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天才の私が小説を伝授します。  作者: 最条真
中級編(高校生時執筆)

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10/15

小説家が持つ最強の武器

 小説を構成する文章には、大まかに三つの種類があります。

 それはずばり、説明と描写と会話です。


【例】

 朝になった。〈説明〉

 東の空から昇る太陽が、かつての夜を追い出していく。〈描写〉

「もう朝だよ」〈会話〉


 今紹介した三種類が、小説を構成する要素です。

 たったの三つですから、覚えるのも簡単ですね。三つの中からどの種類を選んで文章を書いているのか、自覚を持つことが大切です。この認識を持っているだけで、これから紹介する『要素の効果』も使って、文章をより洗練されたものに出来ます。


 今紹介した三つの要素ですが、それぞれ読者に与える『効果』が違います。

 一緒に見ていきましょう。


【効果】

 朝になった。〈説明〉

 スピード感 高

 注目度   低


 東の空から昇る太陽が、かつての夜を追い出していく。〈描写〉

 スピード感 低

 注目度   中


「もう朝だよ」〈会話〉

 スピード感 中

 注目度   高


『スピード感』は、その一文で物語がどのくらい進んだかを表していて、『注目度』は、その一文でどれだけ読者の気を引けるかを表しています。


 スピード感が高ければ物語はぐんぐん前に進んでいきます。

 注目度が高いと読者が文章に釘付けになってくれます。


 だとしたら、会話が最強じゃねぇかという話になりますよね。

 あながち間違いじゃないありません。


 実は、会話だけでも物語って成立してしまうんです。


 説明だけだと物語の進行速度が速すぎて全く感情移入できないし、描写だけだとあまりに冗長すぎる。

 だけど、会話だけなら? ……別に問題ないですよね。

『台本形式』なんて手法が存在するのは、会話が強いからです。

 認めます。会話は小説を構成する要素で最強です。


 ・会話=最強!


 ■「会話だけで構成してみる」


 A「じゃあこの講座も会話でやっちゃえばいいじゃん! だって最強なんでしょ? あたしひとりじゃ味気ないからBもここに置いといてさ。完璧じゃん!」

 B「それもあながち間違いといえないのが辛いところだな……」

 A「何が辛いの? これで問題ないんだったらそっちのがいいじゃん?」

 B「確かに問題はない。読者がその世界を『イメージ』できるかどうかは置いておいてな」

 A「イメージ?」

 B「ああ、イメージだ。A子。僕たちは今、文芸部の部室で対面に座りながら、いつも通りの会話をしているわけだが」

 A「うん」

 B「その姿を誰が想像できる?」

 A「え。ふつーに想像できない?」

 B「今僕が手にしているのはなんだ?」

 A「ノート」

 B「具体的には?」

 A「……いつも部活で使ってるノートじゃない?」

 B「それを読者はどう想像すればいいんだ?」

 A「……もしかして、できないの?」


 ■「描写と説明を加えてみる」


 あたしの問いかけに、目の前に座るいかにも利口そうな男は深く頷く。

 トレードマークの青縁メガネをくいっと上げながら、「いいか?」と前置きをして、いつもの調子で語り始めた。

「会話は僕たちの主観で行われるものだ。そこに現れた第三者は聞き耳を立てるしかない。その様子を目で見ることはできないんだよ」

「会話は聞くものじゃないの?」

 あたしの頭に沸いた疑念が即座に口をついて出る。それを聞くと、そいつは深い溜息を吐いた。それから言った。

「君は目を瞑って会話をしてるのか?」

「……?」

 対面にはいつも通りのそいつが座っている。精悍な顔つきをした男だった。いかにも文武両道で風紀に厳しそうな、絵に描いたような真面目君だった。そいつは中学男子の象徴たる学ランを着ていて、更に第一ボタンまで閉めていた。こんなに暑いのによくやるな、と半袖姿のあたしは思ったりした。

 それにしても、会話が途切れていた。

「……」

 そいつは無言だった。何かしらの返答を期待しているらしい。

 だけど、あたしは言葉にするべきことが見つからなかった。あたしはするべきことが見つからなくて、ただ、なんとなく、手触りのいい制服の襟を正してみた。上等なシーツのような肌触りがした。

 そのふざけた襟元を正すわけだから、触感も相まって、気分は爽やかなものになった。

「……」

 しかし、相も変わらずそいつは机の上で両肘をついて高みの見物を決め込んでいる。あたしに何を求めてるんだよ。あたしは丈夫な教室の椅子に全体重を預けながら、話の先を促すようににらんだ。しばしにらみ合いが続いた。

「「……」」

 にらみ合い。当然、あたしの勝ち。あたしは目つきの悪さに定評があるのだ。そいつは観念したように話し始める。

「……説明と描写は『五感全ての役割』をするんだよ。会話は『聴覚』にしか作用しない」

「えっ。じゃあ説明と描写最強じゃん」

「結論を急ぐのが君の悪い癖だ」

「またそれか。あたしと話す度に言ってない?」

「それほどまで君は短絡的だということだよ」

 あたしをピシッと指さしてそいつは言う。確かに、と思ってしまったことが少し悔しくて、あたしは、何かしらの反抗をしようとした。頬を膨らませて不服を訴えたり、そいつの頭をチョップして日々のうっぷんを晴らしたり、この場から立ち去ってやろうということすら、一瞬、頭によぎった。そんなことをしたら、あたしから負け犬の匂いが取れなくなる。

 本末転倒だ。あたしは首を横に振って、馬鹿みたいな考えを脳から追い出す。

「……ねぇ」

「なんだ」

「あたしは小説を書きたいんだけど」

「聞いた」

「面白いもの見せてやるっていったでしょ」

「言った」

「早くあんたの全部を教えて。目にもの見せてやるから」

「そうか」

 そいつは、品行方正からかけ離れた、意地の悪い悪魔のような笑みを浮かべていた。きっと、あたしはこれから嫌になるくらい、そいつの全部を味わうんだろう。それは、たぶんブラックコーヒーよりも苦い。だけど、無知蒙昧なあたしを覚醒へと導いてくれるのだろう。だとしたら――上等だ。

 泥を啜っても構わない。あたしは、いつか最高の小説を作ってみせる。


 ■「講座に戻る」


 いかがでしたでしょうか。

 前者は会話だけで構成し、後者は小説らしくすべての要素を使って構成してみました。

 どちらが、『小説らしい』か。それは当然、後者でしょう。

 それはなぜか。

 読者の五感を刺激して、その世界のイメージを共有しているからです。


 小説とは、作者と読者の共同作業でいかようにも広がりを見せます。

 作者が情報を与え、読者の頭がそれに反応する。文章として与えられる情報に、読者の脳は反射して、自然とその世界を形作っていく。


 絵による決まった解釈ではなく、『自身の解釈で物語を楽しむことができる』。


 それが小説という媒体に頼る最大の強みであり、私たちの最強の武器です。


 私たちの仕事は、読者の頭に『自然な流れ』で物語の情報を与えること。

 いつだって私たちの理想形は、『与えられた情報に反射してしまうようなイメージを届けること』。

 これに尽きます。


 確かに会話は最強です。しかし、それだけに頼ってはいけません。

 小説において一要素に特化するということは、『イメージの共有』に歪みが生じることを意味するからです。


 今回の講座で、とにかく覚えてほしいのは、

 ・小説の最大かつ最強の強み『自身の解釈で物語を楽しむことができる』

 →私たちの仕事は、解釈する余地イメージを読者に届けること。


 ということです。あなたの文章は、読者の想像を駆り立てるものか。そういうことを考えながら小説を構成してください。過不足なく三つの要素を取り入れ、常に読者の脳を刺激し続けてください。読者の頭の中に最高のイメージを湧き上がらせる。優れた文章というのは、そういうものです。


 しかし、小説は、読者と作者の共同作業なわけですから、相性というのも存在します。ちなみに私は現代以前の小説家――太宰治、夏目漱石、芥田川龍之介――、そういった方々と、どうにも波長が合いません。そんな人間が小説を語るなと言われそうです。仕方ないんですよ、本当に小説って相性があるんですから!


 相性で全て片付けていいものでもありませんが、あなたの小説を酷評する方とは波長が合わないんだ、と切り捨てることも時には大切ですよ。正しい意見には耳を傾けつつ、自分を高めていきましょうね!


 さて、中級編まで足を運ばれた皆さんは、よほど小説に関心がある方だと思います。

 ここからはより本格化していきますよ。あなた方の作品をより洗練としたものにするため、一緒に頑張っていきましょう。


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