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天空の城と紙兎

 灰白色(グレイッシュホワイト)の城壁が、空の青を背景に鋭いシルエットを描いている。大小無数の尖塔が空を突く様子は、岩山に戴かれた威圧的な王冠のようでもある。

 この天空の城が大きな山の頂にあるのだと気付いたのは、紙風呂敷が、城門前に着地をした後だった。


「風呂敷さん、ここまでありがとう。あなたのお陰で私、鳥籠から逃げ出せたわ」

 ノニエは紙風呂敷のどこが顔かはわからなかったが、文字の書かれた真ん中あたりを見つめて、キスをした。

 紙風呂敷はピンと伸びて驚いたかと思うと、全身をヘニョヘニョさせたり、角を使って頭を掻いたりと、照れ臭そうにした。ひとしきり照れ終わると、元の手紙のサイズに戻って、ノニエの掌にちょこんと収まった。


 シェルン教授が自分に宛ててくれた手紙。アマリウスの城では、十分に喜びに浸ることができなかったが、改めて自分の手で開くと、これは夢ではなく現実なのだと実感してくる。ノニエにとってこの手紙は、既に人生の中でいちばんの宝物になっていた。


 気を取り直して城門に意識を向けると、どうやら鍵は掛かっていないようで、簡単に中に入ることができた。重い扉の先には大広間が広がっていて、天井のステンドグラスから差し込む色とりどりの光が幻想的だった。

 厳かな出立ちから、堅牢な作りだと思っていたが、城内は年季が入って古びており、ところどころ腐食して崩れ落ちていた。部屋の四隅には埃が溜まっており、蜘蛛ともムカデとも思われる虫がカササと動いている。

 ノニエは恐る恐る、部屋の中央へと歩を進める。


 バキッ。

 木の枝、だろうか。



「誰だ」



「キャァアアアアアアアアアアア!!!!」



 どこからの、誰の声なのか。考える暇もなく、気づけばノニエは叫んでいた。


「キャァアアアアアアアアアアア!!!!ごめんなさぁいいいい!!!おおおお死霊(オバケ)だけは無理ぃいッ!嫌だあッ」

「誰が死霊(オバケ)だ」

「だってこんな場所に人なん.......か....え?」

「悪かったな、こんな場所で」


 通じないはずの言葉が通じている。死霊もどきの予想外の返答に、叫ぶことをやめ、顔を上げる。

 前、右、左、後ろ。キョロキョロと必死に周りを見渡すが、声の主はどこにもいない。


「なんとも間抜けな奴だな」

「な、何よ......」

 確かに声は聞こえる。でもどこから?ノニエがもう一度辺りを見渡すと、階段の手すりに紙で折られた小さな兎が座っていた。


「あなたが私を呼んだの...?」

 紙兎はその質問には答えず、ピョンと大きく跳ねると階段を登って行った。


「あっ!待って...!」紙兎を追うように、階段を駆け上がる。


「あなた、喋れるの...?ここに住んでるの...?ねえ、ここってあなたのお家...?」

 質問に答えることなく、紙兎はぴょんぴょんと城内を跳び進んでゆく。だが、とあるドアの前で、跳ぶのをやめて止まった。一度後ろを見て、ノニエが付いてきているのを確認すると、ドアの中へと消えていく。


「入れって、こと...?」


 ドアノブに手をかけると、昔、母が読んでくれた童話を思い出す。不思議なウサギを追いかけて、魔法の国に迷い込んでしまった少女の話。自分にとってこのドアも、何か大きな意味を持っているような、そんな気がした。

 ドアをゆっくり押すと、部屋の中の光が、ノニエの顔面に少しずづ溢れ落ちる。



「さて、もう一度聞こうかーー君は誰だ」



 そこにいたのは、白髪混じりのアッシュ・ブロンドをポマードで自然に後ろに流した初老の紳士ーーーー書物で何度も見た紳士ーーーーダンケ・シェルン教授、その人だった。


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