらく走ると第二通信拠点が見えてきた。そこで上に、一つだけ持ち出していた爆薬を思いっきり投げた。それは花火のように咲いた。
それを見た伍長は何かが仕掛けられたことに気づいたのだろう、一層執拗に撃ち始めた。その時、連絡が入った 。
『こちらリラ、ジャミング解除 臨時作戦完遂。直ちに撤退せよ』
『了解!』
それを聞いた5人は全力で撤退し始めた。しかし、その瞬間一人が足に被弾した。
「優珂、バックアップ!他は急げ!」
急いでいたが、着実に担ぎ上げると、走り出す。やはり伍長は移動速度が遅い僕らを狙ってきた。
そこで、直接撤退するのではなく、少しわき道にそれた。
(優珂はどこへ向かっているんだ?)
伍長は疑問を抱く。しかし、それはすぐに解消された。
建物に入ったと思ったら、浮いているミニガンを台車のように使っていた。
(まずい、追いつけない)
一気に伍長との距離を離し、撤退線を踏み越えた。
気にしていなかったが、自分が大きく息を詰めていたことに気が付く。思いっきり、長く息を吐いた。
「よっしゃー!」「やったー!」「勝ったー!」
次の瞬間周りで次々と大きな歓声が上がった。
「いやー、やられたよ。結構本気でやったんだけどな」
苦笑いしながらイリヤ伍長が両手を上げて出てきた。
「とりあえず応急手当しようか」
レオンが被弾した足を見ながら見分していく。
「銃弾はスーツで止まっているな、被弾しそうになったところで硬質化できているから強い打撲で動けない。大事ようだなはないと思うが、一応医務室へ向かうぞ」
「そうですね、レオンさんありがとうございます。優珂さん、迷惑かけてすみません」
「気にしないでください!ただ、今度自分が撃たれたときは担いでいってくださいね」
そういってほほ笑んだ。
「よし、それじゃあ午前中はこれで終わり。長めの休みを取るよ、早めに昼飯を入れといてね。午後はちょっと特殊な講義が入ったよ」
伍長のその発言が聞こえると、別動隊だった三人(医務室に付き添ったレオンを除くので二人)と、高所から指揮をした二人で反省会をしよう。となった。
演習場を出て、小休止のできるソファーに深く腰掛ける。そのまま寝れそうなほど疲れていたが、ここで寝たら起きられなくなるのがわかり切っていたから気合で体を起こし、切り出す。
「今回の作戦の問題点はどこだったと思う?」
リラは少し考えてから答えた。
「大きな問題点は二つあるわね、一つ目は優珂が囮だと気づかれたこと。もう一つはジャミングに対する対策を怠っていたことね」
カリムがリラの問題点を指摘する。
「二つ目に、しては対策のしようはいくらでもあるけど、優珂が囮だってことになんであの人は気づいたんだろう?」
「あたしの意見だけど、あの人がひねくれた考えを持ってたってのと、あの人はリラを高く評価してるからじゃない?」
「ルチア、なんでそう思うの?」
「だって普通は運動能力がとんでもない優珂は絶対に本隊だと思うもん。それをおとりにしたリラの作戦がばれたのはあの人がリラを信頼してたからだと思うな」
「それももちろんあるけどもう一つあるかな」
被弾した隊員を運び終えたレオンとイリヤ伍長が話に加わった。
「お疲れ、レオン!相変わらず機械みたいに完璧なタイミングだったね」
「ありがとう。だが個人的には優珂が指揮系統が麻痺したタイミングで司令部にルチアを送ったのがよかったと思う...」
レオンは優珂のほうに顔を向けた。しかし、優珂は疲れ切って寝てしまっていた。
「ここに来た理由は、優珂に話そうと思ったことがあったんだけど、起こすのも悪いよね。じゃあ、君たちに書類のデータを送るから優珂に確実に渡してね」
そういうとリラに通知とともにリンクが入ってきた。
「さて、少し話を戻すよ。僕が優珂をおとりだと判断できた理由はもっと単純だよ。君たちが油断していたからさ」
「油断?してたかなぁ?」
カリムが言う。
「そうだよー。いつ撃たれるかわからない状況で気を抜くほど馬鹿じゃないよ」
しかし伍長の二の句により全員が絶句したのであった。
「だって君たち、戦闘が始まる前、昨日の夜に暗号化しないで作戦を話し合っていたじゃん。そんなん盗み見てくれっていうようなもんだよね」
「君たちには力も、判断も、戦略もある。だからこそ、常に、常に、気を抜かないで。それが僕の教えられることだよ」
そういうと伍長はソファから立ち上がり、本隊のメンバーがいるであろうほうへと去っていった。
残された4人は伍長の言葉をよく嚙み締めた。
だが、それ以前に全員言いたいことがあった。
「あの人やってること軍則すれすれだよね?」
「いや、アウトラインをがっつり踏んでいるな」
男二人は呆れていた。
「プライバシーの侵害!」
「本っ当に最低」
怒っている女性陣が対照的だった。
そして優珂はそんなことも知らず気持ちよさそうに寝息を立てているのだった。
"先生、今回もありがとう。ミニガンを使って運ぶなんて思いつかなかったよ"
"礼を言うことはありません優珂。私の生きる意味なのですから"
ふわふわした心地よい気持ちで伊田木先生と話す。
"午後の特殊モビリティスーツもお願いします"
"もちろんですよ"
伊田木先生はとてもうれしそうに答えたが、こう付け足した。
"いいですか、散々釘を刺しますが、私があなたの中にいることは誰にも言ってはいけません。いいですね?"
優珂は伊田木に抱きしめられた気がした。あたたかい。ただ、あたたかい....
"どうやらもう時間のようです。おはようございます、優珂"
「あ、起きた?おはよう優珂」
気づかないうちに寝てしまっていたのだろう。のんびりと体を起こすとかかっていたブランケットが落ちた。涙を流すほど笑っているレオンとカリムが目に入った。
「にしてもブランケットかけたリラをお母さんって..はーっおなか痛い」
「すまん、そんなにらむな...でも、ふふっ」
「ほんとにデリカシーのない馬鹿どもだね、気にすんなよ優珂」
すこしリラが恥ずかしそうにしているのを見て少し申し訳ない気持ちになった。その空気を見て取ったルチアが提案した。
「いい時間になったし昼食をとらない?」
「そうしましょういいよね、レオン、カリム」
二人は問題ないというジェスチャーをした。
この建物は様々な演習ができるように作られている。もちろん食堂はここにも作られている。ただこちらの食堂では、より軍が提供するものとしての側面が強い。メニューはほとんどなく、早く、手軽に栄養が補給でき、
なおかつ作るのが早いものを作っている。
「今日午後特殊モビリティスーツの訓練があるからがっつり食べ過ぎないほうがいいよ」
笑いの発作がようやく収まった二人に声をかけた。
「じゃあ特盛じゃなくて大盛にしようかな」
「お前なら大丈夫だろ」
そんなことを話ながらシチューを頼む。出てきたシチューには、人参と牛肉が入っていた。口に含むと、玉ねぎの甘味が広がった。キノコはほどよい弾力を、人参は玉ねぎとはまた違った甘味を出していた。
付け合わせのチーズとクラッカーは、苦みが強めのチーズの独特の風味とサクッとした食感が合わさっていて非常に美味しかった。
「そういえばこの後の特殊モビリティスーツって最初座学からだよね?」
「うーんどうだっけ?優珂わかる?」
「それであってるよ。でもイリヤ伍長は座学はあんまり性じゃないみたいだからすぐ終わるかもね」
優珂の意見に口を出してきたのはレオンだ。
「いや、今回特殊モビリティスーツの改修が入ったらしい。もしかしたら長くなるかもな」
食堂から少し歩いたところに講義室がある。その部屋は30人ほどが入れる中規模な部屋だ。そこに第一中隊のメンバーが集まった。
13:05になった。すると奥から中隊長が入ってきた。
「敬礼」
ザザっと音がすると一糸乱れぬ動きで敬礼をした
「直れ」
「休め」
「それではこれから新型モビリティスーツの講義を始める。座れ」
そういったあと、一人の人が入ってきた。その人のバッチは青色で銃を二丁交差させている柄、軍事技術開発部の人だ。ちなみに第三大隊は豹の斑点模様をあしらった柄だ。
「紹介する。技術開発エクステント、軍事技術開発部門、モビリティスーツ課、課長であるキム・ミンジュン様だ」
「ご紹介にあずかりました。軍事技術開発部門、モビリティスーツ課キム・ミュンジョンです。今回。新型モビリティスーツが完成しました。これは戦闘用モビリティスーツなので、標準モビリティスーツの上から着ていただく形になります。私はあなたたちの上官ではないので、のんびり近くの人と話しながら聞いてくださいね。あと、質問がある方は挙手をお願いします。いつでも歓迎ですよ」
そういうと彼は説明を始めた。要約するとこうだ。
・電磁誘導反発制御装置、以下EIRCを搭載。これは足の裏の一部が浮くほどの大きな浮力を電磁気力により生み出すことができる
・内部CPUの最適化によりAIを独自に入れることでEIRCを制御する。
・人工筋繊維 体が大きな負荷に耐えられるように体を強化するためのもの
・硬質化 人工筋繊維を部分的に硬くすることで、致命傷を防ぐことができる
・ヘルメット 様々な情報を統括してみることができる
・識別機能 バケモノと人とを瞬時に区別することができる
そう、私たち械軍が戦っているのは人ではない。奴らは私たちと酷似した見た目をし、高い知能を有している。ただ、顔に黒い靄がかかり、赤く落ちくぼんだ眼窩をしているのだ。
そんな奴らから身を守り、奴らから町を奪い返す。そんな戦いが今起きている 戦争有機域奪還戦 だ。
「奴らは顔を隠すとぱっと見の見分けがつきません。そこでこのスーツを着ている者同士ならばお互いを把握することで、容易に判断ができます。」
少し教室がざわめいた
「確かに画期的だな」
「これは想像以上だね」
右でカリムとレオンが話していた。
「それもだけど、AI補助の領域が追加されるのが気になるな」
「優珂、改造する気?」
「それもいいね」
だが、キムさんはまだ止まらない。
「もう一つ、新しい武装を実用化します。」
そういうと台の上に置いてあった赤いカバーを勢いよくおろした。
そこには、白を基調とした中型と大型の間、ライフル以上スナイパー以下の不思議な銃が置いてあった。
「これは、AI補助式電磁砲です。前から開発されていたものなのですが、反動の大きさ、そして電力的な問題によって実用化に至っていませんでした。しかし、このスーツによりすべての問題をクリアし、ほこりを払って登場したのです!」
説明に熱が入っていたキムさんはそこで一息ついた。
「これで、一通りの紹介は終わりました。それでは、デモンストレーションと行きましょう。第一小隊、優珂さん、前へ」
「えっ?」
「あっ」
左右から思わずといった様子の声が漏れた。
「ごめん、言い忘れてた。行ってきて」
申し訳なさそうにルチアに言われて前に出る。
そして、指示されるままARモビリティスーツの上から新型を付けた。そしてヘルメットをかぶると目の前に血圧、バイタルなど、様々な情報が表示された。
「すごい.....」
思わず感嘆が出てしまった。
「すごいでしょう。どんな風に見えますか?」
「本当に様々な情報が見えます。チャットの管理だったりとか、望遠鏡、サーモグラフィーまで付いているんですね」
「それでは、AIとEIRCを起動してみてください」
「はい!」
テンションが上がった優珂はそのまま、AIモード、およびEIRCを起動した。すると、聞きなれた声が聞こえてきた。
"優珂、こんにちは"
"驚きましたか?私は一旦スーツのほうへと演算領域を移動させました"
"そんなことできたの!?"
"それでは起動しますよ、気を付けてください"
少しスーツがうなった。すると不思議な感覚が優珂を転ばそうとした。慌ててバランスをとる。
「転ぶなよ優珂ー」
外野からのヤジを無視しながらキムさんに問う
「少し動いてみてもよろしいですか?」
「もちろんです。ただ、出力は抑えて、気を付けてください」
足を踏み出し歩いて見る。はじめはぎこちない動きだったが、だんだんとスムーズになり、ついに滑るように歩き出した。そして調子に乗った優珂は少し足に力を込めて立ち幅跳びの要領でジャンプしてみた。
「は?」
講義室の一番奥にいたはずのイリヤ伍長のぽかんとした顔が気づいたら目の前にあった。
優珂は部屋の端から端、およそ15メートルを軽く跳んでいた。
「マジか」
ルチアも開いた口がふさがらない様子だ。
しかし、優珂は内心冷汗が止まらなかった。
"先生、これやばいなんてものじゃないですって"
"私が出力を抑えなければ壁に激突し、穴をあけていたでしょうね"
そして恐る恐る優珂は聞いた。
「あの...これ武器のほうはどんな性能なんですか?」
「威力調節は可能ですが、フルパワーでぶち込むと、この訓練場の外郭に穴があけられるという試算結果がでていますよ」
優珂はもう気にすることを諦め、10分ほど新型を体感した。
今日はモビリティスーツの実技はなかったらしく、そのまま講義が終了した。
外へでると第一小隊のみんなが詰め寄ってきた。
「機動性はどんなだった?」
「AI補助はどんな感じ?」
「指示の統制は出来そうだった?」
「いったん黙れ」
優珂はそう言ってみんなを静かにさせた。普段の優しい感じとは少し違う優珂の様子に驚き静かになった。
「さっきさ、君たち僕に何か言い忘れてなかった?」
「ん?後ろで見てたけど何かあったの?」
イリヤ伍長が聞いた。気まずそうにリラが答える。
「い、いやぁ...実はマニュアル..といいますか、そもそも今日優香がデモンストレーションをすることすら伝え忘れていまして...」
それを聞いたイリヤ伍長から表情が消えた。それを見て四人は震え上がった。
「基礎体力訓練、今日、君たちは三割増しでやってもらうよ。本当に、優珂にけががなくてよかったよ。出力の制限を手動でやっていたってことだから、もしかしたらいきなりの負荷で大変なことになっていたかもしれないからね」
それを聞いて少し優珂はぞっとした。もし先生が制御していなかったらどうなっていたんだろうか?そんなことを考えてしまったからだ。
「第一小隊、そのまま第三野外訓練場へ移動!」
伍長が声をかけると、少しけだるげな返事をしながら、10人が訓練場へと向かっていった。
そして、基礎体力訓練が始まった。先ほどの物質銃撃訓練ほどではないが、かなり実践的な方法で体力を鍛えていく。
最初は走り込みから始まった。行軍用の武装を抱えての走り込み、まだ春先だというのに気持ちは灼熱地獄を行進していた。
それが終わり、一息ついたタイミングだ。しかし、この訓練は水分を絞って行われる。現地で水が不足する可能性を考慮してのことだ。水筒のキャップ二杯分水を補給し、次に進む。
次は銃を持っての短距離ダッシュをし、遮蔽から遮蔽へと走らされる。敵がいると想定されている場所にはイリヤ伍長が銃を抱えて立っていた。伍長は撃たないと言っていたが、否が応でも緊張感が高まる。
それが終わると次は設営だ。伍長の一言の指示が入るだけで全員がてきぱきと動き始める。伍長の指示は対空爆、半地下型とのことだ。すぐに林の中に移動し、地面を掘り始めた。約40から50センチほどを掘り、上に遮熱シートを張ると、基本は完成だ。そこから伍長が止めるまで、リラを中心に設営をした。
結局荷物をまとめておろしたタイミングで止め!と声がかかった。
「今日は撤去を行い、終わりにしよう。あ、荷物はここに置きっぱなしでいいよ。明日以降のことは追って伝えるね」
疲れた体に鞭打って、遮熱シートや、荷物をまとめた。
「お疲れさまでしたー」
カリムは伍長の横を通って帰ろうとしたが、がっちりと肩をつかまれた。
「君は、まだ、やることがあるよね?」
氷のような声だった。
「バカ四人集合!」
四人は十人分の荷物をここから持ち帰るという仕事が割り振られた。もう空はかなり暗い。ここから3キロほどの遠さへ一人分で15キロほどある荷物を二往復も持っていくのは重労働だった。説明し終わると伍長は、倒れるなよ、と言い水筒だけを置いて去っていった。
四人で10人分を運ぶことになると、だれか二人が三往復しなきゃならないことは明白だ。ぎらついた目を合わせ、こぶしを前に出そうとしたとき、声をかけた。
「おまえら、とっとと運ぶぞー」
優珂を呆気に取られて見つめていた。
「まあ、僕が寝てたのも原因の一つといえばそうだし...ま、早く行こう。夜遅くなっちゃうよ」
夜空の下での散歩は、とてもきつい。疲れ切っていた体はきしむ音がするようだ。だが、笑いにあふれていた。二往復目が終わり、荷物を預け終わったころにはもう20:30を回っていた。
僕たちは疲れた体を椅子に預け、共に飯を搔き込みながら語り合う。明日は休日だ。憂いもなく寝よう。
ただ、こんな日々がずっと続くような気がしていた。
読んでいただきありがとうございました。
次の話では大きく話が進展します。
月曜日の更新をお楽しみに




