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「5人で1つのベットは無理よ!」3

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「リコ、これを置いていったわ」


 診察机の上に置かれた木箱の中には、リコが持ってきた[フルポーション]が無造作に置きっぱなしになっている。


「私達が、これを持って逃げるかもとか、考えなかったのかな?」


 ヒナが箱の中からガラス瓶を取り出し中身をよく見ようと光に透かす。


「信用されてる? いいえまさか、まだ銀貨1枚払っていない」


 フエが首を振る。


「5人分で大金貨50枚、一生かかっても払える金額じゃ無い・・・でもなんか、ご主人様がリコだったら借金奴隷でも良いかなって」

「ダメよマツリ! そうゆうのは詐欺って言うのよ。とてもとても悪い事だわ」


 マツリの不穏な企みをタイコが批難する。


「つい最近まで、1万J、大銀貨数枚枚貯められるかどうかってカツカツだったのに」

「とりあえず、ギルドから預かってきた大金貨10枚は渡しましょう。そこから直接貴族に交渉しても良いんだし、ハヤシだって、お父さんがあの身体を見たらきっと家に帰れる」

「私達も森に帰れる!」

「いいえ、いいえダメよ、帰れないわ。ヒナ、私達は帰ってはいけない」

「どうして!?」

「帰ったらエルフ達はきっとリコを放っておかない。絶対にリコをさらいにくる。他の人間たちもそう。そして鎖で繋いで死ぬまであの薬を作り続けさせる。みんな気づいているでしょう!?」


 この薬はダンジョンの宝箱からのドロップ品、おいそれと簡単に売り買いできる薬じゃ無い。そうゆう事にしておかないと、リコが危険な目に遭う事になる。


「そんな危険を犯して、薬を、私達に、簡単にっ」


 タイコが顔を覆ってワッと泣き出してしまった。


「私達の為に怒り泣き、あんなに傷ついているのに、そんなリコの善意に付け入り無垢を利用した。ラヴァル神官長様がおっしゃったように、私、やっぱり、私、みたいなのは、地獄に落ちるんだわ!」

「どうしよう?」


 マツリは、初めてことの重大さに気づいた。

 角を治してしまったタイコは、もう2度と神殿へ入ることはできないだろう。


「ブラックスピネル探してる場合じゃないのかもね」


 フエが拳を握って唇を抑える。困った時の悪い癖だが、意識が冴え渡る気がするのでやめられない。


「って、ウソ、待って? ・・・マツリあなた今朝、タイコのサンドイッチと自分のサンドイッチ取り替えたでしょ?」

「んな!? 取り替えてないもん!」


 フエが自分の耳に触る。わかる、マツリが嘘をついているのがわかる。いや、見ていたから知っていたけど、独特の嘘の音波を感じ取れる。

 突如マツリがフエの後ろに現れ言った。


「回収屋の言ってたことは本当だったんだ。ウチ今なら【隠密】が使える」

「回収屋?」

「回収屋が尻尾がある孤児ばかりを集めるのは、角や尻尾、獣人にしか無い部位を切られた獣人はスキルが使えなくなる。だから人間は、まだ赤ちゃんのうちに獣人の尻尾を切るって、自分たちの脅威にならないように」

「マツリ!」


 タイコがマツリにそれ以上言わないように言葉を制する。

 マツリはハッとして口を噤む。


「どうゆうこと? 神殿で身切りの儀式をするのは、その子達のためじゃなかったの?」

「う、う、やめてヒナ! 目に、目に何か出てる!」


 タイコが顔を背けヒナの放つ抗い難い力から逃れようとする。


「【魔眼】? 何、で、、、?」


 顔に描かれていた刺青に【魔眼】を封印する魔法陣があったのかもしれないと皆が気づく。


「人間、が」


 ヒナがギリリと奥歯を噛み締める。

 フエがふわりとヒナを抱きしめた。


「リコも人間よ、ハヤシも人間。それなのにずっと私達を助けてくれた。人間を一括りにして憎んではダメ。それでは森に隠れ住むエルフ達と同じになってしまう」


 エルフにも獣人にも悪い奴がいるように、人間にも良い人がいる。それを忘れたエルフは人ではなくなるわ。


 ヒナは納得いかないような表情を崩さなかったが、ついさっきリコに『心を捧げた』ことを思い出し、息を大きく吐いて、怒りを抑える。


「拠り所があると言うのはとでも良いものなのね」


 ヒナはフエから離れ、もう大丈夫と頷きあう。


 マツリは瞳孔を狭め「前よりマナを強く感じる」そう言って長椅子に座った。


「リコは寝なって言ってたけど、あのベットに寝るのは、なんかちょっと怖い」


 タイコもマツリの隣に座る。

 フエとヒナも横に腰掛けた。

 4人で長椅子に並んで目を閉じる。


「ハヤシは、これからも一緒にいてくれるかな?」


 タイコがポツリと言葉をもらす。


「ウチらだけで、、、人間のいないパーティでもやっていけるかな?」

「冒険者を続けられなくなったら、もう、街にもいられないくなっちゃうかな」


 今更どこかの下働きや使用人にはなれないだろう。

 そうゆう職業は、特に亜人は、幼い頃から丁稚で屋敷に入り「信頼関係」を築いて初めて「雇用」される。

 故郷もなく、宿屋暮らしで住まいもなく、親に捨てられ特別なコネもなく、亜人で大人の女性ができる仕事はこの世界では限られていた。

 当然冒険者とて安泰とは言えない。

 でもその限られた選択の中で唯一自由だったのだ。

 唯一将来を夢見る事ができる選択だった。

 今更、皆で見た夢を諦められるわけもない。


「勝手に辞めさせないでよね」

「ハヤシ、起きたのね」

「聞いてたの?」


 4人はハヤシのベットに駆け寄った。


「家に帰れたとしても冒険者はやめないわよ、せっかく苦労してCランクになったってのに」

「でも」

「私の家の事は良いのよ。ちゃんと弟が上手いことやってるだろうし、私が帰ったからってどうなるもんでもないし。私が家に帰りたいのは、家族に会いたいだけで、今更お家再建も無いし、どうこうするつもりなんかないわよ」


 だから、とハヤシは耳まで顔を赤くして続けた。


「辞めさせられたら私だって困る」

「これからも私達と一緒にいてくれる?」


 フエが涙を溜めてハヤシの左手を掴む。


「当前でしょ!」


 ハヤシがフエの手を両手で握り返すと、みんながわっと抱きついた。


「5人で1つのベットは無理よ!」

「タイコ重い!」

「マツリ尻尾が邪魔よ!」


 ぎゅうぎゅうとみんなで抱き合い詰め合う。


「とりあえず! 明日からのことなんだけど」


 そう言ってハヤシが話を切り出す。

 魔法陣を使って、ハヤシ1人で朝イチでギルドに帰り、フルポーションの効能を証明してくる。

 他のみんなは、ほとぼりが覚めるまでダンジョンに潜っているのがちょうど良いだろう。

 幸いブラックスピネル採取の依頼も受けてあるのは周知されているし、当初の予定通り廃坑にいても誰も何も疑わない。

 ただ、廃坑と海岸は良い、その前このすぐ下階の森林フィールドは、ズンダダンジョン低階層自然フィールドの最難階とも言われている。

 木々で囲まれた悪い視界の中、群れを統率する知能があり、魔術を使う高ランクモンスター、ランクの違う魔獣、主道を通っていても積極的に襲ってくる捕食者達は、多くの冒険者の命を奪ってきた。


 これまで『迷宮の乙女』の前衛攻撃の要はハヤシ1人が担ってきた。

 亜人だけあって一人一人の実力は決して低くは無いのだけど、高火力魔法使いとはいえ大型魔獣にもとどめをさせるのが後衛のフエだけでは、いざという時の決定打に欠ける。


「大丈夫、私たちスキルが戻ったの」


 ヒナが顔を上げ嬉しそうにハヤシに告げた。


「エルフが2人もいるのに、むしろ森で後れをとる訳がないわ」


 ヒナがハヤシの肩に頬擦りしながらそう言うと「マツリとタイコのスキルも戻ったし、前より確実に稼げるわよ!」フエが付け加えると、「Bランクにも上がるし。でしょ?」とハヤシが微笑んだ。


 今回の交渉で絶対に認めさせてやる。本来人間だけのパーティならとっくに昇格してもおかしく無い数の依頼をこなしてきたんだ。今まで忌避していた、コネや人間である優位性をフル活用してでも昇格をもぎ取って見せる。

 それが自分の本当の役割だと、今回の旅路で強く自覚した。


「そしてリコにはちゃんとお金を払おう」


 例えそれが一生かかる金額なのだとしても。

 借金奴隷になるのは少し怖いけど、リコなら奴隷にそんな酷い仕打ちはしないはずだとフエは言い、みんなも賛同した。


「ウチ、リコ呼んでくる!」


 ハヤシの目が覚めたら声をかけてほしい。とリコが言っていた事を思い出したマツリはベットから飛び降り、用意されていたスリッパをつっかけて部屋の外に飛び出して行った。

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