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「什物の面」



 サラに連れられて、ピオニにしかみつかれたテトが部屋に入ってくる。

 サラは、テトとピオニを処置台の上に座らせると、テトが「リコは僕らが嫌いじゃないですか? 大丈夫ですか?」と聞いてきた。


「なんで!? 好きよ? 大好物です!」

「ぴ!」


 ピオニがビクン! とはねる。


「あ、違う! 食べない! 食べません。好きな食べ物はプリンです。人は食べません!」


 サラが、プフフっと笑って部屋から出ていった。


「こ、こんにちは。リコです。魔女じゃないです」


 リコがそう言うと、テトはウンウンと頷いた。ピオニは涙目だ。

 テトは、処置台から降りると「助けてくれて、ありがとうございます!」と頭を下げた。


「ありがとうございます」


 ピオニも真似をして頭を下げる。


 布のお面がチラリとめくれて、テトの顔が見えたが、見た目に変わった様子がなかった。


「テト、このお面なあに? とってもいい?」


 リコが聞くと「取っても良いの? じゃぁ取れたらリコにあげるよ!」と、テトは答えたので、リコはお面をとる。

 顔には傷も刺青もなく、猫耳猫目の可愛らしい瞳でこちらをみている。

 目の損傷も、魔眼の兆しも感じない。


 【鑑定解析】

 [什物の面]ステータスを偽装する布面。〈洗脳(精神安定) 〉付与。


 [洗脳レシピ 入手しました]


 お、やったね。


什物(じゅうもつ)の面。だって」


 リコが、魔法陣の新しいレシピゲットに喜んでいると、テトが膝に手を置いて聞いてきた。


「リコは、新しいご主人様?」


 リコは、机の上に[什物の面]を置いて「いいえ、違います。私は新しいご主人様ではありません」そう言って2人を処置台に座らせる。


「テトの新しいご主人様はテト。ピオニの新しいご主人様はピオニです」


 と答えた。

 2人は「?」と言う顔をする。


「正確には、2人はもう奴隷ではありません。だから、ご主人様とかはいないの」


 とリコは付け足した。


「もう奴隷じゃないの!? 僕、奴隷終わり!?」


 テトが声をあげる。


「うん。お終い。テトは自由」

「ヤッター!!」


 テトがブワリと身体を浮かせる。


「アレ!?」


 なんかビリビリする? リコが驚いて声をあげると、リュコスがテトの足を捕まえた。


「何するんだ! 僕はもう自由だぞ!」


 ゴゥ!


 部屋に風が吹き荒れる。

 カーテンが舞い上がり、窓ガラスがガタガタと音をたてる。

 みんなが驚いて集まり、中の様子を見に来た。

 風で飛ばされる筆記用具を避け、パハンが声を上げる。


「テト! やめろ!」


 テトは、足下にいるリュコスに両手を向け叫んだ。


「はなせ!薄汚い奴隷の犬っころめっ!!」


 バチン!


 リコの放った電撃が、テトの真横を通って天井を焦がした。

 リュコスは、慌ててテトの前に出ると、リコの手に握られた[電弧]を見る。

 威嚇とはいえ電撃で子供を攻撃したのか?

 リュコスの驚愕をよそに、リコは声を荒げて言った。


「ここではリュコスを“そう”呼ぶのを許さない! 謝って!」


 [電弧]を固く握ったリコが、ボロボロ泣きながら「謝りなさいっ! 今すぐ!」と命令するように叫んだ。


「テト、謝って」


 リコにしがみついていたピオニが言った。


 ガチャン ガタン ガチャン


 風が止み、舞い上がっていた雑貨達が床に落ちる。


「ごめんなさい。リコ」

「私にじゃない! リュコスにでしょ!」

「・・・ごめんなさい。リュコス」

「謝罪を受け入れます。では次にリコ様に謝ってください」

「え!?」

「男子は、女性を泣かせてはいけません。と、教えられているはずです」


 リュコスが静かにそう言うと、「ごめんなさい。リコ」テトは素直に頭を下げた。


「フグゥっ! 私も、私もごめんなさい。ごめんねテト。ごめんなさい」


 リコがわぁぁと声をあげて泣いた。


「あぁ、リコごめんなさい! 泣かないでリコ!」


 テトもリコに抱きついてワァワァと泣いた。


 部屋の中のマナが、グラングラン に揺れる。


 子供達も、「リコ、泣かないで! リコ!」声を出してみんなでワァワァと泣き出しリコにしがみついた。


「な、なんだ、コレ!?」


 パハンが慌てて、辺りを見回す。

 集まった子供達の中で、オロオロしつつも、1人冷静だったイナバからシロがはみ出して「精神攻撃を受けている」とリュコスに告げた。リュコスは「リコ様、落ち着いてください。リコ様!」と、リコの体を揺する。

 パハンは、初めて現れたシロをみて口を開けて驚いていたが、シロはそんなパハンに手を振っていた。


「あぁん! リュコスごめん。ごめんねリュコス〜いつもいつも迷惑かけてごめんなさい〜わあぁぁぁん!」


 リュコスは、ハァァ。とため息をついてリコを抱きしめトントンと背中をたたく。


「リコ様、落ち着いて。テトを鑑定してください」


 と。耳元で囁いた。リコは、ハッと我に返ると、顔をこすって、「【鑑定解析】」と、テトをみた。


 [表示ステータス]

 テト-才♂  称号[ゲートキーパー]

 種族:ケット・シー(俊敏 身軽 気まぐれ)

 スキル:【感情強制】【身体強化】【魔術操作】

 魔法:〈風属性〉

 職業:

 状態:栄養不足 精神不安


「なんと!?」


 リコは慌てさっき外した[什物の面]をひっつかみ、テトの腕に巻きつけた。


「【鑑定解析】!」


 [偽装表示ステータス]

 テト10才♂  称号[-]

 種族:猫人(俊敏 身軽 気まぐれ)

 スキル:【身体強化】【魔術操作】

 魔法:〈風属性〉

 職業:-

 状態:栄養不足 感情抑制[什物の面]装着。


 ふっと、みんなが泣き止み我に返る。

 なに!? なんなの!? 何が起こったの??


「えっと、みんなでお話ししようか? テト、良い? それにイナバと」


 リコが聞くと、テトとイナバとシロはそろって「「「いいよ」」」と答えた。



 ピオニに許可をとって鑑定し[完全回復薬]を飲んでもらう。

 鑑定結果を入力して印刷し、居間でみんなの分も合わせて回し見する。

 もちろんみんなが見れるのは、先に個人に確認し、その後パハン先輩の添削済みだ。


 [表示ステータス]

 ピオニ6才♂  称号[精霊の愛子](精霊に好かれる)

 種族:獅子人希少種(怪力)

 スキル:【身体強化】【咆哮(硬直)】【魔術操作】【大喰】

 魔法:〈火属性〉

 職業:

 状態:栄養不足


「ケット・シーだから、犬が苦手なの?」

「リュコスは苦手じゃない。さっきはゴメン。僕、おかしかった」

「テトは良くなかった」


 リコの質問にテトが答えると、リコの膝の上で、ピオニが付け加える。

 どうやら、テトはピオニとセットなようで、2人の馴れ初めを聞く。

 精霊のテトが言うことには、以前は森で過ごしていたが、森で食事をしている人を見かけ、食事を分けてもらってから、人の食事に興味を持つようになった。


「聞いたことがあるエピソードだわ」


 リコはオベント様とバコニー様を思い出していた。


 テトは、人間にだんだん夢中になって、ズンダの街にまで入り込むようになる。


「お腹が減ったなーって思ってたら、人間が『ご飯食べさせてあげる』って言うから、喜んでご馳走になったら、その後、金を要求されて、そんなもん持ってないから、払えないって言ったら、神殿に連れて行かれて、借金奴隷になった」

「何それ!? 雑すぎない!?」


 リコが憤る。テトは気にせず話を続ける。


「同じ日にピオニが何かに売られてきて、小さいし怯えてるし、可哀想だなぁと思ってくっついてたら一緒にギルドに連れて行かれて、そのままギルドの世話になった。そのうちピオニが好きになったから、コレからもピオニのそばにいる。って決めた」


 ピオニはリコの膝から降りて、テトにくっつく。


「僕、テトと一緒にいたい。ダメなの?」


 ウルルとピオニが目に涙を溜める。


「ダメじゃない。ダメじゃないけど」


 大人組は、後ろを向いて3人でゴニョゴニョ相談する。


「どうゆう事?」

「精霊契約と同じ状態かと?」


 リコとリュコスがパハンをみる。パハンは首を振って答える。


「わかりません。精霊の扱いなんて、そもそも精霊は神官、人間としか契約しないのではないですか?」


 しかも、テトはネームドと言う種族名のある強い精霊で、なんでもケット・シーは独自の王政があるとかないとか。

 そもそも、契約してない精霊や妖精が、街をうろついていて大丈夫なのだろうか?


「大丈夫なの? 急に消えちゃったりしない? あと、称号の[ゲートキーパー]ってなに?」

「大丈夫もなにも、誰も人語を話すほどの精霊の事など、研究者の有無すらもわかりません」


 名のあるほど強い精霊が、理由も無く突然消えることは無いとは思うが。と、パハンは答えるが、契約も無しに人間社会の理やルールを守って一緒にいられる妖精や精霊がいるなど聞いたことがない。

 そうするとやっぱり正式な契約が必要なの?

 お互いが必要としあっているうちは問題ないとは思う。が、リコの称号を考えると、、、


「「「うう〜ん」」」


 3人が考え込む。

 そこへ、シロがにょろりと現れ「そもそも妖精や精霊なんて気まぐれで、曖昧な存在なのだから、考えるだけ無駄なんじゃない?」と、会話に参加した。

 シロは15でレイスになって、2年過ぎている。実質パハン先輩とタメ。立派な大人組だ。


「レイス! 精霊の上にレイス! モンスターがギルド内に! しかも2年間も一緒にいたのに気づかなかったなんて!!」


 パハンの嘆きにイナバが涙目で「パハン先輩、今まで黙っていてごめんなさい」ショボンと耳を下げてパハンに謝った。

 リコが勝手に「そんな事はもうどうでも良いの良いの」とイナバを撫で、シロが声をあげて笑った。


「ねぇ、不思議なんだけど、ズンダの街中とか、街壁って何かこう、モンスター避けとか、そうゆうのないの? セーフルームみたいな魔道具で街を守ってるわけじゃないの?」


 リコの疑問にパハンは答える。


「壁には物理的な防御能力しかないし、街の中にもそのような魔道具など無いですが、それはどこの街や国でもそうなのでは?」

「いや、街道には〈結界〉があるんだよね? なんで街もそれで囲わないの?」

「街道にある〈結界〉の魔道具は大昔からある《神聖遺物》で、ここにいると忘れてしまいがちになりますが、神が作った古えのオーパーツなんですよ!? そうホイホイ簡単に手に入れられるアイテムじゃないんです! リコは自分の作り出す物の危うさをもう少し自覚するべきでは!?」


 パハン先輩テンションがちょっとおかしい。まだテトの精神干渉の影響が残っているのだろうか?

 レイスや精霊が身近にいた事にちっとも気づいていなかった事が、よっぽどショックだったようだけど、リコはそれを口には出さずに話題をもどす。


「いやそしたら外から中に入り放題なんだね?」

「門には門番が」

「街の住人は、なんでモンスターがご丁寧に門から入ると思っているんだ?」


 リュコスの疑問にうなずいて、リコはパハンの顔をみる。


「・・・俺も、わからなくなってきた。あの外壁は、、、なんだ? むしろ、なんで外のモンスターは外壁の中に入ってこないんだ?」


 いやぁ、それについては、食うに困ってもいないのに、自分の生活圏を出てまで人間をわざわざ襲いにくるモンスターの方が稀有だろう。


 人間ぐらいなもんだ。こんなに積極的に他の動物を殺してまわっているのは。

 挙句、身の安全を保つ為でも、食うわけでも、生活の糧にするわけでもなく、楽しみのためだけに殺す輩も多いのだからタチが悪い。

 リコは、首を振って、コレも所詮日本の価値観に過ぎないなと、考えを改める。


「まぁ、街の住人が知らないだけで、すでに中には色んなんものがいるんだろうなぁ。ほんでもって意外とバランス取れてるのかもね」


 弾き出す能力がないだけで、ここの〈結界〉と変わらない何かも、もうすでにあるのかも? とリコは思った。

 パハンはガクリと膝をつく。

 いや、でも、自分の安全を害する生き物が同じ生活圏にいるってのは、どこの世界でも、当たり前にありうるとこなんだけどね。と諭す。


「その場のルールを守れるなら、その場にいる事は可能だとは思うけど、ルールを守れないと、そこから弾き出されるのは、どこも同じだよ? テトは人間がするように、人間のルールを守れるの?」

「今まで大丈夫だったの。どうして?」


 リコの問いかけに、ピオニが質問する。


「それ、それ、なんか〈偽装〉の魔法付与がしているよ?」


 リコは[什物の面]を指差して言った。

 嘘を見破れ目を潰されたヤツノや、姉の加護を持つイナバには、それらを隠す〈偽装〉が。

 他者の感情に作用するスキルのあるテトには、さらに精神を安定させる魔法が。


「冒険者ギルドですんなんりタグを作れたのは、誰か、きちんと事情を知ってる大人がいたからなんじゃない?」

「これ、は、ギルド長が獣人の子供達につけさせる面です。見目の良い獣人は人間に狙われることがあるので、単に顔を、隠すためだ。と」


 パハンは、面を掴むと子供の頃の自分を思い出す。


「獣人の孤児に優しいのは、やっぱり私だけ特別ってわけじゃなかったみたいだね」


 魔道具のほとんどは、人間が作ってるんでしょ? リコは、リュコスを見てフンスと鼻息を荒げる。

 リュコスは目を細めてリコをみる。程度が違う。と思ったが、口は返さなかった。


「ま、今後のことはおいおいその都度、擦り合わせていくとして、そろそろお腹も空いたし昼ごはんにしようか?」




 キャベツの千切りでコンソメスープを作り、千切りレタスと、冷やしトマト、きゅうりと茹でブロッコリーに、油多めでカリカリに炒めたちりめんじゃこに醤油をたらしたタレを、ジュワッ!と音を立てかけたサラダを作り【収納】しておく。

 玉ねぎと、ピーマンをみじん切りにして、鶏肉は小さい一口大にして塩胡椒してグリルで焼いておいた具材とご飯をニンニク油で混ぜ炒めて、ケチャップとちょっとだけ味どうらくの里で、チキンライスの完成っと。


 これに、トリュフ塩と、ホワイトペッパーと、牛乳と卵で作ったトロトロのスクランブルエッグを、片面だけしっかり焼いて、お皿によそったチキンライスにつるりとのっけて、完成ー!


「さぁオムライスだよ。美味しいぃよぉ!」


 皿を並べながら、自信満々のリコに、子供達が大喜びでスプーンを口に運ぶ。


「「「美味しい!!」」」

「そうだろう、そうだろう!」


 ケチャップは子供には至極の調味料。

 更にニンニクとケチャップをメイラード反応させ、米と炒めたケチャップライスは、もはや神の領域! コレを美味しいと思わない子供はいない!

 リコは渾身のドヤ顔でリュコスをみた。

 パハンもリュコスも夢中でぱくついている。


「よく噛んで! 野菜も食べなさい!」


 とにかく自己紹介は済んだ。

 コレから1ヶ月、アマル含めてみんなのリハビリがてらたくさん食べてたっぷり眠らせ、ダンジョンを出た後のより良い生活を目指して準備を進めよう。

 神の作ったこのクソみたいな世界に少しでも抗う為に。と心に誓った。

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