「私を食べるの!?」2
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「何でこんな小さい子供を!?」
アマルが抱き上げられているのとは逆の方に回り込み、ヒソり、とリコがパハンを責める。
「アマルは、ヒールが使える、貴重な光属性持ちで、深い階層に潜る時、同行する事がある」
リコの勢いに引き気味でパハンは答える。
一応非戦闘員なのね?
だからアマルの分もナカツが皮を狩ったのか。
グムム。
リコはその後押しだまる。
パハンはその様子に苦笑いしてアマルを撫でた。
「そして、アマルは自力で歩くことができない」
「え?」
神殿に足を切られた。そう言ってパハンは布をめくり足を見せる。
膝から下がない。
「尻尾アリなのに、ヒールが使えるのは、本来人間に与えられる能力を、盗んだからだ。と、神官どもがまだ幼いアマルの足をきっ」
「クソかよ!!」
リコは、パハンの言葉を遮るように、カウンターに突っ伏し叫ぶ。
やおら起き上がると、こっちにおいで。とカウンター越しにアマルを受け取ろうと手を伸ばす。
パハンは言われるままにそっとアマルを差し出す。
アマルはすんなりカウンターを通った。
「アマル歩けるようになりたい?」
カウンターの上に座り、ひざの上に乗せたアマルにリコが聞く。
「私が悪い子だから、歩けなくても仕方ないと神官長様も言ってた」
セーフルームではギン! と甲高い音がしてマナが揺れる。
ナカツがビクリ! と肩を揺らした。
イビルちゃんがナカツの肩にとまりぐりぐりと頬擦りする。
リコはアマルに抱きつきイビルちゃんを真似る。
あぁ、あぁ、そうだ。守りたいこのモフモフを。
「神官長が足を切ったの?」
「ラヴァル神官長様はそんなことしない。足は医師が切った。私が『人間の能力を盗んだ罰だ』って。ラヴァル神官長様は『足が無いのは罪人の証だけど盗んだ人間の代わりに働けば許しを得られるかもしれない』って神殿で仕事をさせてくれる」
「そうなの」
セーフルームのマナがビリビリと揺れる。
そろそろカウンターの2人が辛くなってきた。
ナカツがリュコスに助けを求めるように目線を合わせる。
リュコスの顔は『無』すぎて、ナカツは逆に怖くなってパハン先輩に縋り付く。
「アマルのスキルは他の人のスキルを盗むスキルなの?」
アマルは首を振って違う。と言う。
「ヒールが使えるのは、お母さんが私を光の日に産んだからってお兄ちゃんは言った。私、誰からも何も盗んでない」
「そうだよね。アマルは何も盗んでない。だから悪い子でも無い」
そう言って、アマルの頬にスリスリと頬擦りする。
マナが穏やかに落ち着きを取り戻す。
パハンとナカツは、ホウゥと息を吐いた。
「どうする? アマルは全っ然悪い子じゃ無い。アマル自分の足で歩きたい?」
アマルは泣きながら叫ぶように答えた。
「歩きたい! もう、もう誰かに背負われて、みんなの荷物になるのは嫌だ!」
なら大丈夫だ。リコはそう言って、カウンターにアマルを座らせると、ここに名前を書いてとペンを渡す。
アマルが名前を書くと、さぁそのポーションを飲んで。とガラス瓶を渡す。
アマルは紙の封を破り、ぐいっと飲み干した。
光の粒がアマルを包み、足の周りをくるくる回りながら再生されていく。
「あらぁ! 可愛らしいあんよ!」
サイズはいくつだ? リコは小さくか弱い足にペタペタと触り、早速【買付】で靴下と靴を探す。
どうせモニターはみんなに見えないみたいだし。
「アマル!」
「お兄ちゃん!」
アマルが身をよじってカウンターから手を伸ばす。
パハンは手を伸ばしアマルを抱き上げる。
「まだ立てないでしょうよ。あれ、自分で歩けないってことは、お風呂は? 15階の銭湯には入った? 大きなお風呂に入った事ある?」
リコは、事もなげにサクサク話を進める。
「入ったことない」
アマルはフルフルと首を振った。
「じゃぁ一緒に入ろう〜お風呂は足を動かすリハビリにも良いよ〜マッサージの仕方を教えてあげるから、ナカツも一緒入ろう?」
「んな!?」
リュコスが声を上げる。
「リコ、私、ナカツとは一緒にお風呂に入れない」
アマルがハニカミながらリコに耳打ちする。
「え、なんで?」
「リコ、俺もう11才だよ? 女と一緒に風呂に入れるわけないだろ!」
「え、そうなの?」
リュコスを見る。
リュコスは眉をひそめて「ナカツとは俺とパハン先輩が一緒に入ります」と不機嫌そうに言った。
「お兄ちゃんのパハン先輩も、アマルとはお風呂入れないの?」
「な、は、入れるわけがない!?」
顔を真っ赤にして答えるパハンに、リュコスは眉間の皺をさらに深くしてリコを見る。
「そっか〜どうするかなぁ・・・」
リコは少し考えて、「アマル、特別仲良しの女の子いる?」と聞いた。
「いる。鬣狼のレトがいる」
「いくつ?」
「10才」
「ギルドの子?」
「うん」
ナカツはウエーという顔をして「俺はあいつ嫌い。生意気なんだ」とリュコスに言った。
リュコスも「俺も生意気な子供は嫌いだ」とナカツを横目で見て答えた。
「ねぇパハン先輩、レトは回収屋見習いなの? 今ギルドにいる?」
「あ? ああ、そうだ、多分ギルドに、いると思うが」
パハンは、何を言ってるんだ? と言う顔でリコを見る。
リュコスが「リコ様。それは」と、首を振る。
「あー、、、じゃぁ試したいことがあるんだけど、それならいい?」
「試したいこと?」
これ、これ、と、ミミックを指すと、リュコスは眉をひそめた。
「よし、今度はみんなで行こう」
そう言って、リコはみんなを引き連れ通路に出る。
その後ろをゴーレムを乗せたミミックが付いてくる。
ミミックの前で「リュコス」とリコが声をかけ2人は手を繋ぐ。
「みんな来て」
パハンがアマルを抱き、ナカツがそれにくっついてリコに手を伸ばすと、間に入ったリュコスと手を繋ぐ。
「じゃぁ、1階までお願い。15階で待ち合わせしよう」
リコがミミックに言うと、ゴーレムが箱から飛び降り、箱に擬態した一際大きなミミックの蓋が空いて、箱の上に石板が展開すると、そこに移転魔法陣が現れた。
「そんな! まさか!?」
パハンが驚きの声を上げる中、みんなでその上に乗る。
「行くよ」
皆の姿が消えると、箱は、ミミックに戻り蓋を閉め、その上にゴーレムが乗って、カツカツと音を立てて壁際に移動し、2人で何かモジョモジョと会話をして15階に移動するために壁に潜った。
1階の出口魔法陣に現れたリコ達は、一瞬注目を集めるが、またいつものざわめきに戻る。
「す、凄い」
パハンが驚きでへたり込む。
「ねぇ、ほらレト連れてきて?」
リコが急かす。ミミックが待ってる。と伝える。
「え、は? え」
リュコスは、パハンの両脇に手をいれ、ギュンと持ち上げ立たせ「入口の移転陣の前で待っている。急いてください」と、アマルを受け取って腕にのせ声をかける。
パハンは、コクコク頷くと、転げるように走り出した。
「もしかして入口と出口が違うの?」
リコが聞くとリュコスは答える。
「あの降る階段を挟んで別れています。隣の部屋です。移動しますか?」
一行は、立ち並ぶ商店には目もくれず、隣の部屋へと歩き出した。
「リコも一緒にギルドに来ればいいのに」
歩きながらナカツが言う。
「ナカツぅ〜私達のことは、自分の足でダンジョンにいる私達に会いに来れる奴ら以外には秘密だろぉ〜」
リコの言葉と共に、リュコスが目を細めてナカツを見ると「あ! そうだった!」とナカツは思い出したかのように言った。
どうやら入場の方の魔法陣部屋は広く、がらんとしていた。
体育館ほどあるそのフロアは、ひと気も無いので、隣の出口のある市場と比べると、余計広く見える。
「出口の部屋の方が数倍広いのですがね」
時間も16の鐘をまわっているし、これからダンジョンに入る冒険者もそういないのだろう。とリュコスは言った。
「アマルも気をつけてね。私達の事は人間達には内緒だよ」
特に貴族や神殿関係者には。唇に指を当ててリコが言う。
アマルはうんうんと頷く。
ソファーを出して、アマル達を座らせ、靴下と靴を履かせてみたり、ナカツに新しいポンチョを着せてみたりして暇を潰す。
リュコスは周りを見ているようだ。
全身が映る鏡を出してソファーの前に置くと、アマルがブーツを触って「うわぁえへへ」とリコに笑いかけた。
「服を、服を着せ替えても良いでしょうか」
手をワキワキさせて、「シルバニア」「リアルドール」と聞いたことのない呪文を唱えるリコを、リュコスはそれ以上アマルに近づかないように向かいのアウトドチェアに座らせる。
「あ、やっと来た」
30分ほどして、パハンと門番の声がする。とナカツが言った。
「揉めてるみたい」
アマルが答えた。
「『こんな時間から子供を連れてダンジョンに入るのか?』だって」
「お金を払わされてる」
と、ナカツが言う。
確か、回収屋の入場はお金かからないんじゃなかったっけ?
「アイツらは難癖つけて金をせびるんだよ。『何度も出たり入ったり、今日は入場者が少ないから私用で入るんだろう〜』『最近タグをたっぷり拾ったそうだな』」
「「『お前らが帰ってこなかった時、代わりに回収依頼出してやるよ』」」
ナカツとアマルがハモって言う。
リコは鼻の頭にシワを寄せた。
「ろくでもないな」
「リコ、女の子がそんな顔しちゃダメ!」
アマルがリコの鼻を撫でシワを伸ばそうとすると、リュコスが眉をひそめてアマルを見た。
「何だーカワイイかよー」とリコはアマルの耳にスリスリと顔を擦り付ける。
2人がキャッキャウフフとしていると「すまないっ待たせたっ」ハアハアと息を切らし、茶色い耳がピンとたった女の子を連れたパハンが、駆け寄ってきた。
「じゃぁつかまって」
出していた椅子を全て【収納】してリコが言う。
「15階、ミミック、雑貨屋ぼったくり前」
リコがそう言うと、15階セーフルーム前の通路にいたミミックが擬態した箱の蓋がバカン! と開き、その中から6人が現れた。
セーフルームと男湯には冒険者が数人いたようだが、休憩所と通路は無人だった。
リコはミミックとゴーレムに耳打ちすると、ゴーレムはピョイと飛び降りミミックに手を振る。ミミックはカツカツと音を立てて歩き出し、ダンジョンの壁の中に入っていった。
「なん!? だと?」
「ミミックのスキルだよ【影移動】ダンジョンの中を自由に行き来できるみたい。普段は他のミミックと同じくダンジョン内を徘徊してるから、どこにいるかはわからないし、ダンジョン内で見かけても勝手に移転魔法陣を利用するのは辞めた方がいいね」
最悪壁の中だよ。とリコは脅す様に言った。
「こんにちは。私は雑貨屋ぼったくりの店主リコです。こっちは護衛のリュコス。あなたの名前を教えて」
リコは膝をついて、驚いた顔をしている茶耳の女の子に話しかける。
「レト、です。回収屋見習い、を、して、います」
レトは、ハッとした顔で答えた。
「レトに、お願いしたい事があるんだけど、良いかな?」
リコは努めて優しげに話してみたが、レトは震えながら答えた。
「私を食べるの!?」
「なんでっ!?」
リコが叫ぶと、ナカツがアハハハハっと声を出して笑った。




