表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子ちゃんはお姫様に恋をした♡♡  作者: 櫻木サヱ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/8

それでも、好きでいること

さくらが去った翌日、教室には静かな空気が流れていた。

昨日と同じ景色のはずなのに、ユウにはすべてが色あせて見える。

席に座るさくらの姿だけが、ぽっかりと抜け落ちていた。


相原ミナミが横から覗き込む。


「……告白したんでしょ?」


言い返せないユウを見て、ミナミは少しだけ口を尖らせた。


「顔に書いてあるもん。で? どうだったの?」


ユウは答えを探すみたいに、机の木目を見つめる。


「……好きだって言ってくれた。でも……離れなきゃいけないって」


「そっか……」


ミナミの表情が、ほんの一瞬だけ曇った。

でもすぐに明るく笑ってみせる。


「なら、追っかけなよ。

 逃げるって決めたのがさくらちゃんでも、追いかけるかどうかはユウの自由でしょ?」


ユウは弱く笑った。


「簡単に言うなよ。さくらは『大人の事情』って言ってたんだよ?

 俺がどうにかできることじゃないかもしれない」


「うん。でもさ──」


ミナミは指でユウの額を軽く突いた。


「どうにかしたいって思ったんでしょ?

 その時点で、もう止まる気ないんじゃん」


言葉に詰まるユウ。

その沈黙は、肯定そのものだった。


そこに、三嶋コウが教室の後ろから手を振って歩いてくる。


「お前ら、朝から恋バナか? いいなぁ青春してて」


「黙れコウ。真面目なんだよ」


ミナミが肘で突くと、コウは笑いながら近寄った。


「ユウ、昨日の顔で気づいた。

 ……覚悟、決めたんだろ?」


「覚悟って……そんな大げさな──」


「大げさじゃねぇよ。

 好きな子がいなくなるって言ったんだろ?

 そこで何もできないまま終わるかどうかなんて……でかい決断だろ」


ユウは反論できなかった。


そんな彼らの様子を、教室の入り口で神代先生が静かに見ていた。

数秒してから近づき、ぽつりと言う。


「王子寺。放課後、少し話がしたい。時間ある?」


ユウは驚く。


「……先生、知ってるんですか? さくらのこと」


「全部じゃない。けれど、彼女が何かを抱えているのは分かる。

 そして君が……無理をするつもりなのも、だいたい察しがついてしまう」


先生は優しく笑うが、その奥にどこか鋭さがあった。


「放課後、職員室で待っているよ。話せる範囲で教えてほしい」


ユウは小さくうなずいた。




放課後、職員室の隅。

神代先生は書類を閉じ、ユウの目を見た。


「……王子寺。

 誰かを好きになると、人は強くなる。

 でも同時に、とても弱くもなるんだ。

 君が今どちらなのか、心配でね」


ユウは静かに息を吸う。


「弱くてもいいです。

 でも……何もしないで終わる方がずっと嫌です。

 できることをしたいんです。さくらのために」


先生はゆっくりと頷いた。


「なら、まずは事実を知らないといけないね。

 彼女がどうして転校を繰り返しているのか──そこからだ」


「……知る方法、ありますか?」


先生は少し考えたあと、言った。


「一つだけ、思いあたる場所がある。

 姫川の母親――アズサさんが、学校に資料を預けている可能性がある」


ユウの心が強く跳ねた。


「俺……確かめたいです」


「分かった。勝手に見るわけにはいかないから、

 明日、私がアズサさんに確認してみるよ」


希望が、ほんの少しだけ灯った。

遠くに感じていた道が、かすかに開き始めたように思えた。




帰り道、ユウは空を見上げる。

雲は薄く、夕焼けは優しく広がっている。


「さくら……」


どんな理由があろうと、

想いを諦めないという選択だけは、もう曲げられなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ