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「ドッチボールって知ってる?」1

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「ドッチボールって知ってる?」1



 俺は、何を言ってるんだ?


 リュコスは、さっき自分の口から出た言葉を思い返して、主人の言葉を否定したのに〈ペイン〉が発動しない事に狼狽していた。

 慌てて首輪に手をかける。

 ちゃんとついている事にホッとして、身体がビクリッと跳ねるほどまた動揺した。


 なんだこれは、なんでこんな事を考えるんだ?

 首輪がある事にホッとするなんて、意味がわからない。


 木の陰でうずくまり首輪をさする。

 〈ペイン〉の発動は無いが、胸がひどく苦しい。

 胸を押さえて、歯を食いしばると、リコの近づく気配に気がついて立ち上がる。


「群れから離れた個体を、非戦闘員が1人で追ってきてはいけません」

「うん。そうだね。それはそうなんだけど、その」


 〈探索〉で、近くに外敵がいない事はわかっている。と、お互いにわかっているのに。

 リュコスは、自分がまた馬鹿げた事を言っているとフッと笑う。


「あぁ、ごめんリュコス。そんなこと思ってない」


 リコの言葉にリュコスが赤面する。何を考えたか分かったリコは否定する。


「ち、違う」

「いいえ、違いません。その通りです。リコ様が、優れた索敵能力を持っている事は明白です。愚かな進言をしました。リコ様は間違っていない」

「違う。間違ってるとか、間違ってないとか、そう言うことじゃ無い」


 リコはどうすればいいのかわからない。

 さっき自分の口でわかりあう必要などないと言ったばかりじゃないか。

 リュコスは俯いてリコの言葉を待つ。


 そうして、いつもの疑問が浮かぶ。


 なぜこの人はこんな自分と一緒にいるのだろう?

 こんな気持ちになるぐらいなら、跪いて頭を下げ鞭で打たれる方がマシだ。


 と考えはじめていた。

 途端に、澄んだ水面の上にいるような自分の性根に気づいて驚く。


 何だこの感情は?

 なぜこうも性懲りも無く奴隷であり続けようとする?


 ぐらりと足下が歪む。


「え? なにそれ?」


 リュコスの吐息に黒い影がみえた。リコが驚いてリュコスに聞く。


 リュコスは深いため息をつくと黒いモヤが口からもれでた。


「リコ様、やはり俺は生まれついての奴隷のようです。俺は卑屈にも、いま鞭で打たれたらどれだけ楽か。と、考えています」


 あぁ、これが魂のない者のサガなのだ。

 なんて卑しい考えだろう。

 到底リコ様のようには考えられない。


 吐き出されたドス黒いモヤモヤがリュコスを包む。


「全ての魂あるものに対して不誠実です。それが魂なき者の当然の権利とさえ思っている」


 オベントの言葉を思い出し、リュコスは吹き出し笑った。


「アッハッ!」


 開いた口からドス黒いモヤが一斉に噴き出される。


「あ、鎖。みえた!」


 突然リコが叫ぶ。


「リュコス! それはただの呪い。そう思い込んでるだけ。そのクソみたいな考えは自分を縛る鎖になる。それはそう言う呪い!」


 そう言って、リコは[電弧]を伸ばす。


 なんだ? どうなっている?

 どうして俺には何も見えないんだ?

 リコ様は何をやっている?


「リュコス聞いて! それは強制的に呪いを打ち払う魔法をかけても、その鎖を自身が大事にしてしまったら、また自分に新たな呪いを掛け直す。それはそううゆう類の呪い! 本で読んだ!」


 リコ様は何を言っているんだ?


 リュコスは身動きが取れないほど黒いモヤに包まれていた。


 苦しい!


「リュコス。こっちをみて」


 リュコスは名を呼ばれた方に顔を上げる。


「私を信じて」


 その瞬間、リュコスの視界がブワリと晴れる。

 隙間から見えたリコは、頭上に掲げた[電弧]を振り下ろす。


「クソ神殿めっ!」


 リコが叫ぶ。


 カカッ!


 甲高い轟音と共に、一本の細い稲妻がリュコスを貫く。

 リュコスは、口からバラバラと砕け散る鎖を吐き出した。


「大丈夫? どこも痛くない? 火傷とかしてないよね!? んもうっ! リュコス! 私にはしちゃいけないって言ったくせに! リュコスの方こそ、オベント様と何か契約した!?」

「いえ、いいえ、何も、契約した覚えは、ありません、、、?」


 ゴホゴホとえづきながらリュコスが答えた。


「マジで!? 怖っ!! 悪魔怖っ!! でも凄いな!!」


 リコは、電気の魔法は唯一オベント様の鎖を砕いたから、首輪の契約に便乗するように偽装して、オベントがかけた呪いの鎖を砕くために仕方なく稲妻を落として呪いを解いた。決して攻撃したわけではないのです。と、ワタワタと説明する。


 リコは【鑑定解析】してリュコスをみる。


 状態:健康 神聖契約中(馬車に鎖がついている)


 うん。とりあえず元の状態。

 神聖契約の方は解けなかったか。

 もとよりそのつもりはなかったが、あわよくばと思ったので「契約と呪いとは別だからかなぁ」と残念そうにリコが言う。


「俺は、オベント様に呪いをかけられていたのですか?」


 リュコスの言葉に「う〜ん、どうだろう?」神殿でかけられていた洗脳? リュコスが育てた呪い? を〈解呪〉できるようにオベント様は具現化してくれた? リコは、考え過ぎかなぁと呟くと、あちゃーと言う顔をして答えた。


「私がちょっとズルしたから、その仕返し。かなぁ?」

「え!? ズル!?」

「いや、う〜んわかんないけど〜、そっかぁ契約と呪いは違うよねぇ? う〜ん?」


 リコがまた、ブツブツと取り止めの無い言葉を漏らしながら、考え込んでしまった。

 リュコスは少しだけスッキリとした気持ちでいたが、胸が苦しいのも、おかしなことばかり考えるのも、本当に悪魔に呪いをかけられていたせいなのか? と考えを巡らせながらもリコを見る。

 リコは「解呪した」と言っていたが、リコを思う気持ちにさほど違いはなかった事に、驚きながらも不思議に思って質問する。


「俺は、いったい何の呪いにかかっていたのでしょうか?」

「え、あ、ごめん、先に【鑑定解析】すればよかったね。わかんないや」

「そ、う、ですか」


 腑に落ちない表情で、リュコスがとりあえず返事をすると、「あのねぇ、そんなのべつ幕なしに他人のステータス覗き見してるわけじゃないんだよ?」個人情報大事でしょ? とリコがいつもの調子で言う。


「俺は他人じゃないと」

「はいはいそうでした。そう言いました。でも今の他人はそう言う意味じゃありません。他者、他の人」


 リコは、いつもの調子のリュコスの物言いにイラッとして鼻の頭にシワを寄せてそう言うと、リュコスがそのシワを手で伸ばすように触れてきた。


「ありがとうございます」

「え、あぁうん。さっきは、その、ごめん。言葉が、たりなかった、かも」


 そもそもリュコスの後を追った訳を思い出し、ゴニョリ、と言葉に詰まる。

 それでも何と言って良いのかわからないのだ。

 さっき発した言葉以外に適切な言葉が思いつかない。

 リコは何か言おうとしてやめ「あ、う」と口を閉じた。


「いいえ、十分いただいています」


 鼻のシワを伸ばしていたはずのリュコスの指は、そのまま頬を撫で、リコの耳たぶをこする。


「リコ! 今こっちに雷が落ちたっ!」


 2人は ビクーン! と飛び跳ねる。

 落雷に驚いたナカツが駆け寄り声をかけた。

 〈探索〉と【気配察知】はどうした?

 パハン達3人も、後を追ってこちらに向かってくるのが見えた。


「でっかい虫にびっくりしちゃって。もう大丈夫」


 リコは慌ててナカツに駆け寄り、頭を撫でながらそう言って馬車に歩き出す。

 リュコスはまた少し寂しい気持ちになったが、「リコどうした!? 熱があるのか!?」ナカツのおどろいた声にリコを見ると、リコの耳が真っ赤に染まっている。


「大丈夫、なんでもない」そう言いながら、こちらを振り返ることもなくみんなの元に戻っていくリコをただただ後ろから眺め、さっきの言葉を反芻しながら胸をおさえる。


「『私を信じて』」

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