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エピローグ
ーーアズイン王国、春。
チェラの花びらが舞い、一面が薄桃色で染め上げられる季節。ノニエは、あれから何度季節が変わったのだろうかと想いを馳せる。
「先生、覚えていますか? 私が初学年だったこと」
白髪混じりのアッシュ・ブロンドをポマードで自然に後ろに流した初老の紳士は、気だるげに首を傾げる。
彼が手のひらを差し出すと、花びらが一枚指先に舞い落ちる。
「どうだったかな、今も昔もじゃじゃ馬で会ったことだけは覚えているよ」
「あら?シェルン名誉教授ともあろう御方でも、手懐けられない名馬がいるんで?」
「ほらな」
男は仏頂面のまま、目元だけを細める。
彼の瞳の奥には、すべてを知り尽くした者特有の倦怠と、まだ見ぬ何かを求める僅かな飢えが同居している。その静謐な眼差しは、言葉よりも雄弁に、「私にはまだ秘密がある」と語りかけてくる。
「まだ、知りたいものがあるんですか?」
「......たとえこの身が尽き果てようとも、私の探究心は怨念となってこの世界に留まり続けるだろうよ」
仏頂面で返す男を、ノニエは真っ直ぐ見つめる。
「どこまでも、お供しますよ」
チェラの木々から差し込む木漏れ日が、やわらかい光で二人を祝福した。




