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「死にたく無いなら戦いなさい」1

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「なんかいくら何でも『大喰らい』の皆様遅くない? ちょっと見に行っても良い?」


 夕飯の準備をすっかり済ませ、あとは帰りを待つだけなのに。

 リコは、どんな闘い方をしてるのだろう? と、好奇心も相まって一応リュコスにお伺いを立てる。


「他パーティの戦闘中、扉は開きませんよ?」

「あ、そっか。あれ? でも、今依頼中なんだから同じパーティってことにならないかな?」


 リュコスがあからさまに目を逸らす。


「正式な依頼ではありませんし、戦闘途中に部屋の扉を開くなど聞いたこともありません」

「んもうっ! いいから行くよ! リュコスが行かないなら、私1人で行くからね」

「とんでもない! お供します」


 ここそんなに離れてないでしょ。そうゆう問題ではありません。

 言い合いながらリコが扉を引いてみると、前回と同じようにあっけなく扉は開かれた。


「リコ殿!?」


 ライノが扉のすぐそばで3人の冒険者に回復魔法をかけていたようだ。

 その前でオベントが杖を構えて立ち守り、時々飛んでくる何かを器用に魔法で弾いている。


「・・・一応、参戦の許可をいただけますか?」


 リュコスがライノにきくと、ライノは「あ、あぁ出しておく」と答え冒険者タグを握って「〈救助要請〉」と唱えた。


「リコ様、結界をはって盾を」

「〈結界〉」


 リコは[〈結界〉(偽装)]の魔道具を床に刺すと、自分とオベント、ライノ、冒険者達を〈結界〉で包み、リュコスに「〈身体強化〉付与。気をつけて」と送り出して、オベントの後ろに歩みよる。


「オベント様、MPの回復を早める飴はいかがですか? ベルガモット・ド・ナンシーって飴でとても美味しいです」

「いいね」


 オベントは、目をあわせず前を向いたまま、そう言って、アーンと口を開ける。

 リコは少し照れながら飴の包みを外し口の中に飴を入れると、指ごとパクリと舐め取られた。


「・・・素晴らしい!」


 オベントが指揮棒を振り上げると黒い煙と共に細い魔法陣が鎖のように噴き出してすぐ引っ込んだ。

「ゆっくり舐めて下さいね! 口の中に飴がある間はマナの吸収率が×10です」

「ライノ様は飴はいかがですか?」


 一連の流れを見ていたライノだったが「いただきます」と言って手を出した。

 リコは包みごと飴を渡す。

 ライノは自分で包みを開けて飴を口に入れ「うぉ、美味い飴だな!?」と驚いた。


「こちらの方々には、ポーションを使ってもよろしいですか?」

「頼む。ただし意識が戻るとちょっとまずい。寝かせたままにしておきたいが可能か?」

「やってみます」


 リコは[ぼったくり治療薬(大)]を口に流し込んだ直後[痴漢撃退棒(睡眠)]で小突いてみる。

 どうやらうまく行ったようだ。「ヨシ!」小さくガッツポーズを取ると、3人に同じ処置を施た。


「ライノ様はお怪我はありませんか?」

「ありません。大丈夫です」


 そうしてやっと、一息ついた。


「いやはや、こいつら何かやったらしくて、意識はなかったが辛うじて息はあったんで、ちょっとづつ回復してたんだけど、全然回復しなくてね。何か直接魔力を吸われてるみたいなんだよね」


 俺、本職じゃないから詳しい事はちょっとわかんないんだけど。と傍に置いた槍を指差す。

 その槍が、何を意味するのか、リコにはわからなかったけれど、やはり何か、イレギュラーな事があったのだな。と、リコはうなづいておいた。


「ゴーレムが7体でてきててね。だからリコ殿はこのまま〈結界〉の中から出ないでください。4体撃破しましたが残り3体はコレットとバコニーが抑えてて、それと」

「パペットマスターが紛れ込んでいる」


 どうやら、そのモンスターが、こちらに向けて出す無数の何かを、オベント様は全て1人で防ぎ切っているらしい。


「元はそ奴らのテイムモンスターだったようだが、寝返ったようだ」


 オベントは正面を見続け説明した。


「そんなことが可能なのですね」


 テイムしたモンスターが寝返るなんて。リコは単純に感嘆した。


「まぁ、テイムは神殿契約でもしない限り、扱いが悪かったら逆に食い殺されることもあるからな」

「神殿に行くと何か違うんですか?」

「隷属の首輪を買える」


 ライノの答えにリコは鼻の頭にシワを寄せる。


「めちゃめちゃ人聞きの悪い名前の魔道具ですね?」


 オベントは「ハッハッハ! それもそうだな」と笑って、何かを弾く合間に反撃の電撃を「えい!」と飛ばすと「お、できた!」と嬉しそうにリコの顔を見てウインクする。

 余裕が出たようで何よりだ。

 とはいえ、入ってからずいぶん経っている。


「ではちょっと行ってきます」


 と〈結界〉を残して外に出ようとすると「ちょっと待って!」と、ライノはリコを止める。


「オベント、どう?」

「うむ、どうやら結界のおかげでそ奴らとの繋がりが切れたかな? 今なら誰も害さず殺れるだろう」


 リコが、え? と思った瞬間、オベントの体から真黒い鎖が前方に飛び出すと、ギャギャンと大きな金属音と共に何かを引っ張ってきた。


「パペットマスターじゃよ」


 オベントの鎖につながれたそれを、結界ギリギリまで引き寄せて見せてくれる。


「【鑑定解析】あれ? ついてますよ[隷属の首輪]」

「何!?」


 リコの言葉にオベントが驚くと、さっきまで寝ていたはずの冒険者のうち2人が、すっくと立ち上がってライノとオベントに襲いかかろうと、と、正しく〈結界〉の力が作用し、2人は外に弾き出された。


「【鑑定解析】その2人にも[隷属の首輪]がついてます」


 リコの言葉に、ライノが動き、槍は目にも留まらぬ速さで冒険者2人とパペットマスターの頭を貫いた。

 助ける必要がないと分かれば、あっさり勝敗はついた。

 たちまち2人の冒険者は木製の人形の姿に変わり、その場にガランと音を立てて崩れ落ちる。

 大量の糸の束が天井からふわふわと降り落ちてきた。どうやら、オベント様は、たった一人でこの糸から全員を守っていたらしい。素晴らしい集中力だ。

 廃墟に溜まり積もった蜘蛛の巣みたいで気持ち悪い。


「リコ様!」


 リュコスがナイフを鞘に戻しつつ駆け寄ってきた。


「なんと!?」


 いつの間にかオベントの傍らに戻っていたバコニーが「3体とも一撃でした」とリュコスを顎で指す。


「なるほど戦闘特化型か」

「リュコス殿は凄まじいですな!?」


 コレックがゆっくり戻ってきた。

 2人とも、長い時間あのでかい石のゴーレムと戦っていたとは思えないほど元気そうだ。


 ライノは、1人生き残った冒険者のタグを引っ張り出して見ている。

 リコはリュコスに怪我がないことを確認すると、バコニーとコレックに[回復薬]を渡す。


「大丈夫ですか? どこも何も怪我はない?」


 くるくると2人の周りを回る。

 バコニーは頷いただけだったが、コレックは照れながら「ご心配おかけした」と、頬を染めどぎまぎ答えている。


「間違いなく神殿の[隷属の首輪]のようだな」


 オベントが、パペットたちの顕になった首輪を杖でつつきいじる。


「冒険者タグがついてますね?」


 リコが〈擬態〉? していたパペットの首をみて「テイム魔獣にもギルドタグって発行されるんですね」とライノを見ると、ライノは、苦々しい顔で「いや」と答える。


「だがこのタグも、本物のようじゃ」


 オベントは杖で持ち上げていたタグチェーンをじゃらりと鳴らす。

 んん? どうゆうことだろ?


「人間に、なりすまして偽造したか?」


 コレックが言う。


「でも奴隷とは違う[首輪]もついてる。《神聖遺物》を有する冒険者ギルドや神殿を騙すことなどできるのか?」


 ライノは、1つだけ浮かんだ嫌な考えを何とか除外して、別の合理的な理由に辿り着こうと必死で考えを巡らせているが、それは全く思いつかず、ため息を漏らした。


 バコニーが5人分の冒険者タグの束を出す。


「あぁ」


 19階に挑むと先立った若いパーティが3組いたはずだ。

 草原で5本のタグ、ここでもう1パーティの5人分、結局生き残ったのは、壁にもたれて眠るこの1人だけと言うことになるのだろう

 皆の視線がその冒険者に集まる。


「あの、この人にも[首輪]がついています。でも[隷属の首輪]とは違うみた」


 リコが言った瞬間、バコニーがその冒険者の首を切り離し、毟り取るように首輪を掴むと同時に〈結界〉から弾き出された。

 反動とともに、腕を振って首輪を投げ飛ばすが、首輪は爆発してバコニーの腕ごと左上半身を吹き飛ばした。


 リコは、目の前で起きたその、恐ろしい出来事に怯む事なく、吸い込まれるように爆発と同時に結界の外に出て「〈治療〉! 〈回復〉! 〈復元〉!」と叫ぶ。

 ガタガタと震える手で治療薬を出し、片手でバコニーを支え、治療薬を飲ませる。

 いずれも一瞬の出来事だった。


「・・・ありがとうございます」


 バコニーのなくなったはずの半身が赤黒い粒子と共に復元していく。

 結界の中で、リュコスがへたりと膝から崩れ落ちる。


「凄い、、、じゃない。リコ殿、非戦闘員が戦闘中に結界の中から出ては、護衛は困る」


 ライノはそう言うと、ガチガチと歯を鳴らして震えるリコの背中に触って「〈ヒール〉」をかける。

 ハァフゥと息を整える。


「はぁ、ヒールはこうゆう風にも使えるのですね」


 ふぅ、息を吐いて感動する。


「一時的なものです。推奨された使い方じゃないですよ」


 ライノはやれやれと答えると「コレック」と声をかける。


「あぁ、そうだな。これは仕方ない」


 コレックは、ライノの言いたい事を察して了承した。


「リコ殿、我ら2人、一時ズンダの街に帰る」


 あれだけ事があったのに、平然と事を進める二人に違和感を感じながら、リコはなんとかこの状況についていこうと、視界を巡らせた。

 懐から布を出し歩き出すライノの言葉に、コレックがリコの視界を遮るように間に立ち、補足してリコに説明する。


「こやつらの報告が必要になった」


 コレックが、木束の様にまとめられたパペット達の残骸を指し示し、ライノが結界に残った遺体に頭を拾い寄せ布をかけると言葉を続ける。

 血が、首を切られたはずなのにあまり出ていない様に見えたが、何かしたのだろうか?

 リコは、唯一残った死体を、きちんと見なかったことを悔やんだ。


「オベントとバコニーは残していくから、明日までに俺らが戻らなくても予定通り廃坑を目指してくれて大丈夫だよ」

「あ、いえ、私達の依頼はここで完了してもらって構いません」


 アクシデントが多すぎる気がする。けど、どうなんだろう?


「どうせワシはもう少しここに残ってこのフロアが正常に機能するか確認するよ」


 バコニーをお願いしてもよろしいかな? とリコに優しく微笑む。


「え、オベント様お1人で?」


 リコが不安げにオベントを見る。


「何、1人の方が、、、いや、宜しければリュコス殿をお貸しくださるか?」


 オベントの言葉にリコはリュコスの顔を見る。

 リュコスは、相変わらず床にへたり込んでリコの顔をぼんやりと見ている。


「リュコス殿、バコニーを運んでいただけるか?」


 オベントが声をかけると、リュコスは、ぼうっとしたまま立ち上がって、バコニーをお姫様抱っこした。


 コレックとライノは、フロアに光る魔法陣で「なるべくすぐ戻る」と、片手を手を挙げ、残骸と遺体を担いで帰還して行った。

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