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「これだから大人は!」




「ヤツノは【成形】と【魔法付与】ってスキルがあってね、それって凄く物作りに向いてると思うんだよね」


 日本にはクリエイター用のハウトゥ本がやたらある。便利だなぁと感謝せずにはいられない。


「動画がみれるともっと良かったんだけどねぇ」


 流石にネットには繋がらないので、それは諦めよう。


「僕は、ちゃんとした物作りって初めてなので、上手くいくかどうか」


 ヤツノが、自信なさげに与えられた金塊を触っている。


「最初からうまく行かなくても良いの。こうゆうのは反復練習が重要だよ。ようは慣れ」


 そう言ってリコは金塊からシンプルな指輪の形を作り出す。

 ヤツノが見よう見まねで魔力を込めるが、金塊はうんともすんとも言わない。

 リコは、うん。と頷いて、粘土の塊を取り出すと、「粘土で指輪の形にしてみて?」と、ヤツノに渡す。

 ヤツノは、粘土から必要な分を引きちぎって、シンプルな指輪を瞬く間に作り出した。


「うん。イイね」

「・・・これが、練習になるのですか?」


 金属と粘土は違う。

 ヤツノは粘土をグニグニとこねながら首を傾げた。


「ンフ」


 リコは笑って粘土を半分掴み取ると「んじゃ、今度はこの粘土から【成形】スキルを意識して【魔術操作】で同じ指輪を作ってみて?」と粘土をわたした。


「?」


 ヤツノはいとも簡単に粘土から指輪を練り出してみせた。

 手で作ったものと遜色ない。


「できるじゃん!」

「??」


「んじゃ今度はこの金塊を、粘土だと思ってやってみて?」

「粘土だと思って?」


 ヤツノは魔金の塊をじっと見つめると、粘土の時と同じように、息を吐いて手に魔力を込める。

 フルフルと震える金は、少々の時間をかけて指輪の形を作り出した。

 粘土で作るより厚さも不均等でどう見ても歪だ。

 ヤツノは、その仕上がりに眉間にシワを寄せる。


「最初から綺麗に作る事はできないんだよ。コレを何度も繰り返すの。何度も、何度も」


 こうなったらいいなって思うには、もっとよく見なきゃいけないかもね。

 リコは、自分の練り出した指輪を魔金の塊に戻し、金塊を粘土をあつかうように、形を変えて見せる。

 ヤツノはリコの手元でグニグニと形を変える魔金をじっと見る。


 魔法が使えても、それまで当たり前の様に慣れ親しんできた物理の理を変えるのは難しい。

 リコは、魔法を知らなかったので「魔法とはこうゆうものだと言う最初の思い込みが功を奏した」とドヤ顔で言った。


「こうゆうことができる。と知ると、その後のことが簡単にできるようになる事ってあるじゃん? ヤツノはまだ、できない。と思い込んでいる」


 リコはそう言って、手を上げ魔金をグイッと頭上で伸ばし、まとめ、伸ばし、まとめてを繰り返す。


「これはただの金塊じゃない。魔金だよ。たくさんのマナを含んだ金。魔法使いはそのマナを魔術で操作する事ができるはずだよ」


 魔金は、みるみるうちに細い糸状に引き伸ばされていく。


「イメージは麺うち」


 そう言いながら、金糸の束を作り出す。


「知るとできる。できると知ると、もっと違う事もできる。世界の全ては、極小の粒からできていて、それがより集まってその物の形になっているの。そしてそれには必ずマナがくっついている。ならそのマナを操作するだけなのだから、素材は関係ないの。何を作るにも手順や方法はいっぱいあるんだよ」


 そうして今度は塊に戻した金塊の中から、金糸を一本、糸をより出すように練り出す。


「この世界では、その物質の最極小まで形を戻すことが出来る。と認知できて【魔術操作】があって【それ相応のスキル】があれば、この世界の万物の形を変えることなんて造作もない事なんだよ」


 言葉を続けながらも、リコの手元で、さまざまな形に変化する金塊を、ヤツノはじっとみながら、自分の中にある魔力を練る。


「そう、金や粘土じゃなくて、それにくっついてるマナを操作するの。それが【魔術操作】でしょ? この世の全ては、点と点がつながって線になり、線と線が繋がって面になる。物質はその面と面が合わさって目に見える物の形を作り出しているんだと想像して」


 そう説明しながら、リコが魔金を言葉通りの形に変えてみせる。


「リコは、素晴らしい魔術師ですね」


 ヤツノはそう言って、手元の魔金を全て指輪の形に変えていた。


「凄い! 早い! やっぱりね! こちらの世界の人の方が、知ると早いんだわ!」


 【魔術操作】に対する練度が違う。リコはそう言って、ヤツノの作った指輪を手に取ってよく見る。


「それはどうゆうことですか?」


 ヤツノの質問に、リコは答える。


「自分もこの万物の理の中の一つって事」

「?」

「この世界では、意思がある者はなんでも出来る。って事。あれ? 言語化むずいな」


 リコは首を傾げた。

 リコの隣で話を聞いていたリュコスは、リコがダンジョンに取り込まれそうになっていた時の事を思い出し、眉間にシワを寄せていた。


 目に見えない物の形を変える事は難しい。でも、見えるものなら変えられる。

 リコはそう言いながら、「何はともあれ後は慣れだよ。コレを繰り返して納得いく形になるようにイメージしよう」それこそ意識しなくても出来るようになるまで。

 そう言ってリコは手元にあった魔金の塊をヤツノに託した。


 ヤツノはそれを受け取ると、それまでとは打って変わって、いとも簡単にその塊に出来損ないの指輪達を戻した。

 リコはニンマリして「塊に戻す方が簡単でしょ?」やってる事は同じなのに。と説明する。


「!」


 ヤツノは、息を吐いて集中すると、魔金の塊の中から、指輪を1つ練り出した。

 リコはその指輪を手に取ってまじまじと見つめ、リュコスに差し出して感嘆の声をあげる。


「凄くない!? もうできんの!」


 それは、最初にリコが作ってみせた指輪となんの遜色もなく全く同じと言っても過言ではない完璧な形をしていた。


「よくみて触って」


 リコは指輪をヤツノに差し出す。


「なんとなく、わかった気がします」

「イイね!」


 ヤツノは、バララ、と残りの魔金の塊を指輪に変えた。

 その一つ一つをリコが手に取り「凄い!」と褒め称える。

 ヤツノはそれらを見つめると「凄いのはリコです」と微笑んだ。


 そうしてポケットの中から鱗を取り出すと「コレは自然に剥がれ落ちた僕の鱗です」そう言って、鱗の形を整えると、指輪の一つにしっぽく焼きのように貼り付ける。

 水色の光を放つそれをリコに差し出した。


「コレなら受け取ってもらえますか?」


 リコは「ありがとう!」と指輪を受け取ると、右手の中指にそれをつけ「すごく綺麗。素敵」うっとりと指輪を眺めた。


「それに審美眼を付与することはできますか?」


 ヤツノはそう言って、少し残念そうな顔をする。


「鱗は僕の体の一部でしたし、嘘を見破る魔法と、親和性が高いと思うのですが、僕は審美眼がどのように展開されているか見た事がないので、魔法付与に関しては何をどうすればいいのか取りつく島もないのです」


 自分の能力なのに。と項垂れる。


「自分の身から出た素材ですらこの有様なのに、計画で作ろうとしていた[防御力強化の指輪]なのですが、僕には防御力増加の魔法が使えないので、何をどうしたらイイのかさっぱりわかりません」


「なるほど、そうゆう事か。プログラミングの可視化ね」


 リコは少し考えて、魔法陣を紙に書く。


「コレが[防御力+10]の魔法。ね」と紙を渡し、「これを【魔術操作】で書き出して、そうだな」と、無属性の魔石に付与すると、石がポワッと光った。付与が上手くいった反応だ。

 それを【錬金錬成】で指輪にかませくっつける。


「僕のスキルも魔法陣に書き写すことができるんですか?」


 眼鏡を外したヤツノの眼差しから、リコが【魔眼(審美)】の魔法陣を紙に書き写す。

 ヤツノはリコの手を取り、その魔法陣を金糸で指輪と鱗に付与していく。


「凄い! ヤツノ! 細かい!」


 リコは、自分が作る指輪よりも緻密な装飾を、瞬く間に具現化してみせたヤツノを褒め称え、自分の指にはまる魔道具をよく見る。

 [審美の指輪]魔力を流して話を聞くと、相手が嘘をついている場合、金細工の蛇が、鱗石で作られた鳥の卵を食べようとするので、鳥が騒いで嘘を教えてくれる。

 なんて可愛らしいギミックだろう。リコはうっとりと小鳥の装飾を眺めた。


「コレが【魔法付与】・・・」


 ヤツノは、感激したように自分の手を見る。

 いつの間にか様子を見に来ていたパハンが驚いて声を上げた。


「そうゆうのは内緒にしておくんじゃないの?」ひょっこり現れていたシロも口を出す。


「そうなの?」


 リコがリュコスを見ると、リュコスは「錬金術のレシピは秘匿されている。と聞いた事がありますが、詳しいことはわかりません」と首を振り、リュコスの頭の上にいたイビルちゃんも真似をして身体を揺らしている。


 リコは首を傾げると、いくつかの[錬金術師の手帳]を取り出す。


「これ、ゴーレムのドロップ品なんだけど、魔法陣ならこれに色々書いてあるよ? ヤツノも読む?」

「イイのですか!?」

「え? ダメな理由がない。けど、ダメだった?」


 なんか危険? と、リコはパハンを見た。


「リコ、が、良いなら、その、誰でも出来るようになってしまうと、商売に影響が出るのでは?」

「えぇ!? そっか、そうゆう事? まぁでも、一緒に同じブランドを作ろうとしてるんだから、技術の情報共有は必須でしょ?」

「一緒に」

「あ、そうね、勝手にごめん。協力してくれるって言うからあんま深く考えてなかった。イイ? ヤツノ、それで大丈夫?」


 リコにそう聞かれたヤツノは、リュコスとパハンを見た。


「・・・リコは、僕の錬金術の師匠になってくれると言う事ですか?」

「師匠なんてそんな大したもんじゃないよ。一緒に考えて、一緒に作ってくれる仲間になってって。それだけなんだけど」

「仲間」


 ヤツノの瞳からポロリと涙が溢れる。


「アレ!?」


 リコが慌ててタオルを引き出す。


「錬金術師が魔法陣を教えると言う行為は、本来コレと見込んだ弟子にしか行われない行為です」


 そしてそれは、獣人の孤児にはありえないことだ。とパハンが説明する。


「そんなこと言ってるからいろんな便利な物がオーパーツになっちゃうんだよ」


 やっぱりヒト種は馬鹿が多いのか? リコはそう言ってタオルをヤツノに渡す。


「師匠と弟子なんて、そんなんどうでもイイよ。私は私の知ってる事はなんでも教えるから、なんでも聞いて?」

「リコは変わったヒトですね」


 ヤツノはボロボロと溢れる涙を止めずそう言うと、「僕の生涯の全てをかけてリコを師事させてください」と頭を下げた。

 リュコスの眉間にシワがよる。


「えぇっ重〜い」


 リコの漏らした言葉に、シロがアハハと声を上げて笑った。


 リコは、それまで集めた[錬金術師の手帳]を全て出しヤツノに渡す。

 その他にも、自分が覚えた魔法陣を全て紙に書き写したレシピを渡す。

「書き写して覚えるとイイよ」と、専用のノートとペンとインクも渡す。

 万年筆のペン先や魔インクは無くなったら補充もするよ。と、魔金塊を渡し、当然のようにインクの作り方も教える。


「書き写すのも、イメージして[転写]出来るようになると便利だよ」


 軽々と言うリコに、次々と渡される道具や資料の多さに目を奪われていたヤツノは「・・・頑張ります」と、視線をリコに戻して言った。




「イイのですか?」


 ヤツノが部屋に戻った後、居間に残ったリュコスがリコに聞いてきた。


「金儲けの飯の種を。って事?」


 リュコスが頷く。

 リコは「う〜ん」と考え込む。


「わからないな。逆になぜ便利な物の作り方を秘匿するんだろう?」


 便利な物は一般化するからこそ便利なのに。


「一部の人しか便利を享受できない世の中って、そんなに過ごしやすいかな??」


 リコがブツブツと考え込んでしまったので、リュコスはいつものようにリコの中で考えがまとまるのを待った。


 この人は、金は力だ。金は必要だ。と言うわりに、その金儲けにあまり執着がないように見える。


「経済は循環してなんぼっ。て言うか、どう説明すればイイのかわかんないな」


 血液とか、血栓とか、そうゆうことに例えても、人体の基礎知識の無いこちらじゃ理解され難いだろう。


「言語化が難しい。くっそ、やっぱ大学行きたかったな」


 リコはポツリとそう言うと、「私1人ができる事なんてたかが知れてる」そう言ってリュコスを見た。


 リュコスは首を振る。


「リコ様ができる事は、この世界に計り知れないほど大きな影響を及ぼします」

「それでも絶対多数には到底及ばない。自分が平穏に暮らす為には隣人の協力は不可欠だよ」


 どこかで聞きかじった功利主義の話を思い出して、さっきのヤツノの涙のわけを知る。


「どこでも、ここでも、人って、1人では生きていけないんだよね」


 前の世界で、誰の力も頼らず、リコは1人で生きていかなくては。と思っていた。

 でもそれは思い上がりで、必ずそこにある誰かの支えを受けていたと言う真実から、目を背けていたに過ぎない。


「焼きたてのパンも、綺麗な食器も、快適なトイレも、自分で作った物じゃなかった」


 リュコスを見つめて「リュコスがいれてくれる紅茶は、リュコスにしか作れないのに、私はそれがないともう生きていけない」リコがそう言うと、リュコスはボワっと顔を赤くする。


「リュコスが、ずっと私のために美味しい紅茶をいれてくれることができるように、私は私のできることをしてるだけなんだよ」

「それは、また、うまく誤魔化されているような気がします」

「これだから大人は!」


 リコは笑って「私一人では、まだまだ知らない事も、できない事も、いっぱいいっぱいあるんだよ」と答えると、シオツチの言葉を思い出していた。


『獣人らは精霊と混ざった人の子らの末裔。精霊が力を持つ時、この世界の理はさらなる神秘に歩みを進めるのだろう?』

お話の流れと文字数から、今日はこの後もう1話話投稿します。

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