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第4話前編:冷たい頬のマシナ(歩き出せ、クローバー)

「涙は宇宙のギャラクシー」第4話。

作品ジャンルとしては、

ヒューマンドラマ&歴史ファンタジーです。


毎度、勝手に設定しているED曲は

SPITZで「歩き出せ、クローバー」

~未知のページ、塗り替えられるストーリー~


時代設定は1360年ころ。

舞台はスウェーデン、ゴートランド島。

第4話以降、キャラは完全にオリジナルです。

主な登場人物は、

マキナ(=マシナ)と、

リーヴ、フリーダの3人です。


マキナはやっとヒトの力を借りて、

慈しみへの扉を開きます。


☆彡

マシナという名前は、

末那斯まなしのアナグラムです。

・「機械」という意味のラテン語です。

 デウス=エクス=マキナで

 お馴染みの語源です。



☆彡

序文の詩編は、

古エッダ(北欧神話)の

「巫女の預言」からの引用です。

風は色んなものを象徴します。

リーヴとフリーダ、この島、

マキナの心に吹いた変化、ナド……。




 ──世界の始まりに吹いた、最初の “それ” ──


 島には今日も、風が吹く。

雨が少ないこの島にはしかし、小川と湧水に恵まれた豊かな風土がある。


 そんな穏やかさに惹かれてか。

冥府を思わせる真っ黒い服の異質な来訪者が、どこからともなく迷い込んだ。

そんな異質に惑う、村人たち。


「おい!

 なんだあの、異様な出で立ちのねーちゃんは!」

「見覚えのあるヤツはいねーのか?」

「まさか、魔女じゃねーよな??」

「今日の船にも、いや、昨日の船にだって、あんなヤツいなかった」

「密航者かぁ?」

「お前、何か聞いてこいよ……」

「嫌だよぉ、行くならみんなで行こうぜぇ」


 見慣れない異質に、いつだか、人だかりが出来ていた。


 何故だかやっぱりこうなった……。

とでも云わんばかりに、ため息をつく異質。


 遂に、声をかけられる。


「──失礼。

 渡航記録を拝見できますかな?」


「渡航記録……。

 えっと……」


「どうやって来たんだ?まさか、密航者ってんじゃあるまいね?」

「天使様か、はたまた、魔女が紛れたか……」

「あまり田舎を騒がせんでくれ、何しに来たんだ」


「私は、何をしに来たのか……」


 異質は黙り込んだ。

が、村人の興味と忍耐は、すでに飽和していた。


「あんた、黙ってても分かんないだろ!」


  "ダンッ!!"

と机を叩かれて、ビクッとする異質。

もう見逃せない村人たち。


「何しに来たんだ?」


 再び問われ、ついにボソッと、(つぶや)いた。


「──────助けて、欲しくて……」


 絞り出すように漏れ出た、かすかな声。

村人にとっては、意外な返事。


「『助けて』、ってか……」

「そう言われちゃあなぁ~」

「言いたかないが、こんな美人だ。さぞかし苦労もしたんだろ……」

「でも、高そうな服を着てるぞ?」

「悪さしに来た奴だって、正直には言うまい?」

「だが悪さするぞって奴の表情かね、アレが?

 あんなに無気力でよぉ」

「確かにそうだが」

「うーん……」


 そんな人だかりを、元気一発すがすがしい、女傑(じょけつ)の声が吹き飛ばす。

細身の長身のそばで揺れる長髪が眩しい、筋の通った目鼻立ちの、うら若い佳人だ。


「さぁさぁ!どいたどいた、野郎ども!

 色目変えて群がってんじゃないよ!

 気色の悪い……」

「リーヴ!」

「リーヴじゃねぇか、さすが田舎は噂がはえーぜ」


「はん!

 揃いも揃ってボサっとしてんじゃないよ。

 どぉれ……。

 ──って、どえらい別嬪(べっぴん)じゃないのさ!

 おい、こんな別嬪!

 放っておいたら(さら)われちゃうよ!」

「まぁ確かに別嬪だがよぉ」

「ご覧の通り、得体が知れねぇ。

 『助けて』以外、何が何やら」


「そうかい。

 じゃ、アタシの経営する宿屋で引き取ろう!

 そうだ、それがいい、そうしよう!

 別嬪さん、こんにちは!

 アタシ、リーヴってんだ、よろしくね」


「よ、よろしく……」


「まさか、リーヴのヤツ、アブない仕事を……?」

「リーヴお前、そんなに経営が危ういのか?」

「いやでも、このお姉さんがいるなら俺、仕事頑張って通っちゃうかも~!」


「はぁ~、ったく。

 アンタ達の期待も不満も、粗末なイチモツもへし折るようで悪いけどね!

 アタシがこの子にそんなこと、絶対させねーよ!

 おいスケベ共!

 ──さっきこの子がなんて言ったか、聞こえなかったのかい?」


「お、おぅ」

「まぁ、な……」

「ま、リーヴの姐御が引き取る、ってんなら」

「リーヴだったら、任せておきゃあ間違いないんじゃねぇの?」

「おう、歓迎するぜ嬢ちゃん!」

「この島で、沢山働いてくんな!

 なんてな、ダッハッハ!」


「アタシの宿屋で、ね──」

「あぁ~っ!

 抜け目ねぇ!」

「「「ハッハッハッハッハッハ!」」」」


 いつの間にやら、空気は一変していた。


 異質は驚嘆した。

素直に「助けて」と言ってみて、まさかこんなことになるとは。

思いもよらなかった。


 しかし、この先にだって、何があるかは分からない。

油断は出来ない。

連れ出された挙句、放り出されるやら売られるやら、そんなことは分からないのだ。



 ──宿屋まで、手を繋いで島の景色の紹介がてら、歩いていく二人。

緑も風も、水のせせらぎも豊かな島。

それは異質にとってはじめての、少しこそばゆい時間。



 ──かくして、リーヴの経営する宿屋に連れられた異質。

そこにまた一人。

小さな少女が留守を預かっていた。


「改めまして、アタシはリーヴ。

 こっちは妹分のフリーダだ」

「こんにちは、はじめまして!

 私、フリーダ!

 あなた綺麗ね!

 どこかのお姫様みたい!」


 くせ毛のショートカットが妙に愛くるしい、小柄な少女が、目を輝かせて異質を覗きこんだ。


「こんにちは、フリーダ……」

「よろしくね!」

「3人揃ったね。

 アタシには、両親はもういない。

 でもこの建物が両親の形見でね。

 ちょこちょこ手伝いにくるフリーダと、たまに孤児の面倒見ながら、力を合わせて経営してんのさ。

 ま、島の人らにも大分、支えられながらだけどね」


「そう、なんだ……」

「で、アンタ、名前は?」


「わらわの名前……。

 名前など、いや、ふむ……。

 マナシ……いや、わらわの名は "マシナ" じゃ」


「……」

「……」

「……?」


「ぎゃっはっはっは! "わらわ" だってぇ!」

「え?え?え?

 え、でも、この美しさだよぉお?

 本当にどっかの偉い人なんじゃ……」

「にしても今時、お姫様だって "わらわ" なんて言わないよ!

 言葉だって、アタシ達と同じ言葉を話しているのに!」

「た、たしかに!

 そうだよそうだよ、そうだよねぇえ?!」

「アンタ、マシナって言ったかい?

 聞かない名前だね。

 どういう意味なんだい?」


「んっ、えふん!

 コホン…………」


 マシナと自称する異質は咳払いして、少し黙り込んだ。


「マシナちゃん、大丈夫ぅう?」

「どうしたぁ、笑われて怒っちまったか?」


「いいえ、怒ってなんか。

 ────名前に、特に意味はないわ。

 いまの私がただ、ありのままそう名乗りたいの、それだけ……」


 そこに何も宿っていないかのような表情をした別嬪、マシナ。

それが、逆に彼女の底知れなさを醸し出しているのだが。


「なんだか、マシナちゃんから世間知らずのお姫様のにおいが、プンプンするよぉお……」

「アタシゃ、厄介ごとのにおいしかしないよ」

「それにマシナちゃん、何でそんな喪服みたいな…」

「誰かの喪にでも服してるのかぁ?」

「言いたくなかったら、言わなくても良いんだよぉお?」


「あの、それは……。

 それは……。

 私の、一番よく知る大事な人が、死んだ……。

 というか……。

 もう、生きていない、というか……」

「そんなぁあ。

 ────大丈夫?

 辛かったね」


「辛く、なんて……うん」

「マシナちゃん!

 マシナちゃん、マシナちゃん!

 ”もう、涙も出ないくらい悲しい” って顔しちゃってさ……。

 本当に大丈夫?

 頑張ったんだねぇえ?」


 ベッドに腰掛けるマシナと、同じくらいの身長のフリーダ。

そんなフリーダの方が、マシナの頭を撫でながら、ついにというか、何故だかというか、泣き出してしまった。


「ふうぅうううぅ……」

「あぁ、あぁ、もう!

 アンタが泣いちゃってどうすんのさ、フリーダ。

 しょうがないねぇ……」

「もぅ~~、ごめんってばぁ」


 フリーダの涙を拭いてあげるリーヴ。


「マシナ。

 ──元気出せ!なんて言わないよ。

 この美しい島で、思う存分ゆっくりすると良いさ。

 アタシ達と過ごしてるうちに、たちまち回復しちゃうんだから!」

「そうだそうだ!

 えいえい、おーー!」


「リーヴ、フリーダ……」

「今日からここが、アンタの家だよ」


 マシナはその言葉を聞いて、固まってしまった。


「マシナちゃん……?」

「アンタ、大丈夫かい?どうしたのさ」


「い、いえ、理解不能の感情が流れ込んできて、その……」

「マシナちゃん!

 もう!

 もうもうもう!!

 私が守ってあげるからね!

 よぉぉおおおーーし、3人合わせてゴットランド・クローバー!

 フルスロットルだぁぁあああーーーーーっ!」

「なんだい、アンタ、その……クローバー?」

「私達のことだよぉお!

 小さく可憐で、儚くて……。

 しかぁーし!

 たとえ踏みにじられたって!

 健気に輝き!

 咲き誇るのだぁあーーーっ!」


 ポカンとするマシナ。

リーヴはフリーダの頭を無造作にワシャワシャと撫でながら、嬉しそうな顔だ。


「はははは!

 アンタ、良いこと言うじゃないかっ!」

「ふわあああ、髪が、ボサボサだよぉお!

 これはもう2人に、クローバーで花冠作ってもらわないと!

 私の髪が今日1日、ボサボサだよぉお!?」


 その時、まるで張り付いた仮面が溶けるように、マシナの口角が、ほんのわずかに持ち上がったように見えた。


「あっ——」と、フリーダの声が漏れそうになる。

咄嗟にリーヴが、フリーダの唇を人差し指で押さえて、ウィンクをする。

「しぃー、だよ。――な?」


 フリーダも、ハッとして、口を両手で塞ぐ。

うん、うん、と微笑みながら、小さく頷く。

ふたりは顔を見合わせて、ゆっくりと立ち上がる。


「さてと、ボサボサ頭のフリーダの為に、一肌脱ぎますか!」

「なっ?!

 ボサボサはリーヴのせいでしょぉお?!」

「マシナ、育ちが良くて、花冠なんて、知らないんだろ?」


「し、知ってるさ!

 茎やツルごと摘んだ花を編み込んで造り出して頭の上に載せる、装飾品のことだ!持続性と耐久性に欠けるが植物の美しさをそのまま活用できるうえ、(つい)えを掛けずに作ることが可能で……」

「で、作ったことあんの?」

「あんのー?」


 ニシシ、と笑う、リーヴとフリーダ。


「──そ、それは。

 まぁ、ないけども……」


 そして、唇を尖らせるマシナに向けて、そっと手を差し伸べる2人。

フリーダの小さな手と、リーヴの広く力強い手。


 ただ、花冠を作りに。

扉の外へ出るためだけに。手を繋ぐ。

繋いでみると、二つとも、とても温かくて……。


 ふたりに導かれた、扉の外の世界は――春の陽気と、花の香りに満ちていた。


 扉を通るや、 "ブワァアアアアアア" っと、息のリズムすら乱すように、こちらに向かってぶつかってくる、春風。

これまでの彼女の世界には、あろうはずもなかった優しい甘さの、花の香りに満ちた、春風。


 見たことも聞いたこともない世界。

味わったことのない、やわらかな世界。

差し伸べてくれた手に触れた途端、そんな世界が、弾けたのだった。


第4話 続く



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