「お二人はなんのお話をしているのですかっ!?」
「先ほどの扉の件といい、休憩所といい、リコ殿の〈錬金術〉は常軌を外れておるな」
「えぇ!?」
「ダンジョンの壁を加工ができる人間など外にはおらぬよ。ましてや、モンスターの解体など」
「魔力は感じなかった」
ハンバーグをモッシャモッシャと頬張りながらも皿から目を離さず言うバコニーの言葉に、オベントがリコを見る。
「まさかスキルなのか?」
「材料としてマナや魔力を使う錬金“術”は魔法とは違うのでは?」
「いや、ここで錬金術は無属性魔法。MPを消費せず錬金できるなど聞いたことが・・・錬金の概念が、違うのか?」
「あ、いえ、あの、そもそもが違うのかもしれません。私のスキルは【錬金錬成】作り出すだけでは無く、素材そのものを加工する能力です。正しく使うためには、材料とレシピが必要ですけど。例えば」
リコは、手のひらを上にむけ、フエに教えてもらったように水分を周囲から集めて〈ウォーターボール〉を作る。
「コレは【魔術操作】ですよね?」
そう言って、水に玉を頭上でクルクルと動かしてみせる。
それを踏まえて。と水を手元に戻し、「この水を、凍らせ、溶かし、沸騰させ、蒸発させ、成分を分解して各素材を取り出す。状態を変える。形を固定させる。のが【錬成】です」そう説明して、手の平で、水を氷に、氷を水蒸気に変えた。
「す、素晴らしい。魔法のように見えるのは、リコ殿が術を偽装しているせいでは無いのだな?」
「わかりません。ただの科学現象です。エネルギーを魔力やマナ、理を魔法で代用しているだけなのだと思います」
バコニーはマッシュポテトを山盛りにすくいとった。
「これには魔力がたくさん入っています。【錬金錬成】で魔力を練りこんでいました」
そう言って口いっぱいに頬張ると「オイヒー!」そう言ってモグモグと咀嚼する。
「逆に、さまざまな材料を組み合わせて別の物を作り上げる料理は【錬金】に近い作業のようで、調理の過程でどうしても魔力が入ってしまうようです。バコニー様が調べて教えてくださいました」
これからはもっと効率的にできるようにします。そう言ってリコは説明を続ける。
「言葉の違いなのでしょうか。母国語は他国に比べて日常的に使われる語彙が多くて、細かくこだわりが強い言語なのです。そのせいで魔力を触媒にした【錬金錬成】に適していたのかもしれません」
リコは少し俯いて自分の皿に目を落とす。
「後は、ちょっとした科学の知識。ですかね」
あぁ、やっぱり大学に行きたかったな。と、ここにきて初めて元の世界を惜しむ気持ちになった。
「リコ、どうした? どうしました?」
バコニーが食べる手を止めてリコを心配そうにみる。
「いえ、やっぱりもっと勉強したかったなぁって」
いくらこれからその気になれば無限に本が手に入るとはいえ、独学では何をするにも時間がかかるし限界がある。しかも正解を教えてくれる人はもうここにはいないのだ。
それまで、空気のように気配を消して食事をしていたリュコスは、リコの表情に以前からの言葉を思い出していた。
「知識は灯りだよ」
リコ様は暇さえあると[錬金術師の手記]や何かしらの本を読んでいる。
休憩やお休みの日だと言っている時にも、何かを常に読んでいる。
きっと灯りが欲しいのだ。
リコ様を取り囲む暗闇は俺が知る闇より暗いのだろう。
自分では、リコ様に安心を与えることができない現状を突きつけられたようで、ひどく胸が締め付けられる。
「リコの火の魔法もすごい。目的と違う周囲を傷つけない。これができるようになれば、オベントも、もっといろんな場所で魔法が使える」
好評のうちにすっかり食事を終え、お茶を入れてまったりしながらも、魔法の講義はつづいた。
「そんなんことが可能とな?」
リコはランタンを出して見せる。
「より目的をハッキリ詳細化するだけです。例えばこれは[灯りの魔道具]火属性の魔石を使って作りました。ウチの照明は全てこれですよ」
そう言って笠とガラスグローブを外し、炎の中に手を入れてみせる。
「これは炎の明かりだけを現象させているので、必要なマナ以外燃やすことができないのですよ。そうゆう魔法なのです」
リコは火ってどうやって燃えているか知ってますか? とみんなに聞く。
「考えたこともない」
「魔法で出す炎も、結局は酸素とマナの結びつきなんですよ、マナを燃料にして燃えている現象を作り出しているんです。マナが燃料ってことは、そこには魔法が介入する余地があるので、後は魔法を触媒にしてこの現象から明かりだけを取り出し、それを【鑑定解析】してその結果を魔法陣にして魔石に付与してやれば」
リコは指の先に出した〈灯火〉の魔法陣を魔石に付与して手のひらに乗せて灯りを見せた。
「灯りだけの炎の完成です」
リコは炎を強めたり弱めたり形を変えたりするが、魔石に溜めたマナを消費するので、自身のMPのこれ以上の消費は無いという。魔法を操るのは【魔術操作】なので、魔法使いなら本来誰にでも使えるはずだと。
「でも簡単に今までの概念を変えることはでき無いから、ここで魔道具屋の出番です」
リコはランタンに炎を灯す。
「魔道具なら【魔術操作】がない人でも使える」
「して、その『魔法を触媒にする』方法とは?」
「多分、知識と願いです」
「知識と願い?」
「そうです。酸素を知っていて、そうなれ。と、強く思い願う事だと思います」
私に言語化できるのはここまでです。すみません。とリコが謝る。
「攻撃魔法を練り上げる時、その威力以外のことも“強く思う”必要があるのだな?」
「魔道具と同じです。常に正しく術が発動するように作るためには、古くからの先人の教えと、反復と練成が、、、いえ、私も未だ真っ当な人間になれるよう修行中なのです」
どの口で何を言ってるんだ。とリコは思った。
オベントはリコの頭を撫でると、話題を変えた。
「しかしことごとく神殿に喧嘩を売るような商品ばかり開発するの」
結界に、灯りに、浄化に、回復。どれも神殿の独占する生活必需品ばかりだ。
「消費エネルギーは多様性があったほうがいいんですよ?」
そもそも、ただ光るだけのライトなんて、明るい時に無属性の石に光の魔力を貯めておけば簡単に作れるのに、なんで光属性の魔石にこだわるのでしょう?
そう言って、無属性の魔石に光を集めると、無属性の魔石が光を放つ。
「光属性の魔石!?」
「いえ、これは無属性の魔石ですよ。ただ光を集めておける魔法を付与しただけです」
リコは魔石をオベントに渡す。
「なんと!?」
オベントは魔石をよく見て無属性の石が発光していることを確認する。
「わざわざ属性が分かれているのに、この石で回復や治療の効率の良い魔道具を作ることが可能でしょうか?」
あ、でもポーションを材料にすれば光属性の魔石を使わなくても、そうゆう魔道具を作れるようになるのかな? ん? でもそれだと二度手間か? リコが何かを思いついたようにメモを取る。
「あれ? 神殿は光属性の魔石を多数所持しているのに、回復の魔道具は作っていないのですか?」
神殿に怪我人を呼びつけて〈ヒール〉してるっていうし、利権の問題? リコは首を捻る。
「もしかして、、、神殿が売ってるライトって、光属性の魔石を使用しているわけはないのでは?」
「リコ殿、その[灯りの魔道具]も外に出さない方が無難かもな」
オベントの言葉に、リコは鼻の頭にシワを寄せる。
「嫌です。売ります」
「ほう。まぁそれでもいいだろう。だがそれならリュコス殿はもう少し頑張らねばの」
「え、なぜですか?」
リコはリュコスを見る。
「リュコス殿はリコ殿の護衛なのだろう?」
リュコスは十分強い。今までもたくさん守ってもらった。これからも多分にお手数おかけすることだろう。だからと言って危ない目にばかり合わせるわけではない。
オベントは「【スキル】を使ってゴーレムを解体しておったが、リコ殿は同時に何体のゴーレムを解体できそうかの?」と、リコに聞くと、リコは少しだけ考えてから、「何体? わかりません。さっきの感じだと、見える範囲内なら何体でも、量は関係ないと思います」あくまで見えて認識さえできていれば。と付け加え答えた。
「・・・ちょっと、試してみてもいいかの?」
オベントの言葉に「ダメです!!」とリュコスが立ち上がった。
「なぜだ? なぜダメなのだリュコス殿」
「そんな危険な事、非戦闘員のリコ様にさせるわけにはいきません」
「危険な事? ダンジョンのボス部屋は、檻の中のモンスターが管理された状態で出現するだけの部屋だ。そもそも冒険者タグさえあれば、常に従者がいる状態のリコ殿に、死の危険すらあるはずがなかろう?」
静かに質問されてはいるが、その言葉には何か棘があり、いつものオベントとは違い非難めいている。
「オベント様、検証なら俺がボス部屋に戻ります。それこそ朝になったら他の冒険者が来てしまうかもしれない。それまで俺がいくらでも戦いますから」
え、何? なんなの? なんの話をしてるの? リコは2人の間に剣呑とした雰囲気を感じ取る。
「今日はもうよくない? 明日朝イチに備えて一旦寝た方がいいよ。さっきもボロボロだったじゃない」
オロオロとするリコを見てオベントは言う。
「リュコス殿が一度に相手にできたのは2体まで。3体目から上はどう足掻いても対応しきれなんだ」
「リコの方が強い」
バコニーが、先ほどリコが4体を瞬時に塵にした事をつぶだてて追い打ちをかけ
「え、リュコスはもう十分強い。足りない分は私が補うし、別に無理やり自分より強い敵と戦わなくて良いよ」
リコがトドメを刺した。
「・・・そうですね。そうでした。それでは俺はお先に失礼させていただきます」
そう言って、リュコスは店の中に入って行った。
「え、なに? なんなの??」
「リコ殿は、男心って知ってるかの?」
知るわけもない。人の心もわからないのに。
「私、何かリュコスを傷つけるようなことを言ってしまったんですね?」
落ち込み頭を抱えるリコにイビルちゃんはグリグリと頬擦りをして必死に機嫌をとる。
「ところで、さっきリュコス殿がボス部屋を出るきっかけになったが、バコニーはなにをしてリコ殿を動揺させた?」
「優しく。掴んで食べようとしました。許可をもらえませんでした」
「バコニーに生の人間など食う趣味はなかろう?」
「すごく食いたくなった? お腹がすきました。リコを見てると腹が減ります」
「なにを言う。リコ殿を食ってしまうと、もう他の美味い料理を食わせてもらえなくなるぞ?」
「その通りです。食わなくてよかったです。でも下っ腹がムラムラするので、少しだけつまみ食いしたい?」
「おぉ、バコニー、そうゆうことか! 大人になったのだな!?」
「お二人はなんのお話をしているのですかっ!?」
流石に、流石にそうゆう話だろう!? とリコはツッコミを入れる。
「そんなことよりごめんなさい、私ちょっとリュコスに謝ってきます。今日はもう失礼しますね。ゴーレムの検証はまた今度にしてください」
そう言って席を立つ。
「リコ殿、それでは再起不能になる。謝るのではなく放っておきなさい」
男の子の成長にはそうゆう時間が必要だ。ちょっと遅いがの。とオベントは言う。
「ちょうどいい。リコにも睡眠が必要。俺と一緒に寝よう」
「ちょうど良くありません! でもバコニー様も今夜は寝た方がいいですよ!」
そう言ってさっさと店に入っていってしまった。
「そうだな、オマエも今夜はちょっと横になりなさい。ちょっと色々、、、教えてやらねばならんことが増えたの」
頭を撫でられ、バコニーはニコリと頷いて、2人も早々に処置室に入って行った。




