「秘密の共有」1
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夕食後、お風呂に入る前に[完全回復薬]の摂取を済ませてしまおう。とみんなに声をかける。
「パハン先輩は? 本当は角があったりしないの?」
「・・・飲み薬と言うことは、飲むと身体全ての欠損を治療してしまうのだろう?」
リコの問いに、パハンが何かを言い淀む。
「治したくない傷痕でもあるの?」
リコが、厨二病的な? と気軽に聞いてみる
「いや、実は、その、俺が、自由にしていられる条件の一つに、絶対に、子を成さない。と言うのもあって、認めさせるために、その、去勢されている」
「そんなもん! 治してしまいなさい!!」
マナが揺れ、ビリビリとした空気が肌を刺す。
「リコ!? 落ち着いて」
レトが慌てて声をかけるが、子供達はいまいち意味がわかっていないみたいだ。
「馬鹿じゃないの!? 一体何考えてるわけ!? 親? お父さんがそんなことしたの!?」
「いや、違う、父の周りの者達が。その、父は知らぬと後で母から聞いた。母にも知らなかったと、泣いて、謝られたのだ」
「あぁ!? ふざけんじゃないわよ!? 親が聞いてあきれるわ!? 何? 親って、そんな無関心なことで良いわけ!? そん時パハン先輩何歳よ!?」
「リコ様。それでも他人様の親です」
リュコスの呼びかけで我に返るが、リコの暴言に、パハンが何か酷いことをされたのだと子供達も察したのかアマルの顔が曇る。
「あっごっごめん。その、なんか、こっちの人って気軽に体の一部を欠損しやがるなってずっと頭に来てて。その、ポーションとか、魔法があるせいだと思うんだけど、ごめん。ウチの国では違法だったから、腹が立って。ごめん。アマルとパハン先輩の親のなのに、私、関係ないのに。本当にごめんなさい」
リコが慌てて謝ると、レトがガバッと抱きついてきた。
「そうだよ! 関係ない! 関係ないのに!! リコは関係ないのに、怒ってくれる! リコは、リコは全然、何も悪くないのに、ごめんて、いつも、ごめんて言わせて、ごめんなさいっごめんなさいっっ! うぅっ! うわぁぁん!」
「あぁっレト、レトごめん、ごめんね。うぅっごめんっ」
「うぅっリコ泣かないでっうわーんっ」
「ごめんなさいっごめんなさいっうーっ」
ナカツとアマルも一緒に泣き出した。
「「「「ウワァァン!」」」」
抱き合うリコ達を、リュコスとパハンがしょっぱい顔で眺める。
リュコスは、パハンに言った。
「神聖契約をしなかったと言うことはそいつらの目的はただの嫌がらせだ。パハン先輩は治した方が良い」
「・・・俺は、自由に生きていいんだろうか」
パハンから、ポロリとこぼれた言葉を拾い、リュコスは首を傾げて思いを告げた。
「パハン先輩は、誰の奴隷でもない」
パハンは、ハッとしてリュコスを見る。
リュコスは、目を細めて手を伸ばし、パハンの頭を撫でた。
「身体を治せば強くなる。妹を守るためには角があったほうが良いのだろう?」
「そう、そうだよ。獣人の部位欠損は人間の恐怖とクソみたいなエゴだ。私は絶対に許さない。治しちゃったほうが絶対に良いよ!」
「「「わぁぁぁん! リコ、ありがとう! ありがとうリコ!」」」
「ナカツっレトっアマルぅっ!」
再び4人でぎゅうぎゅうと抱き合う。
リュコスはやれやれと、堂々と胸に顔を埋めるナカツをリコからひっぺがした。
パハンは、その様子に微笑んで、頭を下げる。
「リコ、リュコス、ありがとう。金が貯まったら、必ずまた来ます。その時にはよろしくお願いします」
「え、ああ、お金いらないから。もうはっきり言っちゃうけど、これ、いちから私が作ってるの。在庫も山ほどあるし、材料さえあれば簡単に作れる」
リュコスが眉間を抑える。
パハンは開いた口が塞がらない。
「回収屋で他にも欠損を治したい獣人がいたら、子供を連れてくる時一緒に来たらいい。優先的に治してあげる」
「「「「エェッ!?」」」」
「切ったのが人間なんだもの。人間の私が治したって誰にも文句は言わせないわ」
リコが、フンスと鼻息を吐いて胸を張る。
「さぁ、聞くよ2人とも。欠損を治したい?」
「治したい!」
「治したい、です」
レトとパハンが答えた。
「じゃあ大丈夫だ」
リコはそう言って、[完全回復薬]とペンを渡す。
「2人とも、自分の名前を書いて一気にそれを飲み干して」
2人が瓶とペンを受け取り、封をしている紙に名前を書くと、瓶がポワッと光を放つ。
封を破って蓋を開けると、それをぐいっと飲み干した。
光の粒子が2人を包む。
レトには髪色と同じ長くてフサフサの尻尾が、パハンにはアマルに似た角が復活した。
「リコ!!」
レトがリコに抱きつく。尻尾がブンブンと振れている。
「フフフっカワイイねぇレト。2人とも健康状態を見てもいい?」
「見る? とは?」
自分の角に触って感触を確かめながらパハンは聞いた。
「私、スキルで人も鑑定できるの」
「え!?」
「はぁっ!?」
「健康状態のテェックしたいから【鑑定】してもいい?」
「あ、あぁ、もう、任せるよ」
レトは訳がわからない。と言う感じだったが、パハンは何か驚き呆れたように了承した。
「じゃ、失礼して【鑑定解析】っとな」
[表示ステータス]
レト10才♀ 称号[-]
種族:鬣狼人(五感卓絶 高持久力)
スキル:【魔眼(捕獲)】【偵察(気配遮断)】【追尾追跡】【身体強化】【魔術操作】
魔法:〈水属性〉
職業:回収屋見習い
状態:健康
[表示ステータス]
パハン17才♂ 称号[王の息子]アイギパーン・キングス・ロウエン・トールキン
種族:黒山羊人(五感卓絶)
スキル:【魔眼(魅了)】【身体強化】【魔術操作】【隠密】【混乱】
魔法:〈闇属性〉〈火属性〉
加護:王族の冠(不正契約無効)
職業:回収屋 王国特令部隊長
状態:健康
「えっ!?」
「な、何か問題が!?」
「い、いや、ついでにアマルのも見てもいい?」
「いいよ?」
[表示ステータス]
アマル7才♀ 称号[王の娘]アマルティア・キングス・エミリア・トールキン
種族:黒山羊人(五感卓絶)
スキル:【隠密】【魔術操作】【育成】
魔法:〈光属性〉〈闇属性〉
加護:王族の冠(不正契約無効)
職業:回収屋見習い
状態:健康
「ファーーーー!?」
リコは、パハンとアマルの[称号]に驚愕した。
「なんだ? どうした?」
「いや、なんでもないなんでもない。みんな健康! 良かった! そうだ、2人とも【魔眼】でてるよ。大丈夫?」
「「【魔眼】!?」」
「あ、うん。レトが(捕獲)で、パハン先輩が(魅了)だって。ありゃ(魅了)はパッシブなんだっけか?」
そう言って、リコが伊達眼鏡を【買付】ると、[魔金インク]で魔法陣を描き〈スキル抑制〉を付与する。
「はい。[魔眼抑制眼鏡]」
「はは、そんな、簡単に」
パハンはヘナヘナと膝から崩れ落ちた。
リュコスがリコから眼鏡を受け取って、さっさとパハンにかける。
「力を、コントロールできるようになるまでは、着けておいたほうが良い」
そう言って、パハンの角を興味深そうに触っている。
「【魔眼(捕獲)】ってなんだろう? レト知ってる?」
「知らない。どうしよう」
レトが、不安げにリコ達と目を合わせないように、リコの腹に顔を埋めた。
「ンハァ何それ可愛いなぁ。大丈夫よ。見つめてみて?」
「え?」
「状態異常を無効化スキルがあるから多分大丈夫。【鑑定解析】してみるからちょっと使って見てみ。パッシブスキルじゃないみたいだから普段通りにしてて大丈夫よ。使うには他のスキルを使う時と同じよ。わかる?」
「・・・うん」
レトはリコを見上げて魔力を込める。眉間にシワがよる。
リコは「フフ」と、レトの眉間を撫で伸ばす。
「お、なんかピリッとしたよ! 凄い! スキル使われたのがわかるようになってる便利。どれどれぇ【鑑定解析】っと、『【魔眼(捕獲)】ひと睨みで獲物を硬直状態にする』だって。へぇ便利」
「えぇっなんだよそれ! ズッリィ!」
「ズルくないもん!」
そのまま、思わずレトがナカツに目を向けそうになるが、「〈威圧〉や〈威嚇〉の上位互換でしょうか? 狼種特有の狩特化スキルですね。聞いたことがあります」リュコスはそれを阻む様に声を掛け、ナカツの頭を抱き込む。
「へぇ! そんなのあるんだ! 凄い! やったじゃんレト!」
リコはそう言って、両手でワッシャワッシャと頭ごと耳を撫でレトの顔をリコに向けさせ、一頻り褒めてから、良い? よく聞いて。と話を続ける。
「凄いスキルだけど、これは相手の自由を奪うスキルよね?」
「・・・うん」
レトがうなづく。
「今、レトが私にスキルを使っても大丈夫だったのは、私が『私には効かないから試して』と言って、レトが『効かないなら大丈夫』と、私に危害を加えないと信じて【スキルの発動】をしたからなにも問題なかった」
パハンが「あ」と言う顔をした。
「みんなも聞いて。お互いの了承が無い時に、セーフルーム、これからは街灯の下や、ここだとセーフエリアね。そうゆう〈結界〉の中で、相手を害する力を使ってしまうと、〈結界〉の中から弾き出される事になる。わかる?」
リコがゆっくり、噛んで含めるように2人の目を見て説明すると、ナカツとレトがうなずく。
「思考は自由よ? 何考えても良い。むしろ考えることは良い事。どんどん考えると良い。良い事でも悪い事でも。でも実行に移すのはダメ」
そこの線引きが重要だ。とリコは言った。
「はい、ここテストに出まーす! ダンジョンで、セーフルームから弾き出された冒険者は、どうなるんだっけ?」
アマルも見てリコが質問すると
「「「信用を失う」」」
子供達が答えた。
「一度信用を失うとね、関係を回復させるのにめちゃくちゃ時間がかかるの。こればっかりは魔法でもポーションでも解決しない。だから、仲間に、信用を失いたく無い相手に、安易にスキルや魔法を使ってはダメ? わかる? 伝わった?」
「「「わかった!」」」
「あと、ナカツ、その『ズルい』って言葉の使い方間違ってる。レトはなにもズルしてない。そこは『羨ましい』でしょ?」
「・・・うん。ごめんレト。俺、、、ごめん」
「うぅん。私もごめんなさい」
「あぁ、ヤバい。死ぬ。死んじゃう。みんなが可愛すぎて尊死する」
「リコ! 死んじゃダメ!!」
アマルがリコに抱きつく。
「みんなが良い子すぎて辛くなってきた。良い子のみんなにはお風呂上がりにアイスをご馳走しよう」
「「「アイス?」」」
「フヒッ! 美味しくてびっくりするよ。さぁお風呂に入っちゃおう」
人数多いから風呂大きめに二つ作ってよかった。男子もさっさと入っちゃいなさい。と、リコは女子3人でお風呂に向かった。
湯船で、レトがアマルの足をマッサージしていると、アマルが膝を上手に使って上下に動かせるようになった。3人でキャーと喜ぶ。
「浜辺での練習も楽しみだね」
リコが言うと、レトが「楽しみだね!」と言った。
アマルは、たまらなく嬉しくなってしまって、ホトホトと涙を流す。
あぁ! 生まれてからまだ7年ぐらいしか経ってないこんな子供に、こんな思いをさせるなんて。
足を切られたのはいったいいくつの時だったんだろう。なんで神殿の人間はそんなことができたのだろう。
「ここにいる間はいっぱい甘やかしてあげるからね。いい? 美味しい物をお腹いっぱい食べて、毎日8時間以上寝るのがまず基本よ。でも成人するまでは、パハン先輩の言うことをよく聞くこと。ここでも、外でもよ? わかった?」
「うん。でも、リコはそれでいいの?」
「私達、迷惑じゃない?」
リコの目からも、ブワァッァと涙が流れる。
「迷惑な訳無いでしょ! なんで、なんでそんなこと言うのっ!? 迷惑だったら、最初からアマルの足を直したりしないでしょ!?」
「リコ、泣かないでっ」
「リコ、リコごめんね、泣かないで」
「え、う、ごめんっあんまり泣くと、またリュコスが来ちゃうね」
「そうだね、うふふっ」
「リュコスはどうしてあんなに心配性なの? リコは強いのに」
「あ、それ、そうゆうのわかるのも特別みたいよ? レト。獣人の特性なのかしら?」
「リュコスは狼の獣人じゃないの?」
「狼でも鈍いほうなのかしら? そうゆうのってあるの? レトのは【追尾追跡】ってスキルのせいなんじゃないかな? 個体をよく知る必要があるし、相手の力を知るのも大事だよね」
「【追尾追跡】?」
「あら? 前からあるスキルじゃないの? 戦闘職につくなら斥候向きのスキルだよ。【偵察】って言うのもある。これは【隠密】に似たスキルっぽいね。レト凄いなぁ。6個もスキルがあるよ。ナカツが羨ましくなっちゃうのも分かるぅ。あとで書き出してあげようか?」
「いいの!?」
「え? なんで? いいよ、アマルも欲しい?」
「そっか、リコは知らないのね? あのね、ズンダの街ではねぇ、獣人の子供ははねぇ、生まれた時で、人間の子供はねぇ、5歳になった時に、神殿で特別な《福音》って儀式を受けるの」
興奮気味にレトが説明する。
その時、神から特別な力として【スキル】を《授かる》らしい。
親がいない子供はそのタイミングを逃すので【スキル】はもらえない。
有能なスキルを持っていないと、大人になってから、良い仕事に就くのも難しくなる。
と、言うことになっているらしい。
「へぇぇぇぇそうゆうシステムなのねぇ。じゃぁさ、もしかして獣人の孤児の子は自分のスキルを知らない子がいっぱいいるの?」
「いると思う。スキルや能力の詳しい鑑定は、神殿が持ってる《神聖遺物》の魔道具じゃないとできないって」
「鑑定できる人はいっぱいいるんでしょ? 内緒にしてるだけじゃなくて? 本当にぃ?」
「ギルドでも聞いたことない。神殿の人達が言ってるから、きっとみんなそうだと思ってるよ」
「神様が決めたことだもん」
「へぇ。じゃなんでレトはいっぱいスキルを持ってて、私はみんなの能力がわかるんだろう? こうゆうのって誰に聞いたらいいんだろうね?」
「神様とか?」
「ラヴァル神官長様?」
「あ、ごめん。私、神殿に行けないの。嫌いだから」
リコの言葉に、レトとアマルがあわててリコの口を塞ぐ。
「そんなこと言っちゃだめよ!」
「いくら人間でも神のご意思に背いたらいけないわ。罰を与えられてしまう!」
リコは2人の優しさにうっとり微笑んで言った。
「私よその国から来たって言ったよね? 私の国の神様はそんなことしないわ」
「え、同じ神様じゃないの?」
「神様って他にもいるの?」
「私の国にはたくさんいるよ。八百万の神って言って、目につくものすべに神が宿っているの」
「それって、妖精や精霊のことじゃない?」
「あぁ、似てるね。でもそれだけじゃないのよ。もっといっぱいいっぱいいる」
「いっぱいいるって言うのはいいね」
「リコは良い子だからきっと加護がたくさん貰える」
アマルのその言葉にリコの胸がズキりと痛む。
アマルはきっと、良い子にならなければいけない呪いにかかっている。
なんとかその呪いを解いてあげたいと思ったリコは、アマルの頭をなでながら、
「アマルはもっとパハン先輩にわがまま言いなよ。パハン先輩喜ぶよ。レトは私に言いな。ナカツは〜リュコスに甘えさせてもらおうか」
そう言って、小さな声で「・・・子供はね、良い子でも悪い子でも良いんだよ」と付け加え、リコはレトとアマルの顔を撫でさすった。




