「虚勢と実力」2
2/2
イビルちゃんが、ドミナントの額を バチン! と蹴り飛ばす。
ドミナントは、思わずのけぞりよろめくが、すんでで踏ん張ると体勢を戻し立ち上がった。
すると、床から、壁から、ゴーレムを乗せたミミック達が現れ出た。
ギチギチギチギチ
フロアにミミック達の威嚇音が響き渡る。
「へえ?」
ドミナントは、片手で髪をかき揚げながら、顎をあげ、〈威圧〉と共に鎖を鞭のようにしならせ、バチン! ガチン! と床に叩きつけるが、ミミック達は怯む事なく威嚇音をやめない。
「待って!! 止めて!! 戦わないで! 大丈夫! 大丈夫だから!!」
リコが慌てて止めに入るが、ミミック達も前傾姿勢と威嚇音をやめてくれない。
「オベント、こちらもこれ以上放っておくと、リュコスが死ぬ」
「そんなヘタレは勝手に死んでしまえ」
バコニーの呼びかけに応えるドミナントに、リコが異変を感じ取った。
「待って、なに!? なんて?」
ドミナントは髪を整え、シャツのボタンを閉めるとオベントに戻る。
縋るリコの髪も整え、背中のほこりも払うと「開けてあげなさい」と優しく微笑んだ。
リコは、ハッとして扉があった壁に走り寄り【錬金錬成】をかけて扉を戻し開けると、根本から折れたナイフを持って、手指を血だらけにしたリュコスがつんのめって倒れ込んできた。
「な、にや、ってんの!? 〈治療〉! 〈治療〉!」
「壁に、穴を開けようと思ったのですが」
「馬鹿じゃ無いの!?」
ちょっと前に十分試したはずでしょう!? とリコは憤り、リュコスの体を支えた。
ゾロゾロと、ミミック達が扉から部屋を出て、セーフルームの店に戻っていく。帰りは扉から出るのね。と、リコが戦闘にならなかったことに、胸を撫で下ろしていると、すれ違いざまオベントが、リュコスの額を掌底で小突いた。
「ミミック達の方がよっぽど役に立つわ」
支えていたリコごと2人で廊下に座り込む。
「オベント、リコはどうだった? 俺も見たかった」
バコニーが走り寄った。
「ワシは疲れた。風呂に入って少し寝る[セコム]を試してみたい。リコ殿それではまた明日」
「は、はい。ありがとうございました」
リコがペコリと頭を下げる。
バコニーがリコを見るが、オベントは「行くぞ、犬も食わない。と言うやつだ」と退散を促した。
「リコには睡眠が必要だ。一緒に寝る?」
リコは首を振ると「リュコスと一緒に寝ます」と答えた。
「はぁ〜〜〜」
残された2人で、並んでボス部屋の閉じた扉に寄りかかり、リコは長いため息をついた。
「もう、大丈夫です部屋に戻りましょう」
そう言うリュコスだったが立ちあがる様子がない。
「すごく疲れた。だるい」
リコも、手は膝にのせ投げだされ、そこに埋めるように顔は俯き、表情は見えない。
しばらく続く無言に、リコはコミュ障な自分を恨む。
「オベント様には、魔法攻撃が一切通用しませんでした」
「オベント様と戦ったのですか!?」
「負けてしまいました」
「なぜそんな事を!?」
「・・・虚勢と実力を自覚したかったのでお願いしました」
「まさか何か賭けたのですか!?」
「賭けました」
「なにを!?」
「・・・言いたくない」
拒んだリュコスには言う必要もないとリコは思った。
やっと選んだ話題がどん詰まりだ。
「・・・ナイフが、せっかく作っていただいたナイフが折れてしまいました」
「あぁ、うん、なおすよ。今度もっと良い材料を使う。どんなのがいい?」
「同じ物で大丈夫です」
「そっか・・・」
ギャフン
2人ともなんて下手くそな会話なんだ。
話が全然続かないじゃないか。
・・・ってあれ? でもどうだった? 元々こんなもんじゃなかった?
その場を取り繕うように話題を探すような真似、2人きりだった時はしていなかったじゃないか。
どうしたんだろう? なんで? どうして急にこんなふうになってしまったんだろう?
「「はぁーーーー〜〜」」
2人同時にため息をついた。
なんだかそれがおかしくて、リコは フフ と笑みを漏らす。
「帰ろっか? お湯に浸かりたいから、森の拠点に戻っていい?」
作業部屋にはシャワーしかついていなかった。作ってもいいけど、今からはちょっとめんどくさい。移転魔法陣で帰ってしまった方が早い。
「は、はい」
返事をしたリュコスとトボトボと歩き、カウンターの上に[呼び出し用お鈴]を置いて魔法陣を使って森の拠点まで帰る。
「私、お風呂に入ってから寝るから勝手に先に寝てて?」
リコが言うとリュコスは「え?」と驚いた。
リコはそのリアクションの意味がわからなかった。
しばらく見合ったあと、時計を見る。もうすぐ2時だ。起きる時間まで後3時間しかない。2時間は眠っておきたかった。
リコは、そのリアクションをスルーしてお風呂場に向かう。
お湯の準備をして服を脱ぐと、掛け湯だけして、お湯に浸かった。
「あ゙あ゙あ゙あ゙・・・」
しみる。42℃の熱い湯が体に染みる。
「めんどくさい。人といるのしんどい。1人で気ままに過ごしたい」
お湯の中で、頭まで浸かって少し嘆く。
風呂から上がり、洗面台の鏡を見ながら〈浄化〉をかけつつ〈温風〉で髪を乾かす。
ガッシガッシ とブラッシングをしていて思い出す。
「あぁ、あれか」
バコニーの同衾のお誘いを断る口実に「リュコスと一緒に寝ます」と言ったのを思い出した。
そうするとさっきの「え?」が無性に腹立たしいものに感じてきた。
あの「え?」は「あんた1人で寝れないのになに言ってんの?」の「え?」な訳だ。
勇気を振り絞った乙女のお誘いを断っておいて、約束したわけでもないのに一緒に寝ない事にそんなに意外そうな顔するのは一体どうゆう精神状態な訳? マウントか? あれが有名な潜在的モラハラってやつか?
寝れるつうの。1人でも全然寝れるっつうの。
そもそも、いつも使ってるオオカミと寝る用の大きいベットや寝具は、19階に置いてきた。
今日はもう自分の部屋で寝るしかないのだ。
居間に出ると、狼の姿になったリュコスが丸くなっていた。
暖炉の方を向いているので表情は見えないが、こちらを見ないと言うのは話しかけるなと言うことなのだろう?
リコは、そのままそっと自室に入り、1人でベットに横になる。
流石に疲れた。
流石に眠れるだろ。
期待通り、すぐに微睡に包まれて、体がベットに沈んでいくのを感じる。
これを機に、こう言うことには慣れていかなきゃ、これからは、1人で、寝な、ければいけ、ないの、だから。
子供達の楽しそうな笑い声が近づいてくる。
ガボっ!
小学校 冬のプール 付き落とされ上から暗幕をかけられた。
流石にこれは死を感じる。
激しいジャーキングで目が覚めた。
が、
この後、視聴覚室の暗幕を、冬の汚い藻だらけのプールに落とした。と、ずぶ濡れのまま、言われのない非難を担任教師から受けるのだ。
「っっカッはぁ、はぁ」
起き上がり壁にもたれ、呼吸を整えようと「大丈夫大丈夫」と呪文を唱える。
どんなに違うと弁明しても、誰も私の話など聞いてはくれない。
今日はこの夢か。
大丈夫、あれは夢、こっちが現実、こっちが現実。
息を整えて、過呼吸にならないようにしないと、もう終わったこと。もう大丈夫。
「あ、はぁ、ん、ぐ」
継母はまた、職員室でヒステリックに己の不幸を叫び、実母の生まれが悪いせいだと家に帰ってから私を詰るだろう?
ドアがトントンとノックされる。
「リコ様、入っていいですか?」
リュコスの声、こっちが現実。あれは夢。息をっ細く吐いて、息を整えないと。
早くっ! さっさと歩きなさい! あぁもう臭い!! 一体なにを考えているの!?
大丈夫、久しぶりにリアルな夢をみてるだけ。
リコは、なんとかパニックにならないように、自分を落ち着かせる呪文を繰り返す。
「うっんぐっはぁ」
息を吸ってはいけない。水が肺に入る。勝手に開けないでよ。
「開けます」
失敗した、そういえば部屋の扉にはどこも鍵をつけてなかった。
「ふ、うーっ、ふ、んんっ」
息も絶え絶えに、壁に逃げるリコをリュコスは抱きしめ、背中をさする。
やめて欲しい。その、子供のように扱うの、マジでウザい。
私はもう大人だ。1人でも生きていける。それなのに中途半端な優しさを与えて、私の凪を揺らさないで。
自己満足に付き合わせるのマジでウザい。どいつもこいつもなぜ私の邪魔をするんだ。
「どう、が、ヒュ、もう、ヒ、私の、ごとは、放っておいて」
ヒューヒューと、喉が鳴って、酸素が、うまく入ってこない。苦しい。悔しい。
「・・・明日の朝ごはんは・・・スコーンに・・・・蜂蜜をたっぷりかけて・・・食べたいです・・・きっと巣箱には蜜がまた溢れていますよ」
なに言ってんだこいつっ 人がっこんなにっ 苦しんでいるのにっ
「・・・しばらく家を空けていたので・・・ジャガイモがすごいことになっている・・・かもしれませんね」
のんきかよ。
「倉庫の中じゃがいもで溢れていますよ・・・見るのが楽しみですね・・・土のゴーレム達にも・・・久しぶりに会うような気がします」
なに、さっきからじゃがいもじゃがいもって、そんなにじゃがいも食べるの楽しみなの。それなら
「じゃが、いもの、ガレット、に、蜂蜜、を、かけても」
不思議、リュコスに合わせてじゃがいもの話をしたら、呼吸が落ち着いて、心臓の動きが、遅く規則正しく動いていく。
リコの立てる寝息を聞きながら、そっとベットに横たわると、リコを抱きしめたまま、リュコスも目を閉じた。




