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紙風呂敷に乗って

 祈るように、紙を折ったーーーー。


 多くは望みませんから、私のつまらない人生の最後に、神様どうか一つだけ、願いを聞いてくださいと。


 暇な神様が、いたのだろうか。ノニエの願いは、すぐに叶った。

 突如として、掌ほどの大きさしかなかった紙切れが、一筋の光を発し、キィインと高く張り上げた音を立て、書斎机ほどの大きさの紙切れへと姿を変えた。


 「お、大きくなった......?」


 紙、であることは間違いないが、自由にぐるりと回ったかと思えば、ジグザグと折れて見せたり、命を宿したかのように動き回っている。突然の出来事に、ノニエはもちろん、アマリウス伯爵もただただ呆然と立ち尽くすばかりだ。

 だが驚くのも束の間、紙切れはノニエをぐるりと一巻きしたかと思うと、そのまま窓をも突き破って一直線に霧の中へと勢いよく飛んで行った。


「え、あ、ちょ」


「うきゃあぁ〜〜〜〜!!!」


 紙風呂敷に巻きつかれたせいで、ノニエの視界は遮られていたが、「ノニエ!ノニエ!」と叫ぶアマリウス伯爵の声が、段々と遠ざかって行くのが聞こえた。


  城を出て、霧が覆う森の中に突入したのだろう。木々にぶつかる度、ザッ、バキッという音がする。窓や木々だけでなく、ありとあらゆるものにぶつかり、突き刺さりながら進んでいくが、不思議と痛みは感じなかった。

 直感的に、紙風呂敷が逃げるのを助けてくれたのだと思ったが、アマリウスの声が一切聞こえなくなった後も、紙風呂敷は飛行速度を緩めることなくひたすらに飛び続けた。


 アマリウスから完全に離れた安心からか、はたまた酷い暴行の焦燥からか、突如として睡魔が襲ってきて、ノニエは眠りについた。どこに飛んでいくのか、皆目検討はついていなかったが、紙風呂敷に包まれていると不安は感じなかった。


 空腹で目を覚まし、睡魔で眠る。飲まず食わずで飛んで、2日ほど経った頃だろうか。ノニエに巻きついていた紙風呂敷が、空の上で拘束を解いた。

 そう、空、の上。

 久しぶりの太陽の光を、避けるように目を細めながら周囲を見渡すと、そこは一面の雲。霧に囲まれたアマリウス伯爵城からは、決して見ることができなかった青空が、目の前に広がっていた。前を見ても後ろを見ても、敷き詰められた雲、雲、雲。鳥の一羽も飛んでいなかった。


 毎朝、霧の「白」を見ては憂鬱になっていた心が嘘のように、ノニエは目の前の雲が作り出す白の世界の虜になっていた。この綿菓子のような雲の海に、飛び込みたいとまで思っていた。


 時間がすぎるのを忘れて、ぼうっと見惚れていると白い空間に尖った塔のようなものが現れた。

 陽の光を受け、徐々に雲海の上に浮かび上がってきたのは、一つの城だった。


 その姿は、まるで世界から切り離された孤島のようだった。


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