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「獲物がかかるのを待つ」2

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 リコは、胸の前で両手を握ると、身体中に染み渡る幸せを噛み締めた。そうだ。リュコスの言う通りだ。ここにいなかったみんなにも分けてあげたい喜びだ。


「コレは素晴らしい事です」


 再びそう呟いた瞬間、リコの体から魔力が溢れ出し、光の粒が弾けるように広がった。

 たくさんの妖精や精霊が激しく飛び回ると、海から大きな老人の姿をした精霊が現れた。


「やあ人の子。私はこの海を統べるシオツチ。祝福をどうもありがとう」


「シオツチ 大きい 美味しそう」


 ピオニがシオツチを見上げ、そう呟きを漏らすと、リュコスが子供達を後ろに下がらせ、ナカツと一緒にリコの前に出る。

 リコは、ナカツを自分の後ろにそっと引き戻した。


「マナを揺らし、私に力を与えたのは、其方であろ?」


 シオツチは、手を伸ばしリコの返事を待った。

 差し出した手の平から、水がダバダバ落ちてきて、魚介が流れ落ちビチビチ跳ね、海へ帰って行く。


「あ、ごめんなさい。凄く、嬉しい事があって、みんなんで喜び合っていただけなの。何か、漏れちゃったみたい?」


 リコがキョロキョロと自分の体を見回す。

 リュコスが眉間にシワを寄せさらに前に出る。


 シオツチは、「狼の精霊の子よ、私はこの海で産みおとされ、長く海底に沈んでいたが、顕現するには今一つ力が足りなかったところに、斯様な祝福を得て海底よりやっと這い出す事ができた。何か礼をと思ったまでだ、そのようにせずとも大事ないよ」と優しげに微笑んだ。


 産まれたてなのにおじいちゃんなの? リコはそう思いつつ「あ、じゃぁ教えてください。その祝福ってなんですか?」と、リュコスの隣に出て並び、手をあげて質問する。


 ドドド と、大波とともに、シオツチは、さらに水から身を乗り出す。

 下半身は魚では無く馬だった事にリコが驚いた。


「此度は其方の魔力を私に分け与える行為だな」


 シオツチは答える。


 [〈祝福〉を習得しました]


 リコの頭に、新しい魔法を覚えた時のアナウンスが流れた。


「其方は、我々精霊にさらなる力を与える。精霊の子らも古代の伊吹を感じるだろう?」

「古代の伊吹?」

「獣人らは精霊と混ざった人の子らの末裔。精霊が力を持つ時、この世界の理はさらなる神秘に歩みを進めるのだろう?」


 さっぱりわからない。


「それって、悪い事?」


 ピオニが、恐る恐るシオツチに質問する。


「はて? 全ての事象には、悪しき面も良き面もあるが?」

「どんな影響があるの?」


 レトがさらに付け足し聞くと、シオツチは笑って「それはわからないよ。私には未来を見る力はないからね」と答えた。それもそうか。


 シオツチは、水から出でて、ちょうど見たことのある馬ぐらいの大きさになり歩み寄ると「いま一度、〈祝福〉を。こちらはすでに〆ておいた」と、それはそれは大きな鯛のような赤い魚を水から掴み上げリコに差し出した。

 リコは、戸惑いながらもそれを受け取り【収納】すると、言われるままに、胸の前で両手を握る。


「〈祝福〉」


 リコから光の粒が溢れ出し、みるみるシオツチに吸われていく。

 シオツチは、空を覆うほどの巨大な翼の白い天馬の姿に形を変え、4枚ある翼を開いて羽ばたかせると、リコを噛み掴んで砂を蹴った。


 反射的にリュコスがリコを掴み返し、天馬からリコを引き戻す。


「天に戻らぬとも良いのか? 人の子」


 シオツチが、頭上でそう言うと、空に穴が空いたように、光の柱が何本も降り注ぐ。


「多分そこは、私のいるべき場所ではありません。今しばらく、こちらでなすべき事を探そうと思います」


 リコが答えるとシオツチは微笑みながら話を続けた。


「神は其方を呼び戻したき用があるようだが?」

「私はなんの御用もありません。これまで通り、ほっといて。とお伝えください」


 とうとう抜刀したリュコスに抱きかかえられながら、リコはニッコリ微笑みかえし答えた。


「あいわかった。確かにそのように伝えよう」


 そう言って天馬は空に開いた穴に吸い込まれるように登って行った。




「・・・び、、、っくりしたぁ」


 リコの言葉に、みんながヘナヘナとその場に座り込む。


「リコは、神様にも狙われているのね」


 腰が抜けたままにじりよったサラが、そう言ってリコに抱きつく。


「どこにも連れて行かせないからね」


 ナカツがそう言ってリコに抱きつく。

 レトとピオニもモジョモジョとリコに抱きついた。


 テトが、「リコは『依代』だったのか」と、言った。

 リコが、それ何? どうゆう事? と聞き返すと、テトは「神格まで力を持った精霊は、魔力をたくさん集める『依代』を、囲っておきたいの」自分の力が強くなるからね。と付け足した。


「何それ怖い」


 リコが鼻の頭にシワを寄せそうこぼすと、「MPを満タンにたままにしておくと、妖精や精霊が寄ってくるでしょ? 無闇に魔力を分け与えると、いずれ妖精の国に連れて行かれる。と言われてるの」魔力の多い個人から搾取する為に、魔力を消費させる仕事に従事させる、神官達のおためごかしだと思っていた。とアマルが教えてくれた。


「そんな、初対面の精霊まで人を充電池みたいに。リュコス、もう大丈夫だから」


 空を見据えるリュコスは、震えていてリコを離さない。

 抜刀しているのに、足元に子供らが集まって危ない。とリコはリュコスに離れるように言った。

 アマルがリュコスに〈ヒール〉をかける。

 リュコスは、子供らから離れると、ナイフをホルダーに収め「今日はもう、移動しましょう」そう言って、浜に置きっぱなしにしていた釣具を回収した。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「MPMAX状態を解消する方法が必要かぁ。あんまり魔法使わないもんなぁ」


 魔道具のギミックを動かす時ぐらいにしかMPを消費しない上、エコに作っているだけに、消費したMPも直ぐに戻ってしまう。


「こりゃ金の生成量増やす?」


 リコは、炊き上がった鯛飯をおにぎりにしながら、未だなお不機嫌なリュコスに“お伺い”をたてる。

 リュコスは目を細めてリコを見る。


 神格を持つほどの精霊だったからなのか、リコが許していたからなのか、シオツチが何をしても、結界がシオツチを外に弾き出さなかったことを、訝しんでいた。


「そんなに黄金を生成してどうするのですか。すでに魔道具を作るぐらいでは消費しきれていませんよ」

「売る? にしても、出処がバレるのはなぁ、どうすっかなぁ」


「ダンジョンに還元したらどうですか?」


 いつの間にか隣に来ていたヤツノが、ニコニコしながらそう言った。


「僕とリコとで、黄金の装飾品を作るとして、それを売るにも限界があります。ダンジョンで集めたマナから生成された魔金なのですから、あぶれた分は、ダンジョンに吸収させたらどうでしょう?」


 台所でサラ、リコ、リュコスと並んで鯛飯を握っていたが、手を洗いながら提案するヤツノも参加してくれたので、リコは卵焼きの準備を始めながら、ヤツノを褒め称える。


「ヤツノ賢い!! それ良いじゃんね! ダンジョンの宝箱ショボいと思ってたんだ、人が多い階層の宝箱に金の延べ棒入れといたら良くない?」

「良くないです! ダメです! 危険です! 待ってください! リュコス、リコを止めてください!」


 テーブルに、食器を並べていたパハンが、それは悪手だとリュコスに説得の協力を求める。


「浅い階層に黄金が頻繁に出るダンジョンは、集う冒険者の質が必ず落ちます。絶対にやめた方が良いです」


 リュコスはパハンの意思に正しく応えリコを説得した。


「なるほど、そうゆう事もあるのかぁ」


 リコはヤツノと顔を見合わせ、残念。と口を尖らせ手を動かす。


 わり溶いた卵に、トリュフ塩、テーブルコショー、日本酒を入れた卵液を作り、四角いフライパンを火にかける。


「サラ、簡単な卵焼きの焼き方練習しよう。うまく行かなくても美味しく食べられるから気にせずたくさん焼こう。見てて」


 そう言って、リコがクルクルと卵を巻いて、卵焼きを作る。

 出汁がジュブジュブのだし巻きや、砂糖が入った卵焼きは焼くのがちょっとだけ難しいので、また今度だ。とりあえずオムレツにも応用できる味つけで今日のところは、菜箸で卵を巻き焼きする感覚に慣れよう。


「コツはね、強めの中火で一気に仕上げるの。小さいサイズで作るのよ。簡単に中がトロッとした仕上がりになるの。卵2個か3個ぐらいづつで作ると良いよ」


 売り物にするときは卵液を濾すと見た目が綺麗になるけど、ウチで食べる分にはこのままで大丈夫。そう言って、5分もかからず一本焼き上げる。


「あとは余熱で火が入るから、これをこのままお皿にあげておくっと。さぁ焼いてみよ」


 サラは、見よう見まねで一緒にフライパンを操る。

 1回目の卵液は半分以上使い、手早く混ぜまとめて端に押しやる。

 残った卵液を薄く3回に分け入れ、その度にこまめに油を敷くと、2本目を焼く頃には、綺麗な卵焼きが焼けるようになっていた。


「ファー! サラ器用! 凄い! 卵料理を極めし者は料理を極めるよ! この調子でガンガン焼こう!」


 卵焼きはもうサラに任せて、リコは大根サラダを作るべく、大根とにんじん、きゅうりを千切りにする。

 大葉千切り、味どうらくの里、オリーブオイルを瓶に入れてシャカシャカ振り混ぜたドレッシングをサラダにかける。

 【買付】ていた野沢菜の漬物を切って小鉢に盛り付ける。

 オーブンで焼いていた、タコ型に切ったウインナーも皿に盛り付ける。

 サラが焼いた卵焼きを食べやすい大きさに切ると、巻き層がわかるのに、みっちりトロリとした良い仕上がりになっていた。


「もうこれ完璧だと思う!」


 リコの大絶賛に、サラはえへへと笑って顔を赤らめた。


「さぁできた。お昼にしよう!」


 ゴリゴリの和食だけど、みんな「美味しい美味しい」と食べてくれる。

 おかわりのおにぎりにみんなの手が伸びるたび、リコとサラは顔を見合わせて渾身のドヤ顔を披露し合う。


「私はやっぱり料理人になりたいです」


 サラがリコにそう言うと、リコは「イイね!」と笑った。

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