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epsode12~愛おしい人~

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「リー、貴女の声が聞きたい。宝石のような瞳を見たい。貴女の陽光のように差し込んでくる明るく優しい笑顔が見たい…」


 リーがまだ俺に沢山話をしてくれていた時、俺は全く話さず相槌でさえも打たなかったのに、今では俺の方が彼女に話すことの方が多くなった。


 離れたら離れた分だけ、幼少の頃のリーも今のエヴァリーナもどちらも愛おしくてたまらなかったのだと言うことが身に染みて分かった。


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「リー、誕生日おめでとう。今年はプレゼントを用意した。リーのように料理にも挑戦しようとしたが上手くいかなかった。俺は手先が器用ではないらしい。リーは毎年俺のために年に一度作ってくれていたんだよな。美味しかった。どうして誕生日の日だけいつもより料理が美味しく感じるのか分かったよ。…でも俺は、貴女のために何を用意出来るか分からない。何をしたら喜んでくれるのか、何を渡したら笑顔を見せてくれるのか、分からない……だって貴女は、何を渡しても喜ぶ顔しか浮かばないんだ…」


 毎年くる彼女の誕生日程に、自分の無欲と無知を悔やむ日はなかった。何をすれば真に喜び笑い、彼女の負の感情でさえも見せてくれるのか、見当もつかないのだから。


 そして、あの日のことをもう一度謝りたい。朝から会話もしない俺なんかのために朝食から飾り付けまで侍従と一緒にやってくれていた。それを俺は1番最悪な形で台無しにしたのだから。

 バリンと音を立てて割れたものはスノードームで、濡れた部分が濃くなっていたもう一つのプレゼントは手袋だった。


 どうしたって償えない彼女につけた一生の傷を全て俺が引き受けられたら良いのにと、常々思うようになっていた。


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「リー、ようやく分かったよ。貴女の孤独を。返事がないと言うのはこんなにも虚しく、胸に穴が空いたような空虚な気持ちになるのだな。こんな重たい感情を抱えて、今まで生きていたのだな…。、目を覚ますのも嫌になるはずだ……」


 今は幸いにも彼女が苦しい表情を浮かべながら眠ることは無くなった。怪我が治った証拠で俺も少しだけ安心出来る。

 だが、意識は戻らなかった。確かにそこにいるはずなのに、どれだけ話しても彼女は身体をピクリとも動かさなかった。


 全て、俺の自業自得だった。


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「リー、誕生日おめでとう。今年で俺が貴女をちゃんと祝えるのは2度目だな。まだまだ少ないが、それでも祝えたことを嬉しく思う。…どれだけ時間が経とうとも、貴女の弟から話を聞こうとも、やはり貴女は何を渡しても喜んでるところを想像してしまう。宝石から価値の少ないものまで、何を渡しても…だがそれは多分、貴女が人生の中で好きなことを見つける時間がなかったからだと思う。だから、貴女が目を覚ました時、一緒に【好き】を見つける手伝いをさせてくれ……、ずっと待っているから…」


 こんなことしか言えなかった。

 

 両親から無視をされ続けた彼女には、好きなことを見つける機会があまりにも少なすぎた。大体は幼少の頃に、両親とこんなことをしたからこれが好き、一緒にこういうところへ来たからここが好き、など、大体は誰かとの【嬉しい】や【楽しい】の日々を繰り返して【好き】は形成されていく。


 それも、その【誰か】がいなかったから、彼女は【嬉しいの見つけ方】も【楽しいの知り方】も分からなかった。

 俺はその【誰か】になりたい。


 この思いも、俺の勝手な考えでしかない。それでも何もしないよりは何かを彼女のためにしたいと思った。


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎




「…もう、2年だ。リーは今、そっちでゆっくり休めているか…?そっちの世界で何か辛いことはないか?……ごめん、リーからすれば、現実の方が辛い場所だな…。……怒ってるよな。俺が酷い態度を取って、心無い扱いをして、勘違いして傷付ける言葉を放って、怒らないはずが…ない、よな…」


 彼女の眠っている寝台に腰を下ろし、ほのかに温かい手にそっと触れた。もちろん彼女が握り返してくれることはない。それでも良かった。

 温かいことを確認出来たら、それで良かった。


__リー、…我儘な俺を殴ってくれ…、吐露するつもりはなかった…今から溢す言葉を聞き終えたら、俺を貴女の精一杯の力でたくさん殴ってくれ…


 俺は大きく一度深呼吸をして、心を込めて告げた。


「………………愛してるっ…、愛してるよ、エヴァリーナ。貴女が俺の人生という舞台に出てから、枯れていた色彩に色がつき、花が咲いた。だが傲慢にも、俺はその事実に気付かないふりをして、貴女をたくさん傷付けた。だから俺にこんなことを言う資格など本当は微塵も存在しないんだ。それでも、貴女がずっと伝えてくれていたから、俺も伝えたいと思った…。大好きなんだ…この世界で1番愛してる…愛おしい…たった1人の俺の女神…」


 本来であれば触れることすら許されないほどの過ちを犯した俺は、我儘にも彼女の手に触れて、祈るように自分の顔の前まで持ってくる。


 ただでさえ細かった綺麗な手はより細くなり、小さく弱い手を優しく撫でるように握る。

 握り返してくれることはない、いつもの、ただの俺の、彼女に生きてくれていてありがとうという思いを伝えるための日課だった…………。


 __………………___ギュッ_____………


「……えっ……………」


 どれだけ握っても返されることのないはずなのに…


 微かに、

 ほんの少し、

 されど確実に、

 温かなものがそこにあった。


 彼女の手のひらの微かな力が、

 宝石のような瞳が、

 聞きたかった声が、 

 誰よりも愛おしく恋しかった彼女が

 2年の時を経て花を咲かせてくれた。


「……おか、えりなさ、い…、だんな、さま…」

「……____っ!エヴァリーナ…ああ、…ああ、ただいま…エヴァリーナ。エヴァリーナも、おかえりっ……!」


 この2年間、何があっても出すまいと努力していた雫は、彼女の瞳を見ればたちまち音を立てて崩れた。 彼女の方がずっと辛く苦しい思いをしてきたのだから、自分が涙を流すことがあってはならないと堪えていたのに。彼女を前にすると、俺はどうも弱くなる。


 そんな見っともない姿を見せると、彼女は動かすのも辛いであろう身体を少し傾けて俺の握っている方の手と反対の手を、彼女は俺の頬に当てた。

 そしてゆっくりと、頬に伝う涙を拭ってくれる。どこまでも優しい彼女に、俺はまた涙を流す。


「エヴァ、リーナ…、これは、夢じゃないよな…?これが夢だったなら、俺はもう…」


 続きの言葉を遮るように、俺が握っている方の手に力が込められる。エヴァリーナの瞳を見ると、彼女はずっと待ち望んでいた温かな笑みで、ふるふると小さく首を振った。

 『夢じゃないよ』と、言ってくれたような気がした。


 魔力を使って身体の機能を維持していた彼女の瞳は、秘色に変わっていた。

 以前テオが教えてくれた。魔力が減少すると色素が薄くなるという現象。彼女の瞳の色は、小さい頃のあのままの綺麗な色だった。


「…ありがとう、リー。俺との小さい頃の約束をずっと守ってくれていて、本当にありがとう。生きていてくれて、もう一度ここへ帰ってきてくれてありがとう…」

「…___っ!」


 俺が知っているとは予想もしなかったのだろう。

 ようやく止まった涙は次は彼女へと移ってしまったようだ。瞳を潤ませ、嗚咽すらも出さず、ただ静かに、まるで降っているのを知られたくないような雨をしとしと降らせている。

 その涙をそっと掬って、反対の手でエヴァリーナの髪をそっと撫でた。


「リーはずっと俺との約束を守ってくれていたんだよな。隣で支えるって約束も、心からの笑顔になれるようにって約束も…、なのに俺は、ずっとエヴァリーナに酷い扱いや言葉を放った。許してくれなんて無粋なことは言わない…。代わりにこれからは一生をかけて貴女を幸せにすることを許してくれないか…」


 彼女はまた、小さく首を振った。


「おこって、ません…、それに、もうじゅうぶん、しあわせです」


 言葉を発するのも久しぶりで喉が使いにくいはずなのに、それでも必死に言葉を伝えてくれようとする姿を愛おしく思う。

 だがやはり、エヴァリーナは自身を大切にすることに関しては苦手だ。


 先の無理やり声を出そうとする行動も、動かすのもやっとのはずの身体を傾けるのも、怒るべき時に怒れないのも、自分の身体や心を労われていない何よりの証拠。


「いや、貴女は本来ならば怒るべきなのだ。幸せも、それは【前よりも】という話だろう?その貴女の幸せを生涯をかけて塗り替えられるように努力していきたい。…リー、…エヴァリーナ、俺は…生涯を簡単にかけられるくらいに貴女を愛してる。俺が貴女を愛するのは烏滸がましいと、自分でも承知している…でも、遠征の日、貴女に気持ちを伝えずに向かってしまったことを心から後悔した。伝えていたら何か変わっていたかもしれないのにと思うと、余計に…」


 今でも鮮明に思い出せる。

 帰ってきたらそこには真昼時にベッドで静かに浅い呼吸をたてている彼女がいたこと。

 もう二度と声が聞けない、瞳を見れない、感謝の気持ちを伝えられない、謝ることが出来ない、そう思ったこと。


 俺は絶望していたのに、彼女はずっと努力してくれた。俺の真っ暗な道にエヴァリーナは微かな灯火となって照らし続けていてくれた。彼女はまた雫を溢す。 一滴だって布団に染み込んでしまうのが勿体なくて、また掬い上げる。


 整った顔立ちの、小さく愛おしい口は小さく、はくはくと、確かに告げた。


「わた、しも、あいして、るっ……」

「_____っ!!!」

 

__どうしたって、初めから敵うわけがなかった。彼女の全てが愛おしいのだから…


「っはは、大好きだ。心の底から愛してる。もう俺の側を離れないで、ずっと隣にいてくれ」


 心底愛おしい彼女にそう言って、俺は彼女の頬に軽いキスをした。

 エヴァリーナは雪解けの春のような穏やかな笑みで俺を包み込んだ。俺を受け入れてくれた彼女のためにも、もう間違えない。大切な人を失わぬように。











最後まで閲覧して頂きありがとうございましたm(_ _)m

本編ここでラストになります。翌日らぶらぶ夫婦の2人を1話だけ投稿します。最後まで読んで頂きありがとうございました*ˊᵕˋ*

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