「そのお箸はとてもキレイ」1
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朝ごはんを済ませて、早々に先に進む。
途中軽食もとりつつ、昼を過ぎた頃には 21階 要塞フロア を抜けて、22階 海洋フィールドに無事についた。
主道の階段裏、逆方に向かって2時間ほど進む。
もしかして、すぐ降り階段だったりしないかなと、リコは思っていたが、流石にそんなに甘くはなかったようで、なぜこちら側を皆が選ばないのかすぐにわかった。
地図でもなければ前後不覚。即遭難だ。
「このぐらいで良いかな?」
リコは〈探索〉マップを見ながら船を出せそうなポイントを探した。
「ここから南5海里ぐらいに島があるけど、そこにしようか? こっちからは見えないし、良くない?」
元いた世界では確か海岸から2kmで水平線だ。身長150cmで4kmだっけ? あくまでこの異世界も丸かったらだけど。
9kmもあれば、主道からは見つからないだろう。
海洋フィールドでは、脅威になるようなクリーチャーは水の中だけらしいし、「多分無人島だよ」と、リュコスに聞いてみる。
リュコスは、眉を顰めてリコを見るが、ため息をついて頷いた。
波打ち際に船を出す。
全員乗るにはちょっと狭いね。とリコは言ったが、パハンは固まっていた。
リュコスは、気にもとめずパハンを荷物のように担ぎ上げ座らせると、さっさと子供達も乗せ、リコは地面を隆起させてミミックを船まで持ち上げる。
「海に船で出るのは初めて?」
はしゃぐ子供達に聞くと、船に乗るのも初めてだそうだ。
そうだった。
大半の住人が、壁の中で生まれ壁から離れられない生活をしているのだった。
当然、娯楽のために気軽に旅に出たりもするわけがない。
リコは、ここがダンジョンの中だと言うのも忘れて、どんどん離れていく陸地を眺めていた。
太陽は出ていないが、天井は快晴で、顔に当たる潮風が気持ち良い。
元いた世界にいた時より、ずっと穏やかで、静かで、命の危険も感じない。
程なくして、到着した島は想像より大きく、湖の島と違って全貌は一見できそうもなかった。
生き物の気配はそこここにあるが、当然ながら人の気配は全く無い。
探検は後でゆっくりすることにして、湾になっている浜辺を探し、突起する岩場をかいくぐって内海に入ると、エンジンをとめ、オールを漕いで座礁に気をつけて慎重に船を進める。
波は穏やか。水深も十分にあり、リコは子供の頃に見たアニメ「ふしぎな島のフローネ」の無人島を思い出していた。
こりゃ釣りが楽しみな地形だな。とリコが内心ウキウキする。
砂浜が近くなると、ミミックが突然、ビヨっ! と、船底を蹴って飛び上がり、浜辺に着地した。船体が大きく揺れる。
「ギャー!」
リコが、慌てて船から転げ落ちるように追いかけると、ゴーレムに抱かれ驚いた顔をしていたアマルが、「キャハハハハハ!」と、珍しく大声をあげて笑っていた。
「なんともない? どこも痛くしなかった!?」
リコがベタベタ触って身体検査をする。
「ンウフフ、面白かった。もう一回やりたい!」
アマルのリクエストを受けて、ミミックは、ぐぐぐっと身を屈める。
リコは「歩けるようになってからにしてください!」と慌てて止めた。
アマルの笑い声に、我にかえったパハンも、船を降りてリュコスが船を押すのを手伝う。
我慢しきれず、子供達が「わー!」と大喜びで船から転がりでて、浜辺を駆け出し、結局みんなブーツを濡らしてしまった。海水が塩を含んでいる事を説明する。
リコは、全員分のクロックスを【買付】して履き替えるように言いつけ〈探索〉マップを見つつ、茂みの中に入り、【収納】を駆使して少しだけ開けた場所を作る。
そこに大きな魔石のついた杖を地面に刺しコソコソと魔石に金で装飾を施し[結界の魔道具(偽)]を使うふりをして〈結界〉を展開するが、コレは実際にはリコの作った〈結界〉に、恒久的にマナを自動で集めるだけの[魔道具]だった。
湾と浜辺を含む半径300mほどの〈結界域〉を作る。
「じゃぁ、ちょっと、リュコスはみんなと釣りでもしてて?」
タープを設置し、折り畳みの椅子とテーブルの上に飲み物のジャグを出して、仮拠点に日陰をつくる。
釣り竿とバケツを出して、リコが一人でさらに茂みの奥に入っていった。
皆がついていこうとするのを阻止して、リュコスは釣竿を皆に渡し使い方を教える。
1時間ほどして、「こっちは良いよ」リコが茂みから出てくると、「アジが山ほど釣れました」と、リュコスは答えた。
干していたブーツを持って茂みに入ると、開けた場所に立派な家が建っていた。
「なんで!?」
パハンがまたしても固まる。
子供達はわぁ〜と家に駆け寄った。
「はーいちょっと待って〜ストップ〜さっき説明したよね〜」
リコが声をかける。
ウッドデッキに上がる前にブーツと靴下を真水で洗い、砂と塩を落とすように言う。
〈浄化〉をかけて、物干しロープに靴下を吊るすと、靴は軒先の花鉢棚に並べ乾燥させる。
「はい。足も洗って!」
デッキを上る時は、ステップの脇に設えられたシャワー水道で必ず足を洗うことを義務付ける! と宣言すると、
「はい、この家では、扉を開けたら靴を脱いで部屋に上がってくださーい! これは絶対です!!」
リコは、有無を言わさぬ勢いで、みんなの足に〈浄化〉をかけて、さぁそれでは。と、子供達の足を次々洗うと、パハンの足に手をかける。
「じっっっ自分で洗います!!」
あ、そう? じゃぁミミック、と、リコはデッキの上でミミックの足を拭いた。
心なしかウットリしている。気持ちいいの? と聞くと「ギチチっ」と嬉しそうに鳴いたので、じゃぁ戻ったらたまにみんなにもやってあげよう。とリコが笑うと、イビルちゃんがリコに頬擦りする。
リコはイビルちゃんとゴーレムライダーの手足も暖かいタオルで拭い磨くように洗うと、ゴーレムライダーにハグをして魔力を注入する。
上に乗っていたアマルも、真似をして、ライダーとミミックにハグをした。
みんなで家の中に入る。
きちんと脱いだ靴を揃える合理性を教え込む。
「手前がパハン先輩とナカツの部屋で、間がレトとアマルね」
リコは、そう言って各部屋の引き戸を開けていく。
「1番奥の部屋は作業部屋にしてて、中で私とリュコスの寝室にも繋がってる。魔道具やポーションを作ってたりするから、用があったら必ずノックして? 色々置いてあるから基本入室禁止ね」
「他はどこでも自由に使って良いから」と、奥の部屋の扉は開けなかった。
一応、念には念を入れて寝る前に扉に[個体認識]をかけておこう。
「で、こっちが水回りで、トイレとお風呂の使い方は、他と一緒だし、台所の使い方は後でその都度教えるね」
リコが、家の中を案内する。
「アジの頭と内臓を処理してきます」
リュコスは、外套を脱いで大きな装備を外し、壁にかける。
「後から行くね。スライムいたらお願いするから声かけて〜」
リコの呼びかけに、リュコスは「わかりました」と頷いて、軽装のまま、自分の外履きに履き替えて外に出た。
腰に採取ナイフだけと、武器も持たずに外に出る様子に、パハンは困惑を隠さないがスルーする。
「みんなも部屋着とかに着替える?」
リコは、指で何かをなぞるように動かすと、ジャージとTシャツを、バラバラと無造作にリビングのソファーとローテーブルの上に出し並べ、姿見を出して「好きなの選んで?」とパハンに言った。
「っこ、っつこのこの家はっ!? 一体どうゆう!?」
耐えきれずに、パハンが手を開いて声を上げると、子供達は、服に伸ばしていた手を引いてパハンを見た。
「え〜と、セーフエリア? 要塞フロアのセーフルームみたいなもんだよ」
「そうだとしてもどうして家が!? おかしいですよ! ダンジョンですよ!? 自然フィールドですよ!?」
パハンが力説する。
「あぁ、うんと、私〈探索〉って魔法が使えるんだけど、、知ってる? 〈探索〉〈サーチ〉かな?」
「〈サーチ〉知っています。珍しいですが、回収屋ギルドにも、使える者も、います」
「その〈探索〉でね、地図? マップ? が出せるの」
「え?」
「もちろん目視しないと詳しい事はわからないんだけど、大雑把には色々〈エリアサーチ〉できるから、この場所の事も知ることができたんだけど。これも秘密にしてね」
「ぁ、あぁ、わかった。それは、わかるのだが」
「う〜ん、なんて言うか、やり方がわかればできるよ。たぶん。同じ方法で〈サーチ〉してるんだと思うし。どうやってるかきかないと、どうやって教えたらいいかわかんないけど」
「なぜ、そう思うのですか?」
「魔法は個人の想像力が大事なんでしょ? マナなんて万能なエネルギーがある世界なんだから、自由に変換できるレシピ? 方法? さえあれば、誰でもなんでもできるんだよ。多分だけど」
「すみません。わかりません」
「私もうまく伝えられないけど、『今私は、マナがあって、【魔術操作】が使えて、[レシピ]を知っていれば、どんな事でも想いのままなにできる空間にいる』って確信してる。個体差はあるだろうけど、同じシステム内にいるんだから、できる事はそう変わらないはずだよ」
「・・・すみません」
「〈ファイヤーボール〉を初めて出した時より、他人のを見た後の方が、威力の強い魔法が出せたりするでしょ?」
「はい。そうゆう事はあります」
「そこには『知る』って事以外自分に変化はないよね? 詠唱を変えたわけでも、MP量を変えたでもない。それってどうゆう事か考えた事ない?」
「・・・ありませんでした。そうか、なんとなくわかったような気がします」
「伝わってよかったよ〜」
ホッとした顔をしながら「できる事はもっとあるのに、自分でリミッターをかけちゃっているんじゃないかなぁ。わかんないけど」とリコは付け足した。
「装飾服飾系の商売もしたい。って言ってたでしょう? 向こうから“売るほど”持ってきたし、コツコツ作ってるし。こっちの人の好みを知る為にもあるだけ着て欲しい」
売り物にしない物だけ出しているから気兼ねはいらない。むしろ要望を出して欲しいぐらいだ。とリコは鼻息を強めて言った。
「街の人が普段着るような服も良いけど、やっぱり最終的に作りたいのはドレス。リアル貴族や本物の王族が着るようなドレス作りたいわぁ」
後で女子だけで色々着てみようね。と、リコが言うと、レトとアマルは「わぁ! きゃぁ!」と声を上げた。
「パハン先輩はこうゆうのが似合うと思う」
そう言って、バラバラと服を出す。「ナカツとおそろいのもだしちゃう」と、夜な夜な【買付】ていたみんな用の服をさらに取り出す。
それでもまだウロウロとしているので。
「よし、わかった」とリコは服を全てハンガーにかけると、パハン達の部屋のクローゼットにかける。
「全部あげる。今は好きなの着て」
そう言い残して、さっさと部屋を出て行ってしまった。
「女の子達も、部屋で好きなの着な。とりあえず全部部屋着だからね。ドレスは後でまた出してあげる」
そう言って、水と林檎は好きなだけどうぞ。私はリュコスを手伝ってくるから。今日の夕飯はアジフライだよ。と外へ出て行ってしまった。
パハンは、部屋に設えられた天蓋付きのベットに腰を下ろす。
ナカツは、物おじもせず、慣れた様子で装備を解いてしかるべきところにひっかけていく。
以前一緒にいた時にそうしていたのだろう。
そうしてさっさと部屋着を選んで着替えると、「俺もリュコスを手伝ってきます」と、部屋を出て行ってしまった。
パハンも、ナカツに倣って装備を外し、壁のフックにかけていき、与えられた部屋着の一つを選んで袖を通す。
これじゃぁ家にいる時と変わらない。
自分も何か手伝った方が良いだろうかと、部屋から外に出かけたが、中に大人が1人いた方が良いか? と、アマル達に声をかけようと部屋の前に行くと、なかから「キャッキャ」と嬉しそうにはしゃぐ声がする。
パハンは、ノックするのをやめて、居間のソファーに座って、深いため息をついた。




