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研究室内恋愛はやめておけ(仮)  作者: 佐々木 秋


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6/6

嫉妬①

[とりあえず今回のミーティングはこんな感じで良いかな?作業に足りないものがあったら言ってほしい。ただし、しばらく工学系のエンジニアという扱いだから実験室の入退室許可をとるのに時間がかかるかもしれないのでもう少し待ってほしい。]

ニシ先生との3回目の個人ミーティングは割と緩やかに終わった。

研究室のスタートアップ前からミーティングとまでは行かないまでも僕とニシ先生は何度か、僕がプログラムをどこまでできるのか、それを使うとどこまで研究を便利にできそうなのか、という話はニシ先生の部屋に初めて行った後に少しずつ話していた。

僕が関わる話は画像処理だったり、動画解析だったりということになった。なったというか去年の教授のラボの時点でほんの少しだけ画像処理プログラムを組んだことがあり、その話を小耳に挟んだニシ先生が新規研究室立ち上げに伴って教授に話をしていたらしい。


 というわけで、僕はラボ全体でやっている動物実験だったり細胞のどうのだったりについて、呼ばれてプログラムをしに行く人となった。現在、ニシ研では大きなプロジェクトが1つ動いており、それのメインの細胞がなんだ、in vitro(試験管レベルでの実験をこういうらしい。in vivo という単語と対義語としてin vivoという単語は教えてもらって知った。 )がなんだというのをポスドクや大学院生が3人がかりで取り組んでいた。一方で僕と彼女の大学生組は行動の表象がなんだという話でネズミ相手の実験をセットアップしていた。

 その日も僕は朝から3階のラボに来てプログラムをいじっていた。細胞相手の顕微鏡に追加設定する光学系のパラメータの面倒臭さと動物行動実験関係のカメラ処理の面倒くささはそれぞれ別のベクトルで面倒だった。

 [オハヨウ]

 顔を上げると彼女が隣に来ていた。「おはよう。少し聞きたいんだけど、ここ良いかな?」ちょうど良いのでそのまま彼女に声をかける。

[どうしたの?]

[この動画1と動画2を見てほしい。行動実験のデータで君がアノテーションというかラベリングしたデータがあるけど、この2つ何が違うの?両方ともネズミの行動同じに見えるんだけど?]

そのまま僕は動画を連続して再生する。ニシ研は新規立ち上げ研究室ということもあり、オフィス側の配置がまだ中途半端だ。結果、僕は大きめの2画面を占有してしまうこともありオフィス側ではなく実験室エリアとオフィスエリアの中間の謎ゾーンに自分の席を構えていた。

 [動画イチの方はこれは物体を見ているから探索。でも動画ニの方は物体に乗り上げて遠くを見ているから探索じゃない。]

[えっとどうゆうこと?]

[コノ実験の目的はネズミの記憶を確かめる。彼らは新しいものが好き。だから、新しい物体を探索する。長く触る。物体の上に乗っているとき、物体は床と同じ。だから、カウントしてない]

[あーなるほどありがとう。誰が言ってたの?それ?]

僕はニシ先生か大学院生の誰かだろうと予測しながらだったら早く言って欲しかったと思った。この件で2,3日悩んでいるのだった。

[えっと、パソコン使っていい?論文に説明がある。アと、ニシ先生に確認したらそれで正しいて。]

僕がイスごと大きくどいて、ちょうど近くにあったイスを薦める(改装中のラボなので行き場を失ったイスが変なところに置かれている)と彼女はそのままブラウザをいじり、基本的な実験プロトコルがいくつかのったページを指し示した。

[これか。ありがとう。]

 僕もページとしては知っているページだったので自分の知識不足を恥じる。

[ドウイタシマシテ。その灰色画面はナニ?]

僕が画面の端で開いていた二次元フーリエ変換の画像が気になったらしい。

[えーっと二次元フーリエ変換の画像。何をやっているかというとノイズ除去なんだけど...。説明するには紙が必要だな。]

僕は引き出しの中から裏紙を取り出し、波を書いて説明する。[えっとだな、大体のデータは波のたしあわせで説明できる…]途中から僕の数式説明というより英会話能力のせいで正しく説明でいているのか不安になったが、彼女は7割型理解したようだった。

[ツマリ、波の大きさを変えて足し合わせるとどんな線でも表せるからどんな絵でも表せるということ?]

[That`s right。大体その理解で良い。]

話しながら理解が早いなと思う。僕は実験が始まるまで、というか始まった後もしばらく手持ち無沙汰であった時期があったのでその時に学部講義の復習も兼ねてフーリエ変換の式を追っていたのだが、それを彼女はこの短時間の説明で数式の細かい話はのぞいて大体理解したらしかった。


 少し、もやった気持ちが自分の心の中で鎌首をもたげていた。

そして理解した。

 最初は自分よりも後に来て、僕が実験室の許可証だったりをせびっているのを尻目に実験現場入りをしている彼女に不満を持っていたと思う。

そうではなかった。

彼女には僕が苦労してやってきた部分をスルリと理解する才能があった。

僕は彼女に嫉妬しているのだった。


オイラーの公式の凄さはあの公式が実用上の有用さと数式的なありがたみを両方、持っていることだと思っています。

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