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王子ちゃんはお姫様に恋をした♡♡  作者: 櫻木サヱ


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6/8

姫川家の事情

その週の金曜日。

帰りのチャイムが鳴り終わる頃、さくらは珍しくすぐ帰り支度をしていた。

いつもはのんびりしているのに、今日は落ち着きがない。


ユウはその様子が気になって仕方なかった。


「姫川さん、今日急いでる?」


声をかけると、さくらは一瞬だけ目を泳がせた。


「う、うん。ちょっと家の事情で……」


「送ろうか? 家、あっちの海沿いのマンションでしょ」


「だめっ」


予想外の強い声。

さくらはハッと口を押さえ、俯いた。


「……ごめん。ユウくんには……来ないほうがいい」


なぜそこまで拒絶するのか。

けれど、その理由を今は聞けなかった。


「わかった。でも、困ったら言って」


そう言うのが精一杯だった。


さくらは小さくうなずき、急ぎ足で帰っていった。

後ろ姿は、何かから逃げているように見えた。


ユウは胸のざわつきを抱えたまま帰路についた。

しかし、その夜、偶然すれ違うことになる。


海沿いの帰り道。

マンションの前で、ユウは聞き覚えのある声を耳にした。


「どうして勝手に学校を休んだり遅れたりするの?」


怒っているというより、焦っているような女性の声。

さくらの母、アズサだった。


そして、それに答える弱い声。


「今日だけ……どうしても、ちょっと……」


「さくら。わたしたちはもう、これ以上問題を起こすわけにはいかないの。あなたが誰かと近づくことが、どれだけ危険かわかってる?」


危険。

その単語に、ユウの胸が跳ねた。


「……わかってる。でも、わたしだって……普通に学校に行きたいよ。友達だって……」


「友達なんて必要ないわ」


アズサの声が冷たく響く。


「あなたは“また”巻き込まれる。それはもう繰り返しちゃいけないのよ。わたしたちも、周りの人も全部」


さくらの肩が震えるのが遠くからでもわかった。


「……わたしのせいじゃないよ。でも、わたしのせいなの?」


アズサは何も言わなかった。

沈黙だけが海風に混じった。


言えない秘密。

誰かを巻き込む危険。

さくらの距離の理由は、明らかに家庭にある。


ユウは迷った。

けれど足は自然と動いていた。


「——姫川さん!」


アズサとさくらが同時に振り返る。

二人とも驚いた表情だった。


「王子寺……くん?」

アズサが警戒したようにユウを見る。


「ごめんなさい。聞くつもりじゃなかった。でも——」


ユウはさくらを見た。


「さくらに何かあったなら、俺にも言ってほしい」


言った瞬間、アズサの表情が強張った。


「あなたには関係ないことよ。わたしたちは、もう静かに暮らしたいだけなの」


「でも——」


「さくら」


アズサはさくらの手を引き、ユウから遠ざけるようにマンションの中へ連れていく。


「もう誰かと関わっちゃだめ。とくに——あの子は」


その視線は鋭かった。

まるで、ユウが“危険な存在”であるかのように。


ドアが閉まる直前、さくらとユウの目が合った。


さくらは泣きそうな顔で、けれど声を出せずにドアを閉めた。


パタン、と軽い音が響く。


ユウはしばらくその場に立ち尽くした。

海の波の音だけが、静かに寄せて返す。


さくらの家には、秘密がある。

それはただの引っ越し癖なんかじゃない。


誰かを巻き込む危険。

関わってはいけない理由。


アズサが最後に言った言葉が、ユウの胸に深く刺さった。


——とくに、あの子は。


なぜ自分だけ特別に拒絶されたのか。

理由はわからない。


けれど、その分だけユウの決意は強くなる。


「……逃げない。絶対に」


海風が吹く中、ユウはひとり拳を握りしめた。

さくらの秘密に、一歩踏み込んでしまった。


もう後戻りはできなかった。

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