「秘密の共有」2
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「さぁ! 十分あったまったね。アイス食べようアイス!」
そう言って湯船から上がると、バスタオルで2人をぐるぐるに包む。
あらかた水気を切って、パンツとスポブラの付け方を教える。
バスローブを着て、鏡の前に座らせて〈温風〉で髪を乾かす。
レトとアマルの髪に、おそろいのリボンをつけ前髪を上げる。
キャミソールを上からかぶせて、ジェラピケのパジャマを着せる。
「あぁっ! かわいい! 写真撮ろう写真!」
「写真?」
リコは、2人を並べてスマフォで写真を撮ると、チェキに繋いで印刷する。
「わぁぁぁぁ!」
「いいじゃ〜ん!」
3人でキャッキャウフフとしながら居間に戻ると、お通夜のような男子組がいた。
「なに? 何かあった?」
「いや、別に、なにという、ことも、その」
パハンがしどろもどろ答えるので、リコがリュコスを見ると、リュコスは、トントンと頭上のケモ耳を指差した。
なんだろう?「アイスの準備をするね」と、台所のほうにリュコスを呼ぶと、リュコスは、ナカツとさっきの「羨ましい」と言う魔眼や魔剣の話になったと。
それについては、黒豹族は希少種。充分貴重で珍しい。他者を羨ましがる前に自覚を持って気をつけろ。と、パハン先輩が諭していた。と説明する。
「その流れで、以前の姿と、違う事をナカツに指摘されました」
「あちゃ、何て答えたの?」
「気のせいだ。と」
「押し通したの?」
「はい」
「で、ナカツが拗ねてんの?」
「そのようです」
ブフっと、リコが吹き出す。
「パハン先輩の手前、追求することもできないようです」
スンとした顔で答えながら、リュコスはトレイにリコの出したハーゲンダッツを並べる。
「意地悪だなぁリュコスは。フフフ。ねぇ、リュコス、ナカツを甘やかしてあげてね」
「甘やかす?」
手をワキワキしながらリコは説明する。
「可愛がる? あれ? なんて言ったら良いんだろう? こう、優しくするともなんでも願いを叶えてあげるとも違うな。子供の頃に、こう、って、あぁっ自分がされたことないと、言語化が難しいな、こう、リュコスが狼の時、私にしてくれてるみたいに、こう〜」
カッ! とリュコスの顔が赤面する。
「あ、そうね、リュコス、アイス何味にする?」
「え、あ、この、白いので」
「はい。バニラ。リュコスに1番に選ばせてあげるね」
リコはシナを作ってバニラアイスを差し出すと、首を傾けにっこり笑った。
リュコスの瞳孔が開く。
「こんな感じ?」
「い、いまいちよくわかりませんが!?」
「そうだよね。なんか違う気がする?」
リコは首を傾げて考え込む。
「子供はね、大人に甘える権利があるはずなのに、この子達はそれを使わない。それは後から大きな呪いになる。私やリュコスのように」
リコがリュコスを見る。
「・・・自分が、子供の頃に、してもらいたかったことを、すれば良いのでしょうか」
「そう、それだ! 本当はパハン先輩にもそれがまだ必要なのかもしれないけど協力してもらおう」
ニヒ! と、リコが笑うとイビルちゃんがくるくると嬉しそうに飛び回る。
「それで呪いが解けるのですか?」
とリュコスが聞く。
「多分ね」
とリコは答えた。
「さぁ! これがアイスクリームだよ〜!」
リコがトレイをテーブルに置く。
リュコスは、ライダーゴーレムからアマルを受け取って、パハンの膝の上にのせた。
驚くパハンとアマルをよそに、自分もパハンの隣に座ってナカツを膝の上にのせた。
「「「??」」」
リコは「フハッ!」と笑って、みんな好きなの選んで。と、アイスを選ばせる。
リコも、パハンを挟んで隣に座り、レトにポンポンと膝を叩いてみせると、レトは照れくさそうにリコの膝にすわった。
リコはグリグリとレトの頭に頬擦りして「アイスはこうやって食べるの」と堂々と嘘をつく。
ドギマギしながら、リコに倣って、みんなで蓋を開け、内蓋を剥く。
スプーンですくって口に入れ「んん〜うまぁ」リコがアイスを噛み締めると、みんなもそれに倣って口にスプーンを入れた。
「「「「!!!」」」」
みんなのリアクションに、満足げなリコ。
2回目のリュコスも、フっと美味しそうな顔をする。
「冷たい!」
「甘い!」
「美味しいぃ!!」
膝の上にいる照れ臭さも忘れて、途端にみんなアイスに夢中になる。
「少しづつよ。いっぺんに食べるとお腹壊すからね。少しづつ口に入れなー」
リコが二口目を口に入れながらそう言うと、皆でウンウンと頷きながら、ワイワイとアイスに食いつく。
「美味しいね!」
「みんな味が違うの?」
「そっちは何味?」
パハンが、アマルを撫でる。
アマルが、はにかみながら、パハンの手に頬擦りすると、嬉しそうにアイスを食べる。
おもえば、自分は多少なりとも母にこうして甘えていた時期があったのに、アマルにはこんな事をしたことがなかった事に気がついた。
「これは特別なお菓子で、大人が子供のいる前でアイス食べたいときは、こうやって子供を抱っこしてしか食べちゃいけないんだよ〜」
とリコが笑う。
リュコスは、ナカツに自分のアイスののったスプーンを差し出す。
ナカツは、驚きながらもそれにパク! と食いつくと「味が違う!」と喜んだ。そうして自分のスプーンもリュコスに差し出す。
リュコスはそれを口に含んで「美味しい」とナカツに微笑んでみせた。
「ヒィ! 死ぬ! 尊死する!」
リコが叫ぶと、レトが「死んじゃダメ!」と自分のスプーンを差し出した。
リコもそれを食べ「はぁ、危なかった! 生きる!」とレトに微笑んだ。
みんなで、わちゃわちゃしながらアイスを食べる。
生きるのは辛い事が多い。
でも、この時間が、少しでも長く続けと、願わずにはいられない瞬間が、ほんのひとときでもこの子達の毎日にあれば。
せめてどうか、自分で自分を呪うような事が、少しでも無くなってくれれば。
リコは祈るようにギュッとレトを抱きしめその柔らかな頭皮に頬擦りした。
子供達に、丁寧な歯磨きの仕方を教え、布団に入れる。
色々なことは明日から。と、とりあえず今晩は寝かしつける。
皆、瞬く間に眠りについた。
大人組は、居間に戻って、少し話しをする。
「こんな風に、アマルと過ごした事が、今までなかった事に、気がついた」
パハンが、神妙な顔で礼を言う。
「ありがとう」
そう言って少し笑うと、うつむいて、ぐっと下唇を噛む。
「どうやって、このご恩に報いれば良いのか」
ジワリ、と目に涙が浮かぶ。
リコが、困った様に笑い、パハンにみんなの【鑑定】結果を書き出した紙を差し出すと、リュコスが頭のカチューシャを外した。
銀髪の本来の姿に戻ると、リコの隣に座り直した。
「パハン先輩、その、ごめんね。隠しておきたいんだろうけど、その、見えちゃって」
そう言って、レポートの[称号]の部分を指差した。
パハンは驚いて、レポートを食い入るように読むと、ふぅと、深いため息を吐いた。
「廃嫡を宣言された身としては、複雑なのですが、加護まであるのですね」
母を蔑ろに扱っていたあの男の息子である事すら疑っていたのに、幼い子供に去勢させてまで神聖契約を結ばされなかった理由に合点がいった。
「これでは、リコの能力は《神》以上なのかもしれません」
自分の鑑定は神殿ではなかったが、神殿の《神聖遺物》の鑑定でも、ここまで詳しくは表示されない。とパハンは言った。
「あるいは、神殿での鑑定は、皆に隠されている可能性があります」
リュコスは、わざわざ子供を攫ってまで獣人の尾を切る理由を挙げて、神官達の所業を非難するかのように言った。
「その《福音》とか言うスキル授与の、儀式? みたいなのは、人間にも適用されているんだよね?」
「はい。俺が知っているのは王都と、ズンダの事だけですが。神殿の手の及ぶ街では皆このような儀式でランク付けされています」
どこの街にでも神殿があるわけではないので。とパハンは付け足した。
「あのね、秘密の共有ってわけじゃないんだけど、もちろんパハン先輩の事は誰にも言わないつもりだけど、私達のことも黙っていて欲しいの」
リコは、リュコスの姿を偽っている経緯を告白した。
「契約上、ダンジョンの中にいる間は、リュコスはある程度自由でいられるから。でも、冒険者の中にはリュコスの事を知る人がいるかもしれないでしょ? 鎖の件もあって、私達は必ず2人一緒に行動する制限があるの」
「それでダンジョンに籠っていると。理解しました。俺も、誰にも言いません。コレはギルドの連中にも黙っています」
パハンは言った。
「約束します」
小指をテーブルの上に出してリコを見る。
リコはその小指ごと手を握ると「その必要なない」と首をふった。
「ありがとう。パハン先輩。私たちも約束するわ。絶対に信頼を裏切らない」
リコはそう言って、「これから私達は、いずれ外に出る準備をしていくつもり。だから、改めてお願いするね。私達に協力して欲しい。代わりに、パハン先輩も何も引け目を感じず、私達にできる事があったらなんでも言ってね」パハンをみつめてその手をギュッと握った。
レポートの結果を子供達に見せても良い内容に添削してもらう。
正式名称と称号、加護の部分は削除することにした。
ついでにナカツの結果も書き出す。
[表示ステータス]
ナカツ10才♂
種族:黒豹人希少種(器用 俊敏 怪力)
スキル:【気配察知】【隠密】【魔術操作】
魔法:〈闇属性〉
職業:回収屋見習い
状態:健康
「希少種」
パハンが渋い顔をする。
「獣人の希少種は、貴族の愛玩奴隷として、秘密裏に高値で取引されている。獣人達の間でも問題にされているが、契約されてしまえば、こちらにできることは無いのです」
ギルドにも、回収屋にならない子供達がいて、そのうち5人が赤子で、他5人は既に奴隷契約されてしまっている子供がいる。と悔しげに話した。
「わかった。その子達、全員レスキューしよう」
リコはそう宣言して、詳しくは明日。と、話を切り上げ、無理やり就寝する事にした。
部屋に戻って、狼になったリュコスの腹の上でリコが話す。
「外に出るために、敵対する奴らとは徹底的に戦う。そのためにまず仲間を増やそうと思うの」
「仲間を増やす?」
考えがある。リコはそう言って「お金を、稼いで、土地を、買う」と、いつものように、眠ってしまった。
リュコスには、どうゆう事か全く予想がつかなかったが、以前の様な不安が起こらず、いつもより安らかな気持ちで微睡に身をまかせた。




