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「声を出したら」2

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 レトとアマルとサラは子供だけでの入浴になるが、イビルちゃんにお願いして、ゴーレムのラィちゃんにしっかり監視してもらう。

 どうやらミミちゃんは脱衣所で待機のようだ。ミミックは水が苦手らしい?

 男子組はワイワイとお風呂を堪能しているようで楽しげだ。何よりだ。

 リコは、リュコスと2人で夕飯の準備をする。


「うまくいってよかった」

「あの神官は、結局ダンジョンまでついてきてどうするつもりだったのでしょう?」


 リュコスが眉間にシワを寄せたまま先程のことを疑問に思う。


「謎だよ。なんか叫んでたけど、まさか連れ戻すこともできないでしょ?」

「生活の面倒を見ていたわけでも無いですし、契約が解除されたら全くの無関係な赤の他人の関係です。不可解です。人目もありますしあそこで捕えたとして、どうするつもりだったのでしょう?」

「ねー?」


 夕飯の料理は済んでいるので、テーブルセットはリュコスに任せて、リコはイナバが目を覚ました時用のミルクパン粥を煮込んでいた。


「蜂蜜入れて甘くしちゃろ」


 ひと匙すくうとリュコスに「あーん」と味見をしてもらう。


「お、美味しいです」


 リュコスは大いに照れながらそう言った。


「イイね。私、イナバについているからみんなで夕飯先に食べちゃって。扉つけてないから、一緒にいる間はこっちに[防音]の魔道具置いとく」


 気にしないで楽しく食べろ。と、子供達に食事を取らせる事を促す。


「そんなに危険な状態なのですか?」


 リコは、顎を引いて眉間にしわを寄せると「目が覚めて、見知らぬ部屋で1人だったらかわいそうじゃん」と言って、リュコスを非難するように見る。


「・・・わかりました」

「なぁに? 寂しいの?」

 

 リコが揶揄うように言うと、薄目でリコを見て「さみしいです」とリュコスは言った。


「何言ってんの! 大人でしょ!」


 リコはリュコスをバシバシ叩くと、真っ赤な顔でお粥の鍋を【収納】した。


「プリンは一緒に食べるから、シチューは先に食べさせといて。ゆっくりよく咀嚼して食事させてね。ゆっくり! ね?」


 照れ隠しのように顔を赤らめて言うリコの注意に「わかりました」リュコスは満面の笑みで答えた。




 ベットの傍に座って、イナバの薄汚れた布面をとる。


「あぁっ」


 顔に、深い火傷の痕、これは目が開かないように焼きやがったな。

 リコは動揺しないように、深呼吸して気合いを入れる。

 頬は落ち痩け、唇もカサカサに乾いて割れている。

 リコは、治癒薬を布に染み込ませて、そっと唇を拭う。

 唇はポワッと光って潤いを取り戻した。

 試しに、完全回復薬で火傷痕を拭ってみる。

 光は発せず。傷痕もそのままだ。


「[錬金術師の手記]に書いてあった通りだな」


 『完全回復薬の復元効能は、本人の同意がないと元の状態に回復させることができない』


「やっぱ色々万能では無いなぁ」


 ブツブツと呟きながら、いつものように思考の渦に飲み込まれていく。

 [個体認識]をあらかじめしておいたりしてもだめなのかなぁ。子供だけでも強制的に治療する事に同意させておくとか? こればっかりはやってみないとわかんないぁ。

 意識がない状態だと、外部から確認する事ができないのだ。

 最初にリュコスに遭遇した時、探索に存在が引っかからなかったのも、そのせいだったのではと、推測していた。

 生きたい。治したい。と言う本人の強い意志が無いと、一般的な治療薬では、例えば切り傷を塞ぎ、出血を止める事はできるが、既にできてしまっている傷痕を消す事もできない。

 リコは、スマホのリマインダーに『みんな分の[全状態異常完全回復薬][個体認識]済みをストックしておく』と入力しておく。


 飲み屋さんのボトルキープみたいに店の棚に飾っておこうかな。

 フフ。

 そんな妄想で、リコは笑う。

 気を取り直して、イナバの手を取り、小さな指先を[治療薬(大)]で湿らせたコットンで磨いていく。

 でこぼこの爪や、ささくれひび割れた指先が治っていく。


「あぁ、細い。軽いなぁ14歳ってこんなだったかなぁ」


 丁寧に優しく布で磨く。

 指先がツヤツヤに整っていくのを見て、平和なふりをする。って日本の在り方は、その場にいた大人達の精一杯の最適解だったのかもしれない。と、リコは思い至る。


「子供が、腹一杯食える世界かなぁ」


 リコは独りごちる。

 世界平和ってなんだろう。

 戦後の日本人は何をどう頑張っていたのだろうか。

 良い世の中ってなんだろう。

 壮大すぎて、考えれば考えるほど気持ち悪くなる。

 せめて、自分の目に見えるものだけなんとか。

 それだってきっと、もっと強い力が必要になるんだ。


 考えろ。


 考えろ。


 自分の今いる世界をより良くするためには何が必要だ?


「・・・コ様。リコ様」


 リコが身を起こすと、隣にリュコスがいた。

 どうやら眠ってしまっていたらしい。

 握っている手をそのままにイナバを見ると、未だ スウスウ と寝息を立てている。


「風呂で清掃を済まし、食事が終わると、皆、眠気が限界だったので、プリンは食べずにそれぞれ寝床で眠らせました。詳しい話は翌朝にしては。と思いまして」


 そう言って、シチューの乗ったトレイを差し出した。


「そうね、それでよかったかも」


 リコはそう言って手を離して体を伸ばし、トレイを受け取る。

 時計を見ると20時前だが、そっか、風呂入って満腹になったら子供はもう眠いか。


「皆、美味しい美味しいと言って食べていました。リコ様も、見られたらよかったのに。と思いました」


 リュコスはそう言って、ベットを背もたれに足元に座った。


「どうせ今晩は部屋では寝ないのでしょう?」


 リュコスはリコを見上げる。


「ンフフ。リュコス優しいね。ありがとう」

「優しいのはリコ様です。奴隷になるはずだった子供を5人も救いました」


 リコは、シチューを口に運ぶ。


「美味しいね。上手くできてる」


 リコが言うと、リュコスはニコリと笑って、「ハイ。とても美味しかったです」と答えた。


 イナバの指がピクリと動く。

 リコが、トレイをサイドテーブルの上に置いて、イナバの手をそっと握ると、イナバの体が ビクリ! とはねた。


「こんばんは。はじめまして。私は、リコです。パハン先輩とナカツの友達です」


 リコはそう言って、イナバの手を自分の顔に当てる。

 リュコスが驚いて立ち上がる。


「私の護衛のリュコスもそばにいます。ここは私の家です」


 そう言って、イナバの手を自分の口に当てる。

 イナバが、もう片方の手を踏ん張って、起きあがろうとしたので、手を離して「触るね」と言って抱き抱えると、クッションを背中に入れ、身体を起こしてあげる。

 身を縮めて壁に逃げるイナバの手を取り、自分の口に当てる。


「イナバはもう奴隷じゃなくなったから、怖がらなくて良いよ。もう大丈夫。大丈夫よ」


 リコが言うと、イナバは首を振ってさらに壁に逃げようとする。


「ここは、外から誰も来ることができない魔法がかかっている魔女の家なの。誰もイナバを追って来る事はできないわ。今この家にいるのは」


 そう言って、みんなの名前を上げていく。リュコスはその様子を黙って見ていた。


「イナバは喋ることができない?」


 リコが聞くと、イナバな小さく首を振った。


「声を出すのが怖い?」


 イナバはゆっくり小さくうなずく。

 リコは「じゃぁ、耳を近づけるから、私にだけどうしてか教えて?」と、わざとひそひそ声で話し、自分の口にイナバの親指を当てたまま耳を顔に近づける。


「声を出したら、殺す。と言われた」


 イナバは、掠れる声でひそり囁いた。


 リコは、スー と息を吐きながら、腹に力を入れ気合を入れると言った。


「リュコス、ごめんね、ちょっと、部屋に戻っててくれる?」


リュコスは頷いて、素直に部屋を出ると、寝室に戻りベットに腰掛け項垂れた。


 あの子供もきっと、神殿で自分と同じようなことをされていたのだろう。

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