「言ったでしょ? 協力者が欲しいって」
「とりあえず、1ヶ月、様子を見ようと思うんだけど、何か用意ある?」
全員の衣食住はこちらに任せて。その上で何かある? とリコが聞く。
「衣食住の用意がいらないなら、こちらとしては何も」
パハンは本来の『大喰らい』の依頼で1ヶ月ほど余裕があるらしいので、それ相応の準備はしてきているらしい。
「料金はいかほどか?」
パハンの問いに、リコは少し考えると、「外の常識を色々教えて欲しい。もちろん教えられる範囲でいいし、実際にお金を払うような事態以外は金銭は気にしなくていいよ」お金より情報が欲しい。とリコが言う。
反論しようにも、それ以上にリコが望む物を提供できる気がしない。とすぐに気づいたパハンは答えに窮した。
「回収屋は戦わないって本当?」
早速のリコの問いにパハンは答えた。
「同行者がいる場合はそうだが、回収屋だけで潜る場合がほとんどだ。戦わないことはあり得ない」
「そりゃそうだよね。ごめん。失礼な質問して」
リコは、やっぱり。と言う顔をしてリュコスを見る。リュコスはナカツを見た。
「子供を積極的に戦わせたりはしていない」
パハンはリュコスを見た。
リュコスは目を細めてパハンをみかえす。
「ヨシ、それじゃぁ、そうだな、どう戦っているのか見せてもらおっか。それから必要な物を色々考えよう。パハン先輩って単独で何階まで行ける?」
「行って帰ってくるだけなら、29階の魔法陣を使える。回収屋の大人は、そこを全員クリアして初めて見習いがつく。単独では26階の火山帯フィールドまでは到達した」
火山帯の次は寒冷帯。どちらも様々な準備が必要だ。リュコスの説明では単独踏破はあり得ないらしい。
「凄い! 17才でそれは凄くない? 全然戦えるんじゃん! なんで戦わないなんて思われてるんだろう?」
「同行者がいる場合は基本は戦わない。戦闘力目的で依頼が来るのは困る。冒険者とはダンジョンに入る目的が違う」
リコは頷いて「私もそれに賛成」とリュコスを見た。
リュコスも目を細めて頷いた。
「じゃぁ、護衛の必要がないとして、森林フィールドは問題ない?」
「問題ない」
パハンは即答した。
「カッコいい!」
リコの感嘆に、ナカツが「だろう?」と得意げに胸を張ると、レトがナカツの頭をパシンと叩いた。
「3人は、どこまで降りた事があるの?」
「ここ今回初めてきた」
ナカツが16階の沼地フィールド。
レトは10階フロアボスにパーティで挑戦済み。
アマルが回復目的で背負われながら、29階のリッチ討伐に同行したらしいが、これはノーカンだなとリコは思った。
アマルを、ミミックに乗せて移動できるようにしようと提案する。ずっと抱っこして運ぶのはむしろご褒美だとリコは思っていたが、アマルがそれを望んでいない。
「アマルはミミックとゴーレムと仲良くしてね」
クッションを仕込んだライダーゴーレムの膝の上、抱き抱えられたアマルは「よろしくね」とミミックとゴーレムに挨拶する。
イビルちゃんが、アマルの頭にとまると、ウフフと笑ってフワフワ撫でた。
その様子をニンマリしながら見ていたリコは、顔を戻して、子供3人分の[ランドセル]と装備を用意する。
真っ黒なポンチョの下は、軽装備だが、リュコスと同等の防具をあつらえる。
ナカツは大喜びでクルクル回りながらその着心地を堪能していた。
「レト、急に呼び出しちゃってこんなんことになっちゃったからこれはサービス。後でズンダガマの皮を一緒に狩に行こう」
「良いの?」
「良いの良いの。細かい調整はおいおい考える事にして、この装備はとりあえず。もっと良い物を考えて、回収屋みんなの生存率を上げるのが目的。良い?」
パハン先輩は身軽にして。そう言ってパハンに[マジックバック(10)]のバックパックを渡す。
パハンは、驚いてリュコスを見る。リュコスは目を細めて頷いた。「なんでよ」と言うリコの抗議は無視された。
「お言葉に、甘えさせていただきます」
そう答えて頭を下げると、リコがすかさず頭をカサカサと撫でる。
「パハン先輩は、やっぱり頭を撫でて欲しいんだな」とリコが言うと「いや、ちがう。これは」と慌てて赤面する。
「それでは出発しよう!」
リコ達は準備を整えて、海洋フィールドを目指すことにした。
ミミックの魔法陣を利用して、15階から19階に移動し、そのまま速やかに階段を降りて、20階の森林フィールドに降り立つ。
リコは〈結界〉を張り探索マップを開いた。
「デフォルト攻撃は、オークが3体みたい。早速だけど、パハン先輩いける?」
リコの結界と予言に驚きつつ「問題ない」と、少し先行した場所でパハンがナイフを構えた。
「恐竜の爪? あれはなんて言う武器?」
リュコスは「カランビットナイフです。気がつかないうちに出血させる武器です」と、パハンから目を離さず答える。興味津々だ。
ドスドスと音を立てて森からそれは現れた。
乱雑な石斧や棍棒を持った、なるほどいかにもなオークが3体。
こちらを見ると咆哮が響くが、その内の1体が叫んだ。
「ブッ、、、コロス、、、コロス!」
「しゃべった!?」
子供達を背にしたリコが驚くと、リュコスがナイフを抜いた。
「はじめてみました。知能がある個体のようです」
リュコスがリコ達の前に出る。
不意に、パハンの姿がフッと消えたようにみえた。
2体のオークの足首から血が吹き出して、倒れ込むさなか、残り一体の首から血が吹き出す。
すかさず倒れ込んできた2体のオークのこめかみに、同時にナイフが突き立てられる。
「凄い! 凄いじゃんパハン先輩!!」
「そうなんだ! 先輩の中ではパハン先輩が1番強いんだ!」
アマルとレトがほっとした顔で息を吐くなか、リコとナカツが飛び跳ねて喜んでいる。
パハンが赤面しながら、2体分のドロップ品を回収して持ってきた。
「パハン先輩凄い! カッコいいじゃん!」
リコは、調理してもらいたい食材がドロップした時以外は、他の素材は各自で保有しよう。と、皮の受け取りを固辞する。
パハンは頷いて皮をマジックバックにしまうと、魔石はアマルにわたした。
「それは? なんで?」
テンションが高いまま、リコがアマルに聞くと「手が空いてる時に魔力を入れておくの」とアマルが答える。
魔力が満タンに入った状態の魔石の方が換金率が高いらしい。
「へぇ! それはいいこと聞いた! そうそう! こうゆう事を教えて欲しいの!」
「冒険者なら誰でも知ってる事でしょ?」
ナカツが首を傾げて言うと、リコは首を横に振って答えた。
「私、商人にもなったばっかりだし、冒険者の常識を本当に何にも知らないんだよね。だから色々教えてくれると本当に助かるの」
「リュコスは?」
ナカツがリュコスを見る。リュコスは首をコツコツと指差す。
「そっか・・・」
ナカツが俯いて何か考え込む。
そのやりとりをレトが不思議そうに見ながら「リコは、貴族様なの?」と聞いた。
「なんでそう思うの?」
リコは聞いた。
「リコの言動はなんだか貴族様みたい」
「何にも知らないから?」
「う、ん、貴族様は生きていくために本当に必要な事を、何も知らないってみんな言ってるから」
「いや、違う。知っている事が違うんだ。何も知らないのとは違う」
パハンが取り繕うようにレトに説明する。
「なるほどねぇ」リコは、頷いて説明を続けた。
「貴族じゃないけど、こことは別の場所で、そうね、凄く高い塔のてっぺんの、誰も来ない部屋に閉じ込められてたの。その部屋には沢山の本と、ベットしか無くてね、私、ずっと1人きりで本を読んで過ごしてたから、世の中の事はなんんんんっにも知らないのよ。だから些細なことでも、みんなが知っていて当然の事でも、教えてくれるととても助かる」
リコはパハンとレトにわかりやすく嘘をついた。
「どうやってそんな高い塔から逃げ出せたの?」
「18歳になった時、読む本がもう無くなっちゃったなぁって思ったの。そしたらやっと髪の毛が地面に届くまで伸びていた事に気づいたから、それを編んで塔から垂らして逃げ出せたの」
「なるほどぉ」
レトとアマルは感心してリコを見る。
ナカツは、首を傾げながらリュコスを見る。
リュコスは、その視線を無視して「止まらず移動しましょう」と促した。
人語を喋った個体の遺体がいつまでも霧散されない。
あれは、外から来た人間から産まれた個体だったのだろう。
パハンとリュコスはその事実に気づいていたが、話題には出さずにその場を後にした。
小鳥の囀りと、木漏れ日のさす深い森を横目に、木々の開けた主道は、ますます気持ちの良い天気で、のんびり森林浴をしながらのお散歩日和。
リコが〈探索〉で敵対モンスターが周囲にいない事を確認していたが、子供達はキャッキャとはしゃいで先行し、パハンは「森林フィールドで、こんなに敵が出ないなんて」と訝しんでいた。
「あまり良い経験にはならないかもしれない?」
リコは、なぜか森林フィールドでは、敵との遭遇率が低いと説明すると、パハンが答える。
「最近特に知能の高いモンスターが増えているのかもしれません」
以前リュコスが言っていたことを思い出した。
貴族が入場規制をしたまま早々に音信不通になったせいで、ダンジョンは異例の1ヶ月以上手付かずの状態になった。
ズンダの街ができ、入場を管理するようになってから初めてのことで、その間、中のモンスター同士での自然淘汰があったと考えると、自ずと強い個体が残っていることになる。
下階に行くごとに敵のレベルが上がるのも、モンスターを間引く外の人間が少ないからだ。
知能がある。経験がある。相手のレベルがわかる。
そうゆう個体が出てくるのも当然の事だった。
「普段の訓練ではどうしているの?」
「回収屋のダンジョンダイブの目的は、目的地に無事荷物を届ける事なので、訓練では、モンスターの気配を事前に察知して、なるべく戦闘を避け先に進む事を優先しています」
「それなんだけど、どうしても子供をダンジョンに連れてこないとダメ?」
パハンはリコの言葉に「ズンダの街で、回収屋として、生きていくためには、必要な事だ。と、思う」そう言って下唇を噛む。
リコはアマル達をチラリと見てからパハンに聞いた。
「回収屋には・・・子供何人ぐらいいるの?」
「今は、38人、いる。その中でダンジョンに入る見習いは28人。他はまだ幼い赤子と、回収屋にならない子供だ」
「回収屋にならない子供?」
「・・・成人するまでは、衣食住の面倒を見るが、その後の事は、他の街の子供と同じ、です」
「そっか」
パハンは責められていると感じているのか言葉を濁す。違うんだけどな。とリコは思うが、これはもうパハン先輩の思考傾向がそうゆう気質なのだろうと、スルーする事にした。
「保護しているのは獣人の子供だけ? 回収屋には獣人しかいないの?」
「人間の子供はいない。回収屋には獣人しかならない」
「なんで? って聞いても良い?」
「・・・はっきりした事はわからないけど、人間の子供は、獣人の目に触れるような境遇にない。のだと、思っている。回収屋にいる孤児も、ほとんどは親や親族に持ち込まれた子供で、親に捨てられた子供自体、そう目にする機会もない」
「捨てられる子供が多いわけではないの?」
「いや、、、いいや。多いと、思います」
パハンは言葉を探しているようだ。
「そっか、人の子だけ『捨てられる』子供が多いのか」
育てる気もないのになぜ産むのか。
大人はそれをしかたがない事だと言ってそれ以上考えようとしない。これはどこの世界でも同じなのかもしれないな。
「避妊の概念がないの?」
リコはリュコスに聞いた。
「ヒニンとはなんですか?」
リュコスは聞いた。リコはパハンを見ると、パハンもわからない。と言う顔をした。
「子供ができないようにする方法が無いの?」
パハンは「あぁ」と言う顔をしたが、黙って俯いてしまった。
代わりにリュコスが答える。
「貴族の中には、秘薬や魔法で一次的に子がなせないようにする方法がある。と聞いた事がありますが、いずれも神殿での契約が必要な事なので」
「はいはい、大金が必要なのね」
リコは呆れたように答えた。
「避妊薬があるのかぁ」
リコは考え込む。それも作ったら売れるのかなぁ。リュコスはリコの考えている事を察して質問した。
「そもそも子をなすことを目的とした結婚をしなければ子ができないのでは?」
リュコスの言葉に、パハンとリコが驚く。
「ねぇ、パハン先輩、こうゆうのって、どうやって学ぶの? 回収屋では子供に誰かそうゆう事教えてる?」
「はっ!? そんな事、子供に教えるわけがない! あ、いえ、回収屋では教えません。それは人間も同じなのでは?」
「え〜貴族は学ぶと思う。平民はどうかなぁ、わかんないなぁ。リュコスのこの感じからすると、特別に学ぶって感じじゃないっぽい?」
「リコの国では学ぶのですか?」
「学校では簡単な授業を受けるよ? 身体の仕組みとか妊娠の仕組みとかだけだけど」
「リコは学校に通っていたのですか?」
パハンの言葉に「私のいた国では義務教育って、子どもが学習を受ける権利が平等にあって、大人は子供に学習させる義務があるの。で、6歳から15歳まで必ず絶対強制的に学校に通うんだ」とリコは答える。
「リコ様の言う学校では子作りについて学ぶのですね」
リュコスが怪訝を浮かべる。
リコは、フフと笑って「多分考えている事は違うかんね。人体の仕組みを簡単に座学で学ぶだけだよ」と前置きしてから「こちらの国ではどうしているの?」と聞いてみた。
「私達は自然の成り行きに任せます」
「子ができるのは神の思し召しです」
リュコス達の答えに、リコは大声で笑った。
「ご、ごめん! ごめんっあははは、そっか。そっか。そりゃぁ孤児が多いわけだ。ははっ神殿いよいよ持ってクソだな。ハハハっ」
リュコスが眉を顰める。批難めがしいその視線に、リコは「リュコスがそうゆう事を誰から聞いたのかだいたい想像できるけど、愛がなくても妊娠はするんだよ」と教えた。
「え、俺は妊娠した事がありません」
リュコスの答えに、色々思うところがあるが、リコは一旦冷静になって、パハンに「・・・もしかしてこの国では男でも妊娠するの?」と聞いてみた。
「・・・いえ、しません」
「だよね。なぜだかわかる?」
リコの問いに、パハンとリュコスが驚く。
「リコは知っているのですか?」
「知ってる。子宮がないからだよ」
「え?」
「男には身体に子供を育てる臓器が無い」
「なぜ無いのですか?」
「えぇっそれを聞くの? えぇと、そちらの考えだと、神がそう作ったんだろうね」
「では、愛がなくても女は妊娠するのですか!?」
「するよ? 必ずじゃないけど」
「リコ様は、それを知っているのに、俺としようとしたのですか!?」
リュコスの言葉に、リコは頭を抱ええ、パハンが赤面して目を泳がせる。
「俺と、子供を作る気だったのですか!?」
「馬鹿じゃないの!?」
なんで言い直した? リコは叫んだ。
「子供を作る気がなくても、そうゆう事をするのよ。私はした事ないから知らないけど?」
だから孤児ができる。って話を今してるんじゃん。と、嫌みたらしく言うリコに、パハンはどうゆう事かと2人を見比べた。
「リュコス。そうゆう事を言っちゃいけないんだよ? 私の恥ずかしい事でしょ?」
リコの言葉にリュコスはハッとするが、もう時すでに遅し。
「やっぱり。何にも知らないのはリュコスの方だったじゃん」
リコは恨みがましくリュコスをみる。
「詳しいことは、オベント様にでも聞いてよね。私は一度断られている身ですから? リュコスに性教育はしません」
パハン先輩にでも聞いてみたら? リコはそう言って、パハンを見る。
パハンはブブブブと首を横に振っている。
「なぜ孤児が多いかわかった。仕方ないこともなんとなく。パハン先輩は愛する人としかそうゆう事しないよね?」
リコが聞くと、パハンは顔を真っ赤にして「俺はそもそも子供を作るようなことはしません」と言い切った。
それはそれで間違っている気がする。が、まぁ、パハン先輩もまだお子様だからな。
とにかく、仕方がない仕組みで街に孤児がいることは理解した。
「どうしても仕方ないなら、いつでも良いから、そうだな、定期的に子供をお使いに寄越してくれたら、その子供にあった装備と[ランドセル]を作ってあげる。ズンダガマの皮を5枚自分で狩って持って来られる子供が条件。どう?」
「む、無理です。ダンジョンに1人で来れる子供などいない」
「え、なんで1人で来させるの? 回収屋ってダンジョンに子供を1人で放り込むようなクソな大人しかいないの?」
「大人、が、同行してもよろしいのですか?」
そうなると当然リコ達の情報をギルド全体で共有することになる。
リュコスも「良いのですか?」と聞く。
「どうしても必要って事なら仕方ないじゃん」
そうしてパハンを見てはっきりと言う。
「回収した貴重品を持ち運べるアイテムを、子供しか使えないなら、その子供の手は離さないよね」
ギルドに戻ったら相談してみて。とリコは言いきった。
「あ、りがとう、ございます」
「違うよパハン先輩。言ったでしょ? 協力者が欲しいって。一緒に、一緒に子供の生存率をあげよう」
リュコスは目を細めてリコを見る。
リコ様の次に欲しいものは子供? なのか?




