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epsode3~興味が無かったはずの彼女の姿~

「おはようございます!旦那様!」

「………」


 毎日毎日飽きもせずに挨拶など、煩わしい。

 どうせ取り入るための計画の一つに過ぎないだろうと、ヘラヘラと笑っている彼女を横目に通り過ぎ、いつも通りの場所で朝食を取る。


 俺が座って食べ始めると、彼女は向かいに座り、使用人に予め用意させている食事を同じように食べ始めた。

 そもそも、食事の時間を合わせる必要は全くない。


 無論、俺は一言も彼女に食事の時間を伝えていない。勝手に来たのだ。

 おそらく懐柔させた使用人に教えてもらっているのだろう。

 何せ、使用人からの彼女の評判はとても良い。


 曰く、挨拶は必ずしてくれるらしい。『お仕事お疲れ様』『いつもありがとう』『何か困ったことがあったらいつでも言ってね』など、使用人への気遣いも忘れない。夫人の鏡だと皆が絶賛する。


 だが、そんな状況が俺は気に入らない。

 ここは俺の邸宅であり、俺が雇った使用人だ。それが今はどうだ。彼女の表面上に騙され、皆彼女を褒め称える。

 一方の俺は、もう少し彼女に歩み寄れと言われる始末。


 不意に、自分の過去と重なる。思い出すことが多くなってしまった。

 どれも全ては彼女のせいだと、少し恨みが募る。


 __なんだ、これは…?まるで俺の家ではないみたいだ。この違和感は…、俺の1番嫌いなものだ……


 俺の機嫌など知らんというように、彼女はいつも通り、昨日あったことや嬉しかったこと、楽しかったこと、今日することを、一方的に話す。

 向こうは俺と会話を試みたいようだが、俺は話す気も、相槌でさえも打つ気はない。

 だからこそ彼女が一方的に話すのだろうが。


 しかし今日、俺は心底機嫌が悪い…。機嫌が悪い俺の隣で、ベラベラと自分のことを話されるのは、誰だって嫌だろう…?


 気が付けば、思っていることが口から出ていた。これは俺の昔ながらな悪い癖だ。

 直そうと思っていても強く思ったことは勝手に口から出てしまう性分らしい。


 俺は向かいでへらへらと笑みを浮かべながら話す彼女に言った。


「煩い」

「へっ…?」

「煩いと言っているんだ。こうしてはっきり言われないと分からないのか?」


 __どうだ?これで彼女が慕う理由の【人となり】も【優しさ】もないと分かっただろう。早く俺のことは嫌いになって、最低限の関わりだけで済ませるような関係で行けば、俺も一々勘繰る必要はない


 そう、思っていたのに。


 あまりにも、俺の思っている彼女の反応とはかけ離れていた。


「あっ!失礼致しました…!旦那様は静かなお食事が好きなのですね…!そうだとは知らずとんだご無礼を…。申し訳ありません…!」

「…いや、そういうわけじゃ…」

「いえいえ、お気遣いは無用ですよ。私はこうして楽しいお食事が好きですが、静かなお食事がお好きと仰るのであれば!、…慣れてますから!」


 __慣れている…?家族との食事は普通、今彼女がしているように日常のことを話しながら摂るものではないのか?俺は家族仲が最悪だったからそういうのはなかったが、彼女は箱入り娘だろう…


 子爵と話した時と同じように、どこかで引っ掛かりを覚えた。だが、家の事情に俺が気にすることでもないと、すぐにそんな疑問は頭の中から存在を消した。

 同時に、言ってしまったことへの罪悪感が途端に波のように良心を襲った。


 元々賑やかなのは嫌いではない。むしろ領地に住む人々の活気ある声を思い出せる。


「………やっぱり良い…。いつも通り話せ…」

「っ!!よろしいのですか!?ありがとうございます…!では、昨日の…」


 どうして許してしまったのかは、自分でも分からなかった。ただ、この会話を途絶えさせてしまえば、彼女との距離がひどく遠のくような、そんな気がした。


 いや、違う。それでいい。それがいい。…はずなのに。拒否すれば後悔する。と、俺の勘が告げていた。

 

 俺はまたいつものように、受け応えをするわけでもなく、相槌を打つわけでもなく、ただ聞いていた。

 彼女の声は、聞き覚えのある綺麗な声だと、この時初めて感じた。


 しかし、数ヶ月で話すのも一緒に食事を取るのもやめるものだと思っていたのに、まさかこの先何年も一緒に朝食を取るとは思いもよらなかった。


◇◇◇



「旦那様!本日も外出の許可を頂きたいのですが…」

「…好きにしろ。君がどこに行こうが私には関係ない」

「ありがとうございます!それでは行ってきますね!陽が沈む前には戻りますから!」


 最近、意気揚々と領地に出向くようになった。

 ついに俺に愛想を尽かして他の男でも見つけたか。互いに割り切った関係になるのは俺としてもありがたいと思う…。

 だが、これで伯爵家の体裁が潰れては結婚当初に言った決まりを破っていることになる。


 いくらお飾りの妻とはいえ、自分が伯爵家の女主人であることくらい自覚してもらわねば困る。


「影」

「ここに」

「伯爵夫人が領地で何をしているのか調査してくれ。他の男と会っていた場合は即刻連れ戻すように」

「承知しました」


 護衛や騎士、側近とはまた別の【影】という存在は、主に伯爵家に有益な情報を得るための調査を中心とし様々な方面において活躍する少数精鋭の組織である。


 断じて、出掛ける先が気になっているとか、危ない目に合わないよう護衛をさせようとか、彼女に思い人が出来たのかを気にしているわけではない。

 ただ伯爵家の体裁を保ってもらうため。ただそれだけだ。


 その日の1日が終わる頃、影が報告に来た。


「夫人は他の男性と会っているわけではありませんでした」

「…そうか。ならば他に何がある?領地に出掛けても碌に買い物もせず浪費もせず、きちんも日が暮れる前に帰ってくる理由はなんだ」

「領地の孤児院と教会へお顔を見せ、子供たちの遊びに付き合っていました。それと、本日はバザーも開いていたようです。大変人気なご様子で、人で溢れかえっていました」


 自分の耳を疑った。


 普通の令嬢ならば、知名度を上げるため、自分が中心の社交をつくるため、情報を誰よりも早く手に入れ狡猾に立ち回るためなど、理由は様々だが夜会やパーティー、茶会、他の男と関係を持つこともこの世界では珍しくはない。


 慕うのを許して欲しいと言っていた彼女の言葉を信じられるはずもなく、眉間に皺を寄せて疑った。

 どうせ彼女も他の令嬢たちと同じように、俺に気に入られようと媚び諂うのだろうと、ずっと思っていた。


 ところが、実際にあるのは慈愛に満ちた行動ばかり。それが偽善なのかどうかは分からない。

 だが、他の令嬢は偽善であっても平民や孤児の生活に、目で見て、耳で聞き、実際に足を運ぶことはなかった。

 こんな貴族社会において女性からするとどうでも良いような行動をするのは、彼女だけだった。


◇◇◇













最後まで閲覧して頂きありがとうございましたm(_ _)m

次話も見てくださると嬉しいです*ˊᵕˋ*

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