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「なぜ殺してはいけないのでしょう?」1

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「治したい。ですが。僕の魔眼は邪眼だそうです」


『眼球をくり抜かれるのと、口を縫い付けられるのと、どちらか選べ』と、神殿で言われ、口を縫い付けられたら死んでしまうので、眼球をくり抜かれる方を選んだ。


「僕は悪魔なのだそうです」


 ヤツノは静かに微笑みそう言った。


「え、あ、そうゆうものなの?」


 蛇科の獣人はそうゆう扱いなのかな? と思ったリコは、あっさりと答えた。


「・・・怖くないんですか?」


 首を傾げたヤツノが聞く。


「悪魔? 魔族には知り合いがいるから。それに、ヤツノは悪魔じゃないと思うよ?」


 リコは答え、自分には人物を【鑑定】するスキルがあると、説明する。


「治した後に、状態を確認するために【鑑定】するのを許して欲しいんだけど?」


 ヤツノは、リコの問いに、少し困惑したようなそぶりを見せると、「僕の魔眼は嘘を見抜ける邪眼だそうです。悪魔のスキルだと、神殿で言われました」と、答えた。


「なるほどねぇ。それは持主には難儀な能力かもね。でも、力をコントロールできればなんとでもなるだろうし、熱感知があったとしても、目が見えないのは不便でしょ? 今はスキルを抑える魔道具もあるし、治してしまった方が良くない?」


 リコの言葉に、ヤツノは驚いて、「リコ様は、怖くないんですか?」と聞きかえした。


「そうだよねぇ、治ったらまた同じ目に遭うかもしれないんだもんね。怖いよねぇ。う〜んどうしようか?」


 治ってないように偽装することができると良いんだけど、それだとどうやって偽装しよう?

 眼球があるのに無いように見せる偽装ってどうやるんだろうと、見えるようになったのにこのお面つけっぱなしにするのも不便だろう? 

 ぶつぶつと独り言を呟きながら、リコが考えこみだしてしまった。偽装でなんとかなるだろうか?


 他の大人達とは正反対の対応に「いえ、邪眼を持つ者が目の前にいて怖くないのか、と」ヤツノは言い直した。


「邪眼って。嘘ついてるかどうかがわかる事が邪悪だなんて、言いがかりもいいとこだよ。ナイナイ邪眼じゃ無いから。何それ厨二病かよ。ってな感じだよ。それ自体は怖く無い無い」


 リコは、一旦考えるのをやめて、ペンと治療薬の準備を始める。


「それに、ヤツノがたとえば本当に悪魔でも、今は勝手にそんな処置をしてはいけないはずだよ」

「え?」

「ん? 知らなかった? 悪魔は亜人と変わらない扱いだって、聞いてたけど?」

「それは、そうでしょうが、それはあくまで建前で、悪魔は神を害する邪悪な者でしょう? 討伐対象も仕方ないです」

「神を害する者でも、邪悪な悪魔でも、人を害するわけじゃなければその社会に存在して良いはずよ?」

「え!?」

「だってどちらも神がそう作ったのでしょう? 自分でそう作っておいて、罰を与える神なんて馬鹿げてるわ。神殿が、人間達が、自分達に都合の良いように勝手に神の名を語ってるだけよ?」

「そんな!?」

「あ、ゴメン。ヤツノは敬虔な信仰者だった? 先に確認しておくべきだったな。

 失礼なこと言っちゃってごめんね? まあ、うん、でも魔眼を直してもなんの問題も無いのは本当の事だから、そこは気にしなくて良いと思うんだけど、どうする?」


「・・・」


「この薬ね、飲む本人に『治したい』って意思がないと、部位欠損を回復させる事はできないみたいなの。だから、こんな雑な聞き方してどうかとは思うんだけど、確認しておかないと、ほら、世の中には色んな人がいるから『本当は治したくなかった!』って言い出す人もいるかもしれないでしょ?」

「そんな人間いるわけがありません」

「それがいるのよ。んじゃ特にヒト種に多いんだと思うわ。意外といるのよねぇ」


 リコは、困ったもんだと言う顔をしつつも、そのことに対しての嫌悪感はさほどないように答えた。


 この人は、この大人は、他の大人と違う考えを持っているような気がする。

 ヤツノは、困惑しながらも、勇気を振り絞るように声を出す。


「・・・治したいです」


「良かった。んじゃこれ、ここに名前を書いて」


 リコはペンを握らせ、瓶を渡すと、隣に座って封をなぞらせる。

 ヤツノは封に名前を書く。瓶がポワッっと光を放つ。


「オッケー飲んじゃって」


 リコの掛け声のまま、ヤツノは封を開け、[完全回復薬]を飲み干した。

 ヤツノに光の粒が集まり、両まぶたが光ると、ヤツノがゆっくりと目を開ける。

 キュルリと青い瞳が現れた。


「凄いスカイブルー。キレイ」


 リコがヤツノの顔を覗き込む。


「見えます。リコ様、目が、見えます」

「【鑑定】しても良い?」


 ヤツノは瞬きしながらウンウンとうなずいた。


 [表示ステータス]

 ヤツノ14才♂

 種族:蛇人希少種(高魔力 熱感知 五感卓絶)

 スキル:【魔眼(審美)】【魔法付与】【成形】【魔術操作】

 魔法:〈闇属性〉

 職業:-

 状態:健康


「ヨシ!」


 リコはガッツポーズを決める。

 すると突然、ヤツノは、鎖骨周りにある突起した鱗をベリっ! と剥がすと、リコに差し出した。


「わっ! 何やってるの!?」

「僕には、みんなと違ってフワフワの耳はありませんから、コレは、それなりに希少価値のある装飾品の素材になるそうです」


 そう言って毟り取った鱗を渡す。


「そんな事っ! しなくて良いから! あぁっ何やってんの!」


 リコは血の滲む患部を見て鱗を戻すと[治療薬]をかけくっつける。


「次またこんな事したら治してあげないからね!?」


 そうしてグリグリと患部を押さえつけなでる。


 ヤツノは眉を下げ首を傾げリコの顔を見ながら言った。


「リコ様は、変わった人間なのですね」

「それ、昨日も言われた」


 リコは、そう言って[魔眼抑制眼鏡]を渡す。


「それをかけると、魔眼の効果が無くなるから、ヤツノが辛い時はかけな?」

「常にかけていろ。とは、言わないのですね?」

「んえ? なんで?」


「・・・リコ様、少し、質問しても良いですか?」

「? 良いよ? なんでも聞いて? その代わり、私の事はリコ。と。様はいらない」


 リコは向いの椅子に座り直し、パソコンに【鑑定】の結果を入力する。

 ヤツノは、その様子に少し笑って、静かに話し出した。


「この国の神は、子供を育てない奴等が子供を産むのを歓迎するくせに、子供を殺すと「神からの罰がある」と、殺した者を、犯罪奴隷にするんですよ」


 ヤツノは微笑みながらそう言うと、「リコ、の、国ではどうだったのですか?」と聞いてきた。


「私の国では、大人も子供も関係なく殺人は重罪。禁錮懲役刑だよ」

「禁錮懲役刑?」

「自由を奪って牢に閉じ込め仕事させるの。最悪死刑」

「なぜ、全員死刑にならないのですか?」

「わかんない。殺した人数によって? なんか色々あるんだろうけど、詳しい事はわからないな」

「人数。リコ様の国にも、たくさん殺す者もいたのですね」

「そう多くはないけど。いる事はいたな」

「なぜ殺すのでしょうね?」

「人それぞれだと思うよ」

「そんなに様々な理由で、人は人を殺すのですね」

「なんなら全員、理由は違うのかもね」


 リコがそう答えると、ヤツノは目に魔力を込めて、魔眼(審美)でリコを見る。


「では、なぜ殺してはいけないのでしょう?」


 静かに、魔力のこもった声で質問する。

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