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「おかしいのは、2人の方」2

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「リコ、何かいいことがあった?」


 ポトフの皿を持って、席を移動してきたナカツが、リコにこっそり聞いた。


「じゃがいもすごく美味しく炊けた」


 リコは、ポトフのじゃがもに、ディジョンの粒マスタードを少しつけると、スプーンですくってフーフーと息を吹きかけてから口の中に入れた。


 じゃがいもは、口の中でほろりと砕け、マスタードの酸味と相まったコンソメ味は、良い塩梅にしみしみで、とてもとても美味しかった。


「なかなかこんなふうに上手にできないんだよ」


 ポトフのじゃがいもは、硬いと美味しくないし、火が入り過ぎて身を崩すと、スープが濁ってポトフらしさを失ってしまう。

 それでも美味しいことには代わりないが、そうなると牛乳を入れてシチューにした方がずっと良い。とリコは常々思っているので、この「スプーンで突いたらほどけるように砕けるじゃがいも」は、リコにとっては、この料理の大成功に他ならなかった。


 もちろん、リコが終始ニヤニヤしているのは、じゃがいもだけが理由ではないのだけれど。


「それ、俺も食べてみたい」


 興味を示すナカツに「ちょっと辛いかもよ?」と小匙でひとすくいのマスタードを皿にのせる。

 ナカツはリコを真似て、ちょっとだけマスタードをすくうと、大きなじゃがいもの塊を砕いて一口大にして口の中に入れた。


「酸味と、なんかピリッとして美味しい!」

「お、ナカツ大人ぁ」


 リコは笑って「ウインナーと一緒に食べるとなお美味しい」と勧める。


 ナカツは、言われた通りにウインナーにマスタードをつけて食べると、目をキラキラさせながらウンウンと頷いてリコをみた。


「お肉の脂に合わせると美味しい香辛料なのよ〜」


 リコが得意げに言う。


「リコの作る料理には、たくさんの香辛料が使われている。一皿の値段が想像できない」


 パハンは、ポトフのウインナーをじっと見てそう言った。


 雑貨屋ぼったくりでは、どれでもワンコイン。銀貨1枚で買える。

 銀貨1枚=1000(ジェン)は、ズンダの街では安宿一泊分なので日本円では5千円ぐらいの価値だろうから、随分なぼったくりだなと考えていたが、実際に使われているハーブや香辛料の量からすると、この世界では考えられないぐらい破格のお安さだったようだ。

 こちらでは、天然物の採取でしか入手方法がない高級なハーブやスパイスなど、よほど美食家の豪商か、高位貴族や王族でもない限り、その価値をわかるものなどいない。


「不思議よね。美味しくなるのが分かっているのに使わないなんて。これだって元々は花の種なんだよ。こっちは土地があり余ってるだろうし、ハーブなんてきっと山ほど作れるのにねぇ。ズンダではなにか他の農作物を作っているの?」

「ズンダはダンジョンのドロップ品が主な交易品になりますので、農作物のほとんどは輸入に依存しています」


 パハンの答えに「冒険者の街だからね」と、ナカツが付け足した。


「冒険者を引退した者が、農民として小麦を作るため農地開拓した一部がありますが、それでもズンダの住人全ての食を賄うには到底足りる量ではありません」


 所詮自給自足分の余剰を市に出しているだけだろう。とパハンは言った。


「美味しいとか、美味しくないとか言ってる段階じゃなく、そもそも食糧不足だったか」


 それで、街の外にも各所に独自のネットワークのある神殿が主食のパンを配って幅を利かせているわけね。とリコは思ったが、もちろん口には出さなかった。


 とっくに食べ終わった子供達は、食休みする大人達をよそに、さっさと後片付けをして、歯を磨いて準備をすると、少し離れた場所で早速ボール遊びをし始めた。


 リコとパハンは、リュコスにいれてもらった紅茶を飲みながら、街の話を続ける。


「それでもズンダは、グリーンウッド領との関係が良好ですから、多勢が飢えて死ぬようなことはないはずなのです」

「グリーンウッド領?」

「ミャギ王国の70%の小麦、ほぼ100%の綿花を生産している、グリーンウッド辺境伯爵が治める領地です。ズンダのやや東南、馬車で5日ほどでしょうか。海にも面していて、塩田、農業、漁業ともにミャギ王国の台所を支える肥沃な領地ですが、国境の砦領を挟んだ隣国の公国の一部が、神聖国を名乗り、近年不穏な空気が漂っています」

「へぇ! やっぱ、領地ごとに得意不得意分かれてる感じなんだ。面白い。で、ズンダはダンジョンのドロップ品で住人の食を賄えるほど良いものが出るんだよね? それって何? どんなの?」

「神聖遺物が、出る事は稀ですが、出れば王族に献上され、それだけで何年分もの俸禄を下賜されます。通常の交易品としては、モンスターの素材や魔石、鉱石や宝石類です」

「そうゆうのって、いずれ枯渇しないの?」

「ダンジョン内で生成される物は、マナがある限り再生すると考えられています」

「へぇ〜不思議」


 多分、例えば黒曜石を作るプログラムがその場にあって、石を移動させても、そのスポーンプログラムがある限り、マナをエネルギーにしてその場に黒曜石を作り続ける。ってシステムなんだろうな。


 ダンジョンってなんなんだろう?


 マナをエネルギーにして、数多の物質を生成するプログラミングが、各所に施された仮想空間みたいな?


「あれ? じゃぁそのレシピさえあれば、マナが溢れるダンジョン内では、何でも手元で生成できるって事じゃない? プログラミングの仕様解析も【鑑定解析】で可能なのか? コレって良いMPの自動消費システム作れるんじゃない? 例えば砂金粒を生成して、そのソースを読み取り、壺かなんか入れ物に付与すれば、無限に(きん)が湧く魔道具とか作れるんじゃない? あれ? キタコレ?」


 リコは、金塊を生成しようと、手のひらを上に向けた。

 と、魔力を込めるのを思いとどまる。

「ズンダダンジョンの廃坑フィールドでは、金は出る?」とパハンに話しかけた。


「あくまで“廃坑”フィールドです。金鉱があるわけではありません。ズンダダンジョンで入手できる黄金は、モンスター討伐の際のレアドロップ品です」


 リコは、19階でのゴーレム乱獲を思い出していた。

 何やらむにゃむにゃと考えて【収納】から出した木材でシンプルな蓋付きの木箱を【錬金錬成】する。

 その中に黄金を。と魔力を込める。

 珈琲豆ほどの金ができた。

 【鑑定解析】でみていたその顛末を、金糸で魔法陣に書き写し、箱に付与する。

 破れたら知らせるお札を箱に貼って、魔道具[産金箱]の完成。


 MPをMAXのまま、使わないでしばらくいるのはマナの無駄。とのことだったので、MAXになったら金を生み出すようMPを自動で消費し、金の生成に変換する魔道具を作ってみた。

 コレで、ゴーレムを殺さずに黄金を継続的に入手できる。


 リコが「ヨシ!」と小さくガッツポーズをするのを尻目に、リュコスは、「どうか、今見た事を口外なさらぬようご協力のほど、お願いいたします」と、パハンに頭を下げていた。

 自重を辞めたリコは、思うがままにクラフトする衝動を人前で控える事をしなくなった。

 何か思いつくと、突然没入して何かを作り始めるとはいえ、カウンターから作業場に引っ込んでと、一応人目を避けるよう気をつけていたのに、よりによってあんなに嫌がっていた黄金の生成を、なぜ今唐突に目の前で!?


 リュコスは理解に苦しむ。

 終始無言での作業だったが、話の流れから、箱の中身は明白だ。

 パハン先輩も間違いなく気づいただろう。

 リュコスは目を細めてパハンをみる。

 パハンは、箱を振ってカラカラと音を鳴らすリコをじっとみていた。


「動植物を生成するのは何の魔法かわからないからとりあえず土属性魔法で金を。金そのままだと相場が崩れるから、代わりにまだここにない魔道を作って売ろうと思って」


 魔道具を作るのには意外と黄金を消費するのよ。ミスリルを生成するのは怖すぎるし。とリコははっきりと言葉にして説明した。


「だからって“金”を。と、なぜ思うのかを聞いているのです」

「通貨に使うぐらいだから、豊富にあるのかなって。ウチの方じゃ金には限りがあるから、通貨に使うなんてとんでもない事だよ」

「「こちらでもとんでもない事ですよ!?」」


 2人の言葉に、「そうなの? [錬金術師の手記]をみるとたいていの魔道具に金使ってるから」と、首を捻る。

 金貨の価値はあくまで通貨としての価値と、リコは考えていたので、その答えは意外だった。


「街で暮らすほとんどの者は、生涯金貨をみることはありません」

「わぁそうなんだ。商人とそうじゃない人に差がありすぎだね」


 それとも[モンジュ]を買った商人が異常だった?

 リコは金貨の価値感の修正が必要かなぁとパハンに聞いている。

 リュコスは生まれながらの奴隷の自分では、補い切れない世の中の常識の壁を感じていた。


 ナカツは子供だった。オベント様達は客。ではパハン先輩は?

 〈ペイン〉とは違う胸の痛みを感じる。


「リコは、随分と遠い所からいらしたのですね」


 パハンが息を吐いてリコを見る。


「そりゃ、こっちの地図には無い国みたいだからね。パハン先輩って、この国周辺の地図見た事あるでしょう?」


 リコは、元いた世界の世界地図を出した時の、パハンの食いつきを思い出していた。

 そして、どうやらそれは、一般の知識より上の物らしい。

 『獣人の回収屋』以上の知識がパハンにある事は明白だった。


「パハン先輩が何者かには興味がないけど、知っている事を“教え合う”のは、金貨以上の価値がある。ってゆう感じ、パハン先輩にはわかるのでしょう?」


 リコはニッコリとパハンを見た。

 パハンはフゥと息を吐き、深呼吸した。


「俺が“教育”を受けたのは子供の頃だけで、人に物を教える方法はよくわからない。だから、リコが何を知りたいか、聞いてくれたら、俺の知っている事でよければ教えます。それで良いなら」

「十分だよ!」


 リコが食い気味に答えて手を差し出した。

 パハンは差し出された手とリュコスの顔を交互に見る。

 リコはパハンの手を取り握って上下に振ると「交渉成立の握手。こっちには握手の習慣がない?」とパハンに聞いた。


「結婚前の男女が手を触れ合う習慣などありえません」


 と、リュコスが答える。


「そうなんだ? 同性ならあるの?」

「「ありません」」


 2人の答えが揃う。


 リコは手を離して「なんか、もう絶対触っちゃいけないレベルなの?」じゃぁあの指切りとか、あまつさえ一緒に寝てるのとかどうゆう事なのか? と、リコはリュコスを見た。


「「・・・・・・・」」


 視線の先の2人ともがおしだまる。


 子供同士のスキンシップは割とあるように見えるし、大きくなると急にそうゆう感じになるんだろうか? 触れ合う=性的 みたいな。

 だとしたら『乙女』達のあのベタベタはなんなんだろう?


「ごく近しい人とか“家族”のふれあい? は当たり前にあって、貴族、神職、ある一定の階級層と平民の違いが大きいのかな」


 パハンがビクリと身をこわばらせる。リュコスが眉を顰めてパハンをみる。


「うん。なるほどね。お互いの事は詮索他言無用だな」


 リコは、ビシっと指を刺して、ニヤリ。と口の端を上げた。


「おかしいのは、2人の方」


 そう、2人とも何者かにそう躾けられているんだ。

 やっぱり、貴族と奴隷は同じようなあつかいなんだろうな。と、リコは思ったが、もちろん口には出さなかった。

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