「良い収入源になるでしょ?」
食後のリンゴの皮をむきながら、リコが話を切り出す。
「で、ね、まぁ、大ぴらにアイテムをタダであげる為にって言うわけにもいかないし、なんか名目が必要なんだけどね、これ」
そう言って腕時計を指差す。
「私達、調査と採取でダンジョンに籠る事が多いから、その間の外との時間合わせに時刻が知りたい。だから、朝、時間を合わせてそれを知らせにくる。って言い訳。どうかな?」
正確である必要はないんだけど。と、付け足す。
「それは構わないが、そうすると、その」
パハンが、もにょり。とナカツ達を見る。
「回収屋の中で私達の情報が共有されるのはもうしょうがないわ。それに元々、回収屋の情報は、回収屋だけの秘密でしょ?」
商業、冒険者ギルドと同じように、王国に申請し、許可されたギルドは領地を跨いで独自の権限が認められているらしい。
だとしたら、わざわざ私たちのことだけ秘匿して。と釘を刺す必要もないのかもしれない。とリコは考えていた。
「そう考えてもらえるのはありがたいが、それではあまりに、こちらばかりが」
「あぁ、良いの良いの。そうゆうのは良いの。そこは気にしないで?」
そう言われて、はいラッキーとなるほど、図々しくなれなないのは、重々承知のう上でリコは話を続ける。
「もともと協力者が欲しいってお願いしてるのはこっちなんだから。こちらが提供するのは、子供達への、武器防具魔道具。あくまで子供達ね。そちらからこちらが欲しいのは『情報』」
「『情報』?」
「外の事でもなんでも良いの。世間話程度で良い。今日なにがあった〜。とか、街では今なにが流行ってる〜。とか」
「そ、そんなものが『情報』?」
「あら? 商人にとってはものすごく大事な事よ? とくに、私達みたいな特殊な魔道具を売ってる商人には」
リコは、紅茶を飲みながらホットミルクを「あちあち」と舐めるように飲むナカツをみる。はい可愛い。
「リュコスだけじゃわからないことでも、ナカツが知っている事はたくさんあったでしょう? それが30人分ともなれば、そりゃ随分なお宝情報になるのよ? ナカツ、今日は1日なにしてた?」
急にそう話を振られてナカツは「え!?」と不思議そうにリコを見る。
「リコはずっと一緒にいたじゃないか」
ナカツの答えに、リコは「えぇ〜?」とわざとらしく声を出して言う。
「私が夕飯の支度をしている時、パハン先輩に何か教わってたでしょう? それが何か私にも教えてよ」
「シャボの実の採り方を教えてもらってただけだよ」
そう言ってブルーベリーのような木の実を取り出す。
プチッと潰してグニグニと揉み手で擦ると、たちまち白く泡立ち「これで手を洗うとさっぱりするんだ」と、滑り泡立つ手を差し出して見せる。
【鑑定解析】あれ!? これ植物油製の石鹸素地とほぼほぼ同じ成分だ。
リコは、鼻を近づけ匂いを嗅ぐ。強いにおいはないようだ。
「レトとアマルが取ってたお花の話を聞かせて?」
手に泡をもらいながら話を続ける。
「これ? 野バラ。すごく良い匂いがするの」
アマルが花を一輪差し出した。
「壁の外にも、どこにでもたくさん咲いてるよ?」
リコは鼻を近づける。すごく良い匂いだ。
「リュコス、これ花弁んとこだけこの籠いっぱい取ってこれる?」
なるべく花弁だけ。と、籠を渡した。リュコスは頷いて出かけていく。
10分ほどで籠いっぱいの野バラをもってきてくれた。本当にその辺にざっくり咲いているようだ。
「これ、お金を取るほどの観賞用には向かないのでしょう? 可愛らしいけど貴族が見栄を張るような豪華な感じはしないものね」
そういって【錬金錬成】で作り出した小瓶に、花から液体を取り出し入れる。
「これ、薔薇のオイル。これをね」
大きめの乳鉢でシャボの実から【錬金錬成】でよけいな物を間引き、取り出した石鹸成分に、先ほど抽出した薔薇のオイルをたらし加えて練り合わせ、水分を抜いて固形化させる。
「ほら、香り石鹸」
そう言って、目の前で石鹸を作り出した。
「ないでしょ? こうゆうの」
リコは、【錬金錬成】ですっかり固くなった石鹸を、少し削ってみんなに渡すと水を加えて手を擦る。
泡立つ石鹸から、素晴らしい香りがひろがる。
「!」
「わぁ良い匂い!」
「ステキ」
レトとアマルがウットリとする。
「外では石鹸っていくら?」
「石鹸など、平民はシャボの実をたまに使って身を清めるぐらいで」
「じゃぁ、シャボの実はいくら?」
「・・・値段など、ありません。みんなその辺で採ってきて使うので」
「ありゃ、じゃ、ますます良いね」
「商人が売り買いしている石鹸は、1つ大銀貨1枚はします。それもこんな香り立つようなものは、見たことも聞いたこともありません」
「香水があるからかな? 不思議よね。ねえこれいくらで売れると思う?」
「香水の代わりになるとなれば、貴族は、金貨を出しても欲しがるでしょう」
「ほら、お金になる情報だったでしょ?」
リコはそう言って石鹸の匂いを嗅ぐと「良い匂い。私もこの匂い好き」とアマルに言った。
いや、いやいやいやいや、シャボの実もこの野バラも、その辺によくあるありふれた雑草雑木だ。
ズンダの街の下町の者でも知らない者などいないだろう。
それを組み合わせて、このようなものを作り出せる人物こそ特異なのだ。
リュコスはパハンを見る。パハンは「イヤイヤ」と首を横に振った。
「リコ様、その[薔薇のオイル]がすでに特殊なのでは?」
「違うと思うよ? これはまぁ、ざっくり言うとただ絞っただけだから。多分この国の香水の原料と同じだよ?」
「そうなのですか?」
「実際はオイルを揮発性の高い液体と混ぜたりするんだけど。まぁ、より効果的に香るように工房毎に色々技術はあるんだろうし秘匿されてるって言うよね。オイルの材料はなんでもできるよ。まだないだけで、1個でも世に出ればこれからどんどん出てくると思うよ?」
リコはそう言って、【収納】から出した、大量のレモンの皮だけ剥ぎ取り、香油を錬成すると、さっきの手順でレモンの香りのする石鹸を作り出してみせた。
果実部分は後で、蜂蜜レモンにして、レモネードのシロップにしよう。
「わぁ! 良い匂い!」
子供達が面白がって石鹸を泡立てて匂いを嗅いでいる。
リコは、【買付】したオイル瓶も並べて「こりゃ普通の香り石鹸も売れるねぇ」とレトとアマルを見た。
女の子達がこんなに喜んでいると言うことは、そこに需要が必ずあると言うことだ。
「しかもこれなら安く作れるし、安く売れるね。回収屋で売る?」
「え!?」
パハンが驚き声をあげた。
「雑貨屋ぼったくりはダンジョン内にしか無いもん。ダンジョンで良い匂いの石鹸売ってもしょうがないでしょ」
お土産にしたって、もうランプがあるし。そもそもダンジョン内でいい香りをさせるのは逆にマイナスだろう。帰る時に買うお土産と言っても、生活雑貨の消耗品なぞ、ダンジョンで売るのには向いてない。
「あぁ、良いかも。コレで外でも商売できるね。パハン先輩達が協力してくれるなら」
【錬金錬成】した作業は、大まかにいえば、温めながら煮崩して濾しただけだから、錬金術のスキルが無くても、手間をかけるか、蒸留器があればそれこそ誰でも簡単にできるだろう。
そのシャボの実と香油を混ぜ合わせれば、誰でも量産できるだろうし、材料を持ってきてくれたら香油は私が作ってあげても良い。香油の加工賃は石鹸の売上の1割でどうだろう?
「戦わない人の良い収入源になるでしょ?」
そう言ってリコはニッコリ笑う。
「準備が整うまでは、シャボの実をこのコップ一杯分、店に持って来てくれた子に、一回分使切りできる、便利な紙石鹸、紙の表現は違うな。あぁ[花弁石鹸]を作ってあげる。それを使うのも、街の雑貨屋に売るのも、市場で売るのもその子の自由。どう?」
そう言って、薄く削いだ石鹸を丸いブリキ缶の中に入れた。
匂いはさせない方が良いね。シャボの実のままだと持ち歩くのには腐っちゃうけど、石鹸に加工したら、適切な取り扱い方をしたらしばらくは大丈夫だ。
「「わぁ素敵! 本当に花びらみたい!」」
これならいつでもどこでも携帯できて、花びら一枚ごとに使い切れると言うわけだ。
「リコは、それで良いのですか?」
「私も、この石鹸欲しいし、シャボの実が手に入るのも助かるよ」
リュコスはリコをチラリと見て目線をパハンに戻す。
リュコスはリコが普段から【買付】で気に入った石鹸を使っているのを知っている。
「では、お言葉に、甘えさせて、いただきたく・・・」
パハンはうつむいた。
今後のダンジョン探索に役に立つ武具防具魔道具の外に、恒久的な現金収入の方法まで。
年上とはいえ、2年しか年が違わないのに、自分とのこの違いはなんだ。
母を守る、妹を守る、孤児達にためにと言いつつ、自分はなにもできてはいない。
誰も助けられていないではないか。
そんなパハンの様子に、リコは、フ、と鼻で笑って。
「そこで話は戻るわけだ。私はねぇ本をいっぱい読んだの」
リコがドヤっと胸をはる。
「でもね、逆に言えば、本しか読んでないの」
シャボの実の採り方も知らないし、こんなに香る野バラが、通り道にさいていたことすら知らない。リコはそう言ってパハンを見た。
「だから、本当に色々教えて欲しい。代わりに私はそれをお金に変える方法を教えてあげる」
そう言って、削った石鹸をまとめてバラの形に整える。
「あ、これまるで造花の内職みたいだな。これも十分、戦えない人たちの収入になりそうじゃない?」
そう言って作った花を、ブリザードフラワーボックスのように、9つ並べて[品質保護]を付与した同じ色の紙の箱にいれる。
そのうちの一つはガラスで作った器に入れて、器に[防水防菌]付与施して、これに入れて流しにおいておけば、水場の近くに置いても品質は保たれるようにした。
あえて携帯用にしないために、ガラスの器は金糸と薄いガラスで繊細なデザインにした。
【錬金錬成】で、野バラの花弁数枚を漉き入れ作った可愛らしい紙を作って、ラッピングして、蓋の一部に穴を開け、ガラスの器がはまって、中が見えるようにする。
リボンで飾って商品名の書かれた紙タグをつける。
「ほら、同じものなのに、さらにこれでもっと“高価な商品”らしくなるでしょう?」
「リコの魔法は凄くキレイ」
「カワイイぃぃ」
ホウゥとアマルとレトが息を吐く。
「これで見栄っ張りなお金持ちには10倍の値段で売れちゃうね」
リコは笑って、他に何かいい匂いのするものはある? とキャッキャと話している。
ナカツが、肉を焼いた時の匂いが良い匂いだと言って、そんな匂いの石鹸は売れない! とレトに頭を叩かれていた。
パハンがリュコスに聞いた。
「良いのでしょうか、これを売れば、間違いなくリコの儲けになるのに」
リュコスは、目を細めてパハンを見る。
「そう思う気持ちがあるなら、どうかリコ様が作った事はご内密に。リコ様は、自分の情報が貴族や王族、私利私欲に取り憑かれた権力者達に知られる事を何よりも懸念しています」
パハンは「塔に閉じ込められていた」と言ったのを思い出した。
「理解しました」と、返事をして、リュコスをみると絶対に、秘密を守ると約束します」と誓った。
「じゃぁルールの確認をしよう」
ナカツ達を利用してこちらへ来る子供の所作を徹底させる事にした。
ある程度、文字の読み書きができること。を筆頭に、回収屋の子供達に[回収屋ランドセル ダンジョンダイブセット]を提供する。
・ダンジョンでの事は許可がない限り、回収屋ギルドのギルド員以外には話さない。
これはそもそも回収屋ギルド内での決まりでもあるので、ついでの念押しとして。
・こちらを名前以外の呼び名で呼ばない。
これは絶対だ。別の呼び方をしたらその子からは即手を引かせてもらう。
・自力でズンダガマの革を5枚狩る。
これは非戦闘系や補助スキル系の子も、適した装備を与えた上で、リコとリュコスが一緒に戦闘する。
装備セットの内訳はこうだ。
[ランドセル modダンジョンダイブセット]
回収屋子供限定マジックバック[個体認識][年齢制限][GPS]鈴付き
携帯用ランタン
防刃防弾防火防水ポンチョ 各種防御力強化付与
狩猟ナイフ6寸
ガマ口
木製カップ〈浄化〉付与
木製スプーン〈浄化〉付与
背負子
デジタル腕時計
作業着
ブーツ
グローブ
帯剣ベルト
治療薬×5
各種回復飴(10)×5
チョコバー×5
「売買不可で、装備品は、全てに[個体認識][重量軽減][耐久強化]をつけるね。面接時、全部に自分で名前を書いてもらうから自分の名前だけは書けるようにしてね。その代わり消耗品は都度補填してあげるし、武器は別個応相談。他に、パハン先輩は何か欲しい武器ある? [魔法付与]可」
リコの言葉に「え!?」パハンが驚く。
「パハン先輩だけ特別ね。その代わり、子供を連れてくる時できるだけ一緒に来て欲しいんだけど。その後も、専属で繋ぎ役になってくれることを期待してる。無理?」
「あ、いえ、それは、そうさせてもらえるのは、こちらとしても。いや、帰ってからギルド長と相談させてもらっても良いでしょうか?」
「あぁ、そうだよね。勝手に決めらんないか。サンプルはナカツので良いよね。パハン先輩って、何曜日生まれ? なに属性の魔法が得意か聞いても?」
「闇属性、です」
「闇属性かぁ〈毒〉だと外で使った時、素材ダメにしちゃうかもしれないし、無難なとこだと〈麻痺〉とか? どうする?」
リコは、サバイバルナイフを出して「参考に今使ってるやつ見せてもらって良い?」と聞いた。
パハンは カランビットナイフを2本テーブルの上に置いた。
「あ、そっかパハン先輩も双剣か」
リコはもう1本サバイバルナイフを出すと【鑑定解析】でを診る。
「[ブラックドラゴンネイル 素材:黒龍の爪]ほはぁドラゴン。みてみたいな」
そう言って黒いサバイバルナイフの形状を【錬金錬成】してカランビットナイフに変える。
「【魔法付与】〈闇属性〉っと」
[カランビットナイフ modパハン]擬似黒龍の爪
[研ぎいらず 耐久(極) 切れ味(極) 麻痺 出血 暗闇]
「こんなもんでどう? こっちの黄色い石の方が麻痺で、こっちの黒い石の方が目眩し。ジワジワ一時的に視界を奪うよ。両方についてる出血は『つけた傷が治りにくい』ぐらいの軽い感じ。どっちもちょっとでも切れたら有効」
「ヒッ!」
パハンはドン引きの声をあげる。
「魔剣を!? 作ったの!?」
ナカツが驚く。
「? もうあるナイフを真似て【魔法付与】しただけだよ?」
リュコスが目頭を抑える。
「リコ様、擬似とは言え、黒龍の爪を量産できると言う事になります」
「いや、こっちはバリバリの金属加工じゃん。見た目全然違うんだけど? ・・・まずかった?」
「魔剣はそれだけで国宝級《神聖遺物》です」
「擬似なのに?」
「擬似でもです!」
あー、、、リコはパハンを見る。パハンは固まっている。
「リコ凄い!」
ナカツが飛び跳ねてナイフに手を伸ばす。
「触るな!」
その様子に我に返ったパハンが声をあげる。
「あぁ、大丈夫。魔石に付与したから、魔力を流さないとただのナイフだよ?」
リコはそう言ってナイフを手に取り、歯の部分をツンツンと触ってみせ「はい」とパハンに渡す。
「これなら暗器のようにコソコソせずにもっと気軽に使えるでしょ?」
事もな気に魔剣を渡すリコに、パハンは恐る恐るナイフを受け取った。
「武器の魔法付与ってよくわかんないんだよね。何か他についてたら便利だなぁって機能ある?」
「いえ、いいえ、十分。です」
「リコ! 俺にも!」
「いや! 駄目だ! 駄目です。子供に魔剣は、武器は持たせない。ろくに自分の身が守れない者には、別の危険がある」
パハンが慌ててナカツを咎める。
「そうだね。ナカツ。回収屋は積極的には戦わない。だよね? [痴漢撃退棒]で十分」
「えぇ〜良いなぁ〜」
「大人になったら作ったげる」
「リコ様!」
「本当!? ヤッター!」
「ただし当然有料だよ。ナカツ払える?」
パハン先輩は子守をするのだから特別だ。とリコは付け加える。
ナカツは「うぐぅっ」と唸ってみせた。
「魔剣って一本いくらぐらいするのかなぁ楽しみだなぁ」
リコはそう言って笑った。
パハンにも[ランドセル]とほぼ同等の装備を渡し、マジックバッグはリュコスと同じボディバッグにした。
皆にあらためて名前を書いてもらう。
[回収屋ダンジョンダイブセット]
携帯用ランタン
防刃防弾防火防水ポンチョ [防御力×Level]
狩猟ナイフ8寸 [研ぎいらず 耐久(極)]
ガマ口
背負子
マジックバッグはパハン先輩にだけ特別だけど、中身だけなら来店した希望者には大人でも支給しても良いよ。と言うリコに、絶対に全員希望するだろう。とパハンは答えた。
そんな話の中、リュコスは警備と称して馬車から1人出る。
辺りを一周しながら、夕方のリコの事を思い出していた。
あの時確かに、リコは、木や岩に、ダンジョンにとりこまれそうになっていた。
死んでしまったのかと焦ったのを思い出し、ゾッとして、拳を握りしめる。
「リコ様は、いったい何者なんだ?」




