「私、欲しいものができた」3
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パハンが処置室に戻ると、3人は起きて一つのベットの上にいた。
「リコは悪い魔女じゃないってわかった?」
ナカツの言葉に、パハンは「あぁ、悪い魔女では無かった」と答える。
「でも、魔女さ、ま、リコは、本当に人間なんだろうか?」
パハンの独り言のような言葉に、レトが「人間の匂いがしない」と答える。
ナカツもそれに頷き「人間ではないのかもしれないと自分も思った」と付け加える。
「でも古の魔女でも無かった」
「人間にも色々な人がいるって事? 獣人と同じように」
アマルの言葉に、パハンがウグっと口籠もる。
アマルの言葉は、事あるごとに、亡き母が、生前自分に言い聞かせていた言葉と同じだった。
それを否定し、アマルに散々「人間を信用してはいけない」と教えてきたのは兄である自分だった。
人間と獣人は違うと。
「アマル、リコは、アマルが歩けるようになるまで一緒に暮らさないかと提案してくれている。リハビリ、と言うそうだが、歩けるようになる訓練を手伝いたい、それにはレトやナカツの協力も必要だと。皆はどうしたい?」
パハンの言葉に、子供たちは驚いた。
回収屋としてでは無く、子供だけでは生きる力が無いこの世界では、大人が子供にどうしたいか聞くなどあり得ない事だったからだ。
「俺は、リコを信用できる人間だと、思ってしまった」
パハンがうつむき下唇を噛む。
「私、早く歩けるようになって、みんなの力になりたい。だから、早く、歩けるようになるまでリコと一緒にいたい」
アマルがレトとナカツを見る。
ナカツはウンウンと頷いたが、レトはただパハンをみた。
「俺が、間違っていた。人間にも、色んな人がいるのかもしれない」
「パハン先輩は間違っていない。私の尻尾を切ったのも、アマルの足を切ったのも人間だもの。パハン先輩が人間を信用するなと言ったのは間違いじゃ無い」
パハンの答えにレトはその考えを否定するが「ただ、リコがそいつらとは違うってだけだ」ナカツが付け足す。
そうして「リコは〜」といつものようにウットリとリコの事を語りだす。レトが「始まった〜」とうんざり顔でナカツに悪態をついた後、「私もリコは優しいと思う。でもパハン先輩が間違った事を言ってるとは思ってない。それだけの事」そう言って、アマルをギュッと抱きしめた。
「アマルが歩けるようになるならなんでも良い。パハン先輩はそれでも良い? 大丈夫?」
3人の視線がパハンに集まる。
「あぁ、俺も、それが一番良い事だと思う」
パハンは力なく笑って答えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「人間と獣人以外は討伐対象って神殿が討伐対象を決めるの?」
寝支度をすっかり整えたリコが、狼に変化したリュコスの腹の上でそう聞くと、リュコスは「そうです」と答えた。
「それって人間の総意?」
「今は、違います。人間にも亜人と混じる者は多くいます」
「混じるって、子供ができるって事意外に意味がある?」
「・・・それは国によって異なる。と言う事でしょうか? 獣人しかいない国も、エルフしかいない国もあります」
むしろ、人間しかいない国があるとは聞いたことがないです。と、リュコスは説明を続けた。
「ただ、国、とは違いますが、神聖国を名乗る地域があり、そこは人間しかいないのですが、他国は国と認めてはいません。神の名の下に神官と神職のみで形成された集団で、そこに亜人はいません」
「それって、少数派なんだよね?」
「そうです」
「建国ってそんな簡単にできるの?」
「どこかの貴族の領地が独立を名乗る事は稀ですが」
「あぁはいはいなるほど。そうゆう事ね。じゃぁやっぱり神は関係ないか」
「え?」
「勝手にそう言ってるだけなんでしょ?」
「そこには天使様がいるそうです」
「天使様?」
「18年ほど前でしょうか? 神の御使が降臨して、公国の一部が神託を得た。と、独立した神聖国を謳っています」
「リュコスはそれ? 天使? を見た事がある?」
「一部の人間と神官しか謁見を許される事はかないません」
「で、神官職には人間しか就けないって事?」
「そうです」
「なるほどねぇ」
リコは少し考えて、「リュコス、こう言っちゃ身も蓋も無いんだけど、この世界の神殿は神様とは関係ないわ」そしてそれを、中の人間たちは明らかにわかっている。と教えた。
「そんな、まさか」
「神殿がやってるろくでもない事になぜ神罰が落ちないか知ってる?」
「それは、そもそもそれが神のご意志だからでしょうか?」
その即答に、リコは苦笑いする。やっぱりリュコスは神殿側の人間の影響を多大に受けて育ったのだなと。神の意思ねぇ。
「神って存在がさ、この世界ではなんて言うか、人間の為にしか機能してないよね? ならなんで神様は最初から人間だけを作らずに色んな種族を創造したんだと思う?」
神殿でその事を説明できる人間は1人もいないと思うよ。けろりとそう言い放つリコに、リュコスは眉を顰めて聞く。
「リコ様は、神の存在を信じていないのですか?」
「まぁ、この世界の創造主と言う意味でなら、実際に会ったからあれが神ならそうなんだろうけどでも、私があった神様はねぇ、この世の事に干渉できないって言ってたよ」
「そのような思想は、それこそ神罰が、あるのでは無いのですか?」
皆、罰を与える事が神様の仕事と思っているから神殿なんかがのさばっているんだ。
「神は赦しと癒しを与える存在だったはずだよ。まぁ知らんけど」
神様って普段なんの仕事してんだろうね。
「私、欲しいものができた。これからは積極的に商売頑張るわ」
リコはそう言って「おやすみ」と寝てしまった。
リュコスも静かに目を閉じる。
もっと強くならなければ。
リコ様が神殿にとって異端な存在だと言うことは明白だ。
むしろ、悪魔やそれこそ魔女が討伐対象だと神官たちが言っていた言葉そのままの思想なのだ。
もっと、もっと強くならなければ。俺1人でリコ様を害する全てからリコ様を守るために。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝ごはんは、ベーコンを分厚く切ったBLTサンドに、卵と玉ねぎのコンソメスープ、苺にヨーグルトをかけて、蜂蜜を添える。好きなだけかけろ。と言うと、パハンが驚いていた。
こちらには養蜂の概念がないらしく、ダンジョンの蜂はモンスター扱いだ。そう思えば蜂蜜は大変な貴重品だ。
食後のお茶を入れ、みんなでまったりと朝食の感想を述べている。
「昨日の件、改めてよろしく頼む。そしてできれば、俺も同行させて欲しい」
かかる経費は払わせてください。とパハンは深く頭を下げた。
リコはそんなパハンの頭をシャカシャカと撫でる。
赤面しながら顔を上げたパハンにリコは言う。
「頭を下げたら撫でちゃうんだから。撫でられるのが嫌ならもうやめな」
ウグ、と言葉に詰まるパハンをよそ目に「アマル! レト! ナカツ! よろしくね!」リコが、3人に微笑みかけると、わぁ! とナカツが抱きついて「またよろしくリコ!」と歓声を上げた。




