表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/7

会いたくないではなく、会えない

 カレルは順調に回復し、1週間で戦地にもどった。

 救護院にいる間、アンネリーンと呼ばれた彼女の姿を遠目に見たが、話をすることはなかった。


 幸いなことにその後、負傷することはなく、救護院に行く必要はなかった。

 頭のどこかで、ちらりとまた救護院に行きたいと思うことがあった。彼女はどうしているだろうかと考えてしまう。自分の気持ちが知らないうちに彼女に向かう。それがどうしてなのか分からなかった。


 あなたが大泣きすると知っていれば、生きようと思う一助になると思いました。


 その言葉が、強く胸に残っていた。


 冬になり、大発生していた魔獣も数を減らした。討伐隊の効果も出て、辺境領の常軍で対応できる見通しがつき、特別討伐隊は王都に帰還することが決まった。


 ここを去る前に、どうしても彼女に会いたかった。礼を伝えていこうと思い救護院を訪ねた。

「エルジンガ治療師は王都に帰りました」

 救護院で対応してくれた、治療師の一人は、ひどく不快な表情を浮かべて、そっけなく答えた。

 おまえは何者かと値踏みをして、けして彼女のことを教えまいと身構えているようにさえ見えた。

 何を聞いても答えてもらえなかった。

 なにか理由があって彼女は急に王都に帰った様子がうかがえた。


                   ◇◇◇   ◇◇◇


 冬の間、特別討伐隊から帰った者は、まとまった休暇を与えられた。

 時間ができると、なおさら彼女のことが頭に浮かんでどうしても消えない。


 所属している騎士団で顔なじみの治療師に会いに行き、彼女のことを知っているかと訪ねた。

「休みの日に出てきて、おまえが女の名前を口にするとは」

 年配の男性治療師は驚いて、いったいどうした?と根掘り葉掘り聞いて来る。

「18歳で入団してから、23歳の今日まで、ただの一度も女の話がなかったおまえだ。その治療師のことは知らないが、いいだろう私が力になってやる。少し時間をくれ探し出してやろう」

 女という言い方に戸惑ったが、素直に頼むと頭を下げた。

 ついでに、どうしてこんなに気になるか分からないんだと、聞いてみた。

 彼は笑って、会えば分かるだろう、まあがんばれと背中を強く叩かれた。


                  

                 ◇◇◇   ◇◇◇


 教えてもらった住所を訪ね、名乗ってからエルジンガ治療師に会いたいと告げた。

 ここの治療院の、管理職に見える年配の女性は、要件を尋ねてくる。以前治療してもらったお礼がいいたいと告げると、非常に不審そうな目をむけられた。それはそうだろう、自分のしていることが常識外れであることが、ありありと感じられ、すぐに感謝だけ伝えて欲しいと言って、その場を辞そうとした。


 意外なことに少し待って欲しいという。入口の控えの椅子で待っていると、同じ女性が戻って来た。

「エルジンガは会えないと申しています」と彼女は告げた後、黙ってこちらをじっと見つめた。


「エルジンガとあなた様はどういったご関係?」

「一度治療を受けただけです。命の恩人です」


 女性は大きなため息をついた。

「エルジンガは誰にも会いません。誰が来ても会いたくないと言います。ですが……」

 女性は深刻そうな顔で、彼女のことを話し出す。誰が来ても合わないとは、いったいどうしてと話が見えない。

「あなたの名前を告げた時、エルジンガは……あの人が会いに来てくれたのですかと言ってから、会えない……と、会いたくないとは申さなかった」


 女性は控室に手を向けた。

「こちらへ、少しあなたのお話しをお聞きしたい」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ