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王子ちゃんはお姫様に恋をした♡♡  作者: 櫻木サヱ


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9/14

大人の事情の正体

翌日。

ユウは落ち着かないまま授業を受けていた。

ノートに文字を書いても頭に入らず、黒板の文字も遠い。


昼休み前、神代先生が教室に顔を出し、ユウに目を向ける。


「王子寺、少し来てくれるかい」


その声の硬さだけで、ユウは胸が強く締めつけられた。

ミナミとコウが心配そうに視線を送ってくる。


廊下を歩き、職員室へ。

先生は机の上に一冊の封筒を置く。


「アズサさんに確認した。

 資料の閲覧は“本人が希望すれば許可する”とのことだった。

 だから……これは君に託すよ」


ユウは封筒を受け取る。

震えているのが、自分でも分かった。


「開けても、後悔しないかい?」


「はい。知りたいです」


神代先生は深く頷いた。


ユウは椅子に座り、ゆっくりと封を切る。

中にはたった数枚の紙。

だが、その一枚目の文字を見た瞬間、息が詰まった。


「……転居命令……?」


それは、姫川アズサの職場からの通達だった。

「業務上、各地の支部に定期的に異動すること」

「家族も帯同が原則であること」

そして──

「数週間前、次の異動先の決定。来月初旬、転居。」


理由は仕事。

それも、逃げているのではなく、強制的に移動し続けなければならない職務。


「さくらは……ずっと、こうだったんですか?」


神代先生は言葉を選ぶように口を開く。


「アズサさんは国家規模の支援機関に勤めていてね。

 彼女の業務は、派遣先の支部が定期的に変わる。

 数年どころか、半年で移動になることもあるらしい」


「そんな職が……」


「あるんだよ。大人でもしんどい。

 まして高校生の娘を連れて行くのは、並大抵じゃない」


ユウは拳を握る。


「じゃあ、さくらは……

 自分がいなくなるのを分かってるから、誰とも深く関わらなかった……?」


「だろうね。

 そして恋愛はもちろん、親しい友人関係すら避けようとしたはずだ。

 別れが前提の生活は、想像以上に苦しい」


ユウの視界が少し揺れた。

知りたかった答えが胸に刺さる。


「……じゃあ、どうすれば」


神代先生は静かに告げる。


「君がどうにかしようと思っても、簡単には変えられない。

 大人の事情というのは、そういうものだ」


その言葉は残酷だったが、真実でもあった。


ユウはうつむく。

それでも声だけは折れなかった。


「さくら……こんな理由で……ずっと一人で……」


「王子寺」

先生は優しく続ける。

「君は賢い子だ。

 この事実を知っても、彼女を責める気持ちはないだろう?」


「もちろんです。

 ただ……つらかったんだろうなって……」


封筒の紙を見つめながら、

ユウは気づく。


さくらがあれほど優しくて、

あれほど距離をとるのが上手だった理由。


きっと“別れ慣れしてしまった”からだ。


「……俺、諦めません」


ユウは静かに、しかし真っ直ぐに言った。


「さくらがどこへ行っても、気持ちがなくなるわけじゃない。

 何もしないで離れるなんて、嫌です」


先生はほんのわずか目を細める。


「君のそういうところ……昔から変わらないね。

 強くて、優しくて、頑固だ」


ユウは立ち上がった。


「このこと、本人にちゃんと聞きます。

 逃げたままにしたくない」


封筒を握りしめ、職員室を出る。

廊下を歩く足音は震えていたが、その歩幅は確かだった。




夕方。

海沿いのバス停──さくらがよく一人で座っていた場所に、ユウは向かった。


潮風の匂いを吸い込んで、心を整える。


「さくら……俺、全部知ったよ。

 それでも……好きって言うから」


覚悟を決めるように、ユウは拳を握った。


明日、彼はさくらに会いに行く。

逃げたまま終わらせないために。

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