「死にたく無いなら戦いなさい」2
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ボス部屋から出てセーフルームの戻ると、入る時にはなかった休憩所が設られている光景にオベントは驚いた。
さらに連れて行かれた男性用の『処置室』をみて、何か言いたげな胡乱な目を向けるが、一心にバコニーを心配するリコに苦笑いして「先ずは、『乙女』らに事情を説明してくるかな」と部屋を出て行った。
リコは、すのこだけの簡素な寝床に、ベットマットを出しシーツを張り敷く。
横になるのに邪魔になりそうな装備を【収納】して傍に並べ〈浄化〉をかけてバコニーをベットに横たえ『乙女』達と同じ羽毛布団をかける。
「【鑑定解析】状態:健康 回復中 ヨシ」
起きた時に備えて、なにか消化の良いもの作っておこう。
お粥で良いかな。こちらはパン粥? オートミールとかはわかんないな。甘いのも一応作っておこうか?
リコはパタパタと忙しそうに動き回るが、リュコスは、その後を無言でついてまわり、観察用ゴーレム並みのストーカーぶりで、イビルちゃんが肩にとまって頭突きをするが、リュコスはどんよりとした木偶の坊のままだった。
「『リコちょっといい?』」カウンターのゴーレムがリコを呼びにきたので、キッチンから出ると、フエとマツリとオベントが待っていた。
「オベントの話を聞いて、ウチらも今晩は一旦街に帰ることにしたよ。ハヤシもまだ体に慣れてないだろうし、心配だからついていくことにした。ウチらは明日の朝には戻ると思うけど」
「ライノ達の件より先にハヤシの件をギルドに伝えないと、なんだか大変になっちゃいそうだから」
オベントを見てフエは言うが、コレック達はすでに戻ってしまっている。
「コレックとライノなら、先に寄るところがあるだろうから、今から行けば冒険者ギルドに先に着くのは『乙女』達じゃろう」
ワシらはその「先に寄る」場に顔を出したくないのだよ。とオベントがリコにウインクする。
「リコ達はどうする? 一緒に街に戻る?」
マツリの誘いに「あ、いえ、バコニー様がまだ目覚めていませんし、オベント様も残るそうですから、私達のことはどうかお気遣いなく。こちらの依頼もこれで終了させていただいて大丈夫です。十分参考にさせていただきました」ありがとうございます。と頭を下げる。
部屋からすっかり装備を整えたタイコとハヤシが出てくる。
「うやむやにしてしまってすまない」
タイコに支えられながらハヤシは頭を下げる。
「いえ! とんでもない! こちらこそ、急なお願いを叶えてくださり本当にありがとうございます」
「リコ」
「あなた」
「さぁさぁ、ほんの一晩の別れに何をやってるんじゃ。急がないと、そうもこうも言ってられなくなるぞ」
オベントが急かす。
頭を下げるリコに『乙女』達は膝を曲げて感謝を伝える。
「またのご来店をお待ちしております」
リコが笑って会釈すると、ヒナがバイバイと小さく手を振った。
「さて、こちらもそろそろ再生する頃合いじゃろうし、リュコス殿。いかがいたす?」
オベントは相変わらずぼうっと立っているリュコスを見る。と、首を捻って「如何した?」とリコを見る。リコは小さく首を振って「わからない」と告げる。
「・・・ご一緒、させて、ください」
「え!?」
リュコスから出た意外な言葉にリコが驚きの声を漏らす。
「ではリコ殿、バコニーのことよろしく頼む」
そう言って2人でセーフルームから出て行ってしまった。
リュコスはあの階層ボスゴーレムを一撃で倒すことができる。
先ほどの戦闘でも、皆が時間をかけてやっと減らしたという3体を一瞬で屠ったというし、部屋までそんなに遠くないし、扉はいつでも開けられるし、最悪死んでも1階に死体を1階まで持って行けば・・・。
リコは、バコニーの身体が爆破に巻き込まれた時のことを思い出し、ゾッとした体を押さえつけた。
「さて、リュコス殿、リコ殿が言うにはここのゴーレムを1人で倒したと?」
オベントはボス部屋に入るなり、キョロキョロと何かを探すそぶりを見せる。
ボスゴーレムはまだ再生していないようだ。
フロアの中程に立つと、オベントは杖を構え クイ と手首を上げる。
ジャララララ
マントの中から、数十の鎖が床を這うように飛び出すと、くるりと向きを変えたのに合わせて、鎖が開くように床に散らばる瓦礫を壁際に押し出した。
オベント自体の動きが、小さくエレガントなのに反するように、鎖は大きな音をたて荒々しく動いている。
「うん。キレイになった」
そう言って、後ろに手を組むと、杖を上下させて壁に沿って歩き、あたりの様子を見ている。
リュコスは扉の前から動かず、首を傾げたような姿勢でぼんやりと立っていた。
オベントが部屋を半周回ってリュコスの元に戻ると「それでは、まずはその実力を見せてくれ」そう言って片手を開いて「どうぞ」と指し示す方を見ると、床に魔法陣が現れ、その中から咆哮をあげゴーレムが這い出してきた。
オベントはまた壁に沿って移動していく。
足まで完全に出切ったところで、リュコスは駆け出しゴーレムの片膝をナイフで粉砕する。
ゴーレムは体勢を崩し、膝をつき、両手を振り上げリュコスに叩きつけようとするが、リュコスはそのまま折れた膝を足場に駆け上がると、ゴーレムが腕を振り下ろす間もなく首を切り飛ばそうとする。が、ゴーレムが床に突っ伏すように倒れると、「素晴らしい」オベントはそう言って
ガキン!
壁にあったレリーフの何かを叩くように破壊した。
すると、すぐに魔法陣が現れて、巨大なゴーレムが現れる。
リュコスが見ると、オベントは先ほどと同じように「どうぞ」と手を動かした。
リュコスはナイフを握り直し、床を蹴る。
ガキン!
同時に、オベントが次のレリーフも壊す。
さらに魔法陣が現れ、それぞれから巨大なゴーレムが現れた。
リュコスは空中で身を捩って、2体目のゴーレムを蹴り距離をとる。
横目でオベントを見ると、次のレリーフの前に移動している。
リュコスは1体目のゴーレムの首を切ろうと間合いを詰めるが、回り込んだ1体目のゴーレムが振り下ろした手を避けるため飛び退いたせいで、うまく距離をつめることができない。
3体目のゴーレムの、振り上げた拳に身体が掠って弾き飛ばされてしまった。
「おや? 3体を瞬時に。と、聞いたが、バコニーめ、盛ったな?」
オベントは3つ目のレリーフを壊そうとしていた手を止める。
(なぜ、オベント様は襲われない?)
リュコスは3体の猛攻を捌くのに精一杯で、反撃の隙をつかめていなかった。
オベントは、たまに飛んでくる瓦礫を杖から出る魔法で弾きながらも、こちらを静観している。
何か特別なことをしているようには見えない。
気にしている事に気づいたのか、オベントは、杖をツイと上げて笑顔を返す。
リュコスは大きく息を吸い、1体目の背後に回り込む、背後にいた2体目が腕を振り上げたタイミングで空を蹴り、1体目の胸元にわざと飛び退く。
「おぉ?」
オベントは感嘆の声を上げる。
2体目が振り下ろした拳が、1体目の片腕を砕く。が、残った手でリュコスは抱き込まれるように掴まれ、振り払われたように壁に叩きつけられた。
3体目が追撃する。組まれた両手が横殴りに振り下ろされる。
ジャッ!
3体目がオベントの鎖に足を引かれて転び倒れる。すかさずリュコスは壁を蹴って倒れたゴーレムの延髄あたりにナイフを差し込み頭を弾き飛ばす。
「なるほど、3体瞬殺はコレックとバコニーが足止めしていた結果だったか」
つまらなそうな顔をして鎖を戻す。
オベントの言葉にリュコスが口の中の血を吐き出し手の甲で拭う。
ナイフを構え、倒れ込むようにゆるりと動くと、流れるように2体のゴーレムの中に進み入る。
4本の足が音を立てて弾け飛ぶ。
倒れ込み、手を床につくついでのように攻撃するゴーレムの腕を滑り上り、2体目の頭をナイフで切り離す。
「独特な歩法だの」
足音が全くしない。
ガキン!
オベントは3つ目のレリーフを叩き壊す。
リュコスはドロップした金塊と魔石を胸のバックにしまうと、そのまま滑り込んで魔法陣から出切っていないゴーレムの首を即切り飛ばした。
残る1体目に素早く駆け上がる。
無い方の腕側に回りこみ、十分に捻っていた身体を解くように、ゴーレムの胴体を砕き切る。
身を翻し腹から頭に移動すると、倒れ込むゴーレムの頭にナイフを突き刺しそのまま体重を乗せて砕く。
ガキン!
ガキン!
ガキン!
オベントは、自分の腕時計を見ると、「1体目はどのタイミングで再生するかの?」と静かに言った。大きな声を出したわけでも無いのに、穏やかな声は部屋中に響く。
リュコスは新たに出たゴーレム達を分散させないよう、距離をつめゴーレム達の中に入っていく。
ゴーレムはお互いの巨体が邪魔をして足元のリュコスに攻撃できない。
そのうち5体目が他の2体に構わず拳を振るう。
2体は弾け飛ぶように5体目から離れるが、上手く分散できて、順番にリュコスに攻撃できるようになった。
怒涛の連撃が繰り広げられる。
素早く動き回り、なんとか全ての攻撃を交わしていたリュコスは、チラリとオベントみて、不意に動きを止めた。
5体目のゴーレムの振り下ろされた拳が身を掠めるが、ゴーレムも、リュコス同様動きを止めた。
しばらくの硬直の後、オベントの鎖が3体の頭を同時に貫く。
「ドロップ品をここへ」
オベントがそう言うとリュコスは魔石をもって近づきオベントに差し出した。
オベントはそれを受け取ると確認してコートのポケットにいれた。
「リュコス殿は見た目の割に戦闘経験が乏しいと見える。今まで何をしていた?」
なまじ身体能力が高いせいで、これまでなんとかなってきたのだろう。
リュコスの動きに技が無いことは容易に看破できた。
このままでは、いずれ近いうちに、より強い敵を踏破することができなくなる。
「反復と研鑽の跡が全く見えない。今まで何をしてきた?」
オベントは首を傾けて聞く。
「何も」
リュコスはぼんやりとした表情のまま答えた。
「なぜ?」
「・・・・・」
リュコスは、無言で襟をさげ首輪を見せる。
「? それがなんだと言うのだ?」
オベントは心底不思議そうな顔をしながら問い直す。
フロアの奥の移転の魔法陣が消えた。
「俺は奴隷なので主人の命令が無いと戦えません」
その様子をチラリと見てすぐに目線をオベントに戻す。
「なるほど」
新たな魔法陣が現れ、ゴーレムが咆哮と共に這い出そうとするが、オベントはその頭を鞭のようにしなる鎖で粉砕し黙らせる。
「リコ殿では躾がたりないようだ」
オベントは鎖をスルスルと戻し「ドロップ品を」とリュコスを部屋の中央へ戻るよう促す。
リュコスは促されるまま中央まで戻るが、魔石は拾わずオベントを見る。
「つまらぬ事で、理不尽な契約に縛られていると悲観しながら、一方で自身は人間では無いから適用外。とあっさり理から外れる。実に都合が良い呪いが巡っている。素晴らしい」
ドミナントの姿に変わると、両手を広げて真っ黒い鎖を四方に飛び出させる。
鎖はジャラジャラと威嚇する様に音をたて、床の瓦礫を方々の壁際に弾き飛ばしながら、落ちていた魔石をきっちり回収する。
「愚かにも後生大事に増やし育てたその鎖はそのうち貴様の身を容赦なく絞め潰すだろう」
ドミナントが魔石を覗き込むあいだも、蛇が獲物を追い詰めるように、うねり、ひるがえり、それぞれが独立した意思を持つように鎖は蠢く。
「貴様の人生だ、貴様がどうなろうと貴様の勝手だが、覚えておけ」
ドミナントは、一瞬背後に詰め寄り耳元で甘く囁く。
「リコにその一片でも負わせたら、その鎖、ケツの穴からその薄汚い首輪を通して、奥歯削りとってやるからな?」
そう薄く笑って、一方の壁に向かって歩きながらオベントに戻ると、1体目の咆哮と共に再生していたレリーフを鎖で同時に叩き割った。
6つの魔法陣から6体の巨大なゴーレムが這い出す。
リュコスは動かない。
レリーフを壊しそのままその場に残っていた鎖が、壁際に寄せていた手近にある瓦礫をリュコスの頭に向かって弾き飛ばす。
リュコスが手でガードすると、ゴーレムも一緒になって攻撃してきた。
たまらず身を翻しその場から動く。
それに合わせて6体のゴーレムも次々に攻撃を仕掛けてきた。
リュコスが動きを止めるたびに、鎖から瓦礫が飛ばされる。
「死にたく無いなら戦いなさい」
オベントは、ため息をついた後、優しく諭すようにそう言った。




