「虚勢と実力」1
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ひとりベットに残されたリコは時計を見る。25時。素早く着替え、店を出る。
【隠密隠蔽】を使ったまま、セーフルームを出ようとしたところで、魔石を見ながらなにか調べ物をしていたらしいオベントに「待ちなさい」と声をかけられた。
リコは「こんばんは」と挨拶をした。
「こんばんは。リコ殿。良い夜だね」
オベントは、テーブルに広げていた魔石達を片付けながら挨拶を返すが、フードを目深に被り、両手に特殊警棒が握られているリコの異変には気づいている。
「こんな真夜中にどちらへ?」
「ゴーレムを1人で壊せるか、試してみようと思いまして」
「ほう」
「では失礼します」
「あ、いや、リュコス殿はどうした?」
「わかりません」
「ほう?」
リコは、ペコリと頭を下げ、そのまま部屋を出ると、ズンズン進んでボス部屋の扉を躊躇なく開けた。
中に入ろうとすると、扉を押さえて「ワシも入っても?」とオベントがついてきた。
リコは、無言で半身を開くと、オベントが入った瞬間扉を閉めて【錬金錬成】で扉を壁に変えた。
「ほう?」
オベントの感嘆をよそに、リコは「ゴーレムを一度にたくさん出す方法があるのですよね?」と聞いた。
「あるが?」とオベントは答える。
「ではお願いします」
リコが言うと、オベントは鎖を6本ジャララーと出し、壁のレリーフを6個同時に叩き壊した。
「7体が最大のようだ」
オベントが答えると、リコは、ゴーレムが7体全部、魔法陣からきっちり出きるのを待つ。
咆哮をあげているのは最初からいた1体だけだ。
リコは、目の前に立ちはだかる7体を【鑑定解析】で診る。
名無し ズンダダンジョン19階 フロアボス
種族:錬金術師の合成石造ゴーレム(巨大)
特性:殺気を向ける相手に好戦的 ターゲットと同じ速度で動く。眷属が倒されると、次の眷属を呼ぶ壁のレリーフを復活させる〈咆哮〉を上げる。
スキル:【手下召喚】【魔術操作】
魔法:〈無属性〉
状態:困惑
名無し ズンダダンジョン19階 フロアボス手下
種族:合成石造ゴーレム(巨大)の眷属
特性:壁のレリーフを壊した時の命令で動く
スキル:【魔術操作】
魔法:〈無属性〉
状態:命令待ち
リコは、目線だけ動かして【錬金錬成】で1体目を床と合成させると、続けて他の6体の体表に、金で描かれている魔法陣を溶解させ引き剥がした。
床に合成された1体目を除いた、6体は砂のように崩れ霧散した。
[金塊 ドロップしました。]×6
[無属性の魔石 ドロップしました。]×6
リコは、表情も変えず、【錬金錬成】で壁のレリーフを全て直し「お願いします」とオベントに言う。オベントは再び鎖でレリーフを壊した。
それを3回繰り返すと部屋がゴーレムでいっぱいになったので止め、先ほどと同じように18体が砂のように崩れて消える。
[金塊 ドロップしました。]×18
[無属性の魔石 ドロップしました。]×18
「・・・これを繰り返せば、金塊が好きなだけ手に入りますね?」
リコは、全てのドロップ品を【収納】して言った。
床に張り付けられたゴーレムが、悲鳴の様に叫ぶ〈咆哮〉に、リコの顔が歪む。
オベントは、そんなリコの顔をみて、「やれやれ」と息を吐くと、1体目の首を鎖で刎ね、ドロップした魔石をポケットに入れリコに近づいた。
現れた魔法陣をチラリとみて「一緒に外に出るかね?」と尋ねる。
リコは、フルフルと首を横に振った。
「いかがした? リュコス殿に何か酷い事でもされたか?」
リコは、フルフルと首を振り答えた。
「何もされなかった」
「うん?」
リコの声が小さくて、オベントは思わず聞き返す。
「してください。ってお願いしたのに、してもらえなかったのです」
「・・・あ〜、、、んん? なぜ?」
「わかりません。リュコスは特別だって解ってもらう為に、クソ恥ずかしいのを我慢して、メチャメチャ頑張って、ゆ、ゆ、誘惑してっ、すっ裸のリュコスにベタベタ体くっつけてっ、キスして、押さえつけて、やっと、無理やり、その気にさせたのに、ベットでさぁいざってなったらっ途中でっ止められてしまったのです。『こんな事に命はかけられない』って。私が、私がっ経験無いからってっ」
早口で説明を終えたリコは、フグゥ。と鳴いて、涙を溢れさせた。
「なるほど。それはそれは。また度し難い愚か者じゃの」
オベントは、リコの頬を撫で流れ出る涙を拭う。
「だからっお金を貯めて、ヒッウグっ、リュコスをっ奴隷から解放しようと思って」
堪えきれず、泣きながらうったえる「そしたら初めてだから。なんて言い訳、使えないでしょ」と。
「それで金塊か。なんと健気な事か」
「でも、でもこんな壊し方、ひ、ひ、酷すぎる。もうできません。もうっやりたくない」
オベントは眉尻を下げ、リコの頭をヨシヨシと撫でて言った。
「逆に、リコ殿が初めて。じゃあなければいいのではないか?」
泣く女の耳元で、甘言を囁くのは何年ぶりだろう?
「相手を変えるより、自分が変わる方がよっぽど簡単だろう?」
オベントは、リコの髪に指を入れ、ゆっくりと解きほぐすように後ろに流す。
「オベント様が、してくれるんですか?」
「・・・リコ殿、意味をわかって言っているのか?」
この娘は、阿呆なのか聡いのか、いまいちわからなくなる時がある。
オベントは、交渉できているのか呑まれているのか、自分の状況に少し戸惑った。
「わかってますよ!? なんでどいつもこいつも人を何にも知らない子供みたいに扱うのですか!? もう19歳です。成人してます! 立派な大人ですよ!?」
「なんと、そうか、すまんすまん。でもなぁ、初めてだろう? ワシみたいなジジイじゃ申し訳なくもなる」
「なんでですか? オベント様は全然ジジイじゃないですよ! 嫌なら嫌って言ってください。別の人に頼みます」
いまは阿呆の方なのか?
ここで別の人と言えばバコニーじゃ無いか。
今のバコニーでは、諸手をあげて食われてしまう。
「待て待て。あるある、あるんだよ? 初めてでも負傷させず済ます方法はある」
「本当ですか!?」
「あるにはある。が、まぁその、それなりの、その、修練が必要だ」
「修練?」
「技巧だな」
「ギコウ?」
やはり何も知らぬおぼこに、言葉で説明するのは難しい。
オベントは眉を下げ、顎を手でなぞりながら困った顔をする。
「がんばります。教えてください」
「まぁ、せっかくの据え膳。教えてやってもいいが、リコ殿、ここは一つ賭けでもしようか」
「賭け?」
ズビっ!と鼻水を啜りながらリコが聞くと、オベントは、ニッコリと紳士の微笑みを向けた。
「やはり少々本気になってもらわぬと面白くないだろう? リコ殿が勝ったら技巧を、ワシが勝ったら初めてをいただく。それでよろしいか?」
「人間は、何をするにも言い訳があった方がいいだろう?」オベントは、美しい眼を細めてリコを見た。
「勝敗は?」
「一撃でも入れたら。と言いたいところだが、それではリコ殿もつまらないだろう。どちらかが動けなくなったら。と言う事でどうか?」
「わかりました」
オベントはリコの手を取り立たせると、首元のスカーフを取り出しリコの鼻を拭った。
少し距離をとり「リコ殿は、どちらの姿で抱かれたい?」と、首元のボタンをはずし、禍々しい黒煙と共にドミナントが姿を顕す。
「オベント様のお好きな方でどうぞ。ドミナント様は角が掴みやすそうです」
リコはそう言って自身に〈身体強化〉をかける。
「フハ、ありがたい! この姿で人間の女を抱くなどいつぞやぶりかっ!」
全力で来られよ!
離れたドミナントの掛け声に、右手を伸ばして、リコは野球ボールほどの〈火の玉〉を飛ばす。
ドミナントの鎖がそれを弾き飛ばす。
続けて鋭く飛ばした3本の〈火の矢〉も、すげなく鎖に叩き落とされた。
「俺に火魔法は効かないよ」
リコは続いて水の塊を大きくしていく。
ドミナントは「〈フレム〉」と、黒い炎を片手に燻らせ、弾くように水に投げ込むと、水の塊は一瞬で蒸発した。
リコは蒸気を払い避け フー と息を吐いた。
【収納】から、数多のクナイを取り出し、ドミナントに向かわせるが、鎖が全て弾き落とす。
続いて、緩急をつけて次々と繰り出すように〈水の玉〉を向かわせる。
オベントが、狙い通りそれらを鎖で叩き割り散らせた後、鎖めがけて放った雷撃で射止めると、濡れた鎖の先端は バキャンッ! と甲高い音を立てて砕けた。
「あっ!」
リコが顔を歪める。
やはり、こちらの魔法は電気の攻撃に耐性がないんだ。
「素晴らしい!」
ドミナントがたまらず移動し、水溜りのあるその場から立ち退くと、すかさず次のクナイを出して追撃した。
「どうした? まだまだ本気じゃぁ無いなぁ? なぜ[電弧]を使うのをやめた?」
耳元で、ドミナントの低く痺れるような声が囁く。
「電気の武器はお年寄りにはちょっと」
リコの言葉に、ドミナントは目を細めて口角を上げると、鎖は バチン! と音を立てて最後のクナイを叩き割った。
リコは、深呼吸してドミナントを睨み【収納】に仕込んでおいた、水素の入った小さなガラス管を頭上から落とす。
「〈着火〉」
ボンッ!
「〈シールド〉」
円状にトグロを巻いた鎖の一つが魔法陣と共に、盾のように形成され、ドミナントを爆発の衝撃から守る。
「〈ボム〉とは! 素晴らしい!!」
今度は数個位置を変えて同時に落とす。
ボン!
ボン!
ボン!
ボン!
ドミナントは、瞬時にリコの正面に移動して爆発から距離を取った。
「しかし当たらなければどうと言うこともないな」
耳元でのドミナントの囁きを合図に、リコは、身をかがめ顎を引き、フードを目深にすると、ピンを抜き、自分の背後に[特殊音響閃光弾]を放った。
「なっ!?」
流石に驚いたみたいだ。
爆音。
それと説明書では、閃光が6秒。
自分から距離を詰めるのは無理と判断して、こちらに来てもらった。
リコは素早くドミナントの腿に[痴漢撃退棒(麻痺)]を穿つ。
一本とった。と、おもわれたが、逆にその手首を捕られた。
「素晴らしい。だが、俺に[状態異常]攻撃は効かないよ?」
ふわりと身体が浮くと、馬乗りに床に押し倒され、右手を頭上で押さえ込まれ、左手は背中に回されている。
完全に拘束された。
ドミナントは、空いた手でリコの顔から髪を剥がし、頭を撫で、微笑む顔がゆっくりと近づき「勝負あったか?」と、淡い問いかけと共に、口付けが落ちてくる。
それは、小鳥を掴むように優しく、朽ちる寸前の果実のように甘く、夢見心地で、リコは思わずウットリと目を閉じてしまった。
予想外の表情に、気をよくしたドミナントはヌロリと舌を割り入れる。
口の中になにかが満たされ溢れそうになると、体験したことのない快感が身を包んだ。
意思を手放し、身を委ねようと握っていた右手の力を抜くと、指を絡み組み直された瞬間、感じた違和感が恐怖に変わり、リコは我に返った。
周囲のマナが激しく揺れる。
思わず発した〈結界〉は、ドミナントをその場から弾き出した。
「どうしたリコ、やっと怖くなったか?」
リコは慌てて起き上がり身を縮めるが、俯いたまま首を横に振ると〈結界〉を消した。
ドミナントは、ため息をついてしゃがみ、リコの顔を覗き込む。
頑張るなぁ。と思いつつ「いいのだな?」リコの肩に手をかけると、襟首の中から飛び出したイビルちゃんが、ドミナントの額を バチン! と蹴り上げた。




