表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子ちゃんはお姫様に恋をした♡♡  作者: 櫻木サヱ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/14

本音と本音がぶつかる日

翌朝。

ユウは教室に入った瞬間、胸の奥がざわついた。


さくらが、いる。


窓際の席で静かに本を開いている。

表情は昨日までと変わらないように見えるのに、

ユウには、まるで別れのカウントダウンが見えているようで苦しかった。


ミナミが小声でささやく。


「……行きなよ」


コウも同じく小さな声で背中を押す。


「昨日からずっと決めてただろ」


ユウはうなずき、ゆっくりとさくらの席へ向かう。


「さくら……話、いい?」


さくらは一瞬だけ驚き、

すぐにいつもの優しい笑顔をつくった。


「うん。いいよ」


二人は人気のない裏庭へ。

草木が揺れる、小さな風の通り道。

人目を避けられる静かな場所。


ユウは封筒を取り出し、隠さずに言った。


「……これ、見た。

 昨日、神代先生が教えてくれた」


さくらの表情が固まる。


「どうして……」


「知りたかったから。

 君が言った『大人の事情』が、何なのか」


さくらは視線を落とし、ぎゅっとスカートの裾を握った。


「ごめんね……言えなくて」


「言わなかったんじゃなくて、言えなかったんでしょ。

 これ、君のせいじゃない」


さくらの肩が震える。


ユウは一歩近づいた。


「さくらが転校を繰り返してたのは……お母さんの仕事のせいだったんだね」


「うん……そう。

 私はどこかに根を張っちゃいけないの。

 友だちも、恋も……諦めるのが一番だって、ずっと思ってた」


「それで……距離を置いてたんだね」


「うん……。

 どんなに仲良くなっても、すぐに離れるのが決まってるから──

 傷つく前に、最初から作らない方が楽だと思った」


声が震えて、言葉が途切れそうになる。


ユウはゆっくり息を吸い、正面からさくらを見つめた。


「でも……俺は楽じゃなくていい」


さくらの瞳が揺れた。


「どうして……そんなこと言うの……?」


「好きだから。

 好きな人がつらい理由で笑えなくなるのを、見たくないから。

 それに──」


ユウは続ける。


「たとえ離れ離れになっても、気持ちまで消えるわけじゃない。

 俺は……さくらを“知ってしまった”んだよ。

 忘れられないよ」


「……そんなの……つらいだけだよ……」


「つらくてもいい。

 会えなくてもいい。

 でも、気持ちだけは嘘つきたくない」


さくらの目から涙が落ちる。


「ユウくん……優しすぎるよ……」


「俺、そんなに優しくないよ。

 ただ、諦める方がもっと苦しいだけ」


静かな裏庭に、さくらの嗚咽が少しだけ響いた。


「……本当はね……私も、諦めたくなかった。

 ユウくんと一緒にいたら、毎日が嬉しくて……

 好きにならないようにしてたのに、どうしてもなっちゃって……」


「なっちゃったなら、仕方ないよ。

 俺もだから」


二人の距離は、手を伸ばせば届くほど。


だがさくらは一歩だけ後ろに下がった。


「でも……私は行かなきゃいけない。

 本気で好きになったら、もっと離れたくなくなる。

 だから……怖いの」


ユウはゆっくり首を振る。


「俺は怖くないよ。

 別れがあったとしても、それが恋の終わりじゃないから」


「どうしてそこまで……?」


ユウは少し笑う。


「さくらが、俺にとって特別だから。

 理由はそれだけで十分だよ」


さくらは泣きながら笑い、涙を指で拭った。


「……ほんと、ずるいよ……ユウくん」


「ずるくてもいいよ。

 君に本音で向き合ってるだけだから」


風が吹き、桜の葉が舞う。


二人の間には、まだ距離がある。

でも、もう逃げる言い訳はどちらにも残っていなかった。


「ねぇ、ユウくん……」

さくらは震える声で続ける。

「もし……それでも私を好きでいてくれるなら……」


ユウは頷く。


「ずっと好きだよ。

 ずっとって言いきるのは無責任かもしれないけど……

 今は、それ以上の気持ちがない」


さくらは涙をこぼしながら、小さく笑った。


「……ありがとう」


その瞬間、

二人の心は初めて、同じ温度で触れ合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ