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「そのお箸はとてもきれい」2

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「尻尾の付け根の部分ってどうなってるのか見せて?」


 リコは、ナカツから、元々着ていたズボンを受け取っていた。

 前側と同じようにバックリと別れ、紐で結ぶようになっているのか。楽そうだけど、これだとトイレの時、前も後ろも開け閉めするのか? めんどくさそうだな。

 リコは、ナカツの今履いているズボンのちょうど良い位置に【錬金錬成】で穴を開ける。


「どう? 尻尾の動きを邪魔しない? 簡単に脱ぎ履きできる? やってみて」


 と、リコが言うと、ナカツは、モジモジしながらもズボンを、スルリとずらして上げ下げしている。器用に尻尾を穴に通していた。子供用だから普段着のウエストはゴムで良い。


「大丈夫。すごく楽ちん」


 ナカツは嬉しそうに言った。


「あとで全部のズボンとパンツに穴あけたげるからね」


 とリコが言うと、尻尾を器用に動かしながらナカツは笑った。

 なるほど、尻尾があると既製品のサイズ合わせが面倒になるのか。なるほどなぁ。


「フォーマルな大人服はどうなってるんだろう。後で買ってきてもらおう。ベルトは多分サスペンダーだよね?」


 リコはナカツに聞いていたが、普段は細い布を縫いつけ巻いて、ズボンが落ちないようにしているようだ。

 リュコスは「平民が着るフォーマルな服?」と思っていたが、口には出さなかった。


 72匹分のアジを3枚におろす。

 頭をとって、内臓の部分も切り落とし、せいごを削って身を分ける。

 水でよく洗って、バットの上に並べていく。

 身が厚くてたっぷり脂がのって、食いでも十分ありそうだ。

 その横でリコが【錬金錬成】で器用に小骨を除外している。


「私、アジフライ大好物なんだよねぇ〜♪」


 いつにも増して嬉しそうだ。

 リュコスは、さらに素早く手を動かした。


 全てさばき終わると「あたりを少し探索してきます」と、「俺も行く!」と言ったナカツと一緒にその場を離れる。


「すぐご飯にするから、あまり遠くまで行かないでね」


 頷くリュコスとナカツを見送って、リコはサラダの準備に取り掛かる。

 とはいえ千切りキャベツとトマトをくし切りにして冷やしておくだけだけど。

 個々の皿に盛りつけ、トマトにマヨネーズをかけて【収納】しておく。

 家の中で食べるから、ちゃんとした食器を使おう。

 リコは【買付】で人数分の陶器の食器を選んだ。


 タルタルソースは、すでにたっぷりとあったそれを使うので、追加のためのマヨネーズは食卓には出さない。

 汁物に、根菜のたっぷり入ったアジのあら汁の仕込みをしつつ、麹味噌は、人参が柔らかくなってから入れよう。

 3枚におろした残りのアジは違う食べ方で消費する用に【収納】しておくっと。


 とうとう買っちゃった10合炊きの炊飯器。

 これのためだけに専用バッテリーも用意した。

 リコはつくづく思った。電気炊飯器って超絶便利だ。

 土鍋で炊いたほうが美味い? ガス釜の方がふっくら? 薪で炊く飯盒炊飯には趣がある? いや、無いね、安定した炊き上がりの電気炊飯器より上手く炊ける米など存在しないね。


 電気炊飯器を【買付】その味を堪能した勢いで、米はあきたこまちを大量に買って【収納】しておいてる。

 いつか丸一日かけて米をガッツリ炊き溜めてみよう。

 ゴーレム達は、パンは焼けるのに、米を研ぐのはどうしても難しいようで、店で出しているのは無洗米だ。

 違いは無いとの触れ込みだが、リコは、秋田産のあきたこまちか、魚沼産ミルキークインを、水が透明になるまで研いだ米の方が美味しく感じるので、もうこればっかりは仕方ない。


 【買付】様様! 【収納】様様!

 毎日焼きたてのパンや、炊き立てのお米が食べられるのが、本当にありがたい。

 とはいえ、普段お米を食べる時は、味が濃いおかずが多いので、はくばくの一六雑穀ごはんと一緒に炊いて、雑穀ご飯にしている。

 栄養面でお手軽に摂取できるものが増えるし、何より美味しい。

 雑穀入りとは言え、米はデンプン。糖分の権化。炭水化物の王だ。

 一瞬よぎった「美味しい物は糖と脂でできている」と言うキャッチフレーズを、首をブンブン左右に振って打ち消すと、リコは気合を入れ直して揚げ物の準備にとりかかった。


 揚げ物が外でできるのは嬉しい。

 〈浄化〉で掃除の魔法が気軽に使えるとはいえ、やはり、油の飛び散りには気を使ってしまう。

 1人6枚で良いかな。余ったらしまっておこう。

 あ、ついでに海老フライも付けるか。

 【買付】で大きな車海老を買う。

 こっちはでかいし2本でいいな。

 軽く塩胡椒したアジに、薄く小麦粉をつけ、解いた卵をくぐらせて、パン粉がたっぷりつくようにギュッと押す。

 パン粉は柔らかい生パン粉で、バットにたっぷり入れておく。

 水分でぐんにゃりさせない様、こまめに【収納】に入れるっと。

 アジフライは、お店で出てくる開いた形状だと、この辺の作業にもたつきが出る。

 家庭用は、3枚に下ろした身を使う方が取り扱い易いし、箸でつかんで食べ易い。

 海老も、大ぶりなおかげか、殻も背腸も取り易い。

 尻尾の先を切ってこそげ、腹に切れ込みを入れ筋組織を潰し、身が曲がらないようにする。っと。

 後はアジと同じようにパン粉まで付けて、揚げる直前まで【収納】しておく。


 油も、良い感じにあったまってきた。

 でかい鍋に、たっぷり油を入れ、スキルを使ってきっちり監視して170°をキープさせる。

 まずはアジから。

 そっと滑るように油に入れて2分。絶対に触らない。

 ひっくり返して1分。絶対に触らない。色々いじりたくなるけど我慢。

 しつこいぐらいに油の温度を管理して170°をキープ。

 パン粉がきつね色になり出したら、油からそっと取り出し、網に立てておく。

 5分余熱を入れて、バットごと【収納】しておく。

 これを繰り返して、エビフライも同じく揚げたら、食べる直前まで【収納】だ。


 量が多いから時間がかかるけど【収納】のおかげでいつでも熱々だ。

 あら汁の鍋を火にかけ直し、味噌を溶いて味見する。良い塩梅。


「ヨシOK!」


 小口切りにしたネギを山盛り味噌汁の鍋に入れ蓋をする。


 あぁ、レモン忘れてた。レモンもくし切りにしておこう。

 万能白つゆかくし味と、黒酢と鷹の爪に漬けていた、たたききゅうりの浅漬けも皿に盛り付けて、完成っと。


「ご飯できたよ〜」


 森の方に声をかけて、辺りを片づけ〈浄化〉をかけると、戻ってきたリュコス達と合流して家の中に入る。


 いつものようにがっつくかと思っていたのに、食卓は静まり返っていた。


「あれ? もしかしてお魚苦手だった?」


 そう言ってリコはハッとした。

 メインがアジフライにタルタルソース。和洋折衷とは言え海魚。それに茶碗に雑穀米、お椀にアジのあら汁、ゴリゴリの日本料理だ。

 主食が、パンと、芋と豆の、こちらの人の食べる料理では無かった。


「あぁっ!! ゴメン! 故郷の料理ばかり出しちゃった!! アジフライ大好物だから、その、ついテンションあがっちゃって、お肉、代わりになにかお肉の料理出すね!」

「ち、、ちがうの! ちがうのリコ、私達、その、こんなこんな立派なお料理みたことなくて」

「食べ方がわからない」

「食器が、陶器? と、シルバー?」

「なんかこんなの緊張する」


 テーブルは2台並べているので、真ん中には、艶のあるテーブルライナーを敷いて小さく花瓶に挿した花も飾った。

 1人1人、ディナー皿とステンレスのナイフとフォークとは言え、茶碗汁椀用にスプーンを付けてあるし、リコの皿の前には箸が置いてある。


「え? あれ? そっか、テーブルマナーとか? こう、こうやって使うの」


 と、リコはナイフとフォークを持って、エビフライを一口台に切り分けると、ナイフで取ったタルタルソースを乗せて、口に入れた。


「ウフッうんまぁ上手にできた。冷める前に食べよう?」


 モッシャモッシャと咀嚼しながら、リコは言った。

 皆、見よう見まねでナイフとフォークを持つと、各々フライを口に入れる。


「「「・・・おいしい。美味しい!!!」」」


 わぁわぁと、みんな夢中で食べ出した。


「あぁ、良かった」


 リコは心底ホッとして息を吐いた。


 そして「これかけて食べると美味しいよ」とソースやポン酢を勧めながら、

「ゆっくり! ゆっくりよ! よく噛んでゆっくり食べること!! 急がない! 三角喰いしな! ご飯、オカズ、お(つゆ)を満遍なく食べな! おかわりはいっぱいあるからね。ナカツ! 落ち着いて食べな! 急いで食べると、喉に詰まったり、お腹壊すよ!! ゆっくりよ!」


 子供達に、ゆっくり落ち着いて食べるよう促す。


 エビフライを一口大に全て切り分けて、箸に持ち替えて茶碗を持って食べる。

 エビはブリンブリンだし、アジフライは肉厚で身が締まり、過去一の美味しさだ。

 タルタルソースが上手にできてるなぁ〜と感動していた。


 それまで黙っていたパハンが口を開く。


「やはり、リコは、貴族か、富裕層に謂れのある御方なのでしょうか」

「全然! これは家庭料理だよ!? ただのおうちのご飯だよ」

「リコの故郷では、みんなが全員こんな美味しい物を食べてるの?」

「毎日こんなご馳走なの!?」

「みんながみんな食べてるわけじゃ無いけど、これさっきみんなが釣った魚だよ?」

「「「えっ!?」」」

「あれ!? 気づいてなかった!? このお汁は魚をおろした時出た骨についた身だし」


 流石に鍋からお椀に盛る時に、過保護な理由から骨は取り除いたけども。

 ウチは島国だったから、海魚の料理は一般的だった。こちらの冒険者達がよく食べてるステーキの方がご馳走だったよ。とリコは説明した。


「リコは、どうしてこんなにお料理が上手なの?」


 アマルが聞いた。


「ふふ、塔にに閉じ込められてたって言ったでしょう? お料理も自分でするしか無かったのよ。幸いレシピ本もたくさんあったし。10歳までは育ててくれた祖母に基礎は叩き込まれてたから助かったよ」

「リコ様は、子供の時から料理をしていたのですか?」

「自分の分だけね」


 アマルに答えた後、リコはそう言ってリュコスを見た。


「だから、みんなでこうやって食事ができるの凄く嬉しい。一緒に食べる人がいるのって、こんなに美味しくなるのね。ってちょっと感動してんの」


 リコは、アジフライをまじまじと見つめながら「今まで食べたアジフライの中で今日のが1番美味しい」そう言った。


「この料理は1人で食べても美味しいと思います」


 リュコスの発言に、リコは「ありがとね」と言った後、「でもね、流石のリュコスでも、これからはもう孤食には3日で音をあげると思うわ」と、にっこり笑った。


 そういえば、今まで出した料理は丼ものかサンドイッチか。こんなふうにお皿に盛り付けたりすると豪華に見えるのかもな。

 でもこれは単なる家庭料理。

 料理は祖母に仕込まれた。

 物心ついた時から、台所や調理器具の掃除の仕方、食材の扱い方、米の研ぎ方から、魚の捌き方と、気付けば毎日米を研ぎ、包丁を握っていた。


 家に連れ戻されてからは、小中高と、弁当が必要な学校だったので、朝起きたら弁当作りから1日が始まった。

 初めの頃は、ダイニングテーブルの上の、昨晩のまま残された料理達を捨て、食器を洗い、自分で作った弁当の残りを朝食がわりに食べて登校していた。

 冷蔵庫の中は、通いのお手伝いさんが買ってきていたので、いつでも新鮮な食材でいっぱいだったが、食事は用意されたことがないので、なんとか食べないといけないと、1人でせっせと作っていた。


 お父さんとお母さんに食べてもらうためには、どうしたらいいだろう。

 もっと美味しい物を作るには何が必要なんだろう。

 本を買ったり、図書館に通ったりと、料理本を読み漁り、休日には凝った料理にも挑戦し、家族の分の夕食をテーブルに並べておく。


 そのうち料理の腕はみきみき上がっていったはずなのに、薄暗い部屋、1人で食べる夕食は、まるで粘土でも噛んでいるような、侘しく虚しい物だった。

 結局、用意していた料理は一度も手をつけられることはなく、毎朝自分で捨てて、食器を洗っている事に疲弊して、一端の料理が作れるようになった頃には、リコも夕食を食べなくなった。


 それでもなんとか食べて生きていたのは、紛れもなく祖母の教えのおかげな訳で、祖父にしても、幼稚園にも入れず、毎日のように山歩きに連れ出されていたのも、今にして思えば、リコが1人でも生きていけるように、あれこれと経験させてくれていたのかもしれない。


「リコ、それはなあに?」


 アマルの問いかけで我に返る。


「これはお箸。故郷で昔から食べられてきた[和食]って料理を食べる道具。こっちは[洋食]って言う元々いた国とは違う国の料理を食べる時に使う道具なの」


 最初から食材を小さくしている料理が多い和食に限ってだけど、柔らかいものなら更に一口大に切り分け口に運ぶ事ができるから、いちいち持ち替えなくて良いし、使えるようになるとすごく便利なのよねぇ。ちょっと練習が必要なのが面倒なところなのだけれも。

 リコはそう答えて、箸を閉じたり開いたりしてみせた。


「そのお箸はとてもキレイ」


 アマルが箸をじっとみる。


「凄く特徴的だから、異国の旅行者のお土産に大人気なんだよ」


 そう言って、津軽塗りの箸を人数分出し、アマルにひと組渡すと、受け取ったアマルは弾けんばかりの笑顔をで箸を受け取った。


「後で、使い方教えてあげるね」


 リコはアマルを見て微笑み返す。


 守りたいこの笑顔を。


 夕食後、決意新たに、お風呂に入る前に済ませちゃおう。と、みんなの[完全回復薬]の摂取をすることにした。

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