第3話後編:旅立ちの俱生姫(魔女旅に出る)
「涙は宇宙のギャラクシー」第3話です。
作品ジャンルとしては、
SF&歴史ファンタジーです。
毎度、勝手に設定しているED曲は
SPITZで「魔女旅に出る」
~もう迷うことはない 僕はひとり祈りながら~
外伝 "旅立ちの倶生姫" も、
このED曲の補完に、是非お読みください。
(169文字なので是非)
時代設定は平安末期の日本。
主な登場人物は2名。
マキナ(=玉藻の前)と、
道慈。
マキナはやっと、
やり場のない虚しさを道慈にぶつけ、
少しゆるされて、やり直しを決心します。
☆
題名の "倶生姫" という言葉は造語です。
倶生起(仏教用語)+姫 = 倶生姫
~倶生起とは煩悩の起こり方を示す一つ。
煩悩が肉体の発生と同時に起こると示す~
この物語を通してのテーマである、
「生と苦と欲望と、その起源」。
大事な分岐点の題名に、
この言葉を考えました。
☆
私は物語中で、道慈が一番好きです。
瘴気漂う悪路の原に、『リーン、リーン』と、不釣り合いなほど軽やかな、獣除けの鈴の音を伴って、暢気な僧侶がやって来た。
髪は総髪、法衣の袖はまくって、普段なにを喰っているのやら、背高のやや、筋肉質。
「戒律ぅ~?何、それ?」とでも、言わんばかりの風体だ。
「おっ。
こいつがかの有名な、人を殺すとかいう石かぁ。
っていうか、こんな危なげなところ。
人が死んで当然だろ~。
いやそれより、くっせぇなぁ~。
麗人が逃げ込んだなんて話は、どうしたんだ?
ちくしょうめ。
ほぉ~れ。
こんなこと、しちゃうもんねぇ~」
注連縄に巻かれた、妙に目立つ形の岩を、ペチペチと叩く僧侶。
『──わらわを揶揄う愚か者め、去ぬがよい!』
「ひえ~、驚いたあ~。
石が喋ったあ~。
あ、生臭坊主の "童子" でぇ~っす、よろしくぅ~」
『────去れ!』
「つれないこと言うなよぉ~。
麗人の噂を聞きつけて、わざわざ来たんだぜぇ?
俺ぁ……」
すると岩から "ボン" っと、音と煙が発ったのち、一瞬で麗人が顕れた。
くるりんっと、自分の姿を見せびらかせるように旋回するや、得意気に歩き始める。
「ふふん」
「か、母ちゃん……?!
てめぇ――……、なんてもの見せやがる!
喝ああああああああっ!」
「え?!
え?!
ごめんなさい、ごめんなさい!
急に怒らないで!
怖い顔しないでぇ~~~~~」
頭を押さえてうずくまる麗人。
──気付けば、ぎゅっと小さく形を縮め、狐耳の生えた、幼児の姿にまでなっていた。
「ごめんなさい……」
「いや、いいんだ。
こっちこそ、すまん」
「怖かったぁ」
こっちも見ずにうずくまるままの幼児。
「ごめんな。
お前は、相手に応じて姿を変えられるのか?」
「すごいじゃろ。
男どもなぞ、わらわの手にかかればメロメロのイチコロじゃ」
「ふん。
なんのことはない。
貴様自身ですらない器が、相手の弱みに付け入り、ただ反射しているに過ぎん」
「そんなこと、わかってるもん……。
わらわは何も発してなどおらぬのだ。
……鏡と相愛する者なぞ、おらんわいな。
我ながら、こんな姑息な擬態が、何を生み出すというのやら……」
「悲しいか。
だが化生の分際では、涙も流せまい」
流石に幼児も立ち上がる。
「うるさい!
黙れ!黙れ!黙れ!
あああああああああーーーーーーーー!!!」
ダン、ダンダンダン、と、地団駄を踏む幼児。
「そう猛るなって、ごめん、ごめん。
事故で早世した母ちゃんを見せてきたお前に、ムカついちまってよ。
まだ苛立っちまってたんだな、非道いことを言っちまったぁ。
相変わらず、坊主失格だ。
"童子" たぁ、我ながらよく言ったようで嫌になるぜ……」
俯く幼児。
「……。
お前はホントに、坊主、失格じゃ」
「ごめんな?」
「……。
──いいよ。
お前がさっき許したから。
わらわも一回だけ、お前を、許す」
「お、話せば分かるってもんだな。
話さなきゃ、なぁーんにも、分からん」
「何なのだ、貴様。
調子の良いことを……」
「俺たちって何なんだろうねぇ?」
「イライラさせるヤツじゃ!
只でさえわらわはもう、すべてが憎いんじゃ!
自分も、人間どもも、この世界も!
全部全部!
ずっとずっと憎くて憎くて仕方がない!」
童子を名乗る僧侶が顔の横で人差し指を上に立てて、優しい笑顔で語り出す。
「憎しみは、憎しみによって止まず。
慈しみによって止む。
遠い遠い西の国から伝わる、ありがた~いお言葉だ。
それを実践出来たらどんなにか立派だろう……」
幼児は固まってしまった。
「固まっちまった。
ま~だ怒ってんのか?
勘弁してくれよ。
麗人が怒ると怖いんだ。」
「────ふふ、麗人と言ったな?!
ふふ、ふ。
わらわと交わるか、クソ坊主?」
幼児が指をわきゃわきゃとしながら舌なめずりして、成人男性を襲おうとしている。
「確かにおぬしと交われば、狂うほどの快楽を得られよう。
だが、過ぎた快楽は身を亡ぼす……」
「利いた風なことを言うなっ!!
貴様もそうやって、わらわを拒むのか?!」
「へっ。
ど~やら、相当な色男に振られたとお見受けする」
「……!!」
「それに俺、もう全部出家済だから。
いくら麗人に誘惑されても、意味ないから」
「そのだらしない見てくれで、かぁ~?」
「おうとも」
「本当に?」
「あぁそうさ?
上から下まで、ぜぇーんぶ出家済!」
「じゃぁ~そこも、出家済?」
「まぁ、そうだな。
出家済とも、ぬくもりに包まれて在家中とも言えるが……」
「──どういう意味じゃ?」
ジトっとした目で、一応幼児が訪ねてみる。
「知らない方が、いいこともある」
「……。
知られたくないこと、じゃなくてか?」
「……」
「────童子、のぅ……」
「お嬢ちゃん。
俺のこと、傷付けたいの?
泣かせたいの?」
「ふっ。
ふふ、ふふん。
名前を呼んだだけじゃろがっ」
「仕方ない。
まだ俺が救われる前。
13の頃に、隣村の娘と、祭りでなぁ……」
「なっ!!
黙れ黙れ黙れ!
そんなことまで聞いとらんわ!
バカめ、バカめ!
もう!
貴様だけは許さん!!
ふしゃあああ~~~~!」
「だからぁ。
麗人が怒るとおっかねんだってば!」
「し、痴れ者が!まったく……」
「可愛いところ、あるじゃねぇか。
照れてるところは、天女様みたいだぜ?」
顔を真っ赤にする幼児。
「もういい!痴れ者!いけず!大うつけ!ばか!あほぉ!ばかぁ~!」
指を差して、知っている限りの罵倒を浴びせてくる幼児を見て、ニッコリ笑う童子。
「少しゃあ、スッとしたか?」
「ううううううぐぅ~~~~。
調子の狂う奴めぇ……!
言いたいように言いおってぇ!」
「にひひ。
言いたいように言っちまった方が、いい時もあるのさ」
「はぁ~?
かけたい言葉だけ、かけてやる方が良いに決まっておる!」
「そう思うよなぁ。
それに、言いたいように言うのは、勇気がいる。
だが案外、応えてくれるヤツってのは、いるもんなんだぜぇ?」
「そんな訳あるか!」
「例えば嬢ちゃん。
人のワガママ聞いてやったこと、まだ一回も、ねえのかな?
そんな風には、見えないぜ?」
「あっ……」と、おもった幼児の背中が、 "ポン" と優しく叩かれる。
なんだか、ジンワリとあったかい。
「言いたいように言う。
それは、とっっっても勇気がいる……。
でもその勇気は、往々にして無駄にはならねえ。
俺たちだって、こうして仲良くなれただろ?
最初に会った時より、さ」
何だか落ち着くような、あたたかい声で話しかけられて。
「ほぉ……」と、純粋な顔で驚く幼児。
「うん」と、微笑みかけられると、照れたのを取り繕うようにして、喋り出してしまう。
コイツの前では。
「──わ、わらわは、もう疲れたのじゃ。
どれだけ努めても、誰からも、必要とされんのじゃ……。
わらわと人との間には、何も生まれん……。
それが悔しいほどに分かった。
わらわと共に登り詰めた先の放散に、宇宙の目指す果てなど、ないのじゃ」
「……。
疲れるよなぁ、生きるって。
本当に。
苦しみの連続だ。
でもいいじゃん、それでさ」
「良いわけあるかバカ。
辛いんじゃぞ、誰からも必要とされないというのは」
「居場所なんてもんは、ここではないどこかで……。
案外、簡単に見つかっちまうモンかも分からねーぞ?
どっか別の場所で、別の自分に出会えるなんて、珍しい話でもあるまい」
「どっか別の場所で、別の自分、かぁ……」
しばらくボーッと、空を見上げる幼児。
「それは果てしない冒険だな!
もし、 "逃げ" だなんて言うやつがいたら、俺がぶっちめてやるよ!」
「童子……」
「はははっ!」
そしてイジイジと指遊びをした後で、童子の足をガシガシ蹴りながら、幼児が口を尖らせる。
「……ありがとうのぉ」
「……。
俺の本当の名前。
道慈、ってんだ。
読み方は一緒さ」
「道慈というのか、おぬし。
いい名前じゃの。
――わらわは……。
わらわの名は……」
言ったまま、モジモジする幼児。
「結構、結構。
名乗らずとも良い!
絶世の麗人の貴重な無様面ぁ、二度と!
永遠に!
忘れいでか、ってなもんよ!
はははははっ」
「馬鹿め!
馬鹿者め!
勝手なことばかり宣いよって!
もうよい、わらわは、もう行くでな!」
「あーぁ。
俺、置いてかれんのかぁ。
失恋しちまったなぁ」
それを聞いてまたまたカアァアっと、赤面する幼児。
「本当にもう、貴様という男は!
もう本当にわかってないヤツじゃ!
本当に!もう!
もう、貴様は!
許さんぞ?!
一生そこで、ほたえておれ!」
クルリと戻ってきてゲシゲシと、道慈の足を蹴り続ける幼児。
「ふっ。
俺のこと、許さないでくれよ。
さっきは非道いこと言って、本当にごめんな」
「本当に、もう、許さんのじゃ……」
お次は道慈の尻を、ポカポカ殴りつける。
「はははっ。
憎しみは、憎しみによって止まず。
慈しみによって止む。
むずかしい言葉だぜ。
迷子の嬢ちゃん。
あんな非道いこと言っちまった俺のことなんか、許さなくていいからさ。
いつかどっか別の場所で、別のヤツを許してやってくんな。
──そいつにも、何か事情が、あるんだろ」
「ふん、わらわの勝手じゃ!」
「そ、れ、に!
麗人が怒った顔ばっかしてちゃ、勿体ねーぜ?」
「わらわが美しすぎるからって!
恰好つけすぎじゃ!
バーーーーーーーーッカ!」
幼児は最後に道慈の背中を "ポン" と叩いて、プリプリしながら、空へと駆け出した。
「あばよー!
迷子の嬢ちゃん!達者でなぁ!」
アッカンベーと、イタズラな笑顔で、彼方に消えてゆく幼児。
道慈が、幼児の飛び立った空を見上げ、読経をしながら行く末を案じていると……。
「わわ!
ここに祀られてた岩が、綺麗さっぱり無くなっちまっただかぁ?!」
「石ころなんざ、ここには無数に散らばってらぁな。
一つや二つ減ったって、だぁーでもいいじゃねぇの。
あんたらあれを、有難がってた訳でもあるめぇし」
「そりゃそうだが……」
「案外別の場所に転がしてみれば、誰かの役に立つかも、しんねー、ぞ?」
「んな訳ねぇべよ……。
あぁ、このままじゃ、国全体に不吉の予感しかしねぇって、みんなみんな、混乱しちまうどぉ」
「ははっ、不吉の象徴か。
そのうち誰かが、かち割りに来てくれねーかな~?」
そう言って、落ちてた注連縄を、適当に転がってる他の岩に付け替える道慈。
「んな適当な……」
「はっはっは。
読経は、しといてやるからよ。
ん~~、でもこりゃ、デカすぎかぁ?
こんな岩かち割れるヤツ、向こう100年は現れそうにも……。
ま、いっか!」
「あぁ~っ、あんた、名前は?」
「ただの童子だよ~」
「本当に適当だな、あんた……。
あぁ~、もう!
おーら、知ーらねえ」
「はっはっは!
諸行無常、諸行無常……。
……。
────だよなぁ、お釈迦様よ」
瘴気に満ちた荒地に、それでもなお、爽快な風の吹き抜ける気配がした。
第3話
第一部──────完




