「声を出したら」1
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昼食の後片付けを済まし、パハン先輩からの連絡待ちなので出かけず、家の中で待つ事にした。
リコは、スケッチブックと色鉛筆を出す。
子供達にわたすと、鉛筆削りの使い方を説明しながら、テーブルの上に置いた[大きな黒いリボン]雑貨屋ぼったくり従業員用制服 をスケッチブックに描いて、色を塗っていく。
ナカツ用に、ゲームに出てくるような剣やハンマーをささっと描いて、『ボクの考えた最強の武器』と銘打ってニヤリと笑う。
「わぁ」
レトが目を輝かせて釘付けになった。
それぞれに文房具とノート数冊をつけて「コレは、それぞれみんなの物。自由に使って」と、スケッチブックと、クロッキー帳、色鉛筆のセットを渡す。
ゲームの武器の画集なんかも出してみた。ナカツがキラキラした目で夢中になっている。フフかわいいなぁ。
「まだ沢山あるから、使い終わったらおかわりしなね」
リコはそう言って、子供部屋に行くと、それぞれの机の引き出しに、同じセットを入れる。
「後なんだっけ? 裁縫セットとかは説明必要だし、絵日記帳は[個体認識]つけたいしなぁみんなそろってからかなぁ」
本棚に、更に図鑑や画集を【買付】足す。
子供って、何が必要なんだろう。
アマルが部屋に来て、増えた本棚の中身に「わぁ」と声をあげると「リコはコレを全部読んだの?」と聞いてきた。
「読んだよ。コレよりもっといっぱい。今は文字の無い本を並べてるけど、文字しか無い本もいっぱいあるんだよ」
そう言って、遠野物語の文庫本を出してみせる。
「根こそぎ持ってきたから、もっともっとたくさんあるんだけど、私の国の本だから、みんな読めないもんね。残念。こっちの本も買えると良いんだけど」
アマルは文庫本を手に取って「本当だ。全然読めないやぁ」と残念そうに言った。
さすがに全部翻訳するのは無謀だな。何かいい方法ないかなぁと、リコが考え始める。
「リコ、ズンダでは、本は手に入らないと思うよ」
「ありゃ? 紙が貴重とかそう言う理由?」
アマルの言葉にリコが聞くと、アマルは首を振った。
「無いの。見たことが無い。本だけじゃなく、ここにあるもの全部見た事ないけど」
アマルが笑ってそう言うので、リコも笑って答えた。
「そっか。塔の上には何にも無いと思っていたけど、ズンダの街の方が何も無かったか」
「マカロニも初めて。お腹いっぱいご飯を食べたのも初めて」
アマルが笑う。
リコはアマルの顔を撫で「私も、こんなな可愛い子供のほっぺを撫でるの初めて」と微笑み返す。
イビルちゃんが、リコに頬擦りする。
アマルも真似してリコの頬を撫で言った。
「リコ、泣かないで」
「泣いてないよ」
「〈ヒール〉」
アマルがリコにヒールをかける。胸が暖かくなる。
リコはアマルの頭を撫でて「ありがとう。アマルは優しいね」と言って、【収納】から、小さく作ったワプスランプを取り出すと、それぞれの小部屋の天井に吊るしていった。
部屋から出る時、吊り引き戸も初めて。とアマルは言った。
「普通の扉より便利だと思う」
なるほど、ミミックに乗ってドアを開け閉めするのはちょっと大変だもんね。
リコは「やっぱりまだまだ知らない事いっぱいある。勉強になるなぁ」と呟いた。
オヤツの時間過ぎちゃったなぁ。
どうしようかねぇとリコが考えているとイビルちゃんが「イー! イー!」と鳴いた。
「キタ! もしもし!?」
リコが、モニターに向かって応答すると、パハンが映って「全てうまく行った。全員でダンジョンに移動している」と、どうやら歩きながらの通信のようだ。何やら切迫している?
「わかった。すぐ1階魔法陣で待ってる。頑張って! 一旦通信切るね」
「わかった。こちらも急ぐ」
そう言って通信を切る。
「みんな着替えて。すぐ行くよ」
リュコスと2人で行く事も考えたが、子供だけでここに残していかれる事も不安だろう。と全員で向かう事にした。
帰りは10人以上、1階のダンジョンの魔法陣は大きいが、店の移転魔法陣を使うのは避けたいし、移転魔法陣ミミックはミミちゃんだけ、しかもミミックの開口部では一度に全員を運ぶのは難しい。
分けるにも、私とリュコスは必ず一緒なので、パハン先輩だけで他の子全員抱えられるのかどうか、子供の大きさがわからない。
そこで[ドアtoドア]だ。
とりあえず、ミミちゃんに魔法陣を出してもらって、こちらは1階の魔法陣で待機する。
新規の子供達を怖がらせないように、ラィちゃんとミミちゃんには、この家で待っていてもらう。
リュコスがアマルを抱くと、ナカツとレトがリコに抱きつく。
「じゃぁ行ってくるね」
リコはラィちゃんに手を振った。
1階に着くと、いつものように一瞬騒めきが止まり視線が集まるが、子供が3人もいると言うのに、市場の皆はすぐに興味を無くす。
ポンチョの[認識阻害]は人間に随分と有効なようだ。
入口の移転魔法陣がある部屋に移動する。
連絡はついさっきの事だ。流石にまだ着いてはいない。
「なんかあったのかな?」
リコが小声でさっきのパハンの様子を訝しみリュコスに聞く。
「尾行がついたのかもしれません」
ルートとしては、
ダンジョンから出て、
→両替所で両替
→回収屋ギルドで説得と子供達をピックアップ
→神殿借金返済
→冒険者ギルドで冒険者タグを作って
→回収屋ギルド尾行が外れるまで待機
→ダンジョン
「だよね?」
冒険者ギルドから即ダンジョンでは怪しすぎるので、一旦回収屋ギルドを挟んだのは、家に帰っただけなのでむしろ不自然では無い。
「尾行の人が諦めなかったって事か」
そうリコが推測し納得する。
17時になったら、ダンジョンの入場手続きが翌朝まで閉まる。
一晩もあれば、悪いこと考える奴らは手段も選ばず対策をとってくるかもしれない。
なんとか速攻一度で成功させたかった。
「ギリギリまで様子見たんだな」
リコが時計を見る。もう17時まで、1時間ちょっとだ。
「来た」
ナカツとレトが耳をそばだてる。
「揉めてる。いつもの門番じゃ無い」
ナカツがヒソリとそう言うと、レトが「ギルド長と、パハン先輩と、大人の男の人が2人」鼻をクンクンとひくつかせて「この臭い。神殿臭い。神官だ。そう言い、続ける。
「『こんな時間から子供達をどうするつもりだ』『即訓練に入ろうと思いまして』『その子らは回収屋にはならないのではなかったか』『ええ、ですが、こちらもただの穀潰しをそのまま飼う余裕もありませんのです。冒険者タグの認証の為にも、とりあえず一旦ダンジョンに入ってしまった方が実績をつけるのに手っ取り早いのでね。何分万年人手不足で』」
レトが内容を、トレースしてくれている。
まだ姿も見えていないのに凄い。リコは感心し、パタパタと揺れるレトの耳を撫でた。
「パハン先輩が中に入った。神官は門番に止められてる。『神官様がたがこんな時間からダンジョンに入るのですか?』『ええもちろん構いませんが神官様でも手続きは必要です』門番仕事してる! ナイス!」
レトが嬉しげに言い伝える。
パハンが2人担いで、その後ろを2人に手を引かれて1人、走ってこっち向かってくるのが見えた。
「お兄ちゃんが担いでいるのは、イナバと1番小さいピオニ」
アマルが声を上げた後、ナカツが「後ろ、テトとサラがヤツノの手を引いてる」と付け加えた。
「リュコス! ヤツノとイナバは目が見えないの!」
アマルが言うと同時に、リュコスはリコにアマルを手渡すと、ナカツがパハンを通り過ぎ、後ろ3人にの元に駆け寄る。
リコが2人に〈身体強化〉を付与すると、ナカツが小さいテトを背負って、残りの2人をリュコスが担ぎ上げ、リコに縋り付くレトとアマルの元に、風のように戻ってきた。
「全員魔法陣に乗ってるね!」
リコが声をあげると、入り口から、神官の衣装を着た男が2人走り追ってくる。
「それをどこに連れて行く!!」
「それは! 俺のモノだ!!!」
何か叫んでいるが、音が割れているような、何を言っているのかわからないが、必死すぎる鬼気迫る表情だけは見てとれた。
その後ろで、小さなお婆さんが、ゆっくり深々と頭を下げているのが見えた。
リコは素早く新たに合流した子供達の冒険者タグのチェーンに[結界強制解除リング]をつけ早口で「ダンジョンでの所作を知らない子達だから間違って結界から弾き出されない対策。後でパハン先輩ちゃんと説明してよね。行くよ! 『19階、移転魔法陣へ』」とパハンに囁いた。
全員は瞬く間に19階のフロアに移転した。
息つく間もなく、そのままセーフルームに走り入る。
「急いで処置室へ」
リコに促されるまま、処置室に入ると、扉のゴーレムに「次に私が来るまで誰も入れないで」とお願いして、リコはアマルを抱いたまま、片手で[ドアtoドア]に[鍵]をさしてドアを開けた。
「さぁ、皆中に入って」
皆がドアを通ったことを確認して、ドアを閉める。
「ぃヨシっっ!」
リコがガッツポーズをした。
小屋はぎゅうぎゅうだ。手が空いているレトに小屋の扉を開けてもらう。
「そんなまさかっ!?」
パハンが驚きの声をあげる。
「「「わぁ!!」」」
ナカツとレトとアマルが歓声をあげる。
イナバ以外の子供達を地面に降ろし、リュコスがリコからアマルを受けとる。
「ヤッター!」
「大成功!!」
「リコ! 凄い! すごーーーい!」
ナカツがピオニとテトと手を繋いでクルクル回っている。
アマルがリュコスの顔にしがみついて、それまでにないぐらいはしゃいでいる。
「キャワワ!」
その様子に興奮して、リコがアマルごとリュコスに抱きついた。
一通り皆の足を洗って全員に〈浄化〉をかけると、家の中に入る。
さっそく各々が子供部屋を案内すると、自分の陣地を決めているようだ。
リコは大体のサイズに合わせて、レトとナカツに全員分の下着とジャージを渡し、風呂に入って着替えるよう指示しておく。
「子供を8人引き連れて、森林フィールドどう踏破するのかと思っていたら、こんな方法があるなんて」
パハンは、扉をつけていない予備の客間ベットにイナバを寝かすと、そうリコに安堵の言葉を漏らし、余分だった金貨の袋を返す。
詳しい内訳は書面にしてあるので後で渡す。と説明した後、話をイナバに戻す。
「イナバは、冒険者タグを作った後すぐ気を失った。どうやらしばらく食事を拒否していたらしい」
袋の中身も確認せず、心配そうにイナバの様子を伺うリコに説明する。
「【鑑定解析】状態:栄養失調 衰弱 だって。そうだよね奴隷になるの怖かったよね。かわいそうに。〈治療〉」
とは言え、リコの治療や回復の魔法は、落ちた体力や失った血液増血などの回復には至らないようで〈健康な状態に戻す魔法〉のつもりだが、どうにも本人の意思が重要なようで、本人の意識が戻るまで回復薬を飲すのはやめておく。様子を見るしかない。と肩を落とした。
あくまで本人の意思が優先されると言うシステム上の何かが、リコ自身の道徳観に引っ張られている。科学的な事じゃなく魂とやらが関係しているのだろう。
強制的に治すことすら傲慢だとブレーキがかかっているような。
「ナカツも沼地で同じ感じだったから、多分大丈夫だとは思うんだけど。私が見てるから、みんなとお風呂、入ってきて。あ、トイレとかの使い方も教えてあげてね。その間にご飯の用意しておくから」
チラリとそちらを見ると、居間では、ナカツとレトとアマルが、リュコスとラィちゃんとミミちゃんにぎゅうぎゅうと抱きついて、恐れ慄く子供達に無害をアピールしている。
「ありゃ、リュコスもか。んじゃ私もまた怖がらせちゃうかなぁ」
リコが笑ってそう言うと、パハンは膝をついて「リコ、ありがとう。ありがとう。ありがとう」と、なん度も頭を下げた。




