epsode11~何も知らない~
彼女が眠って1ヶ月が経った。
どうやら医者によると、傷がとても深く生きていることが奇跡だと言う。
唯一の幸いは、生きるのに必要なものは全て魔力によって補われていることだった。
テオは一度領地へ戻ると言って屋敷を出た。
子爵家の領地は伯爵家の隣なので行き来がしやすい。
どれだけ忙しくても1週間に一度は彼女の様子を見に来ていた。
今までは親の言いなりとなり動いていたが、それももう姉が倒れたことによってやめたらしい。
早く爵位を譲歩してもらい、テオの両親が今までしてきたことを問い詰めるつもりのようだ。
「…リー、おはよう。今日は天気が良いから太陽の光を浴びておこうな」
俺は知らなかった。
話しかけても返されないことがここまで寂しいことを。雪原の中にたった1人立たせられているみたいに。この孤独を、3年も彼女に味わわせてしまっていた。 これは俺の贖罪だ。知ろうとしなかった罰であり自分のことしか考えなかった俺の罪。
彼女の孤独をより知るために、返事が来ないと分かっていても、俺はまたベニトアイトのような瞳を見せてくれることを信じて、毎朝話しかけることをやめなかった。
彼女は毎朝必ず挨拶してくれていたのだから、当然のことだ。
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「今日はまたテオが来てくれていた。どれだけ疲労困憊でも、どうやら貴女の笑顔を見れば復活するそうだ。流石はリー、貴女の弟だな」
テオは欠かさず姉の容態を見にきた。見に来ては泣きそうな笑みになり、彼女が呼吸をしていることを確認すると、ほっと胸を撫で下ろしていた。
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「最近、食事が美味しくない。以前はリーがいたから美味しく感じていたんだな。知らなかった…、俺はまだまだ、知らないことがたくさんあるようだ…だから早く目を覚まして、貴女について教えてくれ…」
食事なんてもの、彼女が来る前は腹が満たされれば何でも良かったのに、彼女が来てからは何を食べても美味しく感じた。
反対に、彼女と食べない食事ほどつまらなく、食べることを面倒に思う日が来ることになろうとは思わなかった。
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「今日は孤児院のみんなが心配していた。夫人は大丈夫なのかと。俺はどう返したら良いのか分からなかったよ。リーは無事じゃない…けど、ただでさえ心配事の多い孤児院の者に、心配をさせるのは野暮だと思ったんだ。きっと貴女なら、そうするだろう…?」
当日の光景が目に焼きついた子供たちはきっとしばらく不安な思いをするだろう。だが、同時に彼女の勇姿もしっかり目に焼きついたはずだ。
皆彼女に会いたいだろうが、各々察している部分があるのかもしれない。
『家でゆっくり休んでいる』と伝えると、子供も何人か、大人は皆、目を俯かせて唇をキュッと結んだ。
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「…リー、俺は貴女から離れられない。今では仕事もこっちでいることが多いだろう…?何かあってはいけないからな。今回のことで身に沁みた。何かあってから行動するのでは遅いのだと。もう二度と間違えないから、もう一度だけ、俺にチャンスを与えてほしい………」
元々外に出て仕事をする日と、家で書類の整理と片付けなど諸々の作業をする日とで半々くらいだったのが、今ではなるべく彼女の側で出来るよう工夫するようになった。
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「リー、誕生日おめでとう。…貴女が屋敷に来た日が誕生日だったなんて、俺はまた知らなかった。祝われるべき日に酷いことばかりを言ってしまってすまなかった…貴女の弟が、誕生日を教えてくれた。なあ、エヴァリーナ。貴女は毎朝笑顔で今日はこんなことをするのだと話してくれていたのに、自分のことに関しては何一つ話していなかったんだな…貴女のことになると、俺は知らないことばかりだ」
ずっと今日はこんなことをする予定だ、昨日はこんなことをしたと、話をしてくれた。
けど、自分の誕生日でさえも、彼女は話していなかったのだ。その事実に、俺はやはり彼女のことを何も知らなかったのだと気付かされた。
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「どうして目を覚まさない…?どこか悪いのか…?ちゃんと心音はしてるか…?リーはまだ、ちゃんと生きているか…」
「落ち着いてください、閣下。夫人は現在、今まで重くのしかかっていた心の疲労を、睡眠をとることで回復なされているのです。お身体に問題はありません。お心が疲労しているので、身体がまだ休む時だとサインを出しているのです」
「……そう…なのか……、分かった…また明日、定期検診を頼む…」
「…はい。閣下もお身体を休ませてください。閣下の元気がなくては夫人も悲しみますから」
医者を早々に立ち去らせると、彼女のベッドに突っ伏した状態になる。
身体に異常があるわけではないという安心感と、実家やこの屋敷で俺がばら撒いたストレスの種によって彼女の心の元気は萎んでしまっていることに罪悪感やら後悔やらの雨が降り注いだ。
「…ごめんな……この数年間、本当にすまなかった…俺が貴女を蔑ろにしたからこうなってしまった…全て…俺のせいだ…」
この日は、ただひたすらに謝り続けることしか出来なかった。ちょうど、彼女が眠って一年が経とうとしている季節だった。
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