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「獲物がかかるのを待つ」1

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「リコは、どうして商人になったの?」


 子供達は、目覚めて身支度を整えたら、朝食ができるまでの時間、家の掃除をして過ごす。

 目に見えて汚れていなくても、毎日の掃除の習慣をつける。

 料理もお手伝いを日替わりにして、皆で自活のための家事を学ぶのだ。

 子供でも十分にできる限りのことは自分でして、できなかった事を大人がサポートすれば良い。


「何よりも清掃! 清潔な暮らしは健康な身体を維持するためにも必須だからね!」


 リコの号令の下、家事に関する道具や、家の建具のメンテナンスや維持修復も学ぶ。

 それが自分の収入につながる事となれば、子供達の学びたい欲も貪欲だ。みるみる教えた事を学習していった。


 朝ごはんを食べ、食休みついでに、ざっくりとした1日の予定を報告し合う。

 その後、アマルの歩く練習に合わせて、皆で浜辺へ出かけ、揃ってラジオ体操をする。

 それまではリコが1人でやっていたのを、皆が真似て一緒にやる様になった。

 自由時間で散歩や釣り、ボールを使ったゲームなど、各々好きなように時間を過ごす。

 お昼に合わせて帰宅すると、午後からは、雨の日同様、全員はほぼ図鑑や絵本など文字のない読書に熱中する。回収屋では、元々自分の名前ぐらいは書けるようにしていたらしいが、暇な子たちは、ギルドでの常駐クエストを受ける上で、子供達で共有した情報で簡単な読み書き算数はできるようになっているらしい。

 ピオニとテトはそれがまだだったらしく、さらにパハン先輩に字の書き方を教わっているようだ。

 リコとリュコスはその合間を見繕って、週に2度ほど[雑貨屋ぼったくり]に通う。

 そんな日々を過ごすうちに、子供達も落ち着き、生活のルーチンにも慣れ、数日が過ぎていた。


 こと生産となると、それぞれに趣味嗜好が分かれ出した。

 服を作りたい。と言い出したイナバとレトとアマルの為に、型紙付きの縫製基礎学習本と、大量の生地と、マネキン、裁縫セットに、足踏みミシンを【買付】し、簡単に使い方を教えると、あっという間に使いこなしてみせた。


 鉱宝石類に興味を示したヤツノのために、宝飾品の画集を集め、デザインする事から始めさせ、工具や、大量のアクセサリーパーツを【買付】ると、ヤツノは、リュコスの毎朝の魔石拾いに同行するようになった。


 サラは料理に夢中で、いまではリコとリュコスと一緒に3食を作っているし、ナカツ、テト、ピオニは、パハン先輩と一緒に、結界の外に素材採取に出かけ、石鹸やポーションの素材を毎日採取し、時には肉も狩ってくるようになった。

 コレには日替わりで、レトやヤツノ、サラもついていく。

 雨の日は、集めた素材で保存のための加工や、石鹸作りや、料理、主にお菓子作りをみんなで学んだ。


 イナバとサラは、リコと同じ『非戦闘員』のようだが、ダンジョン内での回収屋としての立ち回りや戦闘訓練は、そうはならないとしてもいずれ受ける。と宣言していた。

 戦えるに越した事はない。訓練や練習には賛成だ。


 そうこうしているうちに、アマルも自力で立てるようになっていた。

 ラジオ体操の後、午前中の練習をここからは1人でしたいと言い出したアマルの為に、それでも近くにいたいナカツとレトと一緒に、ピオニとテトがアスレチックで戯れあっている。

 パハン先輩は、イナバとヤツノが家で夢中になっているクラフトに付き合ってお留守番をしていて、インドア派とアウトドア派に分かれた。


 アスレチックで遊ぶ子供達に目を光らせながらも、リュコスはいつものように浜から投げ釣りに勤しんでいる。

 日々釣果は上々なようだ。釣れるのは、主に鯵なのだけど。身が厚くてとても美味しい。


 浜辺の片隅で、ラィちゃんに支えられ、ミミちゃんに手をつきながら、一生懸命立つ事に慣れようと奮闘するアマルの様子を見ながら、少しだけ離れた場所で、並んで読書をしていたサラが、リコが飲み物に手を伸ばしたタイミングで話しかけてきた。


「快適に過ごすためにはお金が必要だったんだよね。どうやってお金を稼ごうかと思ったら、商人になるしかなかった。って感じかなぁ?」


 ダンジョンから出ずに他の職業に就くのは難しく、この世界の通貨を得るためには、商人が1番手っ取り早かった。と言うわけにもいかないだろう。


「リコはこんなに料理が上手なのに、料理人になろうと思わなかったのはなぜ?」


 サラは、とても器用で、〈火属性〉と〈水属性〉の魔法を使うリコのレシピの料理を再現する事ができるようにまでなっていた。


「サラにはもうわかると思うけど、料理を作れるという事と、それを職業にするって事は全然違う事なんだよ?」


 リコは、サラの芽生えたやる気を削がないように、言葉を選ぶ。


「私、ここから遠い遠い別の国から逃げて来たから、直ぐにダンジョンに逃げ込んだんだ」

「・・・なぜダンジョン?」

「貴族や何かしらの権力のある人たちから隠れたかったんだよね」


 リコはそう言って「ダンジョンの中には貴族も神官も来ないんでしょ?」とサラに聞き返した。


「リコは、神官だけじゃ無く貴族も嫌いなのね」


 サラはそう言うと、言葉を続ける。


「でもリコのことは、貴族だと思ってたの」


 神官は人々をより良い方向へ導き、貴族は人々の生活を守る。そして王族はその全てを統べる。


「神官と貴族が、リコみたいだったら良かったのにって。思ったの」


 項垂れ目を伏せるサラに、リコは手を伸ばし頬を撫でる。


「私はね、私が1番大事だし、私のことしか考えてないし、私が幸せになれればそれで良いから、神官や貴族にはなれないなぁ」


 リコがニッコリ笑って答えると、顔を上げたサラも眉尻を下げたまま笑う。


「私も。私もリコと同じ。私が幸せになるために、料理を美味しいって言ってくれる人が必要なの」


 リコはうなずいて、サラの頭をくしゃくしゃに撫でる。それで良いんだよ。何を恥じる事がある?


「サラはきっと良い料理人になると思うなぁ。お客様に美味しいものを食べてもらいたいって思ってる料理人は良い料理人だよ。私の知ってる事はなんでも教えてあげられるからなんでも聞いて? わからない事は一緒に調べよ?」


 サラはウンウンと頷いてリコの手に頬ずりする。


「・・・サラは、まだ11才なのに凄いなぁ」


 リコはポツリとそう漏らすと、アマルに目を向けた。


 アマルは立ち上がって、ちょうど、ラィちゃんから手を離している。

 その様子を、皆、固唾を飲んで見守っていた。

 一歩、二歩、三歩、4、5、6、歩いて前に倒れ込みそうになると、ミミちゃんが回り込んで受け止めた。

 いつの間にかアマルに駆け寄っていたその横で、リュコスがうっすらと口角を上げてこちらを見ている。


「見た! 見たよ!」

「立った! クララが立った!!」

「???」

「「「キャー!」」」


 アスレチックで遊んでいた皆んなもアマルに駆け寄り、ガシガシとアマルを撫でる。

 アマルは照れくさそうに笑っている。


 わぁきゃぁと子供達がはしゃいでいる中で、再びリュコスと目があった。


「これは、素晴らしい事です。パハン先輩も見たかった事でしょう」


 リュコスの言葉に嬉しくなって、「コレは素晴らしい事です」と、リコは言葉を繰り返した。


 2人の様子を見ていたサラが言う。


「リコ、好きです。大好きです」

「私もサラが大好きです」


 リコが笑うと、サラはニッコリ笑って、アマルに「コレは素晴らしい事です!」と、その努力を讃えるために駆け寄った。

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