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「私、欲しいものができた」2

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 夕食のロコモコ丼をたらふく食べ、さぁもう後は寝るだけだ。

 レトに寝る前のマッサージの仕方を教えて、子供達を寝かしつけたら、少し、これからの話をしよう。とパハンと処置室を出る。


「ねぇパハン先輩。アマル、少し預けてみない?」


 できればレトと一緒に。と、お風呂場でのことを話す。


「レトの尻尾も、治していい?」


 パハンは、本人が望むならレトの事は願ってもないことだと、頭を下げる。


 セーフルームに移動して、リコとリュコスとパハンはヒソリと話を詰める。


「アマルの神殿での仕事って強制なの?」

「いや、むしろ神殿側は『仕事させてやっている』と言う立場なので、今更コチラが神殿へ赴かなくなったとしても、何か言ってくることは無いとは思う。むしろ、足が治った事は詮索されるだろうから、もうアマルを神殿へ連れて行くことは無いと、考えてはいた。ちょうど討伐の失敗の日から、一度もギルドの外に出てないし、神殿にも行っていないし、このまま行かせないで済むのは、本当に、ありがたい。獣人が欠損回復薬など、どうやって用意したのか、その方が問題にされると思います」


 リコの問いに、パハンは、俯きながら、言い難い言い訳を絞り出す子供のように言葉を選ぶ。


「あぁ、お金の話? なら気にしないで。あっち(ダグ回収)のこともこっち(欠損回復薬)のことも」

「違う。違うんだ。その」


 そんな風に思われたくないからこその言い訳だったが、リコには全く通用しないらしい。


「あ、ありがとうございます」


 顔を上げずにパハンは言う。


「ほんのちょっと目を離した隙に、アマルはさらわれてしまって、俺も、回収屋の誰も、幼い子供の足を切るなんて、そんな、そんな恐ろしいことするなんて。ずっと、ずっと俺のせいだってわかっていたんだけど、俺には、俺にはどうすることもできなくて。俺には、なんの力もないから」


 リコはやっと察して、「パハン先輩を責めてるわけじゃないの。そうか、そうだね、怖かったよね。無神経でごめんなさい」なんとか励ましの言葉をかけるがうまくいかない。


「そんな、リコが謝る事じゃ」

「私、今朝方説明した通り、別のとこから来たばかりで、この国の常識が無いの。わからないの。だから、それが正しいとか正しく無いとか、そうゆう判断では他の人を見ることができなくて、その、ごめんなさい。上手く言えないんだけど。まだ人間的にも未熟なので、すみません」


 なんと言って良いかさっぱりわからない。

 彼らの人生は、彼らだけの物だ。私の言葉など気休めにもならないだろう。

 でもだからこそ、真っ当な人間ならばきっとこう言葉をかけるのだろう?

 そうゆう言葉を探してなんとかリコは言葉をかける。人には、人生には、どうにもならないことなどつきものなのだから。


「アマルの足の事はしかたなかった。もう治った。なんの問題もない」

「あー・・・」


 顔を下げパハンが泣く。


 王都から、妊婦の母親を連れて逃げてきた。

 母も、夫から虐げられ、周りの者達からも蔑まれ、母屋から離れた陽の入らない暗い離れで、お屋敷の者からも、街の人からも、隠れるように暮らしていた。

 このまま、たまにしか家に寄り付かない父親にすがっていても、きっと状況はますます悪くなるばかりで、母親にこれ以上の不幸を味合わせたくなかった。

 だから逃げた。追手が来ないように、きちんと屋敷の者に話をつけて逃げ出した。

 このズンダの街になんとか辿り着き、そのうちアマルが産まれて、なんとか親子3人でやってきて、苦労は多かったが、前の生活よりは人らしい日々が、やっと、やっと心穏やかに過ごせる。そう思えるようになった矢先に、母親が不慮の事故で死んだ。

 母を失った悲しみにかまけて、妹の事が疎かになっていた。

 そんな中、アマルはさらわれ、盗人の謗りを受け、抗うこともできずに、罪人同様足を切られ、不自由な生活を強いられる事になったのに、良いように搾取され続ける未来まで決定づけられていた。

 神の名の元に。


「俺が、逃げたかったばっかりに、母親と、妹を・・・」

「ストップ!」


 リコが話を遮る。


「そうゆうのは、アマルに。まずアマルと話して。足を治したいと思ったのは私の勝手なのだから、ちゃんと責任取って歩けるようにするよ。でも、パハン先輩の懺悔は私に関係ない。だから今はまだ聞かないよ」


 リコは、自分に言い訳をする必要はないと、そんなつもりで断ったのだけど、リュコスはまた、余計な面倒ごとに首を突っ込むのか。と思っていたので、リコのこの言い分に驚いた顔をしていた。


 リコはそんなリュコスをみると「私だって学習するよ」と、ため息をついた。


 そうゆうのじゃなくて、とタオルを出してパハンに差し出す。


「アマルを預けてくれる事に問題がないなら、そうだな、海洋フィールドがいいと思う。そこでしばらくリハビリしようと思うの。リハビリ、わかる? 歩く練習をしなくちゃいけない。神殿の目からも少し離れた方が良いのでしょう?」


 石造の要塞フロアで歩く練習は危ないし、砂浜なら。と提案する。


「なんで、そんなに、、、良くしてくれるのか、俺には何も」


 パハンは、自分の行いを責めもせず、何か得があるわけでもないのに、なぜリコがそんな面倒ごとを引き受けようとしているのか理解できなかった。


「そうだよね、ごめん図々しいか」

「え?」

「ごめんね勝手に。えっと、良かれと思って勝手なこと言ってるけど、そうだよね。お兄ちゃんとしては心配よね。こんな胡散臭い魔女の言うことなんて」

「え、いや、そうゆう事では、ただリコに何の得があるのか」

「え? 得しかないが?」

「??」

「アマル可愛いじゃん」


 リュコスが眉を顰める。


「足があった方が便利だし」

「!?」

「レトの尻尾もあったほうがなお可愛い」


 この魔女は何を言っているんだ?

 可愛いから? と言う理由で、これから起こりうる面倒ごとを引き受けるつもりなのか?


「わ、わかりません」


 パハンは困惑して、なおも聞く。


「どうゆう意図があって、俺達を助けてくれるのか、俺にはわかりません。俺にはもう、なんの力も、金も、何もありません。返せるものがありません」

「え? だから、お金は取らないって。治療やリハビリが本業ってわけじゃないし」


 話が噛み合っていない。

 リュコスは、一旦両手で顔を覆って天を仰ぐと、グッと覚悟を決めてパハンに説明する。


「リコ様は、善意でアマル達を、、、“助けている”つもりはありません。完全にご自分の趣味です」

「え?」

「アマル達に色々な服を着せて、愛でたいのだそうです」

「ヤダ! なんか、そんな言い方、変態オヤジみたいじゃん!」


 こうなったから言わせてもらうけど、パハン先輩にも色々着せたい。と言うリコに、リュコスがダメです。と何やら揉めながら話を進めている。


「??」


 パハンには、2人が一体何の話で揉めているのか全く理解できなかった。


「つまり、アマルに着て欲しい服があるから足を治したのですか?」

「それだけじゃないもん」

「今更取り繕っても無駄です」

「でも自分で歩けた方がアマルだって良いじゃん。win-win」

「ウィ? その服は何か特殊な服なのですか?」

「え? 別に変な服じゃないよ? 可愛い服、ほら、こうゆうの。可愛くない?」


 リコはゴスロリの雑誌を出して、写真も撮りたい。とウキウキ話をする。

 リュコスの眉間に深く深く皺がよる。


「あ、えっと、服飾関係の商売もしたくて?」


 リュコスはリコに批難めがしい視線を向ける。


 そんなに不審かなぁ。

 リコはだんだん不安になって「これって悪い事?」とリュコスに聞くと、リュコスは「悪い事ではありませんが、そんな事をする人間はこの国にいません」と答える。

 じゃぁ別に良いじゃん。とリコは口を尖らせる。


「良い悪いと言う話ではありません」


 リュコスはため息をつくと「なんの見返りも求めず与えられるばかり。ということはこの国ではあり得ない。と言うことです」だから、パハン先輩は理由を求めているのですよ。と。


「与えられるばかり?」

「フルポ、、、欠損治療薬は高価な薬です。その他にもリコ様の提供する全て嗜好品は、コチラでは一般の平民が生涯目にすることもない品物ばかりです」

「そうは言っても、所詮どれもヒト1人分の価値にも満たない物だよ。使う人がいなければなんの意味もないんだから」


 これにはリュコスもパハンも驚いた顔をする。


「えぇそんな変な話かなぁ? お金だって、使わなければただの金属だよ? それと同じで、薬や嗜好品なんて、使う人あってこそ価値があるのに、人の命と比べるなんておかしな話だと思わない?」

「リコ様の世界、国では皆そう考えているのですか?」

「そうじゃないから疎まれ弾き出されたって言ってんじゃん」


「では」リュコスはそう言いかけて口籠もる。


「私の作る物に過大な評価をしてくれるのは嬉しいけど、それは使ってくれる人がいてこその事だと、リュコスだってそれはわかるでしょう?」

「ですが」

「私が欲しい物の価値は私が決める。その対価が何かは相手が決める。お互いが納得なら、それはもうそれで良いじゃない。私、アマルが自分で歩いて自分の好きな時に好きなところに行けるってだけで、ずいぶんと得難い物を得たと思えるのだけど、2人は違うの?」


「見てよ超可愛いじゃん。私そんなにおかしいこと言ってる?」リコはこの、魔法の使える世界で暮らす人々が、一体何に縛られているのかイマイチ理解ができなかった。

 宗教か? 金か?


「簡単に作り出せるのに、欠損回復薬の値段が高過ぎるのが話をややこしくしてるのかな?」


 リコは首を捻る。


「いえ、ダメです。アレの値を下げてはいけません。そして簡単ではありません」


 だよね?


「わかんない。じゃぁ何が問題なの?」


 リュコスもパハンも二の句がつげない。リコの言っていることは正論だ。正論だが、それ迄のこの世の常とは異なる考え方だ。


「ごめんね? パハン先輩は何が心配? お金はいらないってのがダメだった? いくらか貰ったら信用してもらえる?」

「信用なんてそんな、リコを信用していないわけではありません」

「え、そうなの?」


 いや、そうだ、信用できない。でもそれは何か謀りあっての事と言うわけではない。自分が何を不安に思っているのか。パハンは自分の考えもわからなくなってきた。


「わからないのです。獣人に得になるような事をする人間に会った事が無いのです」

「あー・・・なるほど、私が人間だから、ダメなのかぁ」


「種の違いによる差別かぁ」リコの言葉に、ヒュ! とリュコスとパハンが息を呑む。


 今まで散々迫害されてきた身でありながら、他者の善行を種族で差別する側に初めて回っている事を認知し、己の思考に驚愕した。

 2人がその事に気づいて狼狽しているだけと気がつくと、リコは「なるほどねぇそればっかりはどうしようもないなぁ」としょんぼり項垂れた。


「人間が、この世界でどうゆう立場にあるのか、なんとなくしかわかんないけど、いや、神殿とか貴族とか、私もおかしいと思うよ。でも、私、貴族でも神殿の人間でもないし、どうしよう? やっぱ、そっかぁなるほどねぇ人間に妹を預けるのなんて嫌だよねぇ」


 あぁ〜そう言えば、とリコは話を続ける。


「ナカツやレトも、最初、私に喰われると思っていたよねぇ、人間は種が違えば、獣人でも喰べる種族なんだっけ」

「食べませんよ?」

「食べないの!?」

「聞いたことはありません!」

「じゃあなんで2人とも『食べるの!?』って聞いたの?」


 人は獣人の子供を食べる事をこの人は受け入れているのか。

 リュコスはフッと笑みを漏らす。


「リコ様は『古の魔女』と思われているようです」


「え、まさか、魔女って女の魔法使いの事を魔女って言うんじゃないの?」とリコは聞いた。


「魔女は、子供を躾ける時に怖がらせる為の物語に出てくるモンスターです」


 え、何それ怖い。


「だから今でも魔女は人間なのに子供を食べるって思われるって事?」

「魔女は今はいません」

「は?」

「魔女は絶滅したと言われています」

「えぇっ!?」

「大昔に大規模な魔女狩りがありました」

「あぁ〜、、、まって、ちょっと、待って」


 リコはフゥと息を吐く。


「魔女は討伐対象?」

「当時は。悪魔や魔族と同じく、魔女も討伐対象の『夜の住人』『魔人』でした。ただし、今はその全ては絶滅した。と言うのが神殿の教えです。今存在しているとしてもせいぜい『亜人』扱い、いきなり討伐されることはないと思いますが迫害は覚悟してください」

「なるほど」


 リコは少し考えると、異世界人とのしての違いを説明した。


「私の国では、魔法使いの女は総じて『魔女』です。加えて魔女の血を引く娘も『魔女』。魔女はその血脈で空を飛ぶって言われてたから。それと、こちらはずっと昔のパターンですが、悪魔とサバト、悪魔がその力を与える契約した女性のことも『魔女』と言います」


 リコの言葉にリュコスは答える。


「こちらでは魔法使いは魔法が使えるただの人間です。魔人と魔法使いの違いは一概には言えませんが、1年ごとに老いるかどうかでしょうか?」

「なるほど、妖怪じみてないって事ね。OK OK」


 違いがわかった。とリコは納得して「私は厳密には魔女ではありません」フンと、鼻息を出してパハンに胸を張る。


「ただの人間だけど、魔女の方が信頼できるのなら、魔女でも良いのです。私の国では私は魔女って事になるだろうし。嘘ではないです。でもこれだけは信じてほしい。どちらの私でも、アマル達に酷いことはしないよ」

「それは、十分にわかっています。ナカツの、子供に対する過保護さは異常なほど感じています。ただ」

「ただ?」

「すみません。わかりません。俺は、、、人間が、そう、人間が怖いのです」

「私も」

「え?」

「私も人間が怖い。だからわかる。わかります」


 だからこそ「こればっかりはどうしようもない」のだ。

 なんの実績もないのに、足を治してやったのだ子供を預けろ。など、胡散臭いことこの上ないな。なるほどなるほど。


「これはもう一晩ゆっくり考えてパハン先輩が決めて? あ、もちろんアレよ? 時間が許すのであれば、パハン先輩もずっと一緒でいいんだからね? それでもどうしても嫌だったら、やり方は教えるからパハン先輩がやっても良いんだし。何かマニュアルみたいのを作るのは本当にめんどくさいけどまぁ」


 そう言って、ブツブツと考え込むリコを、リュコスは眉間に皺を寄せて見た。

 結局めんどくさい事に首を突っ込んでいる。


 非難めいたその視線に「お仕事しながら子供の面倒見るのは大変だろうなと思ったから引き受けようとしただけですぅ。どうせ誰かがしばらくはつきっきりになるんだから」自分の所業のせいでは無いとは言え、失った信用を回復するのは時間がかかる。と偉い人は言っていたものね。それはこの世界でも同じだろう。リコは口を尖らせ言った。


 話せばわかる。ってのが日本人特有の傲慢な考え方であることは痛感している身としては、強引にそちらを選ばせることだけはしたく無い。

 結果が同じでも、今後の関係性を考慮しても、選択肢は色々ある方が良いに決まっている。


「私は、人間だけど、獣人とも今後末永く良い関係を続けたいのです。人間である他に、商人だから」


 この世界でも、種族に関係なく好きな職業は選べる。

 元いた世界と同じように、成功するかどうかが、スキルや個人の向き不向きではあっても、使える魔法やスキルは種族関係なく平等な仕組みを不思議に思っていた。

 それが今回の件で、種族による差別が後から生まれた馬鹿げた価値観であるとの証明になったように思えてならないのだ。


 リコは、自分が心穏やかであるためには、隣人も幸せな方が良いに決まっている。と言う考えを変える気は無かった。

 その上で、自分になんの不利益もないのに、人間だけが他種族を虐げる事で得られる物は、いったいなんなのだろうと考えていた。


 そんなリコを見てリュコスは言う。


「人間だけに限らず、幸せは他者の物を奪う事にある。と考える者は多いのです。俺もそうでした」


 他者より良い物を食べたい。

 他者より多く所有したい。

 他者よりいい暮らしをしたい。


 そう思っていた。それが幸せなのだと。

 それなのに、人間であるリコの幸せは、目に見える範囲の皆で、美味しい朝ごはんを食べる事だ。と言い切るのだ。


「俺のような者には、思いもつかない幸せがリコ様の目指す幸せなのです」


 リコは、リュコスをじっと見る。


「では建設的な話を。お互いが理解できない事を無理に認めあう必要はない」


 リコ様はそう言うだろうな。とリュコスは思った。

 そしてそれを少し寂しいと思う。

 こちらは、正しいのはリコの方だと、わかっているのに。


「他者から奪い続けると結局みんな我慢する事になる。そんな風にいずれ枯渇する物を奪いあう関係より、自分で作り出す方が楽しい。それだけの事なんだよ」


 だから、何も与えてるつもりはない。「私も十分に欲しい物を貰えると思う」リコはそう言ってパハンをみる。


「みんなでよく話し合って?」


 そう言ってうつむき顔を上げないパハンの頭を撫でる。

 リュコスはその手を止めなかった。

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