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「[ポカンボール]」




 ドッチボールは、それなりの人数とコートが無いと出来ないから、少人数でもできる遊びを教えてあげる事にした。

 リコはナカツに、「これあげる[ポカンボール]」と、カラフルで可愛らしいボールを出してみせた。人の首から上には当たらない魔法陣をツラツラと描き付与しながら。


「『鬼ごっこ』って遊びがあってね」


 リコは、鬼ごっこの謂れを語り出した。


「あるるも悪鬼が村に至り、悪行をなせんこととなる〜」


 いつの頃からか、冬が近くなると、村に悪鬼がきて空き家に住み着き、家畜を襲ったり、畑を荒らしたりと、悪さをするようになった。

 いかな訳あって鬼が来るのかわからなかった村人達は、鬼を恐れて空き家に近づかなかったが、雪が降り出す頃には、鬼の放つ穢気に侵され、身体の弱い年寄りや女子供からバタバタと死んでゆくので、皆は意を決して一揆団結すると、寝ぐらにしている空き家で、暗くなるまで寝こけている鬼を、退治する事にした。

 然るに、悪鬼を倒さんと鬼に触れたその者は、悪鬼になり変わってしまう事がわかった。


「こうしてやっと〜村人達は気づいたのだ〜鬼が村に来た真の目的に〜」


 そう言って、手をワキワキさせながら子供達を脅す。


 それが『鬼ごっこ』

 《鬼移し》の呪いは防ぐ手立てがないから、人は逃げるしかない。

 鬼はそのうち進化して《鬼移し》を投げてくるようになったのが『あてっこ』

 そう言って、自分が持っていた[ポカンボール]をナカツに投げる。

 ナカツがドッジボールのようにキャッチすると、「次の鬼はナカツ」そう言って、さっと距離をとった。


 ナカツはボールをリコに当てようと手を伸ばす。

 リコは、身を翻してサッと避ける。


「むぅ」


 たまらずナカツはボールを投げた。

 リコはそれもヒラリと避けて、転がるボールから「わー逃げろー」と言って距離をとる。


「わぁ!」


 ナカツは慌てて転がるボールを取りに行く。


「フフっボールを投げる時は、よほど慎重にしないとそうなるのよ。さぁナカツ! 勝負だ!」


 わぁ、きゃぁ、と4人で絡まり解けながら先に進む。

 ドッチボールの時と違って、ミミックに乗ったアマルにも遊びやすい。

 体重移動での、ミミックとの連携が上手くなっているアマルも、その機動力の要が、大きな的となりボールを当てやすいし、アマルを載せているせいで急発進急ブレーキができないのでちゃんと不利だ。


 ナカツがリコにボールでタッチする。


「やぁハァハァマジか、もう無理。走れない」


 流石に4回目の鬼はキツい。


「ギブ。休憩させて、はぁふぅ」

「なんだよリコ〜体力無いなぁ〜」

「リコったら全然練習にならないじゃ無い」

「ウフフっもうみんなリコばかり狙っちゃうものね」


 獣人の子供相手と言う事を差し引いても、リコは、圧倒的に(のろ)かった。


「首から上を狙うのは禁止よ。大人数でやるときは、《鬼》ボールを増やしても良いわ。このボールは小さいから隠しやすいの。誰がボールをもっているか、の情報戦も必要になるから面白いよ」


 でも今日は3人しかいないから、ボール1個でやりな〜。と、ナカツには黄色、レトには青、アマルにはピンクの[ポカンボール]を渡し、後は3人で遊んでて、と、後ろを歩いていた大人組に戻る。


「子供の体力パない」


 水を飲みながら言うと、リュコスは眉を顰めて答えた。


「確かにリコ様は体力が無いかもしれませんね」


 ダンジョン内で、子供よりも体力が劣るというのでは流石に問題ありだろう。


「なによぅリュコスも交ぜてもらってみなよ。超大変なんだから」


 リコは〈探索〉マップを開いて、私がちゃんと見てるから参加してきてよ! とリュコスを押し出す。

 リュコスは目を細めてパハンをみる。


「俺も、ちゃんとみています」


 と、答えたので、リュコスは子供達の方に向かって行った。


「来たな! リュコス! 勝負だ!」


 ナカツがリュコスに挑む声が聞こえる。が、ボールは全然当たらない。

 悔しがるナカツを見て、レトが ビャハハハ! と大笑いしている。

 アマルはそんなレトをみて ウフフ と笑っている。

 リコは、それが嬉しくて、ニマニマしながら後をついて歩いた。


 しばらくして、隣を歩いていたパハンがリコに話しかける。


「ナカツの術を解いてくれないか? キツく言ってはいるがまだ子供、他の仲の良い子供にリコの秘密を話してしまうかも、うっかり、約束を破ってしまうかもしれない。もちろん監視は怠らないが、なんとか代わりに、俺が罰を受けるように出来ないだろうか?」


 神妙な面持ちで頭を下げられる。


「術? 罰? なんの事?」

「あの、《約束》の」

「あぁ、あんなのただの口約束だよ。術でもなんでも無いよ」

「口約束? 針を飲まされる拷問を死ぬまで受ける術では無いのか!?」

「え〜!? フフっ! 知ってるのね? 正式な儀式をしたわけではないから大丈夫よって意味よ」

「正式な術?」


 リコは小指を出して「正式な術がどんな物か知りたい?」と不敵に笑って見せる。


「いや、いい、とうの昔に禁じられた古の術だ。知りたくもない」


 パハンの答えに「あら残念」リコは、出していた小指をフッと口で吹いて手をしまう。


「罰なんか何も無いよ。呪いをかけたわけでも無い。ただ、嘘をついたりすると、子供は嫌な気分になるでしょ? お腹に重い布が入っているみたいな感覚になるんだっけ? 約束を破るとそうゆうイヤ〜な気持ちになるのよ。良い子は特に」


 リコはそう言ってパハンをみて笑いながら「約束をするのは、相手のこと信じるって宣言する事。で、相手が約束を守るかどうかは、その相手の覚悟と信念の強さを現す試金石になるの」と付け足した。


「あぁ、そうゆう意味では、約束を破ると大事な何かを無くしちゃうのかもね」


 胸をトントンと叩いて「だから簡単に約束なんかしちゃダメだよ」と付け加えた。

 パハンはゴクリと生唾を呑む。


 リコは、そんなパハンに、魔法陣を描きながら35人分の色とりどりの[ポカンボール]を渡す。


「約束を守ってくれたから、パハン先輩は誠実だってわかった。嬉しかった。ありがとね」


 パハンは、恥ずかしくなって、うつむき、正直に話した。


「術をかけられたと思い込んで、罰を恐れて約束を守っただけで、そこに誠実さがあったわけでは無いのです」


 リコは、フフフと笑って、「いいのいいの。さぁ私たちも混ざろう。周囲を警戒しながら子供の相手をするのも訓練になるよ!」そう言ってパハンの手を引いた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 結局突発的に遭遇した、角ラビットや、はぐれズンダボアなどの魔獣以外のクリーチャーからの襲撃は無く、無事に森林フィールドでの2回目の野営に入る。

 少しひらけた2夜目の場所に、1夜目の場所と同じ様に、程よく点在させて5機の[街灯]を設置する。


「なぜ、灯る場所を離すのですか?」


 パハンの質問に「あまり大勢がまとまれない方がいいかなと思って」冒険者も、モンスターもね。とリコは答えた。


「そう、ですか」

「要塞フロアのセーフルームと同じ感覚で使えたらそれで。あくまで、冒険者の小パーティでも、睡眠の時間が取れたらそれで良いかな。って、思ったんだけど。まぁどうとでもなるし、言い訳みたいだね」


 納得がいってないパハンに、とってつけたような説明しかできずもどかしかったが、そうゆうわけでは無いのに『モンスターの肩を持っている』と思われている自覚のあるリコには、これ以上の明言はできなかった。




 今晩の夕食の準備に、ミートソースを煮込む。

 トマト缶を使う手もあるが、味がぼんやりするので、生のプチトマトを使うレシピの方が、味がハッキリとして美味しい。

 贅沢だけどトマトはアイコを使っちゃおう。

 時間もあるし、少し多めに作ることにした。


 フライパンで挽肉を炒める。

 生姜、ニンニク、コーニッシュのガーリックシーソルトと白ワインで、しっかり味をつけて水気を飛ばしてから、業務用寸胴鍋に移し入れる。

 玉ねぎは、肉500gに対して大玉2個。これをひと鍋分繰り返す。

 みじん切りして、肉を炒めたフライパンでうっすら色が変わるまで炒めてから寸胴鍋へ。

 にんじんとセロリも、玉ねぎと同量をみじん切りにして、せっせとそのまま寸胴へ。


 大量のみじん切りの作業が心を整えていく。よく切れる包丁は世界平和につながる。っと、肉と同量のミニトマトを寸胴へ入れるべく、ヘタをとってよく洗う。

 プチトマトを煮込みで使う時は、半分に切ってから入れるのは、リコの強いこだわりだ。

 皮を湯むきした方が良いのだろうけど、ここではおもてなし料理では無いので気にしない。


 鍋に蓋をして弱火で煮込む。

 野菜から水が出て、沸々としてきたら、具材がヒタヒタになるまで白ワインを足して、トマトの形が完全に無くなるまで煮込む。

 味付けは、デミグラソースの素でも良いのだけど、水分を飛ばすのでお家カレーの様にトロミが付くのはよろしくない。

 顆粒の方が量の調節がしやすいので、ハウスシチューミクス(ビーフ) を適量入れて味見して、万能白つゆかくし味をガッツリ入れて味を引き締め、ひと煮立ちさせたら完成だ。


 大量に作れるのに、簡単で美味しいから素晴らしい。

 万能白つゆかくし味を入れると、洋風のソースに汎用性が出る。気がする。

 パスタは、食べる直前にルマコーニを茹でよう。

 こっちにはパスタ料理は無いみたいだから、スパゲッティより食べやすいだろう。


 リコは、コンロの火を極弱火にして、岩を押しのけ、無造作にのびた木を椅子がわりにもたれかかると、コトコトと鳴る鍋を気にしながら、主道側の少し離れた場所で[ポカンボール]を投げ合っている子供達をながめる。


 今は、私やリュコスがいるから、森から魔獣も出てこない。って言うけど、いつもは、陽が完全に落ちる前に身を隠す場所を探して、暗くなったら息を殺し、空が白むのをまんじりともせず待つなんて、いくら生き残るためとは言え、子供にさせて良いことなわけない。


 考えろ。

 大人ができることなんて、少しでもそうならないように環境を変えるしかない。

 考えろ。

 あの子達に、たくさん食べさせて、たくさん睡眠を取らせるためにはどうしたら良い。

 考えろ。

 考えろ。

 私が一緒にいなくても、あの子達がダンジョンの中で、死なずに済む方法を考えろ。

 あぁ、自分の脳だけじゃ足りない。もっと何か、大きな力が必要だ。

 リコの目がぼんやりとなにも映し出さなくなる。


「・・・様、・・・コ様、・・・リコ様!」


 ハッ!

 リュコスに肩を揺さぶられて、リコは我に返る。

 心臓がバクバクと早鐘を打つ様に轟いて、意識がだんだんと引き戻されてくるのがわかる。


「あ、ごめん、ボーっとしてた? どのぐらい?」

「いえ、長時間ではありません。急に意識が無くなったかの様に、目の光が消えたのです。【隠密隠蔽】とは違います。ふ、と気配が飛ぶのを見ました」


 慌てて声をかけた。と、リュコスは言った。


「夢を見てたわけでもないな。なんだろう? オベント様の言ってた病気かな? でも、うん。状態は健康だよ?」


 今はちょっと考え事してて。とリコは自分のステータスを確認して大丈夫をアピールする。


「あ、鍋!」


 急いで鍋の中を確認するが、本当にさほど時間が経ってはいない様だ。

 時計を見ると18時、ミートソースの味見をする。


「うん。上手にできてる」


 いつもと変わらぬリコに、胸を撫で下ろすと、リュコスは無反応だったイビルちゃんを見る。

 イビルちゃんはジッとリュコスを見返した。


 ミートソースの鍋は、そのまま焚き火の弱火にかけといて、もうパスタを茹でよう。

 業務用寸胴鍋をもう一つ出して、水をたっぷりと入れ、塩をお湯がしょっぱく感じるぐらい入れたら、じゃんじゃん沸騰させる。

 この塩は科学的には余計だ。と言う人がいるけど。入れた方が美味しいのだからとリコは入れる。


 パスタは〜1人150gいけるだろうな。12人分入れて、鍋にくっつかないよう時々かき混ぜながら15分茹でる。

 ザルにあけて、お湯を切ったら、振って水気をできるだけ飛ばして少し置いておく。

 この一手間がもっちりして美味しくなる。

 茹で上がった半分は【収納】に入れておくっと。

 お皿にパスタを敷いて、しっかり煮込まれたミートソースをかけ、パセリのみじん切りをかけたら、完成っと。


「ご飯できたよ〜!」




「美味しい! こんなに美味しいごはん初めて食べた! 私これ大好き!」


 レトは、食べる手を止めずにミートソースパスタを賞賛した。


「これはなに? とても美味しい! モチモチしてる!」


 アマルがルマコーニを持ち上げて見つめている。


「俺も、これ、すごく好き。美味しい。美味しい」


 ムチャムチャと口にいっぱい頬張って咀嚼するナカツは、皿を抱え込むようにして食べていた。


「フフッ落ち着いて食べなさ〜い。ナカツ水も飲んでくださ〜い」


 リコはそう言って、ナカツに身を起こすように。と背中を撫でた。

 リュコスもパハンも夢中で食べている。

 ズンダブルのミートソースはどうやらこちらの住人の口に合うようだ。


「子供達よ、ゆっくり、よく噛んで、時間をかけて食べな。そうすると、消化に良いし、栄養が体に良く行き渡るから、身体が大きくなる。って本で読んだよ」


 リコがそう言うと、皆姿勢を正して、心なしか食べるスピードも落ち着いたようだ。

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