「換金できたら大金持ち」
「とはいえ、個あってこその多様性」
寝支度を終えパジャマのまま、リュコスと20階の森の拠点に戻っていたリコは、そう言って魔法陣部屋の棚に置いてあった[産金箱]をダイニングテーブルに持ってくる。
金塊の教訓から[重量無効]の付与はしてあるが、振ってもなんのリアクションも無いので、たいして生成されていない? と、少々がっかりした。
リコは、自分の今の状態のステータスを確認する。
[表示ステータス]
リコ 19才 称号[精霊殺し]
種 族:人間
スキル:【状態異常無効】【翻訳】【魔術操作】【魔法創造】
【鑑定解析】【収納】【魔法付与】【錬金錬成】【隠密隠蔽】【買付】
魔 法:〈光属性〉〈闇属性〉〈火属性〉〈水属性〉〈風属性〉〈無属性〉〈土属性〉
加 護:精霊魅了 魔眼(互助) 異世界人
職 業:雑貨屋ぼったくり店主兼職人
状 態:健康
リコは、とりあえず無言で自分のステータスをパソコンに入力すると、印刷した書類をリュコスに見せた。
リュコスは、食い入るように書類を見つめる。
「なんか、おかしい?」
その様子に、リコが恐る恐る質問する。
「スキルが異常に多いです。加護も。聞いた事がありません」
リュコスが書類から目を離さずそう答えた。
「別にレベルが上がるようなことって何もしてないはずなんだけど、レベルアップしたってアナウンスもないし」
そう言えば、あれからレベルが上がるような戦闘したり、魔法使ったり、スキル使ったりしたっけ? とリコが首をひねる。
「リコ様は、睡眠中にMPの回復をするのでしたか?」
「うん。寝るとMAXに戻っちゃうっぽい」
「・・・箱を」
「え?」
「箱を開けてみてください」
「え、うん?」
まだそんなに日も経ってないし、たいした量入っていないよ? リコはそう言って箱の封を破り蓋を開けた。
「あれ!?」
そこには今にも溢れんばかりの金粒がみっちりと詰まっていた。
「音がしなかったのは詰まってたから?」
リコの呟きに、リュコスは呆れた顔をして答えた。
「寝てる間にMPが回復するなら、MPMAX時に金粒を自動で産出する箱は、一晩の睡眠でいくつの金粒を生成するのでしょうか?」
「あれ?」
リュコスの言葉に、リコは、なんで一晩に一粒かなと計算していたんだろう。と思い至った。
実際はMPの上限が増えるにつけ、回復スピードも増えるのだから、毎晩生成量も増えた事になる。
やばい。すごくコスパのいい箱だった。やばい。
「リコ様は、寝ている間ずっと魔法を使っていた事になります」
「寝てる間にレベルアップのアナウンス流れてたのかぁ〜」
リュコスが目を細めてリコを見る。
「え〜と、失敗した。この箱はちょっと失敗。改良します」
もう、遅い。
リュコスは口には出さなかったが、リコが作り出した箱の仕組みに驚愕していた。
こんなものが一般に出回わり、貴族やその辺の権力者の手に渡ったら。
リュコスの背中に冷たいものが伝うが、その恐怖は杞憂だとすぐに気づいた。
この箱が正しく機能するためには、
・マナを大量に収集できるダンジョン内であること。
・仕組みの要であるマナ収集蓄積機構が、異世界人であること。
現状リコしかこの箱を作り出すことはできない。一般に出回り普及することなどあり得ないだろう。
「リコ様、上がったレベルを下げることはできません。もう少し慎重になることをお勧めします」
リュコスは眉尻を下げながらリコにそう助言した。
「うん、ごめん」
リコは、しょぼんとして素直に謝ると「ちょっと、色々試すね」そう言って〈土属性魔法〉を使って金の生成をする。
何段階かに分けて大きくなった金の塊は従業員ゴーレム1体分ほどの大きさになった。
「体調に変化、、、全然無いな」
リコがポツリともらす。MPを使う段階ごとに箱の蓋を閉め カラン と音がするタイミングを見計らう。
「1、2、3、、、一秒間に1/1000ぐらい回復する感じかなぁ?」
はっきりした数値化ができればいいのにとは思うが、そこは具現化されないらしい。
このステータスボードもリコが勝手にイメージしているだけの異世界人特有なのだから、これがデフォルトかどうかわからない。
こちらの《神聖遺物》でのステータスボードも見てみたいものだ。
「〈身体強化〉1、2、3・・・お、回復が追いつかなくなってきた感覚がある。常に〈身体強化〉してたらバランス取れるのかな?」
体感としてはこう、みなぎる感じがなくなってきたというか?
でもこれサイヤ人の修行みたいだなと、リコが思っていると、リュコスが、「それでは上限が上がり続けてしまう問題は解消しないのでは?」と、リコの考えを牽制する。
「あ、そっか」
リコは魔法の発動を止めた。
「ん、ん、ん〜? 数値化されてないって難しい。いや、これが当たり前なんだけどさ、マナの吸収が尋常じゃないけどやっぱダンジョンの中にい続けるのってイレギュラーなことなんだよね?」
そう言ってリコはリュコスをみた。
リュコスはわからないと首を振った。
リコには、数値化されない理由がわかりかけてきた。
これは現実だ。何をどう言い繕っても、現実に生きる生物には、同種であっても個体差が存在する。
スタート地点は、個によって違うのだ。個体によって異なる基準のパラメーターなどなんの役にも立たないし、ゲームなどでも、HP満タンと、HP残り10の攻撃力や守備力が変わらないなんておかしいと、リコ自身が常々思っていたから数値化もされないのだ。
リコが、すでにそう思ってしまっていたからには、この世界でも可視化される事は無いだろう。
現実では HP:100/56000 なのに平気で立って生活できるなんて言う事は、あり得ないだろうと思っているからだ。
ドラゴンボールのスカウターでもわかる数値は戦闘能力だけだ。しかもアレだって当てにならない。
「定期的に朝イチで金を生成する事にして、様子見ようか? どのぐらいで精霊が寄ってくるかの検証もしないとだし」
リコは黄金の塊をラージバーに変えながらリュコスに“お伺い”をたてる。
ドラマの小道具のような金塊は、刻印が無いと胡散臭いことこの上ない。
リュコスは渋い顔だ。
しかし、できるだけ精霊につれらされるようなイベントは避けて通りたい。
「聞き分けのいい精霊ばかりじゃないんですよ?」
通常、精霊や妖精に人の道理は通用しないのだ。
「でもまたリュコスが助けてくれるんでしょ〜?」
リコは黙々と作業を続ける。
ラージバーはちょうど10本になった。
「金塊120Kg。換金できたら大金持ちなのに〜」
そうもらしながら、リコは黄金の延棒をスベスベとなでている。そしてふと気づく。
「ねぇリュコス。こっちの世界では、金っていくらで換金されるの?」
リュコスはわからないと首を振りながら聞き返す。
「金は金の重さ分の金貨で換金されるのでは?」
「あれ? 盲点。これ一本金貨1000枚分にしかないらない? でもそっか、金貨って金の価値なのかな?」
当たり前のことだけど、今更ながら金そのものを通貨に使うのはやはり驚くべきことなのだ。
日本で売ったら9億円ぐらいなのに。こっちだと1億J?
「あれ? でもそうかんがえたら大金貨って金の量が圧倒的に少ないよね? 大金貨からいきなり信用が価値を補填するの?」
そう言ってリコはブツブツ言いながら考え込んだ。
つまり大金貨1枚【買付】に入れるよりも、金貨100枚に両替してから入金したほうが、後から金のインゴットとして回収する事を考えると断然お得・・・って、いや、ちがうな。
【買付】が回収しているのは通貨としての価値で、金自体は吐き出される。
コレが最初に入金した時のお金のレートがおかしいと感じた答えか?
「これもしかして、延べ棒は大金貨に換金して、その大金貨を【買付】に使えば、マナを黄金に変えて生み出すのって相場のバランスが取れるってことなんじゃない?」
まあ、政府がガンガン金貨を作ってくれたらの話だけど。
リュコスの眉間にシワがよる。リコの言っている事が微塵も理解できない。
リコもなんとか説明しようとするが、あっちだこっちだ言っていて、自分でもよくわからなくなってきた。
「んん!? なんかちょっとよくわかんなくなってきた? まぁ後でパハン先輩に一本換金してきてもらって検証しよう」
なんにせよ【買付】に入金するのなら、大金貨でもらったほうが収まりが良さそうだ。
リコはそう言って、延べ棒を全て【収納】する。
「MPに関してはなんかもうめんどくさいから、一度にどんだけ黄金が生み出せるのか試して見た方がてっとり早い気がしてきた。お酒どのぐらい飲めるのか知っておく必要があるのと同じだよね?」
リコは独りごとを言って、ぐわわっと手に魔力を込める。
「リコ様!!!!」
ブツブツと何か考え込んだ後、リコは再び〈土属性魔法〉を発動し、先ほどと同じだけの金を作ると、リュコスの静止も間に合わず、気を失って椅子から倒れ落ちた。
床に激突するのは、リュコスがキャッチする事で免れたが、意識は戻らない。
完全に魔力枯渇の状態だろう。
どのぐらいのMPを残したかわからないが、一気に、それも急激に減った魔力量に、意識を飛ばすことで身体が命を守ったのだろう。
「直前まで普通に会話をしていたのに・・・」
あんなに慎重にMPの減りを気にしていた人のすることじゃない。
リュコスは、大きなため息をついて、リコをベットまで運んだ。




