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「不思議体験」2

2/2




 シロは、イナバの中に戻ると、「リコのおかげで、もう神殿には行かなくて済むのでしょう?」そう言って“2人”でリコを見た。


「うん。全然行かなくていいよ」

「ありがとうリコ。「いつか神様の罰がくだるその時までは一緒にいよう」うん。お姉ちゃん」

「あ、ないない。罰なんか無い」

「「え!?」」

「だってシロもイナバ何にも悪いことしてないじゃん。なんの罰よ? って話よ」

「私は、魔眼で人を狂わせるって。その罰があたるから、これ以上罪を犯さないようにって目を焼かれたの」

「ん〜? それなんだけど、イナバ、本当に魔眼だった? 誰に言われたの?」


 魅了の魔眼はパッシブ効果だったはずなのに、リコはイナバに見られても、全くピリッともしないのを訝しんだ。


「ラヴァル神官長様に」

「またそいつか。私【鑑定】で、人の能力を見ることができるんだけど、イナバのことも【鑑定】してもいい?」

「え、いいけど、何か、痛いこと?」

「え、なんで? 見るだけだよ? イナバに痛いことなんかしないよ」

「「じゃぁどうして聞いたの?」」


 2人が口をそろえて言う。


「え、イナバの能力はイナバだけのものよ? 勝手に盗み見るのは悪いことでしょう? あれ? 違うの? こっちでは勝手にスキル鑑定とかしていいの?」

「リコ。アナタちょっとおかしい」

「シロ辛辣。でもそれよく言われる。良い? イナバ」


 リコはシロとイナバの言葉を聞き分けてきちんと対応した。


「良いです。見てみて」


 イナバは眉を下げてそういった。



 [表示ステータス]

 イナバ14才♀  称号[-]

 種族:兎人(俊敏 高聴力 多産)

 スキル:【魔性】【魔術操作】

 魔法:〈無属性〉

 加護:姉星の影(姉のレイスが取り憑いている)

 職業:-

 状態:栄養失調



「あぁ【魔眼】じゃないけど【魔性】ってのがあるな。目は関係ないみたいだよ?」


 イナバ達には見えないモニターをスクロールさせながら「イナバって何色が好き?」と、リコは聞いた。


「え? え?」

「イナバが好きな色は白」


 驚くイナバに、シロが代わりに答える。

 リコはフフと笑って、小さな丸いムーンストーンのチャームのついたネックレスを【買付】ると、金糸で細かい植物のモチーフに似せた魔法陣を描く。


「はい。[【魔性】スキル抑制ネックレス]これつけとけば大丈夫」


 そう言って、無造作にネックレスをイナバに渡す。


「魔法付与付きのアクセサリーなんて」


 シロが驚いて、リコを見る。


「あ、そうゆうの無しで、気にしないで。私、魔法付与師なの。いくらでも作れるから気にしないで」

「キレイ」


 イナバはネックレスをまじまじと眺めた。


「・・・つけてあげる」


 シロはそう言って、イナバの身体に戻ると、器用に身体半分だけ出してイナバの手を使ってネックレスを後ろでで留めた。

 リコは、姿見を出して、「部屋の明かり、つけても平気?」とシロに聞いた。

 シロは、シュルリとイナバに引っ込むと「大丈夫」と答えた。

 リコが天井の照明をつける。


 明るくなった部屋で、イナバはベットから起き出し、ネックレスに手を当てて鏡の中を覗き込むと「わぁ!」と声をあげた。


「服を変えてもいい?」

「え?」


 リコの言葉にイナバは聞き返したが、リコは、フフと笑って、持っていたスプーンを掲げる。


「不思議の国のアリスになぁれ〜〜♪」


 おかしな節をつけてリコが歌い、くるりとスプーンを回す。

 水色のワンピースに白いエプロンがイナバに着せられた。


「わ、わぁ!」


 イナバが、驚いて、スカートに手を当てる。

 クルクルと回りながら、鏡を見る。

 リコは、魔法で脱がした貫頭衣をハンガーにかけ、ベットの天蓋かけに吊るす。


「さぁ、お粥、食べちゃおう?」


 そう言うと、スプーンをふって、今度は水色と白のシマシマジェラピケに着せ替える。

 イナバはそれも鏡で見たあと、ベットに戻って、リコの隣でパン粥を食べた。

 リコは照明を落とし、水色のワンピースはハンガーにかけて貫頭衣の横に吊るす。

 イナバと同じジェラピケを着たシロがニュルリと姿を現し質問した。


「リコが古の魔女様なの?」

「違うよ? ピチピチの19才。魔法使い。職業は魔道具職人兼商人。ズンダダンジョンで、冒険者相手に生活雑貨を売ってるの。お店の名前は[雑貨屋ぼったくり]」


 フンスと鼻息を吐いてリコが胸を張ると、「聞いたことがないわ」とシロが言う。


「内緒だもの。その店に来られる冒険者だけの秘密よ」

「本当に? 商人なの?」


 イナバの問いに、リコは「本当よ」と笑って答えた。

 これは名刺的な物を作っておいた方がいいな。とリマインダーに書き加えた。



 イナバに、照明のスイッチや、トイレの使い方を教えて、洗面台で歯も磨き、部屋に戻ってベットに入る。


「イナバよく眠って。シロ、後よろしくね? 何かあったら、あ〜シロって私を呼びに来れるの?」

「正気でいる為にはイナバの身体から全て出る事はできないわ。せいぜいこのベット周りぐらいよ」

「ありゃ、んじゃ、何かあったらこのお(りん)を鳴らして? 私が気づかなくても、子供達の世話をお手伝いしているゴーレムがすぐ気づくわ。良い? 朝ごはんになったら声かけに来るから」


 リコの過保護に気づいたシロが答える。


「リコ、アナタやっぱり変わってる」

「よく言われる。おやすみなさいまた明日。いい? ちゃんと寝るのよ? 明日もあるのだから」


 リコは、「きっともう大丈夫だからね」と笑って、天蓋をおろす。


「「おやすみなさい」」


 2人は笑って答えた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 自室に戻ると、パジャマ姿でイビルちゃんを握ったリュコスが、こちらに歩み寄る。

 リコは、リュコスに抱きついて「ありがとう信じてくれて」と、リュコスの胸に顔を埋めた。


「胸が、張り裂けそうでした」


 リュコスはイビルちゃんを解放するとリコを強く抱きしめる。


「うん。ごめん」


 リコの答えに、フーッとリュコスが息を吐く。


「だからごめんて」


 リュコスは身体を離すと、眉を下げて叫ぶように言った。


「レイス! アンデットの上位モンスターです! ですがリコ様なら簡単に排除できたはずでは!? それなのになぜ!?」


 リコの腕を手に取り袖をめくって確認すると、解放されたイビルちゃんも、ポコポコとリコの頭を蹴った。

 袖はボロボロに切り裂かれているが、肌には傷ひとつない事に安堵する。


「レイスって言ったって、イナバのお姉ちゃんだもん。勝手に除霊? するわけにはいかないでしょうよ。シロって言うんだって。凄いね?」


 まるで他人事のように、感心しながら【錬金錬成】で服を直す。


「知ってますよ!? 観てましたから!?」


 リコの物言いに、リュコスはいよいよ怒りを露わに叫ぶように言う。


「攻撃を許し、その上憑依させるなんて何を考えているんですか!?」

「いや、悪意があったわけじゃないんだから、大丈夫なのはリュコスにもわかってたでしょ? 結界の中なんだから?」

「わかりませんよ! 攻撃された後、結界から弾き出されても、手遅れの場合もあるんですよ!?」

「じゃぁリュコスは見てない方がよかった?」

「良く無いですよ!? そうゆう問題じゃない!」

「じゃぁ何が問題なのよ!?」

「リコ様が、自分の身を犠牲にして危険な事をした事が問題なのです!」

「危険じゃなかったでしょ!?」

「それは結果論でしかありません! バコニー様が怪我した時の事を忘れたのですか!?」


 ウグっとリコは言い淀む。


「モンスターの危険度なんか、知らないもん」

「でしょうね。リコ様は非戦闘員ですから。それなのに! 戦闘に持ち込んだ! 明らかに、途中でレイスを挑発しましたよね!?」


 リュコスの言葉にリコはまたしても返事に詰まる。


「シロをレイスと呼ばないで」

「リコ様!」

「信じてもらうためにはああするしかなかった。シロは凄く怒ってたし、私は他に誰も観てないし聞いていないって、最初から嘘をついていたんだから」


 客間の扉のゴーレムと、リュコスの頭の上にとまっているイビルちゃんがギクリとして瞬きをする。

 今度はリュコスがウグっと言葉に詰まった。


「だから、ごめん。リュコス。心配させてごめん」


 リコがもう一度リュコスに抱きつく。


「それでも、もうしない。とは、言ってくださらないのですね?」


 リュコスはリコを抱きしめ返し、深いため息をつく。


「ごめんリュコス。だからもう許して? もう一緒に寝よ?」


 リコはリュコスの首元に、スリリと顔を擦り付ける。


「おかしな謝罪の仕方をしないでください!?」


 イビルちゃんがリコの真似をしていつものように、リュコスの顔にグリグリとふわふわボディを擦り付ける。

 リュコスはリコを抱き上げると、ベットに運び、ポイっと転がした。

 自分はベットの淵に座ると、深いため息をつく。


「やっぱり、観てない方が良かった?」


 モゾモゾと布団に潜りパジャマに着替えると、リコはリュコスが入れるよう布団を持ち上げてそう聞いた。


「いえ、ああすれば、俺が助けに行かないと、信じてくれて、ありがとうございます」


 リュコスが振り返ってそう言うと、リコは布団を閉じてリュコスに背を向けた。


 リコの耳が赤くなっている。

 リュコスは布団に入って腕を差し入れ、背後からリコを抱きしめ囁いた。


「おやすみなさい。リコ様。今夜はしっかり眠って」


 リコが、自分の腕の中で、いつもと同じように穏やかな寝息を立て始めた頃、リュコスはイビルちゃんを使って、客間での一部始終を見聞きしていた時の事を思い出していた。


 話の流れから、リコが【隠密隠蔽】を使ったであろう時、画面からもリコの姿が消えた。

 イビルちゃんは焦って、何度も目をぱちくりさせていたが、今行ったらリコの企みを全て台無しにしてしまう。

 だからもう少し様子をみよう。

 そう判断し、覚悟した時も〈ペイン〉は発動しなかった。

 モニター越しとは言え、主人が危険な目に遭う事はレイスの単語が出た時に予測できた。

 案の定、姿を現したリコは、レイスの攻撃で腕を切りつけられ血を流している。

 にもかかわらず、それでも動かないでいる自分の胸の〈ペイン〉は発動しなかった。

 リュコスは、視聴中何度も首輪に手をやるが、そのたびに触り慣れた感触が返ってくる。

 リコ様は、俺の主人ではないのか?

 新たな不安が、リュコスを包む。


 では、俺の今の主人は誰だ?

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