表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/7

花の絵の紅茶カップ

 治療院から去る時、彼女が紅茶のカップを一組くれた。

「このカップは、最近王都で流行っているものだそうです。これでお茶を飲んでほしいと私の妹が贈ってくれました。まだゆっくりお茶をいただく気にはなれなくて、一度も使っていません。人から貰ったものをお渡しするのは心苦しいのですが、お手紙のお礼に受け取ってください」


 何もいらないと、それを断ろうとすると、彼女は「これはあなたの花のようだから」と言った。


「このここに描かれている花は、カップをキャンパスとして描かれた絵のようにみえませんか? 今までの紅茶のカップやソーサーに描かれる草花は、模様であり、飾りです。でもこのカップは花が大きく描かれてまるで花が主役です。 私はこのカップを見た時、あなたの花をここに描いたら、王都じゅうの人に、あなたの素晴らしい花を見せられるのにと思ったのです。だから是非このカップをもらってください」


 このカップを受け取って、治療院を一歩出れば、もうあなたに会うことも手紙を送ることもできなくなる。

 それを思うと、これからの日々をどうやって生きていけばいいか分からなかった。


「戦地では何があろうとも、どんな時も諦めず、救護院にもどってきてください。コレイン様、あなたのご無事をいつも祈っています。」




                ◇◇◇   ◇◇◇


 あの別れの日から6カ月が過ぎた。

 カレルは小さな包みを抱えて、治療院を訪れた。


 コレインが訪ねてきたと聞いて、ドレ―ス治療師長は飛び出すように慌てて出てきたので、カレルは驚いてしまった。

「ヨンダルク辺境伯領にいるはずのあなたが、どうなさいました」


「実は、私は騎士団を辞めたのです。正確に言うと……その騎士の位も返上しました」

「では、ヨンダルクには行かれなかったのですか?」

 カレルは「はい」と頷いた。


 カレルは今、磁器の工房に見習として通っている。

 エルジンガにカップをもらい、「ここにあなたの花を描いたら王都中の人にみてもらえる」という言葉に励まされ、幼い日に見た夢をもう一度追いかけることにしたのだ。


 絵を描いて生きていく。


 まだ見習の身で工房の下働きしかさせてもらえないが、先日練習で作った自作のカップが出来上がった。

「私のカップができたので、エルジンガ治療師に送りたいのです。ドレ―ス治療師長なら彼女に届けて頂けるのではないかと思い、こちらに参りました」


 ドレ―ス治療師長は、すぐに承知してくれて「彼女はきっと喜びますよ」と微笑んだ。

「コレイン様、思い切ってお尋ねします。あなたはエルジンガを(めと)るおつもりはないかしら? あなただったら、彼女を受け止めてあげられるでしょう?」


 あまりに直接的な問いかけに、カレルは顔を赤くした。

「ですが私がいくら想っても、彼女にはそこまでの気持ちはないのでは。私の手紙もきっぱり断れましたし」

「彼女は平民ですから身分差を気にしているようでした。それから彼女に起きた不幸なできごとも、あなたの重荷になるだろうと……」

 カレルは彼女がそんなふうに思っていたとは知らず、ドレ―ス治療師長の言葉に動揺した。


「身分差なんて……私が騎士を返上したので、父からは勘当同然です。私はもう平民として生きていくつもりです」

「だったらなおさら、エルジンガに会いに行っておやりなさい。私はお二人に幸せになってほしいのです」

 カレルはいつも胸にあるエルジンガへの想いを、初めて言葉にした。

「彼女に求婚します。ドレ―ス治療師長、ありがとうございます。あなたの言葉で決心がつきました。しかし今の私では無理なのです」


 戸惑った顔で彼女が「どうしてですか」と問うた。

「私はまだ見習いの身、満足な給金ももらえません。一人前になるには早くても2年はかかるでしょう。ですから、私の準備ができた日には彼女を迎えにいきます。でもその前に彼女が相応しい相手を見つけたならば、私は潔く身を引きましょう」


 ドレ―ス治療師長はそれ以上なにも言わなかった。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ